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僕とサービス業。スズメバチ編。

 『スズメバチ』といっても、何かの比喩ではありません。
 つまり、例えば『筆者がごく普通にはいった飲食店でスズメバチかの如く凶暴な店員に接客を受けた、相変わらずサービス業と相性が悪いなあ。』という類の話でもなければ、『出し抜けにスズメバチと出遭うかの如く予想だにしない一瞬で全てを奪われてしまったかのような一目惚れ、の果てに恋愛をし、その恋愛が、あたかもスズメバチに刺されたかの如く衝撃的で深い傷と共に幕引きされてしまった。』というような話でもありません。後者については、万事に晩生の僕には珍しく、そういう経験が一回だけあるんですけど、よくあるように自分には衝撃的でも、他人様には面白くもなんともないそこらへんに転がっているような失恋話、なので、経験があるから、といっても特に触れないんであります。だいたいが、あの失恋の仕方は、僕に、スズメバチにさされたかのように大きく傷をつけ、人間としての自信をすっかり失わせた、のではありますが、当の刺した三宅奈美さんにしてみれば、彼女は恋愛経験が僕よりも遥かに豊富だったので、-そのこと事態は別に是非を云々するようなことではないんであります。-、『え、私、そんなに激しく刺したかしらん?スズメバチかの如く、なんて大袈裟な、オホホホホホ!せめて、蟷螂の斧、程度じゃなくって?』なんて思ってたり、いや刺したこと事態、自覚がないかもしれま・・・。

 閑話休題、つまりはここで僕が今回話題にするのは『比喩としてのスズメバチ』ではなくてスズメバチそのもの、のことです。

 あれは、三年ほど前の、いや四年前、むむ、五年はたつかな・・・、とにかく数年前の初夏、ちょうど今頃の季節のことです。
 僕は、その日、昼ごろ、自宅の近所をいつものようにぼーっと、下を向いて、ゆっくりと(僕は、たいていひとりで歩くとき、ぼーっとして、下を向いて、ゆっくり歩いてます。なんでだか知りません。社会人になって会社の人たちがあんまり歩くのが速いので、びっくりして仕事中はそのペースにあわせていたら、そのうち僕も歩くのが速くなるのかな、となんとなく思ってましたけど、ひとりになると依然ゆっくりと歩いてます。)歩いていました。
 近くに忽然とある(つまりはその周りには住宅地と公園と学校があるだけで、繁華街など何もない)、わりと大きな、でもいつも閑散としている、二階建てのスーパーマーケットの前を通ってそのスーパーマーケットの端に店子として入居しているであろう、一階のクリーニング屋さんの前を通ったときのことです。
 僕はあるものを己が進行方向の歩道のど真ん中にみつけ、慄然としました。そこには大きな大きな一匹のスズメバチが、なにやらアスファルトのうえで羽を休め、よたよたと、しかし、その巨体な虎模様の体躯は充分に威嚇を持って、道の上を『歩いて』いました。
 「ぬ、ぬおー!スズメバチ!あぶっ、あぶっ、危ねえっ!」
 前にも言いましたけど、僕の住んでいる大立目市、しかも、JR東大立目駅近辺は特にまだまだ緑が多いので、様々な生き物と遭遇することがあり得るわけです。しかし、斯様な歓迎されざる獰猛な生き物との遭遇にはさすがに僕も、敵に自分の気配を悟られまいと、咄嗟に歩を止め、立ち尽くしました。
 おいおい、頼むよ、こっちはさ、家に帰りたいだけで、なにもあんたの縄張りを邪魔しようってんじゃないんだから・・・・。僕は、金縛りにあったかのように息をひそめ、しばし相手と目が合わないように伏目がちに観察し(もちろん、スズメバチと目が合ったのかどうか、なんてわかんないんですけど、僕のそのときの恐怖と警戒心を形容するなら、本当に目が合わないように、そろそろと動かざるをえなかったんです。)、さて、どうしたものか、と考え込みました。退却するか??いや、こういうときは返って敵に後ろ姿を見せて死角をつかれたりしたらたまらん・・・・、じゃあ前進か・・・しかし、このまままっすぐ行くと、敵との距離がどんどん縮まってしまう・・・・・、ほんの一瞬ですが、さまざまな取捨選択を体を凍結させながらじっくりと熟慮をした結果、僕は『敵との距離を縮めずに前進する方策』を選択しました。
 言い換えると、いまのスズメバチと僕の距離とを限界として、その距離を半径とし、次の歩幅からは、その半径を忠実に保ちながら円を描くように、一歩づつ斜めに、しかし、つま先は安全圏にはいったときに即、直進できるよう、常に前を向かせ続けて、じりじりと進みました。これは、ラグビーでいう『スワーヴ』といわれる基本的なステップワークのひとつで、ウイングがよく使うテクニックです。最近のラグビーではあまり聞かなくなりましたけど。え?説明ではよくわからない?『欽ちゃん走りとの違い』を教えろ?まあ、ここは本旨ではないので、そこはよしなに想像してください。
 とにかくも、僕は、スズメバチを対面とみなし、いったん歩を止めた場所を起点として、しかし、大いに、それこそラグビーなんかより数倍も、身の危険を感じながら、じりじりとスワーヴしていきました。幸い、スズメバチは僕の巧みなスワーヴを見抜けなかったと見えて、僕は、彼女を後方に置き去りにすることに成功しました!
 よし、ここで、トップスピードで脱出!僕はそれまでの『敢えてスピードを殺したスワーヴ』から一気にスピードを上げ、直線の最短距離を10メートルほど駆け抜けました。
 自らのスピードを意識して遅くすることで、こちらを狙ってくるであろう相手の動きをも緩慢にさせ、その間隙をついて一気にトップスピードで抜き去る、これはラグビーでいうところの『チェンジ・オブ・ペース』と言われる、これまた基本的な、しかし、スワーヴと違ってたいへん難易度の高いステップワークです。
 え?よくわからない?なんでいちいちラグビーに例えるんだ?まあ、そこは本旨ではないので、適宜読み飛ばしてください。まあ、『チェンジ・オブ・ペース』も最近のラグビーではあまり聞きませんけど。詰まるところ、いろんなステップワークを駆使し(要は、ゆっくりと遠回りして、安全圏にはいったところで全速力で逃げた、だけだろ。といわれれば元も子もないですけど。)相手を刺激することもなく、僕は、スズメバチの脅威からとりあえずは脱しました。
 『ふう、あぶねえ、くわばら、くわばら。』
 僕は最前までの緊迫状態から脱し、ほっと一息つきました。めでたし、めでたし・・・・・・・、とはいかないんですね、僕の場合は。

 すなわち、僕が自分の安全を確保したことに100%利己主義然として満足したあと、ようやく思い浮かんだ次の思いは、『はて、俺はいいとして・・・、あのスズメバチを放っておいていいのか?・・・』という疑問でした。
 あの様子では、スズメバチはただ単に羽を休めているだけで、どこか傷ついていたり弱っていたりしているわけではなかったので、そうとは知らない歩行者がスズメバチのすぐ横を通り、なんとなく足で接触し、スズメバチを結果的に蹴り上げるようなことになったら・・・・、それがフィジカル面での弱者、即ち、老人とか、女性とか、小さい子供だったりしたら・・・、うわあ、なんか嫌だなあ、そんなことになったら寝つきが悪いよなあ、と、僕は思いました。

 ここで些細な注釈ですが、このとき頭に浮かんできた思考に対して、僕が反射的に抱いたこの感想は、僕という人間の心の小ささ、気の弱さ、我が身可愛い度の高さ、を端的に表していると思います。なぜって、僕は『あとから刺される人が出てきたりしたら気の毒だ』ではなくて、ここで放っておいて後で『スーパーマーケットの近くでスズメバチに刺された人がいるらしい。』と聞いたときの自分への後ろめたさ、それによって惹起されるであろう『寝つきの悪さ』(こういうとき『寝覚めが悪い』と言うのが本来の正しい日本語だとは思いますが、僕は自分にうしろめたいことがあると寝覚めが悪い、よりも、うじうじと悩んで寝つかれない、ほうで、『とりあえず寝ちまったけど、なんだか寝覚めがよくねえぜ』なんて肝の据わった心境にはどうしてもなられないので、敢えて『寝つきが悪い』と、ここは常識に曲がってもらって、自分の心境に正直な言葉にしちゃいました。)が、『なんか嫌だなあ』って思ったから、なんですね。他人が気の毒だから、とかではなくて、飽くまでも自分可愛さ、が一番にきている思考・感情なわけです。うん、僕らしい。

 さて、それはともかく、どうしたものか。
 舞い戻って退治するなんてとんでもないしな・・・・。
 おお、そうだ!こういうときこその、市民の安全確保のためにある公僕、おまわりくん、我が大立目警察、ではないですか!
 『スズメバチ出現』なんて僕に言わせると、被害金額の少ない空き巣とか、ましてや完全に勘違いして善良ないち市民と、頭の帽子を抑えつけながら夜中に自転車で追いかけっこすることなんかよりず~~~~~~っと、重要度の高いことであり、これを排除するという仕事は、公僕しての立派な、かつ、確固たるリスクマネジメントに決まってます。
 それにおまわりくんに通報して、あとは任せてしまえば、一応手は打ったことになるから、何か起きても自分だけが悪いんじゃないか、なんて寝つきの悪さに悩まなくても済むしな、と僕はずる賢くひとり心中頷きました。
 そうと決まれば善は急げ、僕はスズメバチをやり過ごしたその足で、帰宅せずにまっすぐに駅の北口にある派出所に向かいました。

 そこには、年の頃40代半ばと思しきやや細身の眼鏡をかけた一匹の、いや失礼、一人のおまわりくんが、『びしっ』と音のでるくらいに背筋を伸ばして派出所の前で立って町に向かって(といってもしごく平穏なところでこれといって何もない思うんですけどね。)右に左に睨みを利かせていました。
 おお、やっておるな、おまわりくん、おわまりくんはそうでなければ、うんよろしい、なかなか頼りになりそうなおまわりくんではないですか。
 「あのーー。」
 「はい?」
 言葉は丁寧ながらもこちらに向けられた眼鏡の奥の眼光には鋭いものが感じられました。おお、ますますよろしい。
 「さっきですね、あの三丸(みつまる)マーケットの前の歩道に、」
 「え?」
 おまわりくんは、さっさと義務を終えようと単刀直入に本題を切り出した僕にやや戸惑ってます。
 「あの、三丸マーケットあるじゃないですか、」
 「あ、はいはい。」
 「そこの前を今通ってきたんですけどお、」
 「あー、はい、三丸マーケットね。」
 お、ようやく追いついてきたな。
 「そこに、こんくらいのでっかいスズメバチがいたんですよ。」
 「え?スズメバチ?」
 「そうなんです!生きてるやつです、生きてるやつ!」
 剣呑だろ?と僕はやや風呂敷を広げて、市民の危機、という認識の共有をおまわりくんに迫りました。
 「それで、一匹?」
 「はい、一匹です。」
 おまわりくんは、見張りの姿勢は依然崩さすに、町にその鋭い視線を投げながら(だから、そんな怪しいことなんかないっ、ちゅうの。)も、僕の話しには対応してくれている、とみえて質問などしてくれ始めました。うむ、頼もしい。
 「生きてるわけね。」
 「はい、生きてます!」
 「あー、あれはね、今頃からなんですよ。」
 「は?」
 「ちょうど今頃から巣作りを始めるんです。」
 ほー、なるほど!さすがによくご存じで!
 「それでね、だいたい一匹が目撃されると、」
 「ほう。」
 「その近くで、巣が作られる可能性が大きいんです。」
 「えっ!?」
 ええー!そらたいへんじゃありませんか!よく知ってるな。だとするとあのクリーニング屋近辺に群生している雑木たちが、かなり危ないってことに!その前に手を打たないと!
 僕は、いまだ姿勢も視線も崩さないおまわりくんの次の言葉を待ちました。例えば『これから行きましょう。場所を案内してくれますか?』という類の、リスクマネジメント遂行に忠実に燃える、公僕らしい言葉を待ったわけです。
 「・・・・・。」
 ところが、どうしたものかおまわりくんはそこまで彼の博識を披露したあと、彼もまたまるで僕の何かを待つかのように沈黙してしまいました。
 「・・・・・。」
 いや、今もうボールはおまわりくん、あなたにあるんであって、僕はもう矢は尽きていますから、僕から会話を転じさせたり行動の提案をしたりはしませんけど・・・。
 「・・・ちょうど今頃からなんですよね。」
 しばらくの沈黙のあと、相変わらずあたりをきょろきょろしながら、おまわりくんの口を出てきた言葉は先ほどの言の繰り返しでした。
 「・・はあ・・。」
 はあ、以外に合いの手の入れようがないです。
 「・・・それでね、一匹いるとその近くに巣をつくるんですよ。」
 「・・はあ・・。」
 いや、だから危ないんじゃ・・・、それでこうやって僕が通報にきているんですけど・・・。
 しばらく、またきょろきょろしながらの沈黙のあと、しょうがねえなあ、ここまで俺にいわせるか、といった感じを行間にぷんぷん匂わせながら、おまわりくんが次に放った発言で、彼が僕に何を期待しているのか、が僕には、ようやくわかりました。
 「あれはあ、どこだったけかなあ、担当は。市役所だったかなあ?うん、市役所じゃないかな?」
 「・・・・・・。」
 つまり、さっきからおまわりくんは彼がいかにスズメバチに知悉しているか、と自慢しつつも、一方で僕に言いたかったのは、要は『俺の仕事じゃないよん』ってことだったんですね。そう考えると、必要以上にきょろきょろして僕と正対して目を合わせて話しをしなかったのもなんとなく意図が見えてきます。

 左様か・・・。ここからほんの100メートル先に明らかな市民の脅威があってそれを現認できる状況にあるのに、隣駅前にある市役所までわざわざ電話を、しかも公僕のおまわりくんがしてくれるんじゃなくて、僕に市役所に電話しろってでありますか?俺の家の前にいるわけでもないのに・・・。しかもあんたスズメバチのことをよく知ってるじゃないですか、その知識はなんのためにあるんですかね?
 だめだな、こりゃ。スズメバチがいます、っていうのに『管轄外なので市役所、だったかなあ、にあんたから連絡したら』なんて、この公僕には、これ以上の期待はできんなあ。
 僕が、自分のほうから適当に、しかし大いに落胆しながら、会話を切り上げると、おまわりくんは安心したかのようにふたたび町を睨み付け始めました。なんだ、それ。その視線にスズメバチが入ってきても管轄外だからって無視するのかなあ?

 まあ、いいや。けれども、僕としてはこのままでは依然寝付きが悪いので、気の毒なことに小心者なのに、僕は勇気を振り絞って現場に戻りました。
 お、まだいる!今度はさっき以上に距離をおいて、そして、ここでスワーヴだ!
 それ!スワーヴうううううっ!

 ううっ・・ほろ?・・あれ・・?・・! 
 おお、これはしたり!豈図らんや、なんとスズメバチは明らかに踏んづけられたのが原因で昇天しておりました。僕のあとを通った勇気のある市民の誰かが、果敢にも踏んづけて成敗してくれていたんです!まあ、路上にいたスズメバチには何も言わせると何も非はないんでしょうけど。しかし、顔も名前もわからないけれど、なんと逞しい市民だ。僕とおまわりくんが不毛な会話で時間を浪費している間に、騒がぎもせず、密かにこんな果敢なことを挙行してくれるなんて!通常のいち市民としては管轄外ともいえる勇気ある行動じゃありませんか!えらい!

 ・・・普通ならば、ここで『これで俺も安心して寝られるわい』と踵を返して大団円、となるところですが、このときは、しかし、そういうわけにはいきませんでした。
 なぜなら、『ちょうどこの時期から巣作りを始めて』しかも『一匹生きているのを見たらその近くに巣を作る可能性が大きい』とおまわりくんから教えていただき、妙に賢くなってしまった僕としては、路上の一匹が成敗されても安心はしていられなかったからです。
 そこで、暇そうにしているクリニーング屋さんに入っていき、
 「あの通りがかりの者なんですけど、ちょっと見てもらってもいいですか?」
 とわけを話して、表にでてきてもらいました。表に出てきたのは中年の女性二人で、自分の店の目の前に転がっている大きなスズメバチの死骸に目をまん丸にして驚いていました。そこで、僕は、このスズメバチはついさっきまで生きていたこと、ちょうど今が巣作りの季節らしいこと、一匹目撃されるとその近くで巣作りをしてる可能性が高いこと、管轄は市役所『らしい』こと、を手短に話しました。するとクリーニング屋の女性二人は、どうも僕を草莽に埋もれるわが町のスズメバチの大家、と勘違いしたらしく、
 「それで、市役所に電話すれば来てくれるんですか?」
 だの、
 「市役所のひとは巣を探しあててくれるんですか?」
 だの、と質問攻めを始めました。
 「いや、あの、ごめんなさい、僕はそこまでしか知らないんです。でもこの死骸を証拠として、それからさっきまで生きてたことを、とにかく市役所に通報されてほうがいいと思います。この近くに巣なんか出来ちゃったらたいへんなことになりますから。え?警察?警察はだめです?いや、なんでだめかって・・いや、そのとにかく市役所に一度電話してみてください。」
 と、通報する役目をクリーニング屋さんに押し付けて、でも管轄の整理までしてあげて、-あたかもスズメバチの大家のみならず、まるで公僕の管轄にも一家言を持つ大家になってしまったかのように-、僕は帰ってきちゃいました。

 だけど、隣駅の市役所にいる公僕に言う前にその辺を『市民の安全の為に頻繁にパトロールしている公僕』に言おうっていう僕や、クリーニング屋さんのおばさんの感覚っておかしいですかね。
 いや、そういう『感覚』の是非についても『管轄外』なんでしょうね、きっと。

===終わり===
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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