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僕とサービス業。②

 残念ながら世の中というのは不公平にできています。しかもその不公平の原因が得てして理不尽なものだったりするのものです。

 僕の理解が間違っていなければ、このブログの読者のみなさんのほとんどの方は『飲食業などのサービス業の人からいわれもなく邪険に扱われる知己』をお持ちではないと思います。
 僕にもそういう知己は思い当りません。しかし『知己』ではないけど、思い浮かぶ男はいます。その男とは誰あろう、僕自身であります。

 あれは結婚してまだ間も無い頃、たしか休日の昼間だったと思います。その日の昼食はその辺で外食ですまそう、ということになって、僕とさい君は二人で、うちと駅を挟んだ反対側(駅の南口)にあるラーメン屋に入りました。
 そのラーメン屋には以前、独身のときに何回か行ったことがありました。特にうまくもなく、まずくもなく、高くもなく、安くもなく、めちゃくちゃ繫盛しているでもなく、かといって閑散としているでもない、ごく普通のラーメン屋、というのが僕の把握でした。我が家からは駅を越えて歩いて7~8分の距離、ということもあり『今日の昼ごはんは近場ですまそう』というのにはいろんな面でちょうどよい店でした。店内にはテーブル席とカウンター席があり、カウンター越しには客に丸見えの形で厨房があります。
 僕ら二人は待たされることもなく、テーブル席に通されました。何を頼んだのか、は覚えていません。が、なにしろ『一般的な男女が注文するであろう』という範囲を逸脱しない何品か、を頼みました。食事を待つ間、僕らは、なんていうことはない会話をしました。よくある夫婦がする会話です。細部は記憶していません。だって『ごく普通のおしゃべり』ですから。ただし、なんとなく覚えている範囲では、まだ日本在住の日が浅かりしも中国に留学経験のあるさい君に、日本にはそこかしこにこういう『ラーメン屋』っていうのがあって『カレーライス』と並んで国民食と言えるものなんだけど、やはり『カレーライス』と同じく日本人の嗜好に合わすため変遷を経ていて、両者とも本家のそれとは似て非なるものとなって定着していること、を話して聞かせたりしていたと思います。
 それから、留学のおかげで北京語ができる(ただし、耳から覚えているので、漢字は苦手です)さい君と一緒にその店のメニューを見ながら、
 「ケイタ、この漢字は見覚えがある。牛肉とピーマンを炒めてる、っていう料理じゃない?」
 「ん?おお、そうそう、中国にもあった?チンジャオロ-ス-、であるぞよ。」
 「うん。でも、発音は全然違うよ。そんな言い方じゃないよ。」
 「・・あ、そう。」
 「ええと、これはなどんな料理?」
 「どれどれ、ああ、これは、ええと卵の中に蟹がはいっていて・・」
 「ああ、あれね、漢字ではこう書くのか。」
 「お、ここ、出前もやってるってさ。」
 「へえ、そう。」
 「うん『出前用のメニューあります。』って書いてある。」
 「じゃあ、あとで貰っていこう。」
 「うん、そうだな。」
 ・・・などとまことに平凡な会話を繰り返していました。
 ただひとつ僕らの会話が、-そのことは僕ら二人にとっては極めて普通のことなんですけど-、日本のラーメン屋においては普通じゃない、としたら、その会話が全てさい君の母国語でなされていた、ということだけででしょう。
 そうこうしているうちに注文した料理が届き、僕ら二人は、料理の品評などしつつ、しかし、ごく普通に、つつがなく食事を終えました。目的は果たしたし、さあ、会計して帰るか、ということになって、店の奥、カウンターの端にあるレジのある場所へ行きました。そこには南西アジア系かなと推測される、掘りの深い顔つきの背の高い外国人のお兄さんが立っていて、会計をしてくれるようでした。ラーメン屋の従業員にやや片言ながら日常会話には困らない程度の外国人の方がいる、というのもいまどきの日本では、珍しい光景ではないです。僕は、伝票を渡して会計をすませました。つまり、現代日本の経済システムにもとることなく、飲食店で食事をし、それに対してあらかじめ提示された金銭的対価を払う、というごく普通の商契約を交わしてそれを遂行した、わけです。なにも問題はない、ですよね。普通ですよね。
 さ、帰るか、と出口に向かって踵を返さんというその時、さい君が思い出したように言いました。
 「ケイタ、出前用のメニューもらうんじゃないの?」
 おお、そうだったな、まあ、出前をここに頼むことがそんなにあるとは思えんけど、それでも『出前用メニュー』がないことには出前の頼みようもないからな・・。
 「ええと、すみません。出前用のメニュー、ください。」
 と、僕はレジのお兄さんに言いました。するといつのまにかレジの後ろの壁に背中をもたれさせかけて両腕をおなかのあたりで組む、という、まるで友人と待ち合わせでもしているかのような態勢をとっていたお兄さんは、店の奥ゆえのレジ近辺の薄暗さも手伝ってかそのひと際大きく白く目だって見える目をぎょろりと見開いて僕の顔をまっすぐに凝視しながらも、しかし、僕のお願いには言葉での反応は全くなく、即ち無言を貫いています。あれ?俺なんか難しい日本語を言ったかな?僕は、もう一度、言いました。
 「出前やってるんですよね?出前用のメニューもらえますか?」
 お兄さんは、まだ僕の顔から目をそらさず、しかし依然無言です。変だな、こんだけ睨むように見てるってことは、言ってることはわかっているんじゃないのかな、でもなんで無言なんだろう。
 「あのお、出前用のメニュー・・」

 そのときです。全く予期しない方向、僕の右斜めうしろ、厨房の中からあきらかに怒気を含んだ大音声が飛んできました。
 「ダメだっていってんだろっ!」
 ・・・え?駄目なんて誰も言ってないんじゃ・・。事態が全く飲み込めない僕は、とりあえず反射的にその声のしたほうに顔を向けました。そこには何人かの従業員を背後に従えた恰幅のいい50歳代絡みのその店の主人が(この段階で『主人が』と僕が断言できるのは後述する根拠があるからです。)僕に向かって敵意むき出しの顔で仁王立ちしていました。
 ・・は?いや、駄目だ、なんてまだ言われてないし、俺はレジのお兄さんと話している(実際には会話が成立してませんでしたけど)だけなんだけど。僕は、釈然としないまま、何言ってだこのおじさん、俺とレジのお兄さんの会話を途中から聞いてなんか勘違いしてるんじゃないのか、と思い、戸惑いつつももう一度レジのお兄さんに言いました。
 「あの、メニューに『出前します。出前用のメニューあります。』ってあったからお願いしてるんですけど。」
 すると、お兄さんは態勢を1ミリも崩さす、つまり、友達早くこんかなあ遅いなあ、という、およそ接客業にあるまじき弛緩した姿勢のまま、しかし視線だけは鋭く、初めてこの『出前メニュー』議題について発言をしました。
 「オヤジサンガ、ダメッテ、イッテルンダカラ。」
 ・・へ?なんだよ、それ。この店は客じゃなくて『オヤジサン』を中心に回ってるってのか?それに『オヤジサンガ、ダメッテ、イッテル』前からお兄さんの態度はすでに僕の依頼を、-そのときはじめて朧げながら判明してきたんですけど-、最初から拒否してるじゃないか。論理的に順番も破綻してるし、だいたい、なんで駄目なんだ?どういうことだ?何が起こっているの把握できず、呆然とする僕に、-況や、日本語が殆どわからないさい君の心境の混乱ぶりは推して知るべし、です-、またしても厨房から先ほどよりさらに大きな声で怒声が浴びせかけられました。
 「駄目っつったら駄目なんだよ!」
 「・・・?」
 「だいたいあんた、どこに住んでるんだっ!」
 「え、青木町ですけど・・・」
 なんで客の俺のほうが敬語なんだよ。
 「なあにい?あおきちょおだあ?いけるわけねえだろおお!どうやって踏み切りを越えろっていうんだあっ!ええ!?」
 「・・・。」
 確かに、僕の住んでいる駅の北側とラーメン屋のある駅の南側を車で往復ようとすると、そこにはいわゆる『開かずの踏み切り』が立ちはだかっています。でも(ただし、それもこれも今だから考えられる反駁ですけど)徒歩なら駅の改札から南北に流れ落ちている階段を使えば行けるし、それに車じゃなくてバイクなら少し遠回りすれば、車の行き来ができないような幅の狭い、近辺にある車用の開かずのそれとなら比較的間隙を縫って通りやすい踏み切り、だってあるんですけどね。それに、だいたい、僕が青木町に住んでいる、ってことを知る前からいきなりどやしつけられてるし、百歩譲って(なんで客の僕が譲んなきゃいけないのか、も釈然としないけど)開かずの踏み切りのせいで、距離としては近くても駅の北側への出前はしていない、というのなら『皆様ご存じのように駅の北側に抜けるのは時間が読めません。料理の性質上おいしい状態でお届けできない可能性がありますので、たいへん申し訳ありませんが、出前は駅の南側のみ、とさせていただいております。』ってメニューに記すか、そういう趣旨を口頭で言えばいいじゃないですか?
 しかし、そのときは、そもそも店側の姿勢が『初めに無視と罵声ありき』という必要以上に頑なな態度だったので、僕はほぼ思考停止してしまい、唖然としながらも、ほう左様か、とそのまま黙って店をで出て行こうとしました。が、店を出て行こうと、歩をほんの2,3進めたこの客に向かってさらに厨房から怒鳴り声が。
 「いいよ!やるよやるよ!もってけよ!」
 「・・・。」
 ・・・・へ?なんだそら。結局くれるのかよ・・。もはや思考停止を通り越して、頭の中が真空のようになり、ほぼ無感情状態の僕に、レジの『オヤジサンに忠実な南西アジア系と思しき外国人のお兄さん』が、しかし、その接客業にあるまじき姿勢は崩さず、手だけを動かして、無言で出前用メニューを僕の前に差し出して、いや、突きつけてくれました。
 人間というのは面白いもので、そういう無感情状態に何かを突きつけられると条件反射的に受け取っちゃうものなんですね。僕は、なにがなにやらわからないまんま無表情で出前用メニューを受け取ると、黙って店の出口に向かいました。しかし、オヤジの怒号はさらに続きました。ちょうど店を出ようというとき、僕らの背中に、こうとどめをさしたのです。
 「それ見て、せいぜい勉強しろよっ!」

 僕らは、ごく普通の客だったはずです。でもなんであんな仕打ちをうけて、結果としてお金を払ってまで何を食べたのかも忘れるくらい気分を害さなければならなかったのか?それに最後の『せいぜい勉強しろよっ!』ってなんだ・・?なんで客の僕らが、しかも何を一体『勉強』しなきゃいけないんだろう?そういう言い回しって、飲食店ではあまりみかけないけれど、普通は販売するほうが『値段をさげてもいいよ』っていうときに使う言葉じゃないのか・・・。
 当然のように僕とさい君はこの疑問を疑問のまま放っておくよりは答えをみつけよう、という行動にでました。
 そして、いろいろと意見を出し合った挙句、僕らが行き着いた結論は、おそらく、僕らは『同業者によるスパイ』と勘違いされたのではないか、というものです。
 つまり、どこぞのラーメン屋か、あるいはこれからラーメン屋でもやろうという国籍不詳の怪しげなふたり組、と看做されたのではないか、という推測です。そう考えると、説明が(『説明』です。決して『納得』ではありません!)つかないわけでもないです。
 しかし、だとすると、おそらく、席について注文をし、食べ物が到着するまでにメニューを見ながら会話を交わしていた段階で、すでに店側の人達がお互いにアイコンタクトなんか交わして僕らを『敵視していた』可能性があります。
 『おい、こいつら、ひょっとして・・』『うむ、たぶん、そうだな。俺たちにわからない言葉だと思って大胆にもメニューをひとつひとつ吟味なんかしやがって、ふてぶてしいやつらだ。』『この調子だと、情報として出前メニューも持ち帰ろうとしやがるにちげえねえ。』なんてね。そういう空気が、-つまりこいつらは客じゃねえ、スパイだ、というコンセンサスですね-、すでに店側の人間の中で醸造・熟成されている、とは露とも知らず、知るわけないです、同業者じゃないんだから、会計をすましたあと、僕は『出前メニューください』とある意味彼らの張った網に自ら飛び込むようなをことをしてしまったんです。
 そもそもとうの以前から僕らを客と看做していない店側にすれば『ビンゴ!ほうら、やっぱりきた!冗談じゃねえ、こっちは全てお見通しよ!おい、渡すんじゃねえぞ!』っていう無言の指示が厨房からレジのお兄さんに飛びます。それでレジのお兄さんが、腕組みをして僕を睨みつけ、果てに厨房の中からの怒声、となったわけです。最後に止めの『しっかり勉強しろよ!』でお前らの正体はとうの昔に露見してるんだよ、と『自慢』し、かつ、武士の情けで出前メニューを持たせてやることで自分たちの寛容さに『自己満足できる』し、・・・というのが僕とさい君がたどり着いた結論です。

 それで、じゃあ、曲がりなりにもそういう結論に辿り着いたから、僕とさい君は得心したか、というと、これはまったくそういうことはありません。繰り返しますけど、僕らは、ラーメン屋にはいって注文をし、文句も言わずに出されたものを食べ、お金を払った、という『社会通念上の商慣習』を『ごく普通に』遂行した、単なる客、だったはず、なんです。その結果として、南西アジア系と思しきお兄さんに斜に構えた姿勢で睨めつけられたり、主人から大音声で怒られたり、皮肉まじりに見当違いの励ましを受けたりする謂われはないと思うんです。

 そういうわけで、僕とさい君はこの事件以降、このラーメン屋には今に至るまで一回も行っていません。普通は、行かなくなりますよね。それどころか、しばらくは、その店の前を通る度に口にはしないものの、本件を思い出してブルーな気分になっていました。

 ところで、その後、その店は、なにをきっかけにか、は知りませんが、たいへんな有名店になりました。今では庇も新調し、いつ見ても行列ができています。それどころか、インスタントラーメンメーカーとの共同開発とかで『あの東大立目の名店が!』なんて書かれたカップ麺まで販売されるほどになりました。そのカップ麺の蓋には、紛う事なきあのオヤジサン、-僕とさい君に罵詈雑言を浴びせたあの厨房の人が-、が中華鍋を手に愛想笑いなんぞを浮かべた写真が大きくプリントされていました。
 そのカップ麺を近所のスーパーマーケットの棚で偶然見てしまったとき、あれ?なんだって、僕やさい君にしてみたら二度と見たくないもない顔をこんなところで不意打ちで、出し抜けに見させらなきゃいけないんだ?と思いつつも、一方で、ほほう、やっぱりあのオヤジサンはあの店の主人であったか、と妙な確信をする羽目になりました。
 さらに加えて、ここ数年かけての大掛かりな工事で、駅だけではなく、僕の近所一体の線路自体の高架化が実現され、駅を挟んで南北に踏み切り無しで車が行き来できる道路がいくつも完成して『開かずの踏み切り』は撲滅されてしまいました。おそらくは、かのラーメン屋の出前範囲も駅の南北を問わず大きく拡大し、出前においても顧客を増やしたもの、と容易に推測されます。

 ・・・これ・・『不公平』じゃないですかね。
 しかもなんか『極めて理不尽』じゃないですか?

===終わり===
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お気持ち、ありがとうございます。

お気持ちありがとうございます。でも、これ以上かかわりたくない、というのが小心者の筆者の腹蔵ない意見でありますので、そっとしておいてやってください。なお、筆者のところへ遊びにこられたら、くだんの店にご案内いたします。ぜひ、行列のできるような味をご堪能ください。え?いや、お食事の間は筆者は近くのハンバーガー屋でお待ちしております、はい。

いやいやいや、これはかわいそうすぎます、
店名教えて下さい。
口コミの強さ、教えてあげましょう
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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