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僕とサービス業。①

 残念ながら世の中というのは不公平にできています。しかもその不公平の原因が得てして理不尽なものだったりするものです。

 僕の理解が間違っていなければ、このブログの読者のみなさんのほとんどの方に『飲食業などのサービス業の人に尋常じゃなく厳しい知己』がお有りになる、と思います。(しかもこのブログの読者層は何を隠そう2012年4月21日現在、筆者の推定によると90.2%が僕の知人なので、そういう『尋常じゃない知己』として頭に思い浮かばれた方が、僕の知己と重なっている方も多いかと思います。)
 僕にも数人、そういう知己がおります。
 ちなみに僕自身は違います。だからって別に自分の寛容ぶりを衒っているわけでありません。僕はどっちかというと、小心者なうえに、怠け者なので、できるだけ余計な揉め事や、そのことに伴うエネルギー消費を避けて生きていきたいから、っていうだけです。さらに、卒璽ながら本音を申し上げちゃうと、なんであの種の人たちはあんなにまで『尋常じゃなくサービス業に厳しい』のか実はちょっと理解できないです。そういう御仁に出会ってしまう気の毒なサービス業の人とそうでない人、がいる、というのは彼らの立場からすると、甚だ公平を欠くと思うんですね。

 以前、僕の上司だった番場さん-全般において普段は優しいし、男気に溢れたたいへんいい人です。-がやはりそういう人で、ある日昼食時に数人で、今日はいつものあの人気店の『坦坦麺』を食べに行こう、となったときの話です。
 席についた僕らは番場さんを含めほぼ全員が『坦坦麺と小ライス』を注文しました。ところが『坦坦麺』はすぐ来たのに、小ライス、が一向にきません。業務中の昼休み、ということもあって時間も限られているので、僕らは、
 「ライスけえへんなあ。」
 「まあ、辛抱しいな。いま新潟で脱穀中らしいで。」
 「ほんまかいな!ほなもうすぐやな。俺は、また今ごろ、田植え中かと思とったから、もう脱穀中ならすぐやんか。」
 などと『定番の会話』など交わしつつライス抜きで辛抱しながら坦坦麺を食べ始めていました。ところが、結局小ライスが来たのはほぼ全員が坦坦麺を食べ終わった頃でした。これは店側に確かに瑕疵があります。でも僕なんかは、まあ、脱穀してたんならしょうがないや、世の中は不公平なもんだからな、と、いい気分はしないまでも我慢して麺の無くなったスープだけをおかずにライスを食べて黙って会計して店を出てきちゃうんですけど、番場さんはそういうわけにはいきません。もう昼休みが終わろうというのに、怒り心頭に発し、小ライスを持ってきたウエイトレスを大声で怒鳴りつけはじめました。
 「遅すぎるんじゃい!見てみい、わしらみんなラーメン食い終わっとるやないかいっ!ええ!こらっ!しろめしだけで食え、ゆうんか!」
 ウエイトレスはただただ恐縮して謝っていますが、番場さんは敵の(敵という表現はちょっとふさわしくないかもしれませんが、番場さんの怒りようには明らかに『戦意』がみなぎっていたので。)萎縮をいいことに、雨あられとばかりに罵詈雑言を浴びせます。
 「めし、お椀にいれて持ってくるだけやないかい!それがなんでラーメン作って持ってくるより遅いんじゃい!ええ、こら!オーダーし忘れたんやろ!?え、違う?ほな、なんでや!お前やったら話しにならん!」
 僕ら部下は、店側には確かに落ち度があるものに、いつまにやら全身に感じている店じゅうの他の客の視線に耐えつつ、あらら、こら、番場さん、いつものやつが始めちゃったな、と思いつつ、しかし、番場さんは上司だけに彼を諌める勇気もなく、かと言って番場さんに加勢するでもなく(形勢からいって、加勢などまったく不要、ですので。)黙って、事態を見守っていました。いや僕に限っていうと『見守っていた』は正確じゃないですね、僕は店内の視線にいたたまれなくて番場さんとウエイトレスを横目でみつつ俯いていました。
 「店長呼んでこい!店長!」
 ・・出ました『サービス業に厳しい人』のウイニング・ショット、『責任者召集』です。あれま、今日の番場さんは最後までいくつもりだな・・・。
 と、前掛けをした男の人が現れました。
 「おい、おまえんとこの教育はどないなっとんじゃい!」
 「たいへん、申し訳ありません。」
 「飯ひとつもってこれへん、とはどういうことじゃ!」
 番場さんは座席でふんぞり返ったまま怒髪天を衝く、という勢いでかさにかかって攻め立てます。
 「申し訳ありません、以後気をつけます。」
 店長とおぼしき男性は、ただひたすらに頭を下げ続け、その様子はどこを叩いても『ヘイシンテイトウ』という音がしそうなくらいでした。ただし、嫌味はないものの、その謝罪の仕方には『踏んでる場数が違う』という経験値からくる安定感、のようなものが微かに感じられました。
 「以後気をつけますだあ?今回はどないしてくれるんじゃ!」
 「ご勘弁ください。たいへん申し訳ありません。」
 「やかましい!謝ってすむもん、ちゃうぞ、只にせい!」
 ああ、番場さんなんてことを。いや、そんなことよりも早く他人の視線から解放されてこの店を出るほうが、-少なくとも僕は-、よっぽど嬉しいんだけどなあ。
 そのときです。それまでおもちゃの水飲み鳥のように坦坦と、いや淡々と頭を上下させていた店長の態度が豹変しました。
 「え?『只にせえ?』?あんた、今『只にせえ』って言うたな。なんで只にせなあかんねん。出るとこ出よか。あんたの名刺ください。くださいよ、あんたの名刺。名刺ください!」
 店長は、番場さんの放った不用意なひとことをまるで狙っていたかのように聞き逃さす、これを言質とし、言外にそれは恐喝行為だ、犯罪だ、と主張する、という乾坤一擲の逆襲に討って出たのです。事態の急変に僕が視線を上げて二人を凝視したときには、水飲み鳥は、突如として、その動力源たる水が蒸発したかのように、一瞬の間にうってかわって背筋を伸ばし固まり、ほぼ同時に森の石松が仁義をきるように番場さんのすぐ近くに高圧的に手を突き出し、すでに番場さんの名刺を要求する態勢を『ビシッ』と音がでるくらいに決めていました。
 言質をとるタイミングの絶妙さ、といい、突如変貌したまさに眼光紙背に徹するといわんばかりに鋭さを発しはじめた目つき、といい、その言質を蟻の一穴とばかりに『出るとこ出よか、名刺ください』と万を持していたかのように矢次早に発射された効果的な言葉といい、その逆転ぶりの見事さは、21世紀の今日の実生活で当事者としてはなかなか見聞できない、まさに『敵ながら天晴れ』というやつ、でした。(だから店長は『敵』という表現でいいんでしょうかね?)
 一方番場さんは、あたかもひよどり越えを食らった平家軍か、はたまた、桶狭間における今川軍か、の如く形勢逆転に狼狽し、先ほどまでの勢いはどこへやら、
 「名刺、持ってへん。ない。」
 と言い返すのが精一杯です。
 「おっしゃああ、ええで!あんたら全員只にしたるわ!」
 森の石松はそう投げやりな口調で叫ぶと、おもむろに僕らの円卓にあった伝票を鷲掴みに掴み、それを誇示するかのように大きく空に置き、すごい勢いで短く鋭く、なにやら書き記しました。
 そして、
 「そのかわり、あんた、ちょっと話そうやないか。ただではすませへんで。」
 とすごむと、番場さんはなんと石松に連れられてどこやらの別室に連れていかれてしまいました。

 「・・・・・。」
 僕らは、誰ひとりとして只になったことを喜ぶ者などなく、ただ呆然として自軍の大将の身を案じながら無言で座っていました。数分後、少し青ざめた、そして明らかに戦意を喪失したような表情で番場さんが戻ってきて再び円卓に座りました。

 「・・どう、なりました?」

 一番年長の部下が番場さんの身を案じて、短くも重たい沈黙こじ開けて、皆の気持ちを代弁して聞きました。そして、唾を飲み込みながら黙ってその返答に、-たとえばまさか『告訴する、言うてる』というような悪い事態になっていませんように、と案じつつ-、耳目を集中する僕らに、番場さんは、しかし、少しですが嬉しそうに、こう言いました。
 
 「うん、只になった。」

 ・・・いや、僕らはもう坦坦麺と小ライスのひとりあたり数百円のことなんか誰も心配していないんですけど・・・。それに対して『うん、只になった。』はちと気軽すぎます。
 でも、『飲食業などのサービス業の人に尋常じゃなく厳しい』番場さんにとっては、今回のことで只になったことは、依然それなりの『戦果』だったわけです。
 結局、僕らは店員や客の視線を痛く感じつつ、何を食べたのかもほぼ忘れたままこそこそと(番場さんを除きます。こういうときもこの種の人たちはなぜか堂々としているんですよね。)店を出ました。
 密室で、水飲み鳥転じて森の石松と番場さんの間で『只にする』以外にどういうことが決定されたのかはいまだにわかりませんが、どうも事なきを得たようです。
 なぜなら、この事件から、まだ日浅からぬ10日後くらいのある昼休みに、番場さんがこう言ったからです。

 「最近坦坦麺食うてへんなあ。今日、坦坦麺行かへんか?」

 ええ!・・・それを聞いた僕らの何人かは『最近食うてへんのは、あの只になった一件以来みんな行きづらいから誰も口にしないんであって、しかもまだほとぼりが冷めてないんじゃ・・』と瞬時にアイコンタクトで会話しましたが、結局番場さんの提案に抗えず、くだんの店に坦坦麺を食べに行きました。幸いなことに、本当に幸いなことに、今回は店側にも何も落ち度はなく、番場さんは機嫌よくおいしそうに坦坦麺を満喫していましたが、僕はものすごく居心地が悪くて、ああ、こいういうのが俗に言う『砂を噛むような』ってアレだな、なんて思いながらまったく食事を満喫できませんでした・・・・。番場さんにしてみれば前回は暴れたおかげで只になったし、今回は今回で、小ライスも麺と同じタイミングで出てきたから、ってことで大団円、ってことみたいなんですけど。
 
 これって『たまたま番場さんに応対することになったサービス業の人にとって、ではなくて、僕にとって甚だ不公平』じゃないですかね。
 しかもその原因が『充分に理不尽』じゃないか、と思うんですけど。

===終わり===
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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