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マリンボーダ―。

 僕は一応月曜日から金曜日までサラリーマンをしているくせに、毎週のように斯様なブログを冗長にしたためているので、たいへんな読書家かと思われている方がいるかもしれませんが、実はこれが全然そうではありません。嫌いだ、とは決して言いませんけど、僕の読書歴は、それはそれは貧相なもので、とてもひと様に披歴できる代物ではありません。ただし、僕は、いわゆる『活字好き』って奴で、ちょっと無聊を持て余すと、ほぼ無意識に近くにある活字を熱心に目で追っていて、ふと、なんだって俺はこんなもんを熟読しちゃったんだろう、っていうことがよくあります。しかも僕の活字好きのたちの悪いところは、気付くだけでなくて、たまにその行間を妙に深読みしちゃうことなんです。それのどこが悪いんだ、と思われるでしょうが、これが、行間を読んで、ほほう、とひとりで勝手に感心しちゃったりするんならいいんですけど、ときに、いや、わりとしょっちゅう妙なところにはまって、笑いをこらえられなくなったりするんですね。しかもそれが会議中とか公共の場だったりするとまわりの人にはその因果関係はわかんないでしょうから、いい年をしたサラリーマンが必死で『ひとり笑い』をこらえなきゃいけないから結構苦労します。

 かくの如く『活字好きなくせに読書量はあまり多くなくて、かつスマートフォンなども持っていない人』が、通勤電車の中で何をするか、というと、これはもうただひとつ、社内広告を熱心に目で追うわけです。

 読んだところでそれに惹かれて買いそうもない、いや絶対に買わない女性向け週刊誌の広告を読み、
 「ほほう、この春のトレンドは『綺麗めマリンボーダ―
  で決まり!』なのか。ふ~~む、しかも『これひとつで
  オン・オフで着まわしOKのカットソー!』っていうの
  が『有難い』んだな。ほう『合コンでウケるメ―クの仕
  方!』ってのがあるのか。女性をするってえのも、いろ
  いろとたいへんだな。」
 なんて感心したかと思えば(でもそんな雑誌は絶対に買わないし、ましてや、会社の女性に『お、今日はカットソーですか?ひょっとして、着まわししてますね!』なあんて間違っても言いません。)、
 「『多重債務整理お任せください!あなたは払いすぎてい
  ませんか?』・・・・か。ほう、この手の仕事は弁護士
  ではなくて、司法書士事務所がよく広告を出してるみた
  いだな、なんでかな。そもそも『おまかせください!』
  ってのは確かに頼もしいけど、借金で首が回らない人の
  債務を整理するのはいいとして、その顧客からどうやっ
  て報酬を回収するんだろう?」
 なんて、しかし、全然に真剣にではなく、ぼーっと考えたりしたかとおもえば、
 「XX典礼・・ふむ葬儀屋か・・・、お、なんだなんだ?
  『当社イメージキャラクター元NHKアナウンサー
  XXXさん』って、すげえなあ。まあ確かになくては
  ならん職業ではあるけど『葬儀屋のイメージキャラクター』
  って要るのか・・・」
 と漠然と違和感を覚えたりする、わけです。

 ほんのつい先日のことです。その時も会社帰りの電車の中でした。帰宅ピーク時だったので混んでいます。僕は、なんとなく人の流れに身をまかせていたら、ドアと人の間に挟まれて電車に揺られていました。見るとはなしに、見慣れた外の景色をガラス越しにひととおり見た後、僕はいつもの習性でいつのまにかガラスに張ってある、15センチ四方に満つか満たないかくらいの小さな宣伝を熟読していました。

 それはある本の宣伝でした。小さな面積に沢山の情報を詰め込んでいてこの広告を作成した人の苦労がしのばれます。あ~あ、こんなにたくさん小さな字で文言を入れたら読む人も読まなくなっちゃうんじゃないの、こんなの熟読する人なんていないでしょ、などと思いつつ、そのくせ僕は端から、-いつもように特に意味はなく-、熱心に熟読します。
 本の題名は『永遠のマイトガイ 小林旭』です。
 おいおい、平成の日々も20年以上月日を重ねているこんにちにあって、こらまた随分唐突な懐古趣味な本だなあ。と、心の中で文句を言うわりには(断っておきますが、小林旭さん自体には僕は何の文句もないです。ファンでもないですけど。)、そこは活字好き、揺られながら丹念に読んで行きます。

 『日本図書館協会選定図書』

 『日本図書館』の『協会』って・・?よく考えるとどういう協会かわからんけど、なんとなく苦労して箔をつけてるんだろうな・・・・

 『日活映画100周年記念出版』

 なるほど、唐突な理由は『日活映画100周年』にあったわけだ。でも、そんなこと言われても俺には何の共感も感概も無いんですけど。

 『生涯やんちゃ!
  昭和銀幕のアクションヒーロー小林旭が、
  全てを語る決定版!』

 ほう、全てを語る決定版なわけか、御苦労なことだな、そういえば父親は若い頃、このへんの映画にはまっていたみたいなことを言ってたから、この本のターゲットは父親くらいの世代だな、だとしたらあまりでかい市場ともいえんけど、それにしては小さいながらも気合いのこもった宣伝だな・・・。
 そして、夕焼け(だったと思います)をバックに機関銃を持った小林旭の若かりし日の顔部分の写真だか絵だかを背景に本の題名が印字されています。

 『永遠のマイトガイ 小林旭』

 以上です・・・・、と思ったら、その15センチに満つか満たないステッカーの一番下1センチくらいのところに、本の宣伝部分とはわざわざ背景の色を替えて、枠が設けられていて横書きに行儀よく、しかし小さく小さく出版社名がゴシック体で記載されていました。それはそうですよね、本の宣伝なんだから。
 ところがそれを読んだ瞬間、僕は、思わず、

 「くっ・・・・むぬむぬぬぬ」

 とおよそ日本語らしからぬ言葉を口にして、一気に苦悶の表情に変わりました。
 『くだらねえ~~~!』とほぼ条件反射的に大声で叫びそうになった僕を電車の中という空間のもつ公共性が、辛うじて抑えてくれたんです。それでも、その可笑しさにたまらなくなって叫ばないまでもにやにやしそうになってしまい、-電車の中で窓際にたってぼうっと外を眺めていた(そういう風に見えたはずです)サラリーマンが急にすごい勢いでにやにやしはじめたら怪しいですよね。-、それをも抑えようとして悶絶したわけです。
 そこには、こうありました。

 『すわってよんでも たちばな出版』

 僕を悶絶させたこの本当に小さい文言は、なにがすごいと言って、僕にとっては、せっかくの『日本図書館協会選定図書』だの『日活映画100周年記念出版』だの『全てを語る決定版!』だの、いや、肝心の本の題名をも瞬時に一掃してしまうほどのインパクトがあったことです。
 僕に言わせるとこれぞ『主客転倒』です。完全にやられました。笑いをこらえきれません。

 だいたい、『すわってよんでも たちばな出版』ってすごく得意そうに印字してるけど、『座る』に呼応しているのって『たち』だけで、社名の半分の『ばな』はまったく無関係です。放置されてます。強引です。公共の場で社名の前に印字するほどの論理性の裏打ちがありません。しかも『出版社』という業種において『すわってよむか、たってよむか』ってそんなに強調して自慢するようなことでしょうか?
 これがもし、まじめなキャッチコピーとして成立し得るのなら、『皿にねかされてても、たちうお』とか『横綱の隣にすわっていても、たちもち』とか『バイクにのっても、たちひろし』とか『だいたいの時間はすわってて嫌な思いをしてても、たてしゃかい』とか、なんでもありじゃないですか。
 加えて『永遠のマイトガイ 小林旭』を売るための宣伝でおおまじめに(おそらくは)『すわってよんでも たちばな出版』と小さくですが、この強引な洒落を印字することに拘泥するあまり、見事に『すわってよんでも たちばな出版』が『永遠のマイトガイ 小林旭』を完膚無きまでに脇役に押しやっている、という広告としての本末転倒ぶりが素晴らしいです。
 僕は、この文字をみつけてしまって以降、降車するまで、電車の中で、笑いをこらえ続けました。

 この会社のまじめな(おそらくは)多くの社員のみなさんは自覚しておられるんでしょうか?
 いや、そうではなく『ふふふ、よくお分かりになりましたね、実は、本の宣伝はダミーで本当は出版社の名前を広めるのが狙いなんですよ BY すわってよんでも たちばな出版』だとしたら、僕はこういうのは嫌いじゃないから大いにぱちぱちと拍手を送るものですが、でも、そういう『はまり方』をする人は世の中にはほぼいないと思うんです。
 しかし、わずか15センチ四方足らずの広告にすらわざわざ表記していることを鑑みると、このキャッチコピーには相当な自信、あるいは拘りを感じます。そういう具合に想像をたくましていくと、或いは、もっと深い由来、-僕の日常の大部分は実は、こういう想像、というか妄想に消費されちゃってるんですけれど。―、があって、例えば、そうですね、『すわってよんでも たちばな出版』は、この会社を、艱難辛苦、聞くも涙、語るも涙の果てに立ち上げた三代前の創業者が、創業ほどなく資金繰りが行き詰まり、あわれ、社員とその家族を路頭に迷わさんというそのとき、創業者の懸命な懇願にもつれなく融資を渋るメインバンクの担当者に思わず『今はこうやって低迷していますが、もし今回の融資をしていただければかならず、かならずや我が社はたちなおります!今は、すわってお願いしていますが、その名もたちばな出版ですから!』と必死さから口をついて出た偶発的な洒落がメインバンクの担当者のつぼにはまって大笑いをとってしまい、それが奏功して奇跡的になんとか融資を引き出すことにこぎつけ、その後今日のわが社があるのだ、ということかもしれません。もしそうだとすると、この会社は、初心忘るべからず、あのときの辛酸と感謝の念を代々伝えるべし、ということで、毎日朝礼で、
 「すわってよんでも たちばな出版!」
 なんて、全員で唱和したり、社員の名刺の会社名の前にもちゃんと印字されていて、おまけに電話も、
 「はい!すわってよんでもたちばな出版!でございます。」
 っていう第一声で全員が応対しちゃうんです。

 ・・・こうやって書いててもにやにやしちゃいます。

 けど、結果として、何度も『すわってよんでも たちばな出版』を乱発して、微力ながらも世の中への露出に貢献しちゃいました。・・・・まさか、それが最終の目的でしょうか?
 だとしたら、もはや都市伝説の範疇の壮大な深謀遠慮、といえるではないですか。ううむ、『永遠のマイトガイ 小林旭』をして『全てを語』らせるかのようにみせかけて、その実、社名をサブリミナル効果の如く乗客に刷りこませるなどとは、とても常人の考えつくような戦法ではないですぞ・・・さては俗に言う、肉を切らせて骨を断つ、っていう魂胆だな、むむ『すわってよんでも たちばな出版』おそるべし、です。

=== 終わり ===
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プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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