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タイムマシーン。

 僕は、その時、思いました。こいつは俺が思い違いをしていただけで、愚息は幼すぎるのではなくて、むしろひょっとしたら、大物かもしれないぞ、と。

 よくある命題、いやそんな大仰なもんではないかな、ええと、とにかく『もしタイムマシーンがとうとう発明されて、でも、一回だけ過去に行けるのなら、あなたはどこに戻りますか?』という問いをつきつけられた、あるいは自問したことのある人は多いと思います。この問いへの返答は、ときにその人間の性格であったり、トラウマであったり、あるいはもっと穿って原点であったり、などの存外重要な一面をえぐり出してくれたりします。

 先日、帰宅したら、さい君が留守で(なんか最近、頻繁に居ないです。なんでかな?)、愚息がひとりで留守番していました。
 「ただいま。あれ、フジひとりか?」
 「おかえりー、うん、ひとり。」
 という会話のあったあと、息子はいつものように間髪入れず他愛のないことを父親に浴びせかけました。
 「パパ、ライトセーバーってなんで、使える人と
  使えない人がいるの?あの黒いのを持ってさ、
  スイッチ入れたらさ、ぶーん、て出るんでしょ?」
 彼は最近、スター・ウォ―ズのゲームにご執心です。それにしてもスター・ウォーズってすごい息の長いビジネスモデルですよね。詳しくは把握していないけど、世の中に出てから40年近くたってるんじゃないでしょうか?
 「いや、あれはだな、フォースっていう
  力を持っている人だけが出現させられる
  もんで、あの黒い取っ手をもってスイッチ
  を入れたらでてくる、なんてもんじゃない
  んである。だからルーク・スカイウォ―カ―
  もヨ―ダのところで修業しただろ?」
 うまいことやりやがって、こうやって特に『スター・ウォ―ズ』フリークでもなんでもない僕の遥かかなたの記憶を呼び戻させて、日本人とその混血児の親子の会話にまで入りこむような息の長い商売を世界的に展開するなんざあ、『スター・ウォ―ズ』はやっぱりただものではないな、と思いながらも、僕は息子の子供らしい質問に適当に相手をしていました。
 「ふーん、そうなのか。」
 「そうなんである。」
 こいつ、もっと、こう、うまくいえないけど、精神的に成長を感じさせるような言動ができんのかな、俺でさえこいつの年齢のときはもっと自我の芽生えというか、それらしく深みがあったような気がするんだけど、今から将来が心配だなあ、という僕の親としての思いを知ってか知らずか、いや、知らずに、でしょう、彼はいつものようにたたみかけます。
 「あのね、パパ。」
 「うん?」
 息子は珍しく、親に促されることなしに風呂場に向かい、早い時間からひとりで自分からすすんで入浴しようとしています。珍しいです。
 「みくるくんてね、」
 「うん、」
 みくるくんは、よくうちに遊びにきてくれる息子のクラスメートです。息子は風呂場に向かいながら続けます。
 「自分のはなくそ食べるんだよ!すごいでしょ?」
 「がははは!うそつけ!」
 くだらん、ばっちい、と思いながらもまたしても思わず爆笑してしまう僕です。
 「そんな人いるわけないだろ。」
 「ほんとうなんだよ!それでね、フジがね『みくるくん、
  はなくそっておいしいの?』って聞いたら、なんにも
  言わないでこうやって手をふるんだよ!」
 「がはは、うそつけえ~」
 風呂場に向かいながら息子は、なにやら手をくにゃくにゃと左右にゆっくりふりながら、みくるくんの真似をしてみせてくれます。うちの子もうちの子です、はなくそなんておいしいわけないだろ、あほな質問しやがって。子供だなあ、と思いつつも、曲りなりにも勤労を終えて神経が弛緩しきっている僕は、まともに笑っちゃってます。
 「あとね、」
 「うん?」
 「フジね、」
 「うん。」
 「きょうね、フジね、がっこうで、うんちもらした。」
 「ええっ!?」
 おまえ、そういう大事なことを、小学校三年にもなってあるまじきことを、なぜ一番に報告しない!?なぜ、ライトセーバーについての疑問や、みくるくんのはなくそ疑惑を先にもってくるんだ!
 「それで、どうしたんだ!?」
 「え?『どうしたっ』て?」
 すでに全裸になって、風呂場に入りかけている息子の背中に僕は質問を浴びせかけました。
 この『どうした?』っていう日本語はものすごく汎用性のある日本語で頻繁に使用する半面、その実、具体性に欠けますよね。息子は、意図したわけではないでしょうけど、僕の発した日本語の後者のほうの性質を本旨と見做してか、そんな曖昧な質問には答えようがないだろ、って感じで、返答せずに風呂場に消えていってしまいました。
 
 う~~む、こいつ、学校の成績表でも『たいへんよい』がほとんどないし、言動も子供っぽいから心配していたが、ひょっとすると、とんでもない大物かもしれんぞ。と、同じ失敗、つまり、-恥をしのんで告白すると-、『がっこうで、うんちもらした』経験のある僕はかなり真剣に思いました。それは、僕にとっては、消してしまいたい、一生忘れられない恥ずかしい失敗で、もちろんそのことでクラスメートはおろか他のクラスの人間にまで少なからぬ期間苛められたし、小さからぬ心の傷になって未だに残っている出来事だったからです。

 『もしタイムマシーンが出来て一回だけ過去に行けるのなら、あなたはどこに戻りますか?』と問われたならば、僕はあの失敗の直前にもどってその日は学校を休んじゃうことを選ぶでしょう。なぜなら僕の人生にとっては悪夢であってほしい、最たる出来事だからです。ある意味では、自分史を語る上で(特に誰にも語るように言われたことはないです。)現象としても、精神的に与えられたインパクトとしても不可避なことだからです。

 (ええと、でも迷わず1回だけ戻られるなら、とはちょっと断言し難いような気もしてます。戻られるなら、あの時も捨て難いかな・・・・。
 即ち、学生のとき好きな女の子に思い切って告白したら『ええ・・・、ええと、ええと、正直に言うと、みどりくんは二番目に好きなの。私が一番目に好きなのは皆川くんで・・』と戸惑いながら返答されて『なんだあ?二番目に好き、って、全然だめじゃんか、あ~あ、気休めにもならん。要は、あと1点だけ足りなかったから、惜しくもあんたはこの受験は不合格です、お疲れ様でした、ってえのと一緒だよな、うん。1点だけ足りなかろうが、不合格は不合格なんだから、駄目だ、こら。』と思って、あっさりそれっきり引っ込んじゃったことがありました。今なら、おお皆川とも付き合ってるわけじゃなくて彼女の片思いみたいだから、-実際そうでした-、『第一回経営側回答』、じゃなかった『第一回告白された側回答』としては悪くないぞ、いやいや、むしろ、脈は大ありじゃん、と欣喜雀躍として押しまくるのに、そのときは『多少なりとも好意をもっている相手から予想もされずに告白されて、断るでもなし、いきなり受け止めるわけにもいかず、でそういう玉虫色の返答をすることで考える時間を与えてほしい、という彼女なりの、行間を読んでね?っていう誠実な対応なのかも』なんてことには毛の先も思いを至らすこともなしに、見事なまでにその子から、即日、全面的に、かつ全速力で撤収っ!、しちゃったんであります。もったいないことをしました。『一回だけ戻られるとしたら』、うんちを学校でもらした日、と迷うくらい惜しいことをしました。・・・・・
 うん?待てよ、そんな自分本位なだけではいかんな、そうそう、やっぱり主将として臨んだ高校三年生の秋に逆転負けを食らった全国大会地方予選の三回戦での、後半15分・敵陣10M付近でのマイボールスクラムの、あのスペシャルサインプレーを俺のせいで失敗したことも悔やんでも悔やみきれん、みんなに申し訳ない、あれが成功していれば試合展開は変わっていたはず・・・
 うんにゃ、ラグビーといえば、大学4年生のとき、某日本有数の強豪大学の体育会の下部チームと試合をしてトライ数4本-2本で負けたとき、もっとみんなで団結して事前の練習をしっかりやって、かつ就職関係の都合で出られなかった、グラウンド外ではいい加減極まりないけどグラウンドの中ではなぜか責任感溢れる同期のフルバックの野郎が、あの試合に出ていればひょっとしたら勝てたかも・・・。
 いや、中学三年の秋の柔道の県大会の一回戦も・・・・、なんだか湧き出るように、後悔ばかりの人生みたい、になってきて我ながら情けなくなってきたので、このへんでやめときます。)

 とにかく『学校でうんちもらした』ことは、僕にとっては大きな傷で、しかしそれは、トピック性はとてつもなく大きいけれど『飽くまで失敗』であって、『世間が、学年じゅうにわたって遍くスクープとして知り扱おうが、結局は失敗の域をでることではなく』、なにか『悪いことをしたわけではない』ので、堂々と生きていけばいいのだ、と自分なりにそのトラウマを払拭するのに成人になるまで時間が必要だった僕、に比べて(実はまだ100%克服できてませんけど)愚息のこの悠揚迫らざる態度は大したもんではないですか。『え?どうしたって?』の一言でさらりとすますなんざあ、こいつは『幼いし、たいへんよい、は三つしかないし、贔屓目に見てもこれといって光るものもなにもない。』という僕の目が狂っていて、存外、大した人物になる素地をもっているのかもしらんぞ・・・。

 と、僕が真剣に考え込んでいると、しばらくおとなしくしていた息子が風呂場から僕を呼びつけました。
 「パパ!ちょっと来て!」
 「なに?」
 「いいから、早く!こっちきてよ!」
 「なんだよ!フジが来いよ。」
 「だめ!パパが来て!早くこないと
  だめなの!」

 ・・こういうとき、僕はここだけの話しですよ、若干さい君を恨めしく思います。さい君は家の中で僕に用事があるとき、それが必ずしもさい君のいる場所でないと解決できないわけでもないのに、たいてい僕を呼び付けます。結婚当初は、その習性に気付かず、僕はさい君に呼ばれるがままに、腰を上げてさい君のところへ移動していましたが、なんだ、これって彼女が俺のところへ来ればいいんじゃんか、って悟ったときにはすでにとき遅く、用があらば僕が呼びつけられてさい君のところへ行く、というのが習慣化されていました。二人といえどもそこは組織、一旦習慣化されるとなかなか抗えないもので、こういうのって『優しい旦那』っていうんですかね『尻にしかれてる』っていうんですかね、まあ、形容する日本語はどうでもいいんですけど今に至るまでその習慣は継続しています。それどころか、あろうまいことか、息子まで用があるときは息子のいる場所でなくてもかまわないのに、僕を呼び付ける、ということを真似るようになりました。このヤロー、いやしくも世帯主が誰か、こいつ、わかっていないんじゃないか、これはさい君が夫を軽んじて扱っているせいで、俺は、さい君より家庭内順位が低くて呼びつけていい人間、って息子も思いこんでいるに違いない・・・。

 僕は、こころの中で、さい君に毒づきながら、それでも結局は、やれやれと、腰をあげて、呼びつけられるままに風呂場にいる息子のところへ向かいました。
 「なんだ、どうした?」
 こういうときも『どうした?』って言っちゃうんですよね。便利な言葉です。
 また風呂で遊んでて、大きな泡ができた、とか、どうでもいいことを見せたいだけなんだろ・・・。と風呂を覗きこむと、しかし、息子は、今度は『どうした?』という言葉の持つ汎用性のほうに阿ることなく、具体的、かつ雄弁に僕の問いかけへの返答を用意しておりました。
 即ち、満面笑みをたたえ、目をまん丸に見開いた息子が指さすその先には、洗いかけの、しかしまだしっかりと汚物にまみれた彼のパンツが・・・。
 「パパ、これ!見て見て!カレーそっくり!?」
 「・・・・・・・」
 「ね、でしょ?」
 
 ・・・また『カレーとうんこ』かよ・・。『なんとかと天才は紙一重』なんて言いますけど、どうもこの小さい人間は『鈍感極まりない男』なのか『小さいことには動じない男』なのか判断がつきかねます。

 パンツを洗っている途中で、水分をやや含んだ汚物を見て、これはしたり!と閃いて、僕を呼び付けた模様です。つまり、早くしないともっと水分を含んで、あるいは汚物が流されちゃって『いいころあいのカレーみたいじゃなくなる』ので『すぐ来い!』ってことだったようなんです。そして、その光景の『しょうもなさ』に言葉を失い立ちつくす僕を見て、その状態を『モノがカレーに似ている』ことに合点がいかないからだ、と判断して、にこにこしながら『ね、でしょ?』と『念を押したつもり』だったわけです。

 これは、一度真剣にさい君を問責して先述の慣習を改める必要があります。なぜなら、家庭内順位として息子が僕をさい君以下って見做している可能性がある、のみならず『自分と同じ精神年齢』と無意識のうちにとらまえている可能性も否定できないからです。
 ・・・まったく、どいつも、こいつも。

 まあ、確かに『似てる』っちゃあ、似てましたけど。

===終わり===
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インディアンルーレット、浅学にして知りませんでした。

TOCHY様 コメントありがとうございます。インディアンルーレット、浅学にして存じあげませんでした。ネットで調べたら、これを形容して「当たって当たろう」というコピーががあり、不謹慎にも噴出してしまいました。さすが博識であられますね。参りました。

クダラナイ話ですが

カレーの話を読んで、ロシアンルーレットならぬ。インディアン(これはインドのって意味ですが)ルーレットなるモノ思い出しました。
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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