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父親 みどりかずまさ。

  お陰様で僕の両親は健在です。父親は、元サラリーマンです。
 声が常に大きい、のと、人の話を最後まで聞かない、そして、負けず嫌い、という悪癖を有する以外は、知る範囲では、大過なく人生を送ってきました。
 加えて、一般の家庭人に比すと、少しだけ、『飲む』のがすきで、少しだけ『搏つ』が過ぎて、そして― 息子として知る範囲ですが―すこうしだけ『浮気』が多い、というだけの、いち市民です。
 それから、『自称英語が得意』かつ『自称メジャーリーグ通』ですけど、たまに実家によると、
 「おい、慧太、いまから、あれ、やるから見るぞ。」
 「あれってなんだよ。」
 「あれだ、松坂だ。レッドセックスだ。」
 「ああ。そう。でもお父さん何回も言うけど、レッドソックスだよ。『靴下が赤い』っていう意味だからさ。そういうマークがユニフォームにもついてるでしょ。『赤いセックス』なんて破廉恥な名前の野球チームがあるわけないだろ。」
 「きょうは松坂だからな。」
(全然人の言うことを聞いてません。この辺がこの男の真骨頂です。)
 「いや、だからさ、『ソックス』だよ。」
そこで母親が全く動じずに、
 「いいのよ。いつもそう言ってるから、ほっとけば。」
などという会話がよくなされます。
 そんな、ありがちな いち市民ですが、それでも、そこは人間ですから、変な言動が人並みに多少はあります。父親は―かずまさ、と以下記します―は、英語とメジャーリーグ以外にも趣味があり、『自称映画通』です。実際に映画は好きで、僕が大学生になんなんとする頃、突如(いつも突如でしたけど)夜中に泊まりに来た僕の友人の山案山子くんが玄関に入るや否や、『いらっしゃい』も言わずに、開口一番、
 「山案山子くん!今テレビで、○○というすごくいい映画をやってるから、すぐ見なさい!!」
とブリーフ一枚で『命令』したこともあります。僕は、またか、と無視してぐうぐう寝ちゃいましたが、山案山子は、かずまさと別の部屋に僕といるにも関わらず、かずまさの勢いに押されて、布団のうえに座って、横で寝てる僕をうらめしがりながら、見たくもなんともない映画を見たそうです。
 繰返しますが、確かに、かずまさは、映画好きです。映画に関する本も少なからず持っているし、語らせるととても詳しいです。曰く、ロック・ハドソンは大統領候補になりそうになったことがある、ケン・ノートンは映画に黒人奴隷役で出たことがある、マリリン・モンローはJ.F.K.とのスキャンダルがあった、ジョン・ウエインは、マーロン・ブランドは、ジュリアーノ・ジェンマ、ソフィア・ローレン、スティ―ブ・マックイ―ン、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャンディス・バーゲン、ジェームス・ディ―ン、アラン・ラッド、カ―ク・ダグラス、石原裕次郎、赤木圭一郎、アル・パチ―ノ、オ―ソン・ウエルズは、「駅馬車」「シェーン」「OK牧場の決闘」「第三の男」「スティング」「慕情」「ローマの休日」は・・・・・・・、語りだすときりがないんです。でも・・・・?、そうです。不思議というか、気の毒というか、どういうわけか、かずまさの映画歴は、『映画しか娯楽がなかった』という時代で止まっているんです。確かに好きだし、詳しいんですが、『自分の趣味がUP DATEDされていない』という自覚は全然無いみたいなんですね。僕はというと、特に好きでもないし嫌いでもない程度です。だから、かずまさが山案山子くんに薦めた、いや、強要した『夜中にやっていたすばらしい映画』も、すんごく古い映画で、そうじゃなくても映画に特に興味のない山案山子には、後日このことで散々文句を言われました。でも『泊めてもらっておいて文句を言う』っていうのも盗人猛々しい野郎ですよね、だいたい山案山子は・・・、いや、話をかずまさに戻します。
 もう、20年くらい前のある日、かずまさにひとり来客がありました。どうもかずまさの部下らしいです。さして広くもない我が家では、客人には申し訳ないですが、僕ら家族は別の部屋といえども、彼らの会話の聞こえる範囲に同席するはめになります。ふたりは、アルコールも入り、上機嫌で話が弾んでいます。僕は聞くともなしに会話を聞いていました。特にかずまさは声がでかいですから。と、途中で話題が映画について、になりました。かずまさは、すわ自分のテリトリー、と、俄然テンションが上がります。
 「おう、俺はなあ、映画あ、大好きなんだ。おまえもか!」
 「はい、好きなんですよ。課長には及ばないとは
  思いますけど。」
と、部下だけに根拠もなく謙遜してます。かずまさは、そういう遠慮を建前と受け取るような、ちんけな男ではありません。
 「そら、そうよ、俺のほうが間違いなく長く観てるからな。
  それで、おまえ、どんな映画が好きなんだ。おう?」
と映画の見識においても会社の上下関係を敷衍させて、かずまさは部下にせまります。
 「いや、最近は、忙しくて以前ほどあまり見る時間が無くて。
  でも、良かったですねえ『アマデウス』は!評判以上だっ
  たと思います。」
と客人は、世の中の評判に迎合してるわけではないですよ、と身分をわきまえた範囲で意見をいい、かずまさの対応を待っています。と、そこで、かずまさは、
 「アマデウスうう???」
とおうむ返しに言い、しばらく
 「アマデウスか・・・。」
と題名を口の中で転がしながら、なにやら沈思黙考しています。部下は、その予期せぬ重い反応に少し固くなり、自分の世俗一般と似通った意見に対しての『あんなものは、おまえ、世の中の評価に比べたら、大したもんじゃない。それより、あまり評価はされていないが、○○xxを観ていないのか。』という『自称映画通の上司の反論』を怖れてか、かしこまっています。
 「いや、あのストーリー展開は、やられたあ!
  って思いましたよ。」
と部下は『沈黙への反論』を試みました。
かずまさ「ストーリー展開?」
とまた、言葉を転がしています。
部下  「はあ、あのまさか、ああいう
     結末とは・・・・。」
と多少、いぶかしげに返答します。
かずまさ「・・・・・・。」
部下  「・・・・。」
 と、いきなり、かずまさの頭の中で、『アマデウス』と『ストーリー展開』と『結末』というキーワードが膠着したらしく、弾けるように、言いました。
 「おう、おう、あの結果か!あれはなあ、結局
  あいつらが、レスビアンというわけよ!!」
 アマデウスを観たことがある人はおわかりになると思いますが、その部下は、かずまさのあまりの独特な解釈に面喰って、ほぼ思考停止に陥っています。
 「・・・レ、レズビアン、です、か???」
 「おう、そうだ。そういう結末だ!」
と、部下の動揺に、どうだ、とむしろ優越を感じているかずまさです。
 「え、あの、課長、でも、あの映画の誰と誰が・・・。」
と部下は、『自称映画通上司』の意見の正当性を懸命に検証しています。どちらかというと女性の役割はあまり重要でない映画だし、仮に出てくる女性が同性愛だったとして、モーツアルトの死因とレズビアンにどういう因果関係が???と、かわいそうに狼狽も極まっています。
 「誰がって、全員だ、全員!!!」
 「ええ!!ぜんいんレズビアン!!・・
  ??ですか・・?」

 僕は、この会話を最初は聞くともなしに聞いていて、途中から、なんだか怪しくなってきたなあ、と聞き耳をたて、最後のほうには、完全にこの会話の齟齬を解明したので、面白くて堪りませんでしたが、外部者でもあるし、なにより行くとこまでいけばどうなるかという興味もあって、黙ってましたが、あまりに客人がかわいそうなので、ここに至って、口をはさみ、この史上稀に見る映画評論に幕をおろすことにしました。アマデウスについて―そりゃ、アカデミー賞までとってますからね― 一般的な知識もあり、かずまさの『映画通の正体』―確かに詳しいが、UP DATEDされていなくて、かつその自覚が本人に無い、ということ―、『負けず嫌い』であることも、知っている僕でなければ、ほどけない結び目だったかもしれません。

 「あのねえ、お父さん、『アマデウス』っていうのは最近
  の映画で、モーツアルト毒殺説、という新解釈を唱えた
  映画なんだよ。」
かずまさ、一向に動揺せず、
 「ん? なんだ、なんだ、そうか。」
そして、『え!「アマデウス」の存在すら課長は知らないのか!』という表情で絶句する客人をほうっておいて、最後に、
 「お父さんの言っている、『全員レズビアン』の映画は
  『アマゾネス』でしょ?」
と、静かにとどめをさしました。
 「お、そうそう。なんだ、違うのか。あれはなあ、はっきり
  とは表現してないけど、結局、全員レズビアンというわけよ!」
と堂々とかずまさは、とうにどうでもいい話題になった『全員レズビアン説』を誰にするでもなく主張しています。
 自称映画通のかずまさは、俺の知らない映画が人口に膾炙するわけはない、と思い込み、自分の知識の中で、『アマデウス』と『ストーリー展開』と『結末』のキーワードで出てきたのが、『アマゾネス』だったわけです。そして『多少題名が違うが、負けるわけにはいかん』かったみたいです。確かに、ある意味貧困な現代映画知識の中から諦めずに『同じ五文字で、しかも、うち三文字は同じ』という題名を短時間で導き出し、かつそれに確信をもって議論に挑んだ、という面では大したものかもしれません。でも、レッドセックスといい、アマゾネスといい、たぶん、家の外では、いろいろやらかして、誰にも指摘されてないんでしょうね、きっと。周りのみなさん、たいへん申し訳ありません。
 加えて、話の流れとはいえ大声で「ぜんいんレズビアンだあ!!」なんて、家庭内で連呼するには、あまりふさわしからぬ言葉です。まあ、母親は寸分も動じてませんでしたけど。終わり。
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いや、それほどでも。

> うーむ、おもろい。
> 前から思っていましたけどやはり父君と母君のことは本にしておくべきです。さるお笑いタレントののおばあちゃんみたいに
いちどご来訪ください。父親は某有名作家と大学で同じクラスだったらしいんですが、その有名さに未だに覚醒せず「片岡義夫っておまえよく知ってるな。あいつはな、えーと、そうだコカコーラがすきだったな、うん。」って僕のことに感心して、ニッチな情報をくれました。

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うーむ、おもろい。
前から思っていましたけどやはり父君と母君のことは本にしておくべきです。さるお笑いタレントののおばあちゃんみたいに
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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