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ぎりぞう。

 それはまあ、彼女の持っているDNAにおける情報方面はともかくとして、僕のさい君は、生まれも育ちも赤道直下南半球なのである程度『大らか』なのはしょうがない、とは思います。それに、そんなの自分で選んだ結婚相手だろ、って言われれば二の句は告げませんけど(実はあんまり『選んだ』って実感はいまだにないんですけど。)、『大らかさ』にも程度ってもんがあるだろう、って日本人の僕としては思うんです。
 
 つい先日、ある休みの日の午後、さい君がひとりで買い物に出かけて、僕と息子で留守番をしておりました。息子はなんなんとするところ9歳になろうというのに、相変わらず『嫌なことは能う限り後回しにしてあわよくば特赦をとりつけん』というその場凌ぎを良しとする性格はなかなか改善されません。風呂ひとつとってもさい君に何回も言われてようやく入る、という毎日です。その日、僕は特にやることもなく、ふと無聊にかまけて早めにシャワーでも浴びておくか、と思い付きました。そして、どうせなら息子も誘うか、と思い、
 「おい、フジ、パパは今からシャワー浴びるぞ。
  一緒に浴びるか?」
 というと、そこはやはり子供、目をまん丸にして、
 「うん、浴びる!」
 と喜々として服を脱ぎ始めました。これで暇もつぶれたし、なにより今日のところは、とりあえずさい君と息子の、風呂へはいれだの、あとで入るだの、という不毛な会話を聞かずにすんだな、と思いながら、息子と一緒にシャワーを浴びました。
 それで、風呂場から出て、せまい脱衣所で、お互いに『パパ、邪魔だよ!』『ええい、ちょっと待て、今すぐ出るから!』などと縄張り争いをしつつバスタオルで体を拭い終えました。そして、パジャマ変わりにしているユニクロの長袖Tシャツを着たところで、
 「ん??」
 と、予想外の事態に、気持ちが思わず声に出ました。
 「どうしたのパパ?」
 すでに、いい加減に体を拭い、先を越してウルトラマンのプリントがされたパジャマの上下を身につけて、濡れ髪のまま脱衣所から出ようとする息子が、尋ねます。
 「いや、パンツがさ・・・」
 脱衣所の『会社で不遇をかこつ身なれど、いやしくも一家の世帯主たる僕』のいつものパンツ置場、にパンツがないんです。僕は、ユニクロの長袖Tシャツを着たまま、-ええと、たいていの読者はご存じと思いますが、筆者は長身とは言い難い体躯なうえに、遠目にぱっと見はデブ、近づいて見てもデブ、しかしてそのBMI指数は、遺憾ながらまがうことなきデブ、なので必然的に体に比し、相対的に服を選ぶ基準が身幅になり、そのために『犠牲になった身丈』の長すぎる服を着用するようになります。-、下半身、ええと生物学的に言うと『ヒトのオスの持つ通常の男子生殖器、ワンセット』、我が家での術語としていうと『象さん』ですね、がちょうどそのユニクロのTシャツの長すぎる着丈のために、幸せか不幸か、ぎりぎり見え隠れするような態勢で再度パンツを探しました。ユニクロさんにおかれましては何の瑕疵もないでのすが、しばらくそのTシャツの前身頃の裾部分は、僕の動きに伴い、僕の象さんと『つかず離れず』という微妙な関係を継続してもらっています。
 ありません。しかし、僕は動じませんでした。たまにあること、だからです。こんなことでいちいち感情を乱していては、南半球人とは暮らしていけません。
 ほう、左様か・・。と、いうことは・・・、僕は、その態勢すなわち『会社で不遇をかこつ身なれど、いやしくも一家の世帯主が、ぎりぎりその象さんを露出している状態』で脱衣所にある洗濯機の上にぶら下がっているタコ足ハンガーに目をうつしました。さい君は、どういうわけかわかんないんですけど、僕のパンツだけベランダに干さずにここに干しておくことが良くあるからです。
 ありません。ほう、左様か・・・。僕は若干、まだ若干です、心に乱れを感じながらも、それなら止むなし、といつの間にやら、すでにリビングの床に座りこんでゲームにいそしんでいる息子の前を、『会社で不遇をかこつ身なれど、いやしくも一家の世帯主が、ぎりぎりその象さんを・・』(以下、『ぎりぞう』と略します。)、ぎりぞうのまんま横断し、思いきってベランダに向かいます。他の洗濯物と一緒にベランダに干されているものの中にパンツを見つけ、その乾き具合を確認して急場をしのいだ、ということもこれまで何回かあったからです。
 ただ、今回は、ちょっと勇気が要りました。なぜって、そのときはまだ日が高い時間で、しかも僕のうちは、マンションの一階だったからです。僕は別にいいんです、僕は。いや、その、僕の象さんのルックスのレベル云々ではなくて、ちらりと見られるくらいいいんですけど、だしぬけに他人のぎりぞうを見せられるご近所さんのほうは大抵、否、100%いやだろう、と簡単に推測できるじゃないですか。だから、かなり慎重にそろそろと、しかし、そのためだけにパジャマ替わりにしているスエットパンツをはくもの面倒なので、窓を開けて半身だけベランダに出て、干されている洗濯物の中に、僕のパンツがないか、確認しました。
 無いんです。幸い、あられもない姿をご近所さんに見られることは避けられましたが(はず、です。)、無いんです。
 「パパ、何うろうろしてるの?象さん見えてるよ。」
 わかってるよ!と誠に適確かつ妥当な息子の指摘も刺激になって、僕は多少苛ついてきました。いつもは、ここまで探せば見つかるものを・・・。
 察するに、『家事をまめにこなす習慣がない』さい君は、どうも洗濯物をため込んで10日間くらい分を一編にしちゃったようなんです。それで、僕のパンツは残念なことに全部『洗濯中の仕掛品』になってしまっていた、ようなんですね。
 ええい、仕方ない、僕は、依然ぎりぞうのまんま、ベランダから戻り、再度息子の前を通ると、最後の砦、新しいパンツの買い置き場所に行くために寝室にはいりました。全く、帰ったら今回はひとこと言ってやらねばならんな、あろうまいことか自分の夫をこんな間抜けな姿でうろうろとさせるたうえに、下ろす必要もない新しいパンツを着用しなければいかんとは・・・、とさすがの僕も苦言の用意などしつつ、ごそごそと箪笥の引き出しを探りました。
 無い・・・。僕は、さすがに憮然としました。買い置きも無いじゃないか。どういうこったい!なんで家長の俺様がぎりぞうのまんま息子の前を何回もうろうろしなければいけないんだ。
 と、その時、インターホンが鳴りました。僕はそれどころではないわい、と千千に掻き乱された気持ちのまま、反射的に、しかし多少不機嫌に受話器をとりました。
 「はい。」
 「重たい!両手がふさがってるからドア開けて!」
 「・・・・・。」
 僕は、一瞬迷いました。皆さんならどうしますか?僕は、まだぎりぞうです。ドアを開けに行って、なにかの拍子に、僕の象さんが『ちょっと、失敬!』なんて姿を現して、ご近所さんに挨拶なんかすることになったら恥ずかしいだけじゃなくて、下手をすると『普段からそういう格好をしている人』という評判になってしまうかもしれません。
 「早く!」
 ドアの向こうで、さい君が叫んでいます。僕はすでに大いに不機嫌でした。なんだ!旦那のパンツも用意していないくせに、助けを求められる立場か!
 「・・・・。」
 しょうがないです。僕は、感情を害していることを隠そうともせず、眉間に皺を寄せたシリアスな表情で、しかし、もちろん、ぎりぞうのままドアを開けました。
 「ああ、重かった・・・。ちょっと、見てないで荷物 
  持ってよ!」
 と、両手に荷物を抱えた、しかし僕の窮状を知らないさい君は、さらに荷物を持つことを要求してきました。
 「・・・・」
 僕は、無言のまま、さい君から荷物を奪いとるように持って家の中にはいりました。
 「ああ、疲れた。」
 と、荷物から解放されて床に座り込んで一息つくさい君に、正対する形で、僕は憮然と、しかしやり場の無さもあって、どっかん、とソファに座りこみました。座りこんじゃうとぎりぞう、じゃなくて丸出しになります。期せずして、南半球人VSユニクロ、と両者が対峙する構図になってしまったではないですか。その横で、ウルトラマンは専心、ゲームに没頭しています。
 「・・・あのさ・・」
 「なに?」
 南半球人は、どうやらまだ家長たる権威を地に貶められた、悲哀さえ漂させている僕の惨状には、まるで気付いていないようです。
 「無いんだけど。」
 「へ?何が?」
 「だ・か・ら、フジとシャワーしてから、着替えようとした
  んだけど、パンツがどこにも無いからこういうことになっ
  てるんだけど!」
 さい君は、僕のこの発言を聞いて、しばし無言で、ソファに開き直ったように座る僕を上から下まで見ると、ようやくユニクロの長袖Tシャツのみしか身につけていない、という自分の夫のあられもない姿を認識したようですが、その結果、なんとあろうまいことか、いきなり、呵々大笑し始めました。
 「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
 僕は苛立ちだけじゃなくて、怒りすらこみ上げてきました。何が可笑しい!たしかに間抜けな格好ではあるが、誰のせいでこんな格好になっているか自覚しておるのかね!
 「ふへへ!そんな、へへへ、まさか、ちゃんと探して
  ないんでしょ?へっへへ。」
 さい君が笑いながら取り始めた行動は僕の感情をさらに掻き乱すものでした。なぜなら、さい君は笑いながら、僕の前を鷹揚に行き来して、パンツ置場を探り、タコ足ハンガーを確認し、ベランダを見に行ったんです。だから、そこはもちろん探したうえで無いっていってるにきまってんだろ!と、僕は、-もちろんぎりぞうのまんまですけど。-すでに凶悪な表情を浮かべていました。
 「あれ、ほんとね、無いなあ・・・じゃあ・・」
 と、依然のんびりと、さして罪悪感もなさそうに言うと、さい君は、おもむろに買い置きパンツを探しに寝室の箪笥の引き出しをごそごそと探りはじめました。
 「あれ?無いなあ・・・」
 無いなあ、じゃねえだろ!僕の怒りはが沸点に達しようとしたその時、『ドアを開けろ』から始まってそれまで全て彼女の母国語でしゃべっていたさい君が、満面に笑みを浮かべながら、何を思ったか、急に平坦な、アクセントの全く無い日本語で、言いました。
 「ジャ-、カイ二イク、ダ!・・カ?」
 さい君は半分本気です。無いんなら買ってくることで責任を果たそう、というまことに安易で反省の色も見られない、-僕に言わせると-、方法で緊急避難を講じん、という魂胆のようです。
 カイ二イク、ダ、カって・・なんだっ!そら、あんた、その間だんなを下半身丸出しのまんまにしておくってことかいっ!?・・・。どこに行くつもりか知らんけど、ジャ-カイ二イクダ!してるあいだ、俺にこのまんまの、ユニクロ一丁の状態で待て、というのかい!それでは、推移せんか、我が家は、ウルトラマンVSぎりぞう・東大立目昼下がりの決戦、の場、トナルダ、カ?になってしまいやしませんか?

 僕は、あまりと言えばあまりの南半球人のいきあたりばったりさ、に脱力してしまい、怒るのも忘れて、しおしおと一旦脱いだパンツを履くことで、ぎりぞう状態を脱出しました。これが夏だったりしたら、どーしてくれるんだ、いや、冬ならいいのか、などと心のなかで呟きながら。

 『大らか』というと聞こえは良いみたいですけど、こういうのは『過ぎたるは及ばざるが如し』って日本語ではいうんだと思います。・・ちょっと違うかな。とにかく!・・まったく!・・笑いごとじゃないですっ!ふんっ!

===終わり===
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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