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世界まるごとHOWマッチ。

 「おい!すんげえ、くだらない奴を新しく入手したぞ!」
 我ながら『すんげえ』で形容される『くだらない』って矛盾してます。
 「え?なんすか、なんすか?」
 とウイングの小島ほかの、いつものメンバーが目を輝かせながら集まってきます。
 「あのな、いいか良く聞けよ。あるところにな・・・。」

 なんとはなしにメルクマールにしていた人の年齢、例えば、尊敬している歴史上の偉人、もっと近い例で言うと、かつての恩師だとか、親だとか、の年齢に自分がすでに到達している、あるいはすでに彼ら・彼女らより年上になってしまっていることに気付き、彼我の内容の落差に愕然としてしまった、という話は巷間よく伺うので、僕だけにおこることではないみたいです。
 ただ、ここのところしばらく、そういうことは無かったんですけど、つい最近、強烈に、それもノ―ガードのときにそれを食らってしまいました。

 僕は、大学生だった頃があって、ラグビーのサークルに入って、週に3,4回練習だの試合だので、ラグビーをやってました。もちろん、ラグビーサークルなので、ラグビーの同好者、という共通項を持った者が集うわけです。しかし、ラグビー好き、以外にもさらに共通の嗜好(間違ってもそんなたいそうなもんじゃないんですけど、他に適切な日本語が思い当たんないので、嗜好、としておきます。)があるとさらに仲良くなったりします。類は友を呼ぶ(これもまた、そんな格好のいいものではないんですけど、ありようはこの言に極めて近かったので。)って奴ですね。それで、どういう嗜好者たちの固まりかというと『くっだらねえ!と思いつつ、やられた!と笑ってしまう小話好き』(以下『くだやら小話』と略)の集団(それも小規模な集団)でした。

 その日、僕は『上物』と思われるもの、を仕入れたので、ラグビーの練習着に着替えるのももどかしく、練習まえのグランドのそばの木陰で、早速『くだやら小話』好きな後輩を捕まえて披露しました。『くだらない』うえに『小話』だけに、大きな声でいうと恥ずかしい、のと、なぜだかこそこそと話すと、タブーを犯しているかのような意味不明な緊張感が生まれて、メンバーの(だからメンバーなんていうような大仰な集団ではないんですけど、他に形容のしようがないので。)心の琴線に触れたときに面白みを増幅するんですね。
「なんすか、なんすか、みどりさん!」
「これがよ、すんげえ、くだらねんだよ。」
「へへ、なんすかあ!?」
 とウイングの小島は、まだなあんにも話していないのに、すでに含み笑いなんかしてます。『くだらない』、それも『すんげえ』ぞ、って僕が前置きしているにも関わらず、です。この、導入部分ですでに『自ら、やられる空気を醸造してしまっている』辺りが『くだやら小話』集団の面目躍如たるところです。

 「あのな、いいか良く聞けよ。これはな、慶応大学
  文学部の井口教授っていう人が書いた本で、俺が
  読んだ話なんだけどな。」

 これは本当です。別に話の生い立ちには権威付けも粉飾も不要なんですけど、この話はたまたま本当にそういう偉い方の本を読んでいるときに僕が『くだらねえ!と思いながらやられちゃった』んですね。ソースはなんでもいいんです、飽くまで『くだやら小話』ですから。ただ、ソースがなんであろうと、メンバーが(だから別に結成とか解散とかしたことは一回もないんですけどね)『うわあ、やられた!』と、読んだり聞いたりした瞬間、他の面子の顔が思い浮かんで、『これは報告せねば!』と思えばいいわけです。

 「あのな、あるところにな、滅法強い将棋の名人がいて、
  無敗を誇っていたんだって。なんでも、その名人は、
  敵が1手打つだけで、瞬間的に1万手先まで読める、
  という境地に達していたんだってよ。」
 「ほー。」
 茶々などいれずに、この当たりは素直に聞くのが僕らの不文律です。
 「それでさ、あまりに強いもんだから、将棋を指す相手が
  いなくなったと、いう噂になったらしい。その噂を遠く
  で聞きつけた腕に覚えのある男が、その名人に挑戦しに
  来たんだって。」
 「ほー。」
 「それでさ、いよいよ対局になって、敵は名人だからさ、
  挑戦者から先手ってことで、その男がまず、歩を一手
  打ったらさ・・」
 「・・・・。」
 「名人がそれを見て、眉間に皺を寄せて、腕を組み、微動
  だにせず、沈思黙考し始めたのだ。」
 「・・先を読んでるわけっすね?」
 「うん、それでさ、挑戦した男はすっかりびびっちまってさ、
  『これが噂に聞く、1万手先まで瞬時に読む、というあれか
  ・・・』ってね、」
 「・・・・・。」
 「すると、しばらくの重たい沈黙のあと、とつじょ名人が、
  かっ、と目を見開いて・・」
 「・・・・・」
 「それで、なんて言ったと思う?」
 と、僕は十分に全体の空気に『ため』をつくった後、一気に跳躍しました。
 「かっと目を見開いてさ『参りましたっ!この勝負、
  わたしの負けです!』って言ったんだってさ!」
 「・・・・!くっだらねええ!ぶわはははは!みどりさん、
  全くしょうがないですねえ、よくそんな話仕入れてき
  ますね!ぶわははははあ!」
 「だあ、ははは、つまんねええ!なんすか、そらあ!
  いひひひ!」
 と練習前のグラウンドの片隅にひとしきり笑い声が響きます。
 
 どんなレベルの低いことでも、極める(それほどのことじゃないですけど・・)ということは何かしら見返りがあるもののようで、僕らが連日のように『くだやら小話』をしていると、本来そういうアンテナを持ちあわせていないと思われる他のサークルメンバーも、こういうのあったぞ、俺は全然面白いと思わんけど、と僕らに情報をインプットしてくれるようになりました。例えばある日の練習後、
 「みどり、こないださ、テレビ見ててさ、」
 どっちかつーと、『くだやら小話』とは距離をおいていたはずの、1年上のロックの内藤さんが何の前触れもなく僕に話しかけてきました。内藤さんとはポジションも近いし、よく話す仲でしたが、彼の口から『くだやら小話』がでてくるとは思っていなかったので、僕は心の準備ができていませんでした。
 「駄洒落をいうコーナーでさ、
  『世界まるごとハママツチョウ!』
  って言った奴がいたぞ。」
 「?・・・ぶわはははは!くんだらねえ!
  ごーいんすぎるう!ぶはははは!」
 僕は心の準備ができていないぶん、完璧にやられて、話した内藤さんが『いや、ちょっとみどり好みかな、と思って軽く言ってみたんだけど・・そんなに笑うようなことか?』と表情で訝しがるほど、大爆笑してしまいました。蛇足ながら、これは当時人気のあった『世界まるごとHOWマッチ』というクイズ番組にかけた駄洒落です。『やられた!』僕が、この『すんげえくだらねえ洒落』を早速ウイングの小島たちに披露したのは言うまでもありません。・・・くだらないですよねえ、本当に。でも、僕は未だにこれを思い出し笑いしてにやにやしたりしてます。『ハママツチョウとHOWマッチ、か、くだらんなあ。しかも【世界がまるごと浜松町】だっていうのもわけわかんなくていいよなあ』なんて思いながら。ただし、さすがにいい年になったので、口には出しませんけど。
 まあ、それだけ僕も大人になった、てことだよな、って思っていました。

 つい、数日前のことです。『フジ!早く寝なさい!』と台所にいるさい君が息子を叱り飛ばすのにも関知せず、僕が、心も体も弛緩しきって、リビングの床に仰向けに寝っ転がっていたときです。
 いきなり、僕の肩をつんつんする者あり、なにごとならむと見上げると、寝室から体を半分出して立っている息子ではないですか。この野郎、父親を足蹴するたあ、どういうことだ、と父親の威厳を示さんとしたとき、息子は、無言で、手を合わせてしきりに僕を拝むと、今度はその手を傾けた顔の横に持っていってこれもまた無言で寝るポーズをします。その動作を2,3回繰返したあと、依然無言のまま、寝室を指さします。はあ、なるほど。母親に早く寝ろ!と怒られたんだけど、一人で寝るのは嫌だから一緒に寝てくれと懇願し、しかしその懇願が母親に露見するとまずいので、母親の死角で無言で僕に頼んでいるわけです。息子は、この一週間くらいテレビで見た『宇宙人目撃例!』とかいう番組に出てきた宇宙人の絵が怖くなって、暫時ひとりでは寝られなくなってました。わからないでもないです。僕にも似たような経験はありますから。でも、こいつ、母親にはそんなことおくびにも出さないで、父親の俺を足でつんつんして『一緒に寝ようぜ』って、なんか同じ親でも随分扱いが違うじゃねえか。どうも前から思っていたけど、こいつどっかで、自分と父親を同レベルと見做してる節があるなあ、と思いつつも、まあいいか、と添い寝してやりました。

 すると案の定、
 「ねえ、パパ、うちゅうじんってほんとうにいるの?」
 と不安げに聞いてきます。
 「そうだなあ、いるかどうかはわかんないらしいぞ。」
 「で、さ、もしいたらさ、こないだのテレビみたいな
  すごいかっこうしてるの?」
 「いや、あれはさ、想像とか、目撃したっていうひとの
  話をもとにした絵だからな。」
 「じゃあさ、いないの?」
 「いや、それはわかんないけど、いてもパパやフジの
  生きているうちには会えないだろ、たぶん。」
 「・・そうか。」
 と息子は少し、安心したようです。
 「うん、そうだよ。」
 お、どうやら安心して寝てくれそうだな。
 「パパ。」
 「うん?」
 「背中掻いて!」
 おおーいつものパターンになってきたな、よかろう、掻いてあげよう。
 息子はうちゅうじんの脅威からも解放されたし、背中は掻いてもらえるし、で一気に気持ちに余裕がでてきたようです。
 「パパ、あのね、」
 「うん。」
 「しんちゃんて面白いんだよ。」
 なんだ今度は、クレヨンしんちゃんかよ、早く寝ろこのやろー。息子は最近クレヨンしんちゃんにすっかりご執心で、同じ単行本を何回も読み返しては爆笑しています。ちょっと9歳にしては読ませたくない部分もあるんじゃないか、って、さい君は自分は日本語のセリフは読めないまでも、絵を見て心配してますけど、あんなに喜んでるし、優良図書だけを読んでいたんでは免疫もできんから、ま、いいだろ、と僕は放置してます。
 「しんちゃんがね、」
 だから、俺はおまえと同じレベルの人間ではないんである、しんちゃんの話をしてもしょうがなかろう、早く寝たまい、と思いつつ、僕は生返事をしていました。
 「『あ オラ うんこしたくなちゃった』って言ったらね、」
 「ふん。」
 こいつ、9歳で、まだうんことかで喜んでいるのか、先が思いやられるなあ。
 「しんちゃんのパパがね、」
 「ふん。」
 「『おいおい ウンコ食ってる時にカレーの話 すんなよ』
  って・・」
 「!ぶわははははははははははああ!」
 不意打ちを食らって、僕は完全にやられてしまいました。
 「逆だよねえ、パパ、面白いでしょ?」
 「いや、くだらねえ、がはははあ!」
 「ウンコたべる人なんかいないよねえ、
  うひゃひゃひゃあ!」
 「いや・・じゃなくて・・つまんねえ、ぎひひ!」
 「食べるのはカレーだよね、うひゃひゃひゃ!」
 僕は一緒に大爆笑する息子に『いや、パパはその、お前とは違うレベルで笑ってるんだぞ、一緒にするな』とわからせて威厳を保たねば、と思いつつ、ノ―ガードでいきなり僕の『眠っていたくだやら秘孔』に食らった強烈なパンチのせいで笑いを止められずに、威厳を保つどころか、寝かしつけにいったはずなのにふたりでしばし笑い続けました・・・。

 そうなんです。僕はちっとも『年相応に』成長なんかしていなかったんです。未だに『くだやら小話』は大好きなんだけど、周りはもう大人だからそういうことに遭遇していなかったので、自分はとうの昔にそんなことは精神的に卒業した、くらいに思っていたわけです。息子が提供した、クレヨンしんちゃんのパパの『おいおい ウンコ食ってる時にカレーの話 すんなよ』のひとことで『くだやら小話』好きが覚醒してしまったようなんです。
 でも、僕がまだ子供だった頃、今の僕の年齢の『おいおい ウンコ食ってる時にカレーの話 すんなよ』で笑いだして止まらない大人、って『絶対にいなかった』と思うんです。ちょっと愕然としちゃいます。
 そもそも、よく考えたら、自分のこととはいえもうムニャ十ムニャ年も前の『将棋の名人の話』だの『世界まるごとハママツチョウ』という駄洒落だのを未だに覚えていてたまにひとりで反芻してはニヤニヤしてる、っていう時点で成長がないです。とほほ、って感じです。
 息子が同レベルって見做すのもあながち穿った見方かもしれません。

 ちなみに『おいおい ウンコ食ってる時にカレーの話 すんなよ』に対しての次のセリフは、
 「逆よ、逆!!やーね」
 というしんちゃんのママによるしごく真っ当な指摘でした。(翌日息子にどこに載っているのか教えてもらって、読んだんです。その時、再度息子と一緒に爆笑しちゃいました・・・。しつこいですが、息子とは違う基準で笑っているつもりなんですけどね。)

 あ、そうそう、書き忘れましたが、今回は尾籠なお話なので、お食事どきを避けてお読みください。間違えてもうんこ、じゃなかった、カレーを食される前後などには読まれませんように。

===終わり===
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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