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「みぢかえない話」②

 「げへへへ! うそつけ~~! 作ってんじゃねえよ!」
 「ほん、ほん、ほん、ほんとだって!ほんと、ほんと!」
 深谷くんは、小さいけれどまん丸な、アイアイのようなその目をあらん限りに見開いて、懸命に僕らに主張してます。

 今回は、『普段法螺など全く言いそうもない身近な人間が真剣に主張する、ありえない話』略して『みぢかえない話』、その②です。とある事情で、僕は10数年まえ、南半球の某地に住んでました。そしてその日は、その地に住む同年代の日本人が家族であつまってそのうちの一人の家で食事をしていたときのことです。あることがきっかけで、『国民性の違い』について話題が集中しました。何人かが、それぞれの経験を披歴したあと、メンバーの中でも特段に海外出張の多い、僕ともつきあいの長い深谷くんが自分の経験を語りだしました。そうです。深谷くんは、小柄(縦も横も小さいってやつです)で、色黒、大きくはないがまん丸い目をした愛嬌のある顔をした青年ですが、決して法螺ふきではありません。だけに、僕は、ごく普通にリラックスして聞き入っていました。深谷くんは普段から、わりと早口です。
 「うんと、うんと、どこだたか?とにかく中東のさ、
どかの国の空港に着いたときさ、バゲジクレム荷物
でてくるの待ててさ、」
 と筆記におこすとほとんど、『てにをは、や、伸ばす音、や、ちいさい「っ」をすっ飛ばしたような勢い』でしゃべります。もちろん実際に彼がそんな器用なしゃべり方をしているわけじゃないですけど。みんなは、僕もそうですが、リラックスしながらも、『深谷くんの話を聞くモード』に自然と聴力をあげて聞いています。
 「でさ、俺、荷物さ、全然出てこなくて、いい
  かげんな国だな、ちくしょ、て長々と待たさ
  れてたとこにさ、」
 と途切れもなくしゃべり続けます。
 「なんか、右肩に感じてさ、見たらさ」
 うん?何だ,何だ?
 「見知らぬ現地人らしき男がさ顎をさ、俺の右肩にさ、
  それでさ、」
 「おい、なになに?」
 と数人が異口同音に口を挟みました。
 「だから!顎が右肩にさ、びくりするだろ?
  それでさ、」
 「いや、ちょっと待て。なんだって?」
 栃麺棒を食らったような友人たちに構わず、話を進めようとする深谷くんをひとりが制しました。
 「要は、荷物を待っていたら、知らない外人が
  おまえの肩に顔をのせていた、ということか?」
 「だか、そう言てるだろ、それでさ、」
 先を急ごうとする深谷くんと、僕たちの理解度にはまだ温度差があって、しかし、ようやく『バゲッジクレームでうんざりしながら荷物を待つ小柄な深谷くんの肩に≪見知らぬ外人が顎を乗せている≫という絵』が頭の中で映像に描かれ出して、可笑しさがじんわりとこみあげてきました。深谷くんは小柄なので、彼の肩に大柄な外人が顎をのせる―その話の真偽はともかく―には確かにちょうどいい位置なんです。
 「おい、そいつはなんでお前の肩に
  顎をのせてるんだ?」
 「どこの国だよ?」
 「それって、知り合いの外人なんだろ?」
 「はずみで、一瞬だけそういう体勢になった
  だけなんじゃないの?」
 とみんなが『頭の中の映像』と『あり得なさ』の溝を埋めようとして、一気に質問し始めました。僕は、その時点ですでにその映像のおかしさでニヤニヤが止まりません。
 「いや、ほんと、え?国は忘れたよ、中東どっかで、
  知り合いじゃないよひとりで出張、え?ちがうよ、
  ずとのせてるんだよ、つまりさ、」
 と深谷くんは、聖徳太子かの如く質問をさっと捌き、口角泡を飛ばし、真剣に話しを続けます。
 「そいつさ、その知らない外人はさ、疲れてさ、
  俺の肩に顎をのせて休んでいるわけよ。」
 一同大爆笑。
 なかんづくこの手の話が何より好きな僕は、もう垂涎ものです。そこからは、僕と深谷君の1対1の会話が、自然と議事進行のイニシアチブを握っていきました。
 「げへへへ! うそつけ~~! 
  作ってんじゃねえよ!」
と僕。
 「ほん、ほん、ほん、ほんとだって!
  ほんと、ほんと!」
 深谷くんは、小さいけれどまん丸なアイアイのようなその目を、あらん限りに見開いて、懸命に僕らに主張してます。
 「文化の違いなんだよ、俺の肩で休憩してるんだよ!」
 「おまえ、バは、ははは!!、そういうの文化とかい
  うかよ、はははあ、はあ、はあ、それで、おまえ、
  どうしたの?」
 と僕が尋ねました。
 「そ、そう、それでさ、俺もさ、びくりするじゃん?
  それで、へたに話しかけるより、逃げちゃおうと、」
 「うん、うん。」
 「そこから急いで離れたてさ、歩き回ったらさ、」
 「うん、うん。」
 「そいつがさ、顎をのせたままさ、ついてくるんだよ!」
 !!!!!!! あり得ん!! ここに至ってすでに、自分たちの頭の中の映像と深谷くんの話をリアルタイムで動かしていた一同はこれ以上にないテンションで息も絶え絶えに爆笑してます。
 「うそつけ~~~~!! 休んでるんなら、顎を離さず
  について回るほうがきついじゃないかあ!! あり得
  ん!!堪えられん!!うひゃひゃひゃひゃひゃああ!!」
 それでも、深谷くんは最後まで、目を大きくしながら、ひとり真剣に話を続け、
 「ほんとて!それで俺はバゲジクレムの周りをそいつの
  顎をのせたままぐるぐるまわたんだ、いや世界にはい
  ろんな奴がいるぜ!緑よう。」
 と強引に締めくくりました。が、僕に言わせると『世界には、じゃない、俺の知人にも、こんな宝物がいたとは!』という感じです。

 僕は、この話しが、たいそう気にいってしまい、当時まだ友人のひとりで深谷くんとも顔見知りだった今のさい君に話したところ
 「嘘だ。ケイタは、だまされている。」
 と即座に否定し、全く信じてもらえませんでした。
 「でも、すんげえ面白いと思わない?」
 と言ったら、さい君は―女性って大人だから、往々にしてそういうところがありますよね―笑いを噛みしめているくせに、そういう『下らないレベル』と同化したくないようで、
 「面白くもないし、そもそもあり得ない。」
 と言って相手にしてくれませんでした。でも、僕は、未だにこの話が大好きで、結局、このとき友人だったさい君と結婚したあと、『フカヤ』、と言いながら、掃除機をかけているさい君の肩に顎をのせてついていったりしています。そのたびにさい君は、笑いを噛みしめながら、しかし、
 「だから、それはウソ!!」
 と言って僕をおしのけようとします。ご参考までに、『動き回っている人の肩に顎をのせ続ける』のは並みの技術ではできません。これからもやめませんぞ。深谷くんには本件を書くことは了解を得てません。
 ごめんね、深谷くん。 終わり
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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