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隊員募集中。

 なんだかわかんないうちにそうなっちゃったんですけど、僕は会社の入社年次が一年下の代にとても親しいのが三人がいます。当時はこの三人は僕と同じ部門に配属されてきました。
 田淵君、藤田君、望月君です。
 なぜか、同期や先輩といるよりもこの三人といるほうが楽しいので、よく夜な夜な遊んでいました。と、いって、僕を加えた四人では、僕だけ先輩になるわけで、それでこの三人が僕をたててくれるから、楽ちんだった、かというと、むしろ逆で、知り合った頃のわずかな期間を除くと、この三人はほぼ僕を友人、あるいは時には、それ以下の扱いをするんです。

 例えば、僕が夜遅く残業をしていると、三人のうちのひとりで、同じく残業をしていた田淵君がやってきて大きな声でいいます。
 「みどりさん!まだ終わんないんすか?」
 一応、呼ぶ時は『さんづけ』はしてくれるわけです。
 「うん、もうちょっと。帰るの?」
 「帰ります。みどりさんも帰りましょうよ。」
 「いや、今日はもうちょっとかかるから、先に・・」
 「何言ってるんすか、どうせ、みどりさん、頑張ったところで
  今年も予算達成できないんでしょ?もう諦めて帰りなさいよ。
  ビール百杯くらい飲みにいきますよ!」
 などと、先輩に向かって言うこととは思えん暴言を吐くわけです。そこで、僕が、節度をわきまえない奴だ、ということで、
 「失礼なこというな!『今年も』とはなんだ!それは
  確かに去年は大幅に未達だっだけど・・。今年は俺
  がどれだけ稼いでいるのか知っての狼藉か?残業中
  の先輩に向かっての発言としては言葉が過ぎるじゃ
  ないかっ!」
 と、後輩を諌めるかというと、これが全然そういう方向に向かわなくて、
 「・・そうだな。行くか。」
 「そうですよ、どうせ今期も、みどりさんは予算達成でき
  ないんだから。」
 「え・・う、うん、そうだな・・。ビール飲みにいくか。」
 「行きましょう!百杯くらい飲みましょう!」
 と、『今年も』予算は達成できないみたいだな、ビールも飲みたいな、って、たいてい、そういうことになって、飲みにいっちゃうわけです。

 今では、それぞれ紆余曲折を経て、このうちの二人は違う部署に異動してしまいましたが、今でもお互いに連絡を取り合いながら仲良くしています。
 どれくらい仲良くかというと、-こういう会話は僕のいる会社では、同じ部門なんだけど、良く知らない先輩と接触せざるをえない時によくなされるんですけど。-あるとき、同じ部署で馴染みのうすい先輩と同席したときに、世間話程度に、
 「みどり、おまえ、たしか海外にいたよな?」
 て、聞かれたときのことです。
 「はい、4年半いました。」
 「それ以外は、ずっとこの分野の担当か?」
 先輩も場を持たせるためにそういうことを話してくれているのがあきらかなので、僕の方も、この人、別に俺に特に興味があるから聞いているわけじゃないよな、って感じで緩く対応します。
 「はい、まあ、だいたい・・ほとんどそうですね。」
 大阪にもいました、とか、入社してすぐは営業じゃなかったです、とかは向こうも興味がないだろうし、どうせ場つなぎの会話だからな、っていうことで、こっちもその辺は端折って辺り障りのないところを適当に答えます。
 「ふむ・・うちの部門で同期入社っていうと誰になるわけ?」
 「同期ですか?同期は・・田淵とか、藤田とか、望月とか・・」
 なんと、頭が弛緩していた僕は、間違えて、この三人と同期である、と言ってしまったんです。普段からこの三人とは、上下関係がほとんどない証拠です。
 「え?じゃあ、xx年入社か?」
 といわれて、僕は初めて、はっと我に返り、
 「あ、間違いました。同期は、谷村とか、上田とかです。
  さっきの三人は一つ下でした。」
 「はあん?」
 と先輩は、別にどうでもいいけど間違えて後輩の名前を三人も同期として列挙する奴なんか見たことないぞ、こいつ大丈夫か?という不思議そうな顔で僕を見ていました。ごもっともです。

 この三名とはおのおのいろいろやらかしてきたんですけど、今日は、そのうちのひとりの望月君とのことを書きます。他の二名との話も追って別の機会に書くかもしれません。

 望月君は、部門の中でも僕の隣の部に配属になったので距離的には一番近いところにいました。あるとき、何かの席で、彼と同席したとき、当時はまだ僕には謙虚だった望月君が、
 「あのー、みどりさん。」
 「ん、何?」
 「みどりさんって、『仕事できない隊』の隊長って
  ホンマなんですか?」

 我ながら、大馬鹿者です。僕みたいなやからを部下に持った課長以下皆さんの当時のご苦労がしのばれます。僕は、自分が大きく予算を狂わしていながら、それがどうした、と反省するどころか、それを衒って斯様な怪しげな隊をでっち上げ、でっち上げただけでは満足せずに部門内の同年代の人間に喧伝して回り、その隊長に自らをもって任じていたわけです。
 不真面目極まりないです。

 「おお、そうだ。良く知ってるな。なにしろ、
  去年は予算の四割しか達成できなかったからな!
  まあ、四割といえば、イチローかみどりさんか、
  というくらいだと思ってくれたまえ、うん。」
 すると、望月君は目を丸くして、あほな先輩やなあ、という顔で、明らかに笑いをこらえながら、-何度も言いますけど、その時はまだ僕を先輩扱いしてくれていたんです。-
 「え、それで、あの、みどりさんが隊長っていう
  ことは他はどなたが隊員なんですか?」
 「うん?いや、それがさ、俺だけなんだよね、まだ。
  俺が隊員兼隊長。望月君入りたい?」
 すると、話の行きがかり上、先輩の誘いを断れないと思ったらしく、望月君は、
 「え?あ?え?は、はい、できれば・・」
 と建前だけ入隊を希望してきました。
 「望月君はさ、仕事はできないの?」
 「え・・はい、まあ。」
 できます、とは言えませんよね。
 「そうか、入りたいか!うん、しかしね、望月君、
  この隊はね、『仕事できない隊』だけど、精鋭部隊
  だからして、仕事ができないだけでは、簡単に
  は入隊できないんである。どうすれば入れると思う?」
 「ええと、じゃあどうすれば・・」
 実は、入隊などしたくもない望月君ですが、会話の成り行きで、望月君が入隊条件を僕に伺う、という形になりました。僕はそんなに知りたいんならしょうがなかろう、と尊大かつ鷹揚に答えます。
 「我が隊は、隊員がまだひとりで隊員不足である。
  だから、望月君が、望月君以外に『仕事のできない
  社員』をもうひとりみつけてきたら、入れてあげ  
  よう。」
 すると、先輩社員の真面目なんだかふざけているんだかわからない態度に困惑しつつ少し黙って考えたあとの望月君と、隊長の間に次のような会話がなされました。
 「・・え、いや、みどりさん、ちょっと僕には、
  その、仕事のできない人をもうひとり探して
  くる、っていうのはできそうもない、みたい
  なんで・・・」
 「んぐおおかくううっ!入隊を許可するっ!」 
 「????」
 「新しい隊員も探す能力すらない、まさに『できない
  隊』にふさわしい!きみ、合格!隊員第2号だあっ!」
 「は・・はあ。」
 僕の高揚感とは裏腹に望月君は、全然うれしそうではありませんでした。

 しかし、望月君も程なく、僕への先輩としての畏怖などかけらもなくなり、友人のように接するようになりました。

 まだ僕らが若かった、そんなある日のことです。確か昼休み中だったと記憶しています。僕は昼食後、ひとりで接客ブースで、僕にしては珍しくサラリーマン向けのある真面目な雑誌に熱心に読みいっていました。
 気がつくと、横に望月隊員がいて、僕と雑誌を黙って交互に見比べています。僕は、社内で会ったからといって今さらわざわざ挨拶をするような間柄でもなし、それに、その雑誌の中のある特集にとても興味があったので望月隊員はほっといて依然熟読しています。
 暫時、雑誌を読む隊長、その光景を黙って見守る望月隊員、という時間が流れました。
 「みどりさん。」
 と、望月君が、突如、しかし、ゆっくりと話しかけてきました。
 「ん?」
 「なんでそんなの読んでるんすか?」
 なんだこいつ、さっきまでさんざん誌面も見ていたんだから、内容はわかりそうなもんだろ。
 「いや、この特集記事にさ、俺ちょっと惹かれてさ。
  この特集はだな・・」
 「いや、それは見ればわかりますよ。」

 その特集記事は、『二足の草鞋特集!サラリーマンで成功をおさめるだけではなく、その他の分野でもすぐれた結果をあげている人の秘密をさぐる!』といった記事で、銀行員のかたわら音楽活動で成功した小椋桂氏、同じく銀行で専務にまでなり、かつラグビー日本代表監督を務めた宿澤広朗氏、キリンビール社員でかつ漫画家として活躍しているしりあがり寿氏、などのインタビュー、時間管理術、などが記載されていた、と記憶しています。
 僕は、俺も副業でひとやま当ててやろう、っという魂胆というよりも、自分は、毎日の残業どころか頻繁に休日出勤までしても本業でさえこなせないのに、どうやってこの人達は時間と副業をマネージしているんだろう、彼我の差は具体的にはどんなものかしらん?、彼らの生き方や考え方の中に、せめて余暇の時間だけでも自分なりに確保して充実させるヒントが見つかるかもしれない、と考えて読んでいたわけです。

 「そうじゃなくて、なんでそんなのを
  みどりさんが読んでいるんですか、って
  聞いてるんじゃないですか?」
 と望月君は再度真剣に聞いてきます。
 野郎、おかしいんじゃねえか、同じような質問繰り返しやがって、と僕は思いつつも、
 「あのな、これはだな『二足の草鞋特集』って
  言ってな、サラリーマンとして成功して、尚
  かつ、副業で大きな功績を残した人達の・・」
 「それは、わかってます。」
 じゃあ、何が聞きてえんだあっ!!と僕が爆発しかけたとき、望月君は、僕を真正面から見ながら真剣な表情で幼稚園児にものを教えるように、こう言ったのです。
 
 「みどりさん、あのね、いいですか?
  『二足の草鞋』っていうんはね、普通はね、一足目が、
  ちゃあんと、履けてる人が、履くもんなんすよ・・。
  みどりさん、一足も草鞋履けてない、じゃないっすか。」
 「なっ・・」

 僕は脱退を許可したつもりも除名したつもりもないんですけど、望月隊員は『二足の草鞋』の意味を隊長に噛んで含むように説明しただけあって、今では『隊員』とは別の『社内での立派な肩書き』を持ち、どう見ても『仕事できない隊』隊員には見えなくなってしまいました。
 僕はというと、なるほど今に至るまで一足目の草鞋もまともに履けていないので、十年一日の如く望月君以降隊員の増えない『仕事できない隊』の隊長として、長期政権継続中、であります。
 尚、我が隊は広く世の中に門戸を開放中であります。自薦・他薦を問いませんのでお気軽にご応募ください。

===終わり===
 
 
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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