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観音様通り。

 僕は、以前にも書きましたけど(2010年11月14日『イポラタミン』 http://heiseiasahi.blog129.fc2.com/blog-entry-28.html ご参照ください。)路上で信号待ちなんかしていると、しょっちゅう道を、-それも別に僕の住んでいるところで、というわけでもなく観光地だとか、仕事で外出中だとかの、知悉の薄い土地でも、-聞かれたりします。どうも、自他ともに、否、自分ではあまり認めたくないんですけど、『人のよさそうな地元民顔』らしいんです。
 だから、歩いているときにいきなり、
 「この辺りに喫茶店ありませんか?」
 なんて聞かれたりしても(これ本当なんです。完全に地元民と決め切った、すごい具体的な質問ですよね。)、ああ、またか、ふん、最早そんな程度で動揺したりしないぜ、とあんまり驚かないようになりましたけど、先達って、これはやられた、あんまりじゃないか、っていうことがありました。

 ある日の朝、いつものように、自宅を出て、足早に細くて短い道を20mくらい歩いて、駅に続くメインストリート(といってもやっと車がすれ違うことができるくらいの狭い二車線の道路です。)であるところの観音様通りに出ました。とても寒い朝でした。僕のそのときの表情はあまり楽しげではなかったと確信しています。もっとも、寒い朝にこれから満員電車に長時間揺られて、労働に向かおう、という人は大抵、足早で、かつ、不機嫌です。にこにこしてスキップなんかして駅に向かう人がいたら、それこそ、もしもしあなた、と足止めして、その理由を聞きたいくらいです。つまり、いかな『人のよさそうな地元民顔』(何度もいいますけど、僕自身はあんまり認めたくないし、僕の顔や仕草のどこからそういう波動がでているのか、はなはだ理解に苦しみます。)の僕でも先を急いでいる風、で、かつ、不機嫌な顔をしていたはず、なんです。
 観音様通りに出ると、僕と同じように駅に向かう勤労者諸君が1mおきくらいに散見されました。いつもの朝の風景です。通りに出た僕が他の勤労者諸君と同じように駅の方向へ向かおうと左折して2,3m歩いたときでした。駅の方から歩いてきた60歳前後のウインドブレーカーの上下を着て、防寒用と思しき帽子を被った女性と距離が詰まったなという瞬間、いきなり彼女に顔を指でさされて、
 「あなた、大立目市民?」
 て聞かれたんです。(本当なんです。)
 びっくりしませんか?

 僕は、その女性の年齢だの服装だの、には全く興味はなく、それどころか、対向する歩行者がいる、ということも殆んど意に介していませんでした。普通だと思います。向うが僕の歩く延長線上にいたとしてもこちらか、向うのどちらかが、右か左に体をずらして行き違うだろう、と無意識に考える程度です。ところが、その女性は真っすぐに僕に対して向かってくると、明らかに不機嫌な顔で足早の一介の労働者が、無意識に左に体をずらして先を急ごうとする直前に、まったく道を譲る素振りすら見せずに真正面からこの質問を浴びせたんです。結果としてその質問のせいで、僕は彼女の服装だのおおよそのお年だの、を不本意にも今まで細部にわたって記憶することになったわけです。
 「え?は、はい。」
 僕はあまりの予想外の奇襲に思わず、まともに大立目市民であることを白状してしまいました。
 これは、まさに奇襲攻撃です。いわば奇襲攻撃の裏をかいた真っ向勝負がその結果奇襲攻撃になった、という感じです。
 だって、早朝とはいえ、たとえば、そうですね、都会の真ん中で、ええと、そうだなあ、土曜日の朝にラブホテルからでてきたカップルに『あなたたち大立目市民?』って尋ねるのならこれはまさに『確率の低い奇襲攻撃』ですけど、その反対、つまりは平日の朝にネクタイをして市内の脇道からでてきて駅に急ぐ男性、は聞くまでもなく大立目市(おおだちめし、と読みます。)民に決まってます。
 そんなの聞くまでもないだろう、大立目市民にきまってんだろ、今脇道からでてきて、これからJR東大立目駅に向かってるんだから!と思ったのは、その女性から解放されてから思ったことで、そのときはあまりのことに唖然としてしまいました。

 唖然とする僕に、その女性は、
 「そう!私も大立目市民でね・・」
 とまるで都会の真ん中から出てきたラブホテル帰りの(いや、だから例えです。)の人に質問してみたら、たまたま同じ市に居住していた、という奇偶に出会ったかのように大仰に目を丸くして、しゃべり続けます。
 「それでね、前の市長が、いきなり辞めて
  それなのに退職金あんなにもらって、
  それで、わたし、驚いちゃって!」
 ・・・え?いや、何、何だって???
 依然、事態が全く把握できず、早朝の観音様通りで足止めを食らった一介の大立目市民に対して、いかにも驚いた偶然ねえ、っていう風に豊かに表情を拵えて彼女は畳みかけてきます。
 「それで、今度ね市長選挙あるのよ。
  それで、わたし、あんなの許せない、と
  思って、こやまじゅんじさんを応援してる
  のよ!」
 ・・はあ。確かに、僕の住んでいる大立目(しつこいですが、おおだちめ、とお読みください。)市では、前回の選挙で長期政権を保持していた前職の市長を、ある問題に焦点をあてた新人の元新聞記者が破り、当選したはいいものの、その目玉であった公約が実行できずに行政機能の麻痺を起してしまい短期間で突如辞任し、近いうちに市長選挙がある予定でした。その混乱ぶりから、全国規模のメディアにも小さくだけど取り上げられていたくらいだから、市民である僕はいちいちそんなこといわれなくてもわかっています!と思ったのも彼女から離れたあとのことでした。

 ・・・・ええと、つまり、俺は、こんだけたくさんいる駅に向かう人の中で、こやまじゅんじ氏の熱心な、しかし、他人の事情にまったく配慮をしない、暇な女性支持者につかまったわけだ・・・、と気付いたのは、ようやく彼女がしゃべり終えたあとでした。
 そして、終始無言の僕に向かって、彼女は、
 「だから、こうやって、朝にね、散歩がてらに、
  こやまじゅんじさんを応援して歩いているの!」
 と、いきなり『あなた、大立目市民?』で始まった、こちらが興味などあろうはずもない、彼女の言動の起承転結を説明して喋りを唐突に結ぶと、最後に、
 「ねえ?あはははははは!」
 と如何にも、私って、可笑しいでしょ?っていう風に大きな誘い笑いを浴びせかけました。

 ・・ふうむ、街頭のチラシ配りなんかは、いかにもチラシ配ってます、って格好で、歩行者の進路を妨げまいと横から配ってるけど、真正面から予期せずに話しかけられると人間って意外に立ち止まってしまうもんだな・・しかしあれだな『あなた、大立目市民?』ってそんなの決まってんじゃねえか!・・なんだ、結局のところ選挙応援かよ!こっちは急いでるんだ!・・それにしてもなんだってこういうのに話しかけられやすいんんだろう、俺としたことが、足まで止めてまともに相手をしてしまったではないか・・これは、やられたな、あんまりだ、こんだあ、『あなた、大立目市民?』って聞かれたら『惜しい!僕はチャガタイ汗国人です。日本語は苦手ですので、じゃ、失敬!』くらい言ってやろう・・なにが『あははははは』だ、非常識ではあるけど、面白くもなんともないじじゃないか!・・そもそも、こういうのは逆効果だぞ、こやまじゅんじにだけは投票しないことにしよう、ふん、ザマミロ!・・、などと、ようやく頭が回転していろいろと反論を、-しかし、心の中でだけ、ですが。-し始めたのは、女性のおしゃべりの呪縛から脱出してJR東大立目駅の改札を抜け電車に乗った頃、で、そのあいだは僕の頭は、彼女の、他人の家にいきなり土足で入ってきておいてそういう自分を高らかに自分で笑い飛ばして結びとする言動、のために、しばし、思考停止状態に陥っていました。

 だって、いきなり道も譲らないで、
 「あなた、大立目市民?そう!私も!」
 ですから。
 
 大立目市選挙結果は、前職市長が返り咲き、こやまじゅんじ氏は落選していました。
 僕は、投票に行こうと思っていたのに、けしらからんことに、行き忘れてしまいました。反省してます。

 尚、僕の住んでいる市の名前、の『大立目市』は仮名です。仮名ですが、読みは、おおだちめ、と読むことに筆者が勝手にきめました。
 勝手にきめちゃう、なんて、ねえ?あはははは!

 ・・え?面白くもなんともない?そうですよね・・。

===終わり===
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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