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人はどういう状況で自分の年齢を感じるか。

 ええ、今回は『人はどういう状況で自分の年齢を感じるか』について考えてみようと思います。
 ここで僕のいう『年齢を感じる』は、実年齢に抗えないことを感じること、だけじゃなくて、その逆、すなわち実年齢よりも若く感じること、も含みます。
 そして、私見によれば、ある程度自我が確立された人であるならば、それこそ老若男女を問わず『年齢を感じる状況』に遭遇することがあります。加えて、そういうある状況がもたらす、おそらくはその殆んどが不意打ちであろう『年齢を感じる』認知によって感情が捕縛されることは、他人の年齢との関係においてというような、相対的なものではありません。
 つまり、僕のいう『年齢を感じる』状況のもたらす結果の中には、中年男性が『おや?俺もまだまだ若いぞ、いひひ。』と思い得ることも、女子中学生が『ああ、あたしももう若くないのね、しくしく。』と思い得ることも、可能性として排除するものではないわけです。

 けれども、他人のことなどわかりようがないので、今回はとりあえず『僕はどういうときに年齢を感じるか』について書こうと思います。(散々長い前置きをしておいて、かような身も蓋もない一言で、我田引水、牽強付会よろしく、自分のグラウンドに強引に引き込んでしまうところは筆者の得意とするところであります。)
 
 おそらくは多くの人がそうであるように、少なくない状況が僕にも年齢を感じさせますが、その中で、たまさか、実年齢に抗えないこと、と、その逆のこと、との両方一度に僕に感じさせる状況、という好例が僕にはあるんです。

 それは『鍵を持っていないがために、後輪が施錠されたままの自転車をガチャガチャと音を出しながら苦労して運んでいる、若くてスタイルのいい女性を会社帰りに助けること』という状況です。

 どういうことかというと、要約すると上述した『 』内の状況、そのまんま、なんですけど、それでは話が終わっちゃうので少し詳しく説明します。

 およそ一年くらいまえのことです。
 僕の使っている最寄り駅は、改札がひとつしかなくて、改札の先は行き止まりになっているので、改札を出た人は一旦左右に(線路をはさんで北方向と南方向、にですね。)分かれざるを得ません。僕は線路の北側に住んでいるので、改札をでると一旦左に行きます。そうすると駅前に小さいロータリーがあって、そのロータリーをやりすごすと、少しいびつですけど、道が三又に分かれています。東に行く人はロータリーを超えて右へ、北へ行く人はまっすぐ、西へ行く人は左折します。僕は左折組です。その日もいつものように僕は改札を出て、一旦左折して、それからロータリーを超えてまた左折しました。すると、左折してすぐのゲームセンターの前で、だしぬけに-当たり前です。『ここを左折すると若い女性が音を立てながら自転車を押しています。』なあんて『予告』があるわけないですから。―若い女性が『ガチャン!・・ガチャン!・・』と大きな音をさせながら、しかし、威勢のいい音とは裏腹に、なにやら不器用に、休み休みしながら少しずつ自転車を押して進んでいます。
 『??なんだ?』。ガチャガチャと大音声をたてて、しかし、よたよたと進む自転車は僕の進行方向の先を進んでいましたが、なにしろ自転車はその本来の機能を発揮できずに、ゆっくりとしか進まないので、同じ方向へ歩いていく僕は自然の結果としてすぐに彼女においつきました。見ると、女性は左手でハンドルをおぼつかない仕草で操作し、右手で後輪の上の荷台を掴んで後輪を浮かせながらよろよろと歩を進めています。後輪は施錠されています。顔こそ見えませんでしたけど、その後姿は若い人間が(ええと、男女を問わずです。念の為。)もつ地球の重力をものともしない張力に溢れていておおよその年齢は推測できました。そのうえ、張力のみならず、すごくプロポーションがいい女性でした。
 女性にはきつい作業です。彼女は、後輪を持ち上げては数メートル前進し、しかし、持ち上げることは長くは継続できず、後輪を降ろし降ろししながら、牛歩遅々として進みません。
 ほう、なるほど。彼女は駅まで自転車で通っているものの、紛失か忘れたのか、なんらかの理由で鍵をもっておらず、それでこういう態で家まで帰ろうとしている、と、思ったと同時に、僕の手はすでに彼女の後輪の荷台に手がかかっていました。
 「あっちの方向ですか?僕一緒の方向なので
  後ろ、もってあげます。」
 そのとき、突如彼女の返事を待つよりも先に、僕の脳は『ああ、俺ももう若くはないなあ。』っていう認知に支配されました。

 これが十代や二十代の頃だったらこうはいかないだろうな。
 だって、若いときはそれらをたくさん抱えている、というより『煩悩が服を着て歩いている』ようなもんで、加えて妙に自意識も過剰だから、こういう状況になったときに、

 『あれ、なんかたいへんそうだな。
  男ならともかく女性には重労働だよなあ。
        ↓
  でも助けましょうか、なんて言って、
  ナンパと間違われて、そのうえに、見た目で
  値踏みされて好意を断られたりしたら格好悪
  いよな。俺、見た目には自信ないからなあ。
        ↓
  いや、別にナンパする気なんてないんだけ
  どな。それに見た目で値踏みされるとは限ん
  ないよね。でも、スタイルいいなあ。これで
  かつ、可愛いかったりして。しかも家がご近
  所さんの可能性があるではないですか。
        ↓
  あれ?俺何考えてるんだ?・・声かけようか
  な。でもこういうときだけ煩悩を臨時に消す、
  なんてこともできないから、その煩悩を感じ
  て向うも警戒するだろうなあ。眼前のケース
  に関しては、純粋に助けるべきと思ってるだ
  けなんだけど、普段の煩悩が溢れでたりする
  と、にすんなりと声をかけてもなんか勘違い
  されそうだ。
        ↓
  そんなことないかな?警戒がどうとかいう
  問題じゃないか?そもそも相手がこっちの見
  た目によって助けを断るなんて決まったわけ
  でもないし。
  これがこっちが、友人と二人だったりしたら
  気軽に声をかけられるんだろうけどな。
        ↓
  とにかく、別に他意はないんだけど・・・・・。
  でもやっぱり、『その容姿で、あわよくば・・、
  なんて期待するなんてとんでもないわよ!』なあ
  んて思われたりしたら嫌だなあ。
        ↓
  振り出しにもどる。』

 っていう思考だけがぐるぐると頭の中を駆け廻って、散々悶絶した挙句、見て見ぬふりをして通りすぎていたと思うんですね。
 けれどもその時は、本当にごく自然に自分でも驚くくらい躊躇することなく、彼女の自転車の後輪の荷台を持ち上げていました。なにしろ見た目なんか自他ともに認める取り繕りようもないおじさんになっちゃってるので、変な自意識もとうの昔に絶えて久しいわけです。他人はいざ知らず、こういうことは間違えても若い時の僕には、まずできなかったですね。
 
 彼女は、突然の助け船に驚きかつ、恐縮しながらも、
 「え、あ、え、いいんですか?」
 と僕のおせっかいを前向きに検討してくれました。
 「いいですよ。僕も同じ進行方向ですから。
  うしろは僕が持ち上げて行きますから、前向いて
  両手でハンドルを持っていてください。」
 「あ、ありがとうございます。」
 というわけで、自転車はさっきまでのガチャガチャ音をたてることもなく、遥かになめらかに進みまじめました。
 「あの信号は?」
 僕らの行く手には交差点があります。僕の家はその信号の先にあるので彼女がその信号を右折か左折するならば僕がお手伝いできるのは残念ながらその信号まで、ということになっちゃいます。
 「あ、通り過ぎてまっすぐです。」
 「そう。僕も一緒だからよかったですね。」
 ほう、信号も越えていく、としたら、結構な距離だな。考えてみればそらそうだ『結構な距離』だから徒歩じゃなくて自転車で駅に通っているわけだ・・・。なあんて一切の煩悩抜きで、僕は専心荷台を持つことに従事しています。前のハンドルさえちゃんと操作してくれたら、距離によるけど、男性にはそんなに重労働ではないです。
 「鍵どうされたんですか?」
 いいですねえ。これも何気ないひと声にみえて、年齢のなせる余裕と諦念からきているわけです。
 うん、悪くないぞ、俺も若くないんだな。これが若い頃だったら、勇気をもって助けることはできたとしても、自意識過剰だから、ふたりの沈黙が妙に気になって『何か会話しなきゃ・・・。あわよくば、なんて企んでると思われてるんじゃないか、でもそういうのも一ミリくらいはあったりして・・いやいや、今回は善意100%だから・・。でもなんかコミュニケーションしたほうが彼女も警戒心を解いてくれるかもしれない・・・、ここは自己紹介かな、いや、合コンじゃないんだから、荷台掴んだだけでだしぬけに自己紹介されても困るよな、でもこの沈黙には耐えられん・・』ってなことになるんでしょうけど(経験はないので推測です。)、今の僕は相手が警戒したければすればいいし、助けてはくれたけど、きちゃないおじさんだなあ、と思わば思え、こっちの目的は彼女を助けることだけだからな、ってなもんで一向に動じないわけです。若くてスタイルのいい子だから、メールアドレスなんか聞いちゃおうかな、なんてこれぽっちも思ってないので、ごく自然に沈黙を破ることもできるんであります。ま、オスとしては、こっちは、加齢臭ばりばりの中年だし、という開き直りが多少寂しくもありますが。
 「無くしちゃったんです。」
 「たいへんですね。合鍵はあるんですか?」
 「はい、家に合鍵はあります。本当にありが
  とうございます。」
 「それは、よかったですね。いえいえ、帰り
  道ですから。あ、うしろは気にしないでい
  いので、前だけ向いてハンドルしっかり持っ
  ててね。」
 実際、気をつかってか、僕のどうでもいい問いかけに彼女が律義に振り返って返答されるとそのせいでハンドルがふらふらして、荷台のバランスを保つ僕には負担がかかるんで、前を向いていてくれたほうがいいんです。

 信号を超えました。僕の家は、信号を超えて100Mくらいいったところにあります。すごそこです。だから徒歩で駅に通っているんですけど。あ、そうだ、きっと若い女性だから助けてくれたとはいえ家なんか知られたらいやだろうな・・。それに見知らぬ人にたかだか一回だけ、ちょっとしたお世話になって、それをきっかけにしょっちゅう近所で顔をあわせるようになる、っていうのも嫌なもんです。
 「あのね、ここでいい、っていうところまで
  きたら言ってくださいね。」
 「ありがとうございます。」
 「いや、いや、同じ方向ですから。」

 僕が、余裕ぶって同じ説明を繰り返しているうちに、左折したら僕の家、っていうところまで来ちゃいました。もちろん彼女は僕の家なんか知る由もありませんし、僕も若くないので『ここを左折したら僕のうちなんだよね』なんて余計な情報をインプットすることはしません。
 それで、『・・・・・・』っていううちに成り行きでそんまんまの状況で僕の家に左折するブロックは通り過ぎてしまいました。ま、いいか、せっかくだからこっからまた彼女に『ここからは独りでガチャガチャして帰んなさい』っていうのも気の毒だよね。と思っていると、もはや役割分担を円滑にこなすようになった二人はずんずんと進んでいきます。
 左折したら僕の家、というところを過ぎて、たまたま引っ越してきた大学時代の親しい後輩が住んでいる近所のマンションも通り過ぎて、大きな駐車場も通り過ぎて、自動車学校も通りすぎました。すると、彼女から、
 「ありがとうございました。もう
  ここまでくれば大丈夫です。」
 と引導を渡されました。その近辺で左折か右折するんでしょう。そして、彼女は、
 「大丈夫ですか?お宅はまだこの先ですか?」
 と、たぶん建前上、聞いてくれたので、そこでまっすぐに踵を返すことになる僕としては、嘘を言うわけにも言かず、
 「うん、大丈夫です。僕の家、もう過ぎてるから。」
 と素直に答えました。うん、これもいい。これもまた若くて妙に完璧に格好つけようとすると、
 「もうちょっと真っすぐ行きます。」
 なんてダミーで家と逆方向に歩くふりなんかするんだろうけど、こっちはそんなことは思いもつかずに、180度振り返って今まできた道を引き返すことになりました。

 でも、そこで瞬間、『ちくしょう、俺もまだまだ若いな。』って思わされたんです。
 どういうことかというと、実はここだけの話、僕は毎日毎日会社に行って一応仕事して帰ってきてるんですけど、ある事情があって『毎日毎日明らかに給料分の仕事をしていない』んですね。いや、これは間違いないんです。それとこれとどういう関係があるんだ?って思われるでしょうが、僕は、彼女の自転車引き(自転車押し、かな?)を手伝ったとき、ささやかながら数年ぶりに誰かの役にたった、という達成感を感じたんです。まあ、荷台を持ち上げて歩いた、ってだけですから全くたいしたことじゃないのは否定できませんが。しかも、若い女性が、困り果てているとはいえ、-あれだけの距離をガチャガチャいわしながら女性がひとりで歩いたらかなりの時間がかかったのは間違いないです。―見ず知らずの、ばっちい中年男性の助け舟を(他意はない、とはいえ)素直に受け入れるのは勇気がいったと思うんですね。
 だから、僕は、彼女が僕の申し入れを素直に受け入れてくれたことがありがたいな、って思ったんです。それで、仮にまた遭遇してもお互い顔なんぞ覚えていないのは間違いない、-何しろ彼女はずっと前を向いていましたから。―、けれどそのことについてお礼を言いたい気分になったんです。
 しかし、僕はまだ青いです。その気持ちをどういう言葉で表していいか、わかんなくて、結局お礼を言わずに、なんとなくもの言いたげな雰囲気を残したまんま、彼女と別れてしまいました。だって、難しくないですか?彼女にしてみれば、助けてもらったうえに、お礼を言われるわけですから、こう、さりげなく自然にお礼を言わないと、逆に彼女を困惑させてしまうでしょう。残念ながら、僕の『何か言いたげな雰囲気』はそれこそ『メールアドレス教えてください』という言葉を呑みこんだ、と誤解された可能性があります。
 う~~ん、まだまだ未熟です。

 そのあと、あれは確か半年くらいまえ、いつものように会社から帰宅して、改札を出て左折して、相変わらず小さいロータリーをやり過ごして、また左折したら、ゲームセンターのまで『鍵を持っていないがために、後輪が施錠されたままの自転車をガチャガチャと音を出しながら苦労して運んでいる、若くてスタイルのいい女性』に、もちろんだしぬけに、遭遇しました。今回の女性は前回の女性よりもさらに若そうです。
 おや、これは、気の毒に、と僕は、
 「どっちの方にいかれますか?」
 というが同時に後輪の荷台に手をかけました。うん、俺も若くないな、と僕はまた年齢を感じました。今度も自然体で人助けに成功です。そして奇しくも彼女もまた、僕の家と同じ進行方向に進んでいました。今回の女性は、
 「鍵を紛失してしまって、どうしようかと
  思ってたんです。ありがとうございます。」
 とのことです。プロポーション抜群です。それで、なぜだか、前回の女性よりも会話は比較的多くて別に僕が聞いたわけでもないのに、彼女は近くの大学の工学部の学生さんっていうことでした。
 「大学にいけば、いろんな工具があるので、
  大学まで引いていって、大学でチェーンを
  切ろうかな、って迷ってたところなんです。」
 そら、あんたたいへんですよ。その大学の場所は僕も知ってるいるけど、『後輪に鍵がかかったままの自転車をひとりで引いて行く』にはかなりの距離があります。
 それで、今回も同じように僕の家も通過してかなりの距離を歩きました。僕は、きっとあの大学に通っていてこの近辺に住んでいるんなら一人暮らしの学生さんであろうから、なおさら家なんか知られたくないだろうな、と思って、
 「用済みになったら適当なところで言ってくださいね。」
 と言うと、例によって、
 「ありがとうございました。ここで結構です。助かり
  ました。大学まで持って行こうか、さっきの自転車屋
  さんに持って行こうか、困っていたところなんです。」
 っていうことになりました。僕は、前回から半年たっていましたが、まだ相変わらず『明らかに毎日毎日給料分の仕事はしていない』のでまたしても、『お姉さん、馬鹿をいっちゃあいけねえよ。袖触れ合うも他生の縁、困ったときはお互い様じゃあねえか。素直においらの助けを受け入れてくれてありがとう。いや、おいらにお礼をするくらいならいつか誰か困っているひとを助けてくれれば、それでちゃらっていうもんだよ。』とフ―テンの寅さんの如く粋に、ごく自然にお礼を言おうとしましたが、どうも口にだすと大時代めいて自然といえなさそうで、今回もお礼を言わずに、もと来た道をもどりました。ま、お礼は言えなかったけど、今日もいいことしたな、と思いながらしばらく歩いてから、僕は、思わず、
 「あ!しまった!そうか!」
 と声に出して叫びました。そうです、今回の彼女の場合『大学に持って行こうか、自転車屋に持って行こうか、と迷っているときに』僕がひょい、と荷台を持ち上げたわけです。と、いうことは・・・、そう彼女は家にも合鍵を持っていない!だって家に合鍵があったら『家に持って帰る』という選択肢が当然第一にくるはずです。けれども彼女は『自転車屋か大学の自分の実験室で』チェーンを切ろうとしたわけです。そこへ、本人はごく自然に、と思っているけれど、彼女にしてみればひょっとすると、半ば強引に『家どこ?こっち?じゃあおじさんが持って言ってあげよう』という中年男性が現れ、ショックと疲労で判断力を失っている彼女はもう夜だし、しらないおじさんも助けてくれるし、とりあえず家に帰ろう、ということになったに違いありません。自転車は僕らの歩いた道沿い、僕の家と駅の間にあって、確かその時間はまだ営業していました。ということは彼女のやるべきことは、自転車屋まで自転車をひいていって、そこで合鍵のないチェーンを切ってもらうこと、だったんです。もっと言うと、ひょっとしたら彼女は自転車を通り過ぎてからそのことに気付きながら、見ず知らずの男性のお節介を無碍にした挙句『やっぱり駅の方にもう一回戻って自転車屋に行きたいんですけど』と言いだす勇気がなく、とりあえず家に帰ったのかもしれません。これは、したり!俺としたことが、会話の中から読みとれたじゃないか。『え、そう、じゃあ自転車屋さんまで戻りましょうか?』って提案してみるべきだったんです。
 『いい年』してなんでそのことにきずかなかったんだろう、彼女には悪いことをしてしまいました。

 さらに、つい先週のことなんですけど、改札を出て左折して、小さなロータリーを・・以下同文ゆえ略、とにかく、ゲームセンターの前で『鍵を持っていないがために、後輪が施錠されたままの自転車をガチャガチャと音を出しながら苦労して運んでいる、若くてスタイルのいい女性』に、もちろん、だしぬけに遭遇しました。今回の女性は会社員風です。
 「こっちですか?」
 といつものように言うが早いが『年を感じながら』ごく自然に後輪の荷台を持ち上げる僕です。うん、大人ですね。繰り返しますけど、若いとこういう流れるような振る舞いはできません。年齢を感じます。
 女性は戸惑いながらも、
 「あ、え、ありがとうございます。
  その先の自転車屋さんまで行こうかと。」
 ほう、なるほど、今回は行き先も目的も明確です。しかも自転車屋なら真っすぐ行って信号を越えたらすぐにあるので、僕の家の手前です。
 「それなら、荷台もちますよ。」
 「ありがとうございます。方向違いではないですか?」
 今回は、向うも大人の対応で、戸惑いながらもすぐに僕のことを気遣ってくれました。
 「いえ、自転車屋さんなら通り道ですから。
  鍵なくしちゃったんですか?」
 「はい、もうどうしようもなくて。」
 と、ふと見ると、今回の女性は、なにやら前輪の下に見慣れない面妖な器具をつけています。それは金属製の縦約30センチ、横約10センチ大の四輪のキャスター付きの台車のように見えます。女性はそのうえに前輪をのせて自転車を引いていたわけです。
 僕は好奇心の赴くままに、
 「あの、それなんですか?」
 と質問しました。すると、彼女は、
 「あ、これそこの警察で貸してくれたんです。
  鍵を無くしてどうしようもなくなって警察
  にも相談したんですけど、自転車屋で切っ
  てもらうしかないだろう、っていうことに
  なったんですけど、おまわりさんがこれを
  貸してくれたんです。」
 おー、なるほど、さすがに世界に冠たる日本の警察、かような器具ももっているわけです。僕は感心してしまいました。
 「そこの自転車屋さんは親切ですよ。」
 うちも近所だけに何回かお世話になっているその自転車屋さんは、寡黙だけど親切なお兄さんが繋ぎの作業服をを着ていつも夜8時ごろまで黙々とひとりで仕事をしています。
 「知らない人の助けを素直に受け止めるのって
  なかなか勇気がいりますよね?」
 僕は自転車屋の余計な情報などインプットしながら、過去の反省に立って、早くも僕の申し出を素直に受け入れてくれたことを言葉にすることを試みたんですけど、どうも自然に言えずに、お礼のつもりが『なんだか押しつけがましい疑問形』になってしまい、半端な発言を悔いました。
 果たして彼女は、
 「そうですね。」
 と当たり障りのない答えを返してきて、僕は、俺としたことが、こんなことなら言わないほうがましだった、とまだまだ修練がたらんなあ、と『年齢を感じ』未熟さを痛感しました。
 今回はくだんの信号を超えてすぐの自転車屋さんなので、距離はたいしたことはなかったんですけど、途中で前輪が台車から外れて台車に前輪を乗せなおしたりするときに苦労されていました。だから、時間はそんなにかかりませんでしたけど、これはやっぱり助けてよかったな、と僕は思いました。
 ほどなく自転車屋に到着、
 「それじゃあ、お気をつけて。」
 と、僕は家の方に向かいました。
 
 しばらくしてここを左折したら我が家、というとき、
 「あ!なんだ!」
 と僕は、また思わず声にだしました。
 そうなんです。彼女は台車の使い方を完全に間違えています。だって、前輪は鍵がかかっていなくてそのまま回るわけですから『回らない固定された車輪をのせて臨時に滑らせるため』の台車は、鍵のかかった後輪の下に置くべきでしょう?前輪の下において後輪の荷台を持ち上げる、のであれば台車はいらないじゃないですか。しかも『まわる前輪の下にさらに動く台車をおいた』もんだから前輪の動きが安定せずに、何回も外れるわけです。おまわりさんもなんでそこまで見届けなかったんですかね。
 「肝心なことに気付かないなんて俺と
  したことが・・」
 と、僕は荷台を持ち上げるより、台車の使い方を指摘するべきであったことを後悔しました。

 以上が、多少冗長になりましたが、『僕がどういうときに年齢を感じるか』という話の詳細です。

 ・・・・・ん~~~と、なんか書き忘れていることがあるような・・、なんだろう、思い出せないな、年のせいかな・・・。
 あ!そうそう!確かに『年齢を感じる』好例ではあるけれど、なぜ、僕が『鍵を持っていないがために、後輪が施錠されたままの自転車をガチャガチャと音を出しながら苦労して運んでいる、若くてスタイルのいい女性』に会社帰りに、一年間に三回もゲームセンターの前で遭遇するのか、は皆目見当がつきません。
 これって、平均的な頻度ですか?全員若くてスタイルのいい女性なんですけど、それも僕のせいじゃないと思います。
 
 それから、僕が『ああ、俺って哺乳類だなあ』って感じるときはどういうときかというと・・・、え?どうでもいい?そんなこと感じることなんかない?これ以上長い話にはつきあっていられない?
 ・・・あ、そうすか。それではこの話はまた別の機会に。

===終わり===


 

 
 
 
 
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プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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