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迂闊な人。

「とにかくこの勢で文明が進んで行った日にゃ僕は生きているのはいやだ」

 大きな声では言えませんが、私見によればどうも実は人類には二種類あります。『迂闊な人種』と『迂闊でない人種』です。冒頭から白状しちゃいますけど、僕は『迂闊な人』です。もちろん、そのことには充分辟易していますし、なんとかしたい、と思ってますけど、どうもなんともできないんす。あまりになんともできないので、最近ではなんとかできるものではなくて『これはそもそも人種の違いなのだ』という持論が固まりつつあります。
 『迂闊でない人』は良くいうと気の利く人種で、悪くいっても要領のいい人種で、傾向として資本主義社会適応型です。『迂闊な人』は、傾向としてはやってはいかん、とわかっていることをやってしまう人種で、しかもそれを繰り返しちゃったりするので、どちらかというと原始共同社会適応型で、資本主義社会において『いかん奴』あるいは『遺憾な人』として人員整理の対象になったりする傾向にあります。
 
 僕自身、毎週のように公私を違わずやってはいかんとわかっていることをやってしまい『迂闊な人』ぶりに独り瞠目してみたり心を痛めてみたりしています。
 少し前のことですけど、自分でもおおいに驚いたことがありました。その時僕は資本主義活動の一環である営業という仕事にいやいや従事し外出中で、ある地下鉄の駅から出ようとしたんです。それで切符を自動改札機に入れたら『ピンポン!ピンポン!』というけたたましいエラーを知らせる音と共に自動改札機に行く手を遮られてしまい、あれ?なんか文句でもあんのかよ!?って思ったんです。でも、原因はしごく明白でしかもすぐ判明しました。
 僕は、その駅の券売機で切符を買ってそこから地下鉄に乗って目的地の某駅に行くはず、だったんです。ところがあろうまいことか、券売機の横にある改札口から入り、そのまま数メートルしか離れていない同じ駅の違う改札に直行して出て行こう、という暴挙を敢行しようとしたらしいのです。それで『ピンポン!ピンポン!』。・・・迂闊です。幸運にも自動改札機がピンポンしてくれたからよかったものの、そのままその駅を出ることができたら僕は一体どこへ行くつもりだったんでしょうか?ちなみにその駅は、いわゆる僕にとっての最寄り駅-自宅近くの駅でもなく、勤務先の近くでもないです。-ではありません。驚きました。ピンポン!ピンポン!にもびっくりしましたけど、同じ駅に入ってすぐ出て行こうとした自分の行動の中味もかけらも理解できす、唖然としました。
 本当にどこに行こうとしていたんでしょうか、いまだにどうも我ながらよくわかりません。

 『迂闊な人種』の別の傾向のひとつとして年齢性別を問わず『文明の進歩になかなかついていけない』ことが挙げられます。縄文時代ではなく、弥生時代でもなく、この二十一世紀の日本で生きていかなければいけない『迂闊な人種』の不運は、もはや悲劇と言えます。やっと電卓とFAXとワープロの操作を覚えたのに今度はパソコンかよ、ええ、携帯電話もまだ使いこなせていないのにスマートフォンとか別にいらないんですけど・・、っていう感じで文明の進化によって次々と新しく開発される『便利なモノ』が社会活動の前提となることに常にびくびくしながら生きていかなければいけません。しかもびくびくするだけではなくて『やらかしちゃう』んですよね、迂闊だから。

 先日、僕はひとりで家にいたんですけど、よせばいいのに、パソコンでエッチな動画を探し始めました。そういうものがただで鑑賞できる、と『迂闊でない人』から教示されてしまったからです。これが悲劇の始まりでした。パソコンなんてなければ、あんなことにはならなかったのに・・・。
 さい君と息子は遠出していて時間は充分にあるようです。僕は文明の進化に感謝しつつエッチな動画を探しました。すると、そう長くない時間で、なにやらあやしげなサイトに辿りつきました。
 「おお!素晴らしい!俺のような人間でもこんなに
  簡単に、しかもただで・・。二十一世紀万歳!」
 僕は、誰に頼まれもしないのに現代文明を絶賛しつつ、いよいよ・・と鑑賞を満喫しようと身構えます。
 しかし、なかなか目標物に辿りつきません。
 「あなたは、18歳以上ですか?はい/いいえ」
 なんていちいち聞かれたりするわけです。
 「またあ、真剣に確認なんかする気もないくせに・・
  はいはい、と!」
 躊躇なく進みます。
 「あなたが今お使いのパソコンは、会社など公共の
  パソコンではなく私物ですか?はい/いいえ」
 文明の進歩もなかなか簡単には悦楽へのアクセスを許して
くれません。
 「ああ、うるさいなあ、はい、と!」
 とまあ、そういった感じでどんどん『はい』をクリックしていきます。でも『迂闊でない人』に教わったような動画には全然たどりつかないんです。
 「・・っくしょう、話が違うじゃないか。
  ひとが文明音痴だと思って馬鹿にしやがって。」
 と現金にもさっきまで絶賛していた文明を毒づきつつ、しかし、鼻息はますます荒く、
 「ふん!はい、だ!ええい、これも、はい、
  に決まってるだろ!ぬおお、エッチな動画
  はまだか?ええ、また質問?はい、だっつ
  の、この野郎!もっと素直に『エッチな動画
  が見たいですか?はい/いいえ』で一発で辿り
  つくようにしやがれ!くそ!」
 と、そのとき突然、そうまさに唐突に、です、赤紫色のブラジャーと、同じ色の貧相な面積のショーツだけを身に付けた女性が大股を開いた状態の、しかし、動画ではなく静止画像がパソコンの画面せましとあらわれました。あんまり大きくて胸と股間以外の顔だの足だのは画面からはみ出しています。
 「・・・なんだ、これ・・?」
 僕は、二十世紀の男子中学生じゃあるまいし、こちとら二十一世紀の企業人であるぞよ、この程度で俺が満足するとでも思うのか、なめるんじゃねえ、とさっさとつぎに進もうと『はい/いいえ』表示を探しました。でも・・・無いんです。
 さっきまで飽きるほど出てきて何の意味があるんだ、と憤慨しつつクリックしていた『はい/いいえ』が無いんです。
 「むむむむ?」
 僕は、自分の見落としかと心ならずも大股全開画面と一所懸命睨みあいをするはめになりました。
 大股全開は、
 『あなたも好きねえ!そんなにアソコが見たいの?』
 なんて前時代的な穿った警句を、しかし、大書で吐いてます。でも、『はい/いいえ』は見つかりません。しょうがねえなあ、今まで苦労したけど、もう一回別のエッチなサイトを探そう、とその画面を閉じようとしました。・・無いんです。『x』印が。あれ?じゃあいいや、ええと確かこういうときは『Ctl+Alt+Delete』で・・、消えません。それどころか反応もしないし、前画面にも戻りません。『迂闊な人』は大股開きを前にしてだんだんと嫌な予感に包まれてきました。よく見ると赤紫の股間は、
 『会員登録ありがとうございます!』
 とまことに身勝手なことを主張しています。なんだ、なんだ・・・。すでに冷や汗ものです。
 『登録料は14万円です!振り込み先は下記です。』
 はあ?
 『この画面は、登録料振り込みが確認され次第待ち受け
  画面から消えます。』
 ・・・やられた。これって、よくいう『クリック詐欺』じゃないですか。呆然とする僕に股間はさらにお得な情報を提供してくれています。
 『只今キャンペーン中!登録から120時間以内に振り込めば
  なんと半額!7万円でOK!』
 いや、『キャンペーン』て・・・。見ると巧妙なことに股間は静止しているくせにご丁寧にもカウンターが設置されていて、『キャンペーン期間終了まで、あと119時間58分35秒』とそこだけ時を刻み始めています。
 僕は、こんなの詐欺だ、とは思いつつも家族の手前、おおいに動揺してなんとかこの赤紫の大股を消そうと無い知識を総動員してパソコンをいじりまくりました。・・・消えないんです。一旦シャットダウンしても毎回同じ画面がでてくるんです。赤紫の股間は待ち受け画面って奴になってしまってます。しかもその間も『キャンペーン期間終了まで・・・』のカウンターは律義に時間を刻んでいます。どうしよう、さい君がもう少ししたら帰ってくる。そしらぬ顔でもしておこうか・・・。そして、さい君がパソコンを立ち上げる、さい君驚愕!僕も一緒になって驚愕!・・・・・だめっしょ。
 逆上した僕は、少なくともコンピュ―タ―には僕よりもはるかにくわしい親友の山案山子君に電話してみました。出ません。最早、万策つきたか・・・。そのとき、待ち受け画面の下の方に電話番号を発見しました。もう詳しい記述は忘れましたが、確か、身に覚えのない場合はここに電話を、という趣旨のことが書いてあったような気がします。
 迂闊ですよねえ。こういうとき、慌てて『画面上の電話番号に電話する』のは『ワンクリック詐欺における注意点』で『絶対にやってはいけないこと』、として筆頭に挙げられていました。迂闊です。のちのちネットで調べてからわかったんですけど。なぜならそうやって慌てて電話させることによってこちらの電話番号という個人情報をダイヤル表示機能によって入手し、その後その電話番号たちへ(なんとなく後ろめたく思っているであろう人達ですね。敢然としている人間は動揺して電話なんかかけてこないはずですから。)請求の電話をしまくる、というのがこういうグループの常套手段なんだそうです。僕はまさに藁にもすがる思いでそばにあった自分の携帯からそこへ電話しました。(ここでなぜか、これもすぐそばにあった家の固定電話から電話しなかったことがのちのち不幸中の幸いになることになります。)
 「もしもし?」
 するといきなり若い男がややハイテンションで、しかし、いかにもマニュアルを棒読みするかのように対応してきました。
 「あの、間違えて、かいいんとうろ・・・」
 僕は言い終わらないうちに、相手の若い男は、
 「ご登録ありがとうございます。只今キャンペーン期間中で
  120時間以内にお振り込みいただければ、登録料は半分にさ
  せていただいております。お客様の場合はご登録が本日の
  14時35分でございますので・・」
 と澱みなく一方的にまくしたてます。そのあとも、
 「いや、そうじゃなくてキャンセルしたいんですけど・・」
 と言っても、男はあさってのことを言うばかりで埒があきません。

 僕は、だんだん腹がたってきました。さっきまでは、さい君への露見を恐れていましたが、男のあまりにいい加減な対応に腹がたつあまり、さい君を恐れることには開き直り、この詐欺集団をなんとかしたやろう、という義憤(と、そのときは思ったんですけど、200%私憤です。)にかられ、だしぬけに110番しました。そして恥も外聞もなく、行状をまくしたてたところ、さすが世界に冠たる日本の警察、こちらもまた澱みない対応で、
 「そういうことでしたら、お住まいの所轄都道府県庁の
  警察機関にコンピューター詐欺専門の部署があります。
  電話番号はかくかくしかじかですから、そこへお電話し
  てください。」
 と言われました。
 僕は、安心感に目眩すらする思いでした。
 おお、なんと頼もしい、二十一世紀の日本の警察は迂闊な人とは一線を画し、しっかりと文明の進歩に対応しているではないですか!コンピューター専門詐欺、じゃなかった『コンピュ―タ―詐欺専門』の部署があるなんて。僕はすっかり全てが解決したような気になり、いそいそとその教えられた番号へ電話したところ、予想にたがわぬ慣れていて、落ち着き払った対応です!
 「ほうほう。」
 「それでですね、そこへ電話しても殆んど会話に
  ならなくてですね、画面がきえないんです!」
 「ふうむ。」
 「でも、ですね、僕は、登録なんかしたくないし、
  たしかこういうのってクーリングオフ期間とか
  いうので消費者は保護されてますよね?」
 「ううむ。わかりました。ちょっと繰り返しの
  確認になりますがつまり、あなたは、最初の画面で
  年齢承認を要求され、はい、とした。」
 「そうです!」
 「次にパソコンがどこのパソコンか聞かれて、
  はい、とされた。」
 「そうです!」
 頼もしいじゃないですか、僕が興奮して一回説明したことを再度繰返して裏をとろうという態度なんて、慣れてますよね。僕は、先の若い男の紋切型の、言葉そのものは丁寧ながら誠意のかけらも感じられない対応、を思い返しながら、これぞ乾坤一擲、もうすでに警察に通報してしまったのだ、日本の優秀な警察にかかったら、よくわかんないけど、きっと電話番号さえわかれば30分のうちに奴は司直の手に落ちるのだ、まいったか股間め、と心の中で高らかに凱歌を奏でました。
 「・・・というわけで、あなたは、全部はい、としてしまった
  がキャンセルしたい、しかし先方は承知しない、と・・・。」
 「そう、その通りです!」
 まさに縦板に水の如く、僕の説明を冷静に分析してくれるじゃないですか。ぐははは!正義は勝つのだ。

 しかし、その直後僕は受話器をつかんだまま固まってしまうことになります。
 「わかりました!そうやってあなたが全部はい、と返答
  された、ということであれば警察はみんじふかいにゅう
  ということで。じゃ。」
 「・・・・・・・・。」
 それきりで電話は切られてしまいました。

 警察の対応が澱みなくて慣れていたのは、僕の状況に寄り添ってくれていたから、ではなくて『ははあ、またこの手の電話か。これも民事不介入で終わらせるケースだな。』と僕の通報を受けたとほぼ同時に彼の経験則から電話を迅速に処理してしまう『落とし所』を決めていたから、だったんです。
 ・・・なんだっ!民事不介入って!百歩譲って僕のケースでは警察は立件できないにしても、コンピューターを通じて人の弱みに(?)つけこんであきらかに阿漕に金を稼ごうという存在を知る手掛かりくらいにはなるんだから股間の電話番号を情報源のひとつとして聞くくらいの姿勢があってもいいだろう!商売気が無さ過ぎるぞ!それでもコンピューター詐欺専門部署か!法律の講義を聞きたくて電話したんじゃあないんだ!なにが世界に冠たる日本の警察だっ、ふん!
 しばしの憮然とした後、現金にも僕は警察に心の中で能う限りの罵詈雑言を浴びせました。
 しかし、僕の期待と確信が大きかっただけにその落胆と憤慨は相当なもので、おさまりがつきません。そのあまり怒りのやり場の無さのあまり、僕は常軌を逸した行動にでてしまいました。
 ある意味では『迂闊な人』の真骨頂ともいえます。

 僕は、ふたたび赤紫の股間に携帯から電話し(だから、それはだめだっつうのに。)、なんとおそらくは独りで対応をしているであろう若い男を開き直って脅しにかかりました。
 「もしもし?」
 「お電話ありがとうございます。」
 「あのね、さっき電話して解約をお願いした者
  ですけどね。」
 「ありがとうございます。只今キャンぺ―ン期間中で
  ございまして、120時間以内に・・」
 「あのね、それは、もういいの。」
 「お客様、お客様の自由意思でのご入会を当方では
  確認させていただいておりますので・・」
 と感情の全くこもっていない棒読みのような言葉で暗にキャンセルを断ろうとする男。
 「あのね、よく聞いてよ。」
 「・・当方としてはご入会いただいた、と認識して
  おりまして・・」
 今度は僕が一方的にまくしたてる番であります。
 「いいから。いいこと教えてあげる。今から俺がいう
  電話番号メモしといたほうがいいよ。いい?電話番
  号はかくかくしかじか、ね。そこはね、警察のね
  コンピュータークリック詐欺専門の部署でさ、あな
  たのところの電話番号をさっき、通報しといたから。
  うそだと思ったらそこに電話してみてよ。」
 「お客さま・・・。」
 「電話番号ちゃんとメモした?もう一回いうよ。かく
  かくしかじかね。そういうところから電話がかかっ
  てきたら注意した方がいいよ。警察だから。」
 「・・・・・。」
 「あんたさ、どうせ電話番で雇われてるだけでしょ?
  だったら、あんただけでも早く逃げたほうがいいよ。
  もうすぐ警察がそこに行くかもよ。」
 「・・・・・。」
 「じゃあねえ~~。」

 ざまあみろ、です。相手は沈黙してしまいました。

 しかし。そうです。いくら警察を罵倒しても、股間の電話番の兄さん(略して『こかんばんあにさん』)を脅しても、肝心の大股間の待ち受け画面は消えません。再びパソコンと向かいあった僕は途方にくれました。
 ・・・結局、さい君が帰宅するまでどうすることもできず、全部白状しました。いやあ、怒られましたねえ。そういう悪さをしている、ということ以前に夫婦間で言えないような言動をすることが人間として許せん、とか女性独特の言い回しで罵倒されました。しかも、股間はさい君が、さい君の友人経由でそのだんな(たいへんコンピューターに詳しいそうです。)に『全てを話し』消し方を教えてもらって消してました。どうやったのかはしらないけど、2,3回の電話であっけなく『あなたも好きねえ!そんなにアソコが見たいの?』(さい君が外人で日本語の読み書きがほとんどできない、ということと、愚息がまだ幼かった、というのは僥倖ではありました。僕が書いたのではないにしろ、待ち受けに大書されている『あなたも好きねえ!そんなにアソコが見たいの?』の意味が家族には知られなかったわけですから。もし意味を理解されたりしたらそれこそ僕の股間に、あ、いや沽券にかかわる、というものでしょう。・・まあ、たいした幸運ではないですけど。)は消えてしまいました。
 でも、まだこの話は終わりません。先述したように、一連の騒動でさい君にもしっかり怒られたあと、いろいろ調べてみると『ワンクリック詐欺で、してはいけないこと』の筆頭に『画面にある電話番号に電話すること』とあるではないですか!南無三、俺は電話しちゃったぞ、しかも『脅しの電話』まで含めて2回目も!どうしよう・・・。基本的には払う義務はないらしいのですが、その手の電話がこちらの都合に関係なく何度もかかってくる(実際そうらしいです。僕の場合は、こかんばんあにさん、から攻撃を受けるかもしれないわけです。)のは御免蒙りたいです。相手も『股間画面の電話番号』から電話する、という間抜けなことはしそうもなく、おそらく複数の電話から電話してくるだろうから、電話番号表示で判断するっていうのも無理そうです・・・。
 
 そのためだけに携帯の番号を変えてしまうのも馬鹿馬鹿しいし・・・。熟慮のすえ僕は一計を案じました。幸いにして僕は友人の数も少ないし、その時は仕事関係でも僕の携帯に電話してくる人はほとんど決まったひとでした。と、いうことはその日以降、携帯に登録していない電話番号はまず怪しい、ということになります。だからといって、登録されていない番号からの着信に全て出ない、というのもその電話が急を要する電話だったりしたら困ります。そこで、僕は怪しい電話にはまず、できるだけ外人っぽく、
 「HELLO?」
 とでることに決めたんです。僕の携帯に電話してくるくらいの親しい人はほとんど僕が国際結婚をしているのを知っているはずなので、ちょっとびっくりするかもしれないけど、そんなに違和感は感じないと思うんです。一方、詐欺集団はひるむはず、でそこで徹底的に『日本人じゃないふり』をしよう、というわけです。
 でも実は僕は英語が苦手です。さい君とは外国語でしゃべってますけど、英語じゃなくてさい君の母国語です。さい君の母国語で喋り倒してもいいんですけど、そういう外人っていませんよね。だいたい、日本に住んでいる外国人のひとは英語で通す、か日本語で対応するか、です。だってその二つ以外のマイナ―な言語でしゃべっても不特定多数の電話をしてきた相手とコミュニケーションはとれないですから。だから、僕は『HELLO?』以後の英文もあらかじめ用意しておいて、しばらく雌伏しておりました。『HELLO?』は実際さい君との電話で毎日のように使っているので、これはすんなりと出てくるんです。

 それからだいたい二週間後の休日の午後、家にひとりでいたら見知らぬ電話番号が携帯に。
 もしや!と思い、
 「HELLO?」
 とでると、
 「・・ああ」
 戸惑った男の声が聞こえました。
 来た!
 だって、僕の友人なら『ああ』なんて言わずに『みどり?』って言えばいいじゃないですか。
 「ふーず こおーりんぐ?」
 ここぞとばかりにできるだけ舌をくるくるさせてたたみかけます。
 「・・ああ・・へへ、あ、あいむ、そーりー。」
 間違いないです。
 僕の知り合いならいきなり英語で謝る奴なんかいません。
 「ぱるどん?どぅーゆーみーん いず じす うろんぐ こーる?」
 あらかじめ用意した英文を浴びせ続けます。
 「・・ああ、へへ、あいむそーりー・。」
 相手は、あいむそーりーを繰り返します。実は僕も経験があるんですけど、相手が外人でこれ以上話す必要がないんならこっちからきっちゃえばいいんですけど、英語ができない、というコンプレックスがあるとそういうこともしちゃいけないのかと錯覚してもう用もないのに電話をきらなかったりするんですね。これは間違いない、と僕は確信して、ここぞとばかりに、撃ちてし止まむ!と続けます。
 「うっじゅう てるみー ふーずこーりんぐ?
  はあん? ぱるどん?ふはっとあーゆー
  とーきんぐ あぼうと?いずんと いと
  うろんぐ こーる?はああん?どんちゅう
  あんだーすたん ふわっと あいむあすきん
  ぐ ゆう?ははん?ふあい どんちゅう 
  りぷらい?ははあん?」
 「ああ、あいむそーりー、あいむそーりー」
 こうなったらしめたもんです。こっちからガチャン、と電話を切りました。そのときの着信番号は一応怪しげな番号として登録しておきましたが、二度とかかってきませんでした。
 迂闊な人にしては珍しく上手く文明の利器を活用してすんなり敵を撃退できました。

 それにしても、-こかんばんあにさんに引っかかったから、ってわけでもないですが。-、もうこれ以上文明は進まなくてもいいと思うんですけどね。

 あ、そうそう、危うく剽窃を犯すところでした。冒頭の言葉は、1905年~1906年に発表された夏目漱石の『吾輩は猫である』の中に出てくるある登場人物の発言です。
 『勢』は原文に送り仮名がないのでそのまま引用しました。
 僕の持っている新潮文庫では、447頁に見ることができるんであります。

===終わり===
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プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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