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痴漢。

 この間電車に乗っていたら、すごい意思の強い青年を目撃してしまいました。その強さがあんまりだったので未だに頭を離れません。
 
 それはある日の早朝の満員の通勤電車の中でのことです。すでに僕の乗車時には人口密度がかなり高くて、僕は『乗車されましたらできるだけ車両の中ほどまでお詰めください』という車掌のアナウンスには無条件に賛成なんですけど、残念ながらそんな余裕はなく、乗りこむのがやっとで、といってドア際を確保することもできず、僕のあとから押し込んでくる乗客のプッシュに無抵抗に押されるにまかせた結果、ドアとドアの中ほどに漂着し、手すりも確保できすに、しかし、ようやく自分の居場所を得て中吊り広告の下で四方を他人に囲まれて電車に揺られていました。

 ところで『自分の常識』っていい加減なもんですね。
 以前、僕は、僕を含めてある事情でお互い見知らぬ三人の男性で食事をすることになりました。別に怪しい会合ではありません。四人掛けのテーブルに案内されて、僕がまず座り、なんとなく立場上残りの二人が僕の対面に一緒に座る、っていうことになりました。その時に、その二人のうちひとりが『どうぞ、奥へ』というのをもうひとりがしきりに断って『いやいや、どうぞ奥へ』とやりあっています。最初は腰の低い人たちだなあ、と思ってみていたんですけど、その譲り合いが尋常じゃなく長くて『どうぞ』『いえ、あなたが・・』『いえ、僕は端でいいですから』『いや端は僕が』とちっとも落着しません。たかだかどっちに座るのになんでこんなに論争かの如く譲りあうんだろう、と僕が不思議に思って二人を見あげていたら、そのうち片方の人がややいらついた調子で、なんでこんなことを説明しなきゃいけないんだ、という口調で言いました。
 「僕、左利きなので奥だと肘がぶつかっちゃうんですよ。」
 つまり、彼が奥に入っちゃうと左で箸を持つので、左隣の箸を右で使うであろう相手の右肘と『喧嘩四つ』になってお互い窮屈な思いをすることになる、という実利的な問題が予想されたわけです。でも左利きの人はそんなことをいちいち説明する人生には飽き飽きしていて(たぶん。)、初対面であるという遠慮にのっかって実利を達成しようとしたのに、相手がくりかえす遠慮に、いらいらしちゃって、とうとう『俺は遠慮で言ってるんじゃあないんだよ、その方がお互い狭い思いをしないで飯が食えるんだ、そんなことまで説明させるんじゃないよ。まったく、だから右利きのやつらは困るんだよなあ』って(たぶん。)発言になったわけです。
 僕は、右利きです。その光景を見ながら『ふうむ、左利きのひとは右利きが多数派である日本社会においては、僕なんぞに必要のないことも考慮しながら生きることを強いられてるわけだ。』と感心してしまいました。
 昔、村上春樹さんの文章を読んでいたら-その文章は村上さんがまたどっかから引用されてきた文章だったと記憶してますけど-『拳銃をポケットに隠し持って町にでたみたらいつも見慣れている光景がすべて違って見える』という文があったことを思い出しました。きっと、左利きのひとは同じ風景でも僕とは違って見えてるんだろうなあ・・・自分の常識なんて意外に狭量なもんだな、それはそれとしてさて今日の本題に・・・。と、思っていたら、この話はそれだけでは終わりませんでした。そのとき、もう一人の顔がぱっと明るくなり、
 「ああ、そうですか!僕も左利きなんです!」
 と言い放ちました。ええ、そうか、ふたりとも相手を右利きであろう、とみなして、皆まで言わすな、と遠慮という形をとって実利を取ろうとしていたんじゃないですか!と僕は二度驚きました。
 僕も左利きなんです、といった方の表情が明るくなった原因は、相手が尋常じゃないまでに遠慮する今までの会話のぐるぐるまわりの原因が一気に氷解したすっきり感だけでなく、同じ左利き同士、という親近感も手伝っていたように思います。

 そして、こういう『常識の錯誤』は多数派 対 少数派、にはかぎらないんですね。
 先日、同年代、異業種の男女との明るい時間帯のある会合で(合コンじゃないです。それから別にスピリチュアル系の会合でもありません。)、話題がなぜだか『電車の中での痴漢』になりました。そしたら、みなさん魅力的な女性であったことに加えて、僕らは初対面ではなくある程度開襟して話せる距離感があったせいもあったと思うんですけど、女性陣が一躍雄弁になり痴漢についていやに熱心に各々の体験や意見を語り始めました。その話は僕にとって結構新鮮で、上述の左利きと右利きの如く『へえ、ただ電車に乗るのに女性はこんなことを考えているんだ。』とまた違う視野の存在を知らしめされました。僕は僕の数少ない女友達(独身のときも今もたいへんたいへん少ないです。でも関係は濃厚です。いえ、そういうやましい仲っていう意味ではなくて、その、友達としては大事な存在、っていうことです。)から聞いたその分野に関する乏しい知識で応戦しようとしました。なにしろさい君は、外人なので、満員電車乗車歴が非常に浅いので。
 「座席が空いてても簡単に座らないで隣の人が男性だったら
  必ず観察してから座るかどうか決めるんでしょ?」
 と僕が知ったかぶりをして、なんとはなしに発言したら、複数の女性から異口同音とばかりに猛烈な反応を食らいました。思わず『どうどう!どうどう!』と言いたくなるような勢いでした。
曰く「そんなの当たり前ですよ!」
曰く「隣だけじゃないですよ!」
曰く「だいたい乗った瞬間にですね!・・・」
という具合に。
 ちなみに僕のように痴漢方面情報に疎い方へのご参考まで、あるいは逆に痴漢ずばりその人への後学のために述べますと『隣だけじゃない』というのはどういうことかというと『座っているときに前にたつ男性も要注意』なんだそうです。どういうことかというと『ズボンを下ろしている人とかいるんですよ!』なんだそうです。本当でしょうか。僕はそんな大胆といおうか、脇の甘いといおうか、そういう『手法』はちょっと信じられません。どうかと思うんです(もちろん、オーソドックスな手法ならいいのか、というとそういわけでもない・・あれ?痴漢におけるオーソドックスな手法って・・ええと、僕は一体何を言ってるんでしたっけ?)。・・・・・たまにファスナーを閉め忘れる方、間違われないようにしましょう。そういう手法を用いている痴漢の方、すでに警戒されていますぞ。
 それから『だいたい乗った瞬間ですね!』云々というのは、なんと、女性は車両に乗った瞬間、さっとまず周りを見渡すんだそうです。そして、
 「痴漢はその時にだいたいわかりますよ。」
 なんですって!僕は、ただ電車に乗るだけでそういうことを習慣としている人種がいることを自分と比べて新鮮に思うと共に『だいたいわかりますよ』ということに驚愕してしまいました。僕は、たまたまその女性がそういう特殊能力を身につけるようになったのかと思ったので、
 「ええ!わかっちゃうんですか!?」
 って、思わず『反射』しちゃったら(今考えるとこの僕の反応と発言内容って、まるで僕が仮想痴漢、みたいですよね。)、その場にいた女性が、一様に、
 「うん、わかる、わかる!」
 って『ばれてないと思ってるだろう?でもばればれなんだよ!』みたいに(だから僕は、痴漢じゃないんですけどね。)間髪いれずに僕に向かって叫んできて二度びっくりしました。
 そのうち、電車の中での立つ位置の話になって、僕はまた自分の常識を疑うことになりました。なぜって、僕にとって電車にのるときの『位置の優先順位』は(でもそんなに拘っているわけではないです。もし無理に順位をつけるとしたら、ってことです。)、

 ①座れる。楽ちんだ。
 ②ドアと座席で出来た隅に体を預ける。
  揺られて手すりを握るよりはまし。
 ③隅は無理でもドアに密接。体を預けられるし
  外の景色がみられて気がまぎれる。
 ④四方を他人に囲まれる。揺れにたえなきゃ
  いけないし、景色も見られない。最悪だ。

 であって、まあ他の人も似たようなもんだろう、と思っていたんです。でも女性は、特に満員電車の場合は、違うんだそうです。
 「ドアと座席のコーナーなんて最悪!」
 なんですって!ええ、なんで?楽だし、天気がよかったら富士山も見られるじゃないですか!ところが、満員電車の隅というのは『逃げられない』ので痴漢対策としては最悪の位置なんだそうです。なるほどそう言われてみたらそうですね。それから同様の理由でドアに密接、も優先順位は高くないそうです・・・・。

 僕の乗った電車は、停車を繰返しいつものように人口密度を増しながらオフィス街方面へ進んでいきます。数駅の後に、比較的大きな駅に停車しました。
 そこで、僕は『ものすごい屈強な意思を持つ青年』を目撃することになります。そのサラリーマンと思しき青年は満員電車にあってドアと座席のコーナーに立っていました。見た目は極普通のサラリーマンで、30代中頃、中肉、やや背が高いかな、というくらいのありふれた背格好です。彼の存在に僕が気付いたのはある駅に停車したときです。ドアが開き、ほとんど降車する乗客はなく、何人かが乗り込もうとしました。すでに一杯の車両ですから、乗車するひとたちはドア近辺の人を一列か二列分中に押し込んで乗りこむしかありません。ぎゅうぎゅうに見えても押し込まれてみるとはいれちゃうもんなんですね。見慣れた光景です。ドア近辺の人もおとなしく押されて中に詰め込まれるわけです。
 ところが、新しい乗客がほぼ乗り終えてドア近辺一列の顔ぶれが一新したとき、たまたまドアの左隅のまえのプラットホームで待っていた、これまた30代中頃とおぼしきサラリーマンが右手でドアの上の内側をおさえ、体を押し込んで乗車しようとしていました。のりこもうとしている彼にしてみれば、たまたま行列の右隅にいたのでみんなと同じよう目の前の乗客に少し中に入ってもらおう、としただけです。ところが、先に乗っていたコーナーの青年が、少し離れた僕の位置からもはっきりとわかるように、うんと胸を突き出し、足を踏ん張って、譲ろうとしません。『ははあ、こいつ俺と同じようにさてはコ―ナ―好きだな。コーナー青年だ。ぐふふ。でも他のドア側の人は素直に陣地を譲っているんだから、彼も頑張ったところで限界だろ。』と思いながら見ていました。乗ろうとする客は、ん?なんだかいやに頑固だな、と怪訝な顔をしながらもドアの内側においた手を離さずに体を入れこもうとしています。それはそうでしょう、彼にしてみれば毎朝の彼のそういう努力と他人の譲歩の結果、普通に電車に乗られてるわけですから。
 ところが、どうもコーナー青年の頑固さは尋常ではなく、仁王立ちになって一歩も動きません。乗ろうとした客は時間もないし、焦ってきて、
 「ちょっと、すみません。」
 と通勤電車ではあまりみかけない『乗車することへの仁義』まできってスペースを開けてもらおうとします。それで、普通さすがに仁義まで切ればあけるだろ、って表情で再び体を車両の範囲に入れこもうとしました。ところがコーナー青年は、ますますふんばり、今や自分の体ではなく乗ろうとしている相手を突き落とそうという意思のベクトルがはっきりみてとれるような動きになっています。若いくせにいやに頑固です。そもそも満員電車にのるだけでしっかり疲れるのだから、そのあとの勤労にそなえて余計なトラブルにエネルギーを使いたくない、と僕なんか思っちゃいますけどね。そこまでして隅が大事なのか、コーナー青年よ。
 ふたりは、無言でものすごい押しあいをしたあと、コーナー青年が何かを言ったようです。その発言の内容はわかりませんでしたが、コーナー青年は、目の前にある相手の顔をみながら顎を左に振ってました。おお、なんだなんだ、そんな横柄な態度までして隅を守りたいのか!?どうも、信じがたいことにコーナー青年は『譲らん。左のドアに行け。』と顎で指図したようなんです。ええ、すごいこと言うなあ。という僕の心の中のつぶやきとほぼ同時に、乗ろうとした人が―彼はさっきからイヤホンを両耳にあててました―あまりの信じ難い発言と態度に右耳のイヤホンを外しドアにかけていた右手でイヤホンを持ちながら、
 「ええ?いいじゃないですか!別に!」
 と声を荒げました。しかし、コーナー青年はこれを黙殺し、それどころか、乗ろうとした彼が右手をドアの内側から外したのを奇貨として、ぐんっ、とさらに体全体を押し出しました。乗ろうとしたサラリーマンは一旦ホームにもどされてしまい、なにやら口論がはじまったようですが、その時無常にも、
 「はい、ドアーしまりまーす!プシュー。」
 とドアが閉まってしまい、電車はイヤホンを右耳に持ちながら呆然とするサラリーマンをホームに残し、仁王立ちするコーナー青年と共に発車してしまいました。

 しかし、すごい意思の強さです。これは認めざるを得ません。これから勤労が始まろうというのに、見知らぬ人とのトラブルをも厭わず『向こうのドアに行け』なんて顎で指示してまで自分の立ち位置を変えようとしない、なんて。

 でも、思い出すたびに考えちゃんです。
 そこまでして守る程の価値がありますか、『電車のコーナー』って。
 そして、あのトラブルを恐れない頑健な意思の力を、毎朝のコーナー死守ではなく、もっと有用なことに、日本の未来のために使ってくれているのか『コーナー青年よ』って。

 それから、右利き 対 左利き、満員電車にのる時に男性が注意すること 対 女性が注意すること、以外にも僕とは違う風景を見ている社会的集合体(除『ズボンを下げる痴漢の集合体』です。この集合に属する方はあきらかに僕とは違う視野をお持ちになってるとは思いますけど。)がいないかは、これからも観察していきたいと思います。ただし、それを報告するときの題名は『痴漢。②』ではあんまりなので他の題名にしようと思います。
 
 でも、もし、『痴漢。②』でも読んでください。


===終わり===
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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