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銭形平次。

 随分昔のことなんですけど、テレビである学園ドラマを見ていたら、こういう場面がありました。
 
 主人公の先生が東京から九州に出張に行ったんです。そこでかつての問題児で今はすっかり立派な青年になった教え子に再会するわけです。そして、大いに語り明かすわけですが、そのとき青年は『今の僕は先生が言ってくださったあのときの言葉なくしてはあり得ません。』と涙ながらに感謝します。ところが、先生は、青年が彼の手をてこずらせた生徒であったこともちゃんと記憶しているし、その問題児が見違えるように立派な社会人になって酒を酌みかわせるようになったことも心から喜んでいるのは間違いないんですが、自分が発言して彼の支えになってきたという『あのときの言葉』がどうしても思い出せません。しかし、いまさら本人に聞くわけにもいかず、かと言って『覚えていない』と水を差すようなことも言えずに苦悶したまま彼と別れてしまいます。

 学生から社会人になったとき、何が違ったかといって『とても御しがたい人』を避けては通れなくなった、ってことが一番大きかったことのひとつのように思います。『とても御しがたい人』というのは別の言い方をすれば、『うわあ、つきあってられん!』っていうことですね。学生の時は、価値観や趣味、そして行動範囲などが同じような人だけ相手にしていればよかったわけです。今から思うと、とてもとても居心地のいい環境でした。しかし、つきあう相手を選り好みして糊口出来るほどの特殊技能を持たない僕は、社会に出たらそういうわけにはいきませんでした。
 是非はともかくとして『うわあ、こんな人、俺の理解の範囲を超えてるぞ』とか『たまらん!きつっ!二度と会いたくない!』なんていう御仁との接触も不可避となったわけです。それは時に、会社の上司や同僚であり、時には社外の取引先の人であり、あるいはお医者さんや行政側の人、であったりさまざまでした。
 そして、その環境は今も基本的には変わっていません。なにしろ僕はその後も特殊技能は得てませんから。
 先日新聞を読んでいたら、敗戦後に『投手の継投策を誤ったのでは?』と新聞記者に聞かれた某プロ野球球団の監督が、これに対し、
 「だったら、おまえがやれ。」
 と不機嫌に答えた、という記事を読んで、その監督には申し訳ないですけど、笑っちゃいました。と、同時に『どんなに立場上の強弱がはっきりしていても宮仕えの身分同士では許されざる言い回しだ。一度でいいから言ってみたいな。』と思ってしまいました。
 これはプロ野球というごくごく限られた人だけの特殊技能集団への所属、ということが相手や会話の内容を選ばないことを許容しているわけです。羨ましい限りです。

 本部長 「みどり君、あなたね、決算をこんなに狂わせて
      おいて、理由が『クレーム損のためです』
      ってね、そういう不測の事態も加味して
      だな、予算を死守してこその、担当者という
      クラスタ―としての、機能発揮とだな、そう
      いうもんじゃないのかね?」
 僕(即答)「だったら、おまえがやれ。」

 ・・これは言ってみたい!現実に僕がこんな言動をしたら、ちょっとした『舌禍事件』です。いや、それではすまないです、きっと。でも言って見たいなあ。

 ただ、年齢を重ねるにつれて『御しがたい人』をどう扱うか、あるいはそういう人との接触によって感じるストレスをどう発散するのかという経験値、いや、諦念値かな、のレベルは上がってきたようで、若い頃よりも『たまらん!』という頻度は少なくなったような気はします。
 しかし、それでもなお、宮仕えを続けるかぎり-僕自身が誰かにとって御しがたい人になる可能性も含めて-この問題が僕の周りから根絶されることはありえないでしょう。

 もちろん今も例外ではありません。いえ、例外どころか、特筆すべきとも言えるでしょう、現在僕にとってもっとも『御しがたい人』は、不可避どころかたいへん身近にいるんであります。
 それこそ、まさに幸か不幸か、その人物は誰あろう実の父、みどりかずまさ、その人なのであります。(ええ、毎度申し訳ありませんが、かずまさは今まで何回も登場していますので、例によって、先にそちらの方を読まれることをお勧め、いや強制します。10年4月24日『父親みどりかずまさ。』、5月16日『母は強し。』、5月23日『みぢかえない話③。』、9月5日『にちつかしょくの法則。』、10月2日『科学的追認実験。』、12月18日『尖端恐怖症。』、11年1月18日『みぢかえる父かずまさ』、3月5日『応援。』、3月21日『デオキシリボ核酸に含有されたる逸脱性についての考察。』をご参照ください。)
 我が父ながら、今さら『ええ、こんな人いないぞ!』っていうことをしでかして、かつ親子であるがゆえに、僕がしばし巻き添えを食らうんであります。

 つい先日、僕は、父とふたりである事情から公務員のソーシャルワーカーの女性ひとりと面談をしていました。実は詳細の記述はしませんが、この面談はその必要性や目的からいうと比較的に僕よりも父親に必要な面談だったんです。でも、全然自分で動こうとしないかずまさに痺れを切らして、僕が強引にソーシャルワーカーのところに仕事を半休までして彼を連れていったんです。面談迄の手続きと同じく、面談中もかずまさは、まるで当事者意識がなくて会話にほとんど参加しません。ほぼ全部が僕とソーシャルワーカーの方との会話で面談は進行しています。まあ、こういう男だからしょうがないや、と思いながら話しを進めていたとき、ごく自然な流れで、彼女が僕の母親、即ち、かずまさの妻、について質問を始め、会話の中心が、しばし母に関しての情報提供となりました。

 「はい。ええと、お母様のお住まいは?
  ご一緒で?」
 「いえ、母親はこの父と二人暮らしで
  かくかくしかじか市に住んでます。」
 「はあ、なるほど。では最寄り駅は・・」
 「はい、JRの東かくかくしかじか駅です。」
 「ああ、そうですか。で、お母様のお年を
  伺ってもよろしいですか?」
 そのときです。それまであたかも『込んでいるレストランで相席になった人』かのごとく、発言どころか反応の兆しすら示さなかったかずまさが急に僕の機先を制し、僕が、
 「はい、ななじゅ・・・」
 と言いかけたのを遮り、
 「71歳です。ことしの8月で72歳になりますが、
  見かけは年齢より若く見えます!」
 と大きな声で宣言しました。どうも面談の本旨はともかく、自分の妻は見た目より若い、ということを強調したかったようで、それゆえ強引に会話のターンオーバーに及んだわけです。
 僕は、
 「いや、あのね、お父さん、見た目が若いとかは
  別にどうでもいんだよ。年齢をお尋ねになっている
  だけなんだから。」
 と諭しました。まったくそれまで一切会話には入ってこなかったくせに。
 幸いそこはさすがにソーシャルワーカーだけあって、彼女は笑いをかみ殺しつつも、
 「いえいえ。大事なことです。ご主人様から
  見た目より若いなんていわれるなんてお母様は
  お幸せな方ですよ。」
 と受けとめてくださいました。僕は、何だかなあ、わが父ながら珍しい人間だな、と恐縮しきりでした。

 さらにこれもまたそう遠からぬ過日、父親と二人でタクシーの後部座席に揺られていときのことです。僕らは、あるシリアスな問題で意見が対立していて道すがら激しく議論をしていました。ふたりとも熱くなっていたのでタクシーの運転手さんには迷惑だったと思います。
 それはなんの前兆もなく発せられました。頭に血が上った二人の議論は妥結を見るには遠く、束の間に落ち着いたわけでもなく、場面は今まさに僕の主張に対しての父親の反論がなされん、というときでした。
 「・・なわけだよ。俺は最初からそう言ってるだろ!
  お父さんの選択の根拠が俺には理解できない!」
 「ええと!いくらですか!?」
 ・・この会話おわかりになりますか?無理ですよね?だって、当事者の僕もその瞬間理解できませんでしたから。
 かずまさは、あたかも初めからひとりであった乗客かのように一瞬にして僕の存在をなきものにして、突如運転手さんに言い放ったんです。

 びっくりです!

 高速道路に乗ったわけでもないのに、まだ走行中のタクシーの運転手に料金を尋ねる人間なんか初めてみました。
 まったくもって僕自身このとき、瞬間何が起きたのか理解ができませんでした。だって、
 ①そもそも、僕とかずまさは白熱した議論の最中である。
 ②タクシーはまだ走行中である。
 ③かずまさは『今いくらか』にはどうも興味がない。
 ④なぜなら、『今いくらか』は目の前のメーターを
  見れば明々白々としてる。
 ⑤それゆえ、どうもかずまさは議論は議論として、
  『最終的にいくら払えばいいのか』を突如として 
   知りたくなり、いきなり運転手に詰問をした。
 ということになるわけですから。
 もちろん、この『寿司屋でお勘定を頼む』みたいな客の行動に虚をつかれた運転手さんは大いに動揺して、
 「え?は?いや・・」
 と、しどろもどろになってます。
 ようやくかろうじて事態を把握した僕が、
 「いや、お父さん、いくらですかって、まだ着いて
  ないんだから、メーターを倒すまでわかんない
  でしょ?」
 としごくまっとうに(ですよね?)諌めると、
 「ばかやろ。もうすぐそこだから、メーター
  なんか変わるわけないだろ!」
 ときわめて理不尽に(ですよね?)僕を罵倒しました。
 「いや、お父さん、すぐそこ、つったって、メーターは
  距離と時間の併用なんだから。それに今いくらか知りたい
  んだったら、メーターを見りゃいいじゃねえか。」
 と言う僕の反論を、かずまさは、
 「やかましい!」
 と勝手極まりない日本語で一喝すると、またぞろ、
 「いくらっすか?」
 と、僕らの間に急に挟まれて、
 「・・・・・・。」
 という感じで、無言で運転し続けるかわいそうな運転手さんに『お勘定』を迫るんであります。
 幸い、このときは終始無言の運転手、父を諭す僕、息子を罵倒しては運転手に勘定を迫るかずまさ、という三者での不毛な会話をふたまわりくらい続けているうちに目的地に到着してしまい、到着したところでおろしたメーターの金額を支払う、という常識的な売買契約の終結で事なきをえました。

 ところが、その三時間後、帰路またしても尋常ならざるかずまさの『御しがたい行動』に遭遇することになりました。ここでも、タクシーに乗りました。
 僕はともかく、かずまさはどうも先を急いでいるらしく、タクシーに乗るなり、
 「運転手さん、JRの駅まで、ひとっぱしり!」
 と今時あんまり聞かない大時代的な、銭形平次が駕籠かきに頼むみたいな言葉を発しました。僕らの議論はまだ平行線をたどっていて、また車内で激しい口論が始まりました。すると、またしても議論の方向性を無視して、かずまさが、
 「おい、降りろ。」
 と唐突に言いました。僕は、へ?今乗ったばかりじゃないか、と呆然としていましたが、父はそんな息子に構わず、助手席のうしろにいた僕を車から押し出し、ついさっき『ひとっぱしり』なんて言った相手に、
 「おります!」
 と言ってお金を払って降車してしまいました。
 「だめだ。道が混んでるから歩く方が早い、歩くぞ。」
 降りろ、って言う前にそういう方針の説明の方が先だろ、まあ、いいか、と思いながら口論の続きをしながらほんの2,3ブロック歩き、僕が、
 「そもそもだな、お父さんはいい年して決断力がだな・・」
 と力説しているとき、かずまさは今度はだしぬけに通りに向かって手を挙げました。え、ちょっと、あんた何を、と自分の言葉と思考の行く先を見失った僕の目の前で、かずまさは止まったタクシーに乗りこみ、まさかと疑う隙もなく、
 「運転手さん、JRの駅まで、ひとっぱしり!
  おい、ケイタ乗れ!」
 「・・・・・・」
 どうも歩いているうちに、渋滞をぬけたのを感じてタクシーの方がやっぱり早い、と判断したようなんです。でも、ということは俺の言ったことを彼は全然聞いてなかったってことじゃんか・・・と、僕は最早憮然と車中の人になります。『駅までひとっぱしり』ってデジャヴかよ、なんて思っていたら、それだけではすみませんでした。いったい、この男はよくもまあ、社会人としてまともにやってこられたな、と呆れてしまいます。かずまさはごく普通の会社で終身雇用を全うさせていただいたんですけど、そのことが僕には不思議でしょうがないです。そうです。現在のところ僕にとって不可避なんだけどもっとも『御しがたい人』かずまさは、また『寿司屋でお勘定』を敢行したんです。

 かずまさ「運転手さん、いくらっすか?」
 って、やっぱりデジャヴ???
 運転手 「へ?あの、その・・・・・」
 僕   「いや、お父さんね、まだ着いてないんだから・・」
 かずまさ「ばかやろ!もうそこだから変わるわきゃねえだろ!」
 運転手 「・・・・・」
 僕   「いや・・だから距離じゃなくて時間で上がるかも・・」
 かずまさ「やかましい!もう上がらねえから聞いてるんだあ!」
 運転手 「・・・・・」

 気の毒に、今回の運転手さんは気の弱い方と見えて『ひとっぱしり!』と言ったかと思うと『もうメーターは上がらないんだあ!』っと決めつけ、メーターに料金が表示されているにもかかわらず『いくらだ?』と迫る今世紀最初の銭形平次との遭遇-おそらくは、間違いなく-に周章狼狽し、まだ目的地に到着していないにもかかわらず、
 「・・あ、は、はい。」
 と唸ったかと思うとなんとメーターをがちゃん、とおろして金額を確定してしまいました。僕はいつのまにか自分が、平次に諫言を試みるも一顧だにされない岡っ引き、という望まざる役柄になっていることに大いに困惑と不満を抱き体を小さくしました・・・。

 冒頭の学園ドラマはこう続きます。
 主人公の先生は、釈然としないまま、翌朝東京に戻るため博多駅のプラットホームで新幹線に乗ろうとします。その時、突然、教え子に自分が何を言ったのか、そして、ああ、あのときのあの言葉が彼の心に響いていたのか、と改めて知り、躊躇なくきびすを返すと、博多駅の改札を強引に出て、まっしぐらにふたたび教え子に会いに行きます。そして、忘却を白状し謝罪するとともに、その言葉で教え子が『僕は今日ある』と言ってくれたことに、俺こそお礼をいう方だと先生が、頭を下げるのであります。
 その言葉とはこうです。

 「いいか!地球はなっ、地球は、お前のために
  回ってるんじゃあ、ないんだっ!!」
 
 かずまさにぴったりの言葉です。

===終わり===

 
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非公開コメント

ありがとうございます。

> さすが重要文化財。
ありがとうございます。これでも自主規制しておりまして、父親の天動説ぶりはご指摘のように『滅多に目にかかれない』日常です。

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さすが重要文化財。
でも、今シリーズはちょっと大変だね。
みどりさん、父上に我慢ならないときもあるでしょうが、自分で全て受け止めないで。ブログのネタになる、と一歩引くくらいのスタンスでいましょう。
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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