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板ばさみ。

 「俺さあ、チャリンコ買い替えようと思ってるんだよね・。」
 「ええっ!!?」
 山根君は、僕の大声に『たかが他人の自転車のことで、その過剰反応は何?』といった表情で逆に怪訝な顔をしていました。

 それは、父母未生の昔からあり、これからも人類がいる限りあるに違いないです。そう『板ばさみ』というのは、されるほうも見ているほうもつらいものです。

 例えば僕はさる営利追求を標榜する団体が用意してくれた椅子と机に着席するために毎日通ってます。しかも、ただ通っているわけではなくてなんと『身に余る給料』をもらっちゃってるんであります。これ、本当です。ただし、その団体は、あろうまいことか『ステークホルダーという僕と面識すらない人達』-ステークフォルダーという名前を雨後の筍の如くある時期急激に猫も杓子も口にし出した頃、特定の個人名かという誤解があったようですが、つまり『シンシア・スタークホルダーさん』とか『ビル・ステークホルダー・ジュニアーさん』とかですね、そうではなくて一般代名詞だそうです。これ、本当です。-に約束した最終利益を達成するに価する役割の対価、として僕の給料を計算しているんだそうです。ううむ、多すぎるはずです。これは本人はともかく、傍からみると『板ばさみ』です。
 「緑の奴、つらかろう、なにしろ『あきらかに給料分の仕事は
  していない』という周りの視線と『しかし、そうはいっても
  今の過分な給料は維持したい。』という私欲との板ばさみにあ
  って。」
 と、いう『板ばさみ』の一例です。

 高校時代の話です。どうか時効にしてください。
 僕は-しつこく説明しちゃいますけど-ラグビー部に入っていました。さして強くない、しがない公立高校のラグビー部でしたが、十五人前後いた同学年の部員が、季節の移ろいに抗いきれずに散っていく花びらのように、はらり、ひらり、とそれぞれの理由で、ひとり、また、ひとり、と退部していきました。そして、日本のどの高校のラグビー部の一年生部員にとっても最初の試練である夏を越え(なぜだかわかんないですけど、僕の知る限りではこの国のラグビー関係者は、ラグビーに最も向いていない『高温多湿な七,八月』という日本のある季節に-いいえ、誰が何と言おうと向いてません!-『最も激しく鍛えるべし』というコンセンサスがあるんですね。)、秋、冬、そして翌年の春を迎える頃には、わずか六人しか残っていませんでした。結局僕らの学年はこの残った六人だけが最後まで部活動を全うしました。
 
 やめてしまった部員の一人に山根君(当時は同級生だし、君づけなんてしてません。でもこのブログ内では以下も会話の中以外は、君づけ、で書きます。理由は彼がやめてしてまって以降疎遠のなったからと、呼び捨てにするには忍びないわけがあるからです。理由はおしまいまで読んでいただければ、だいたいわかります。)という子がいました。小柄ながらがっしりした体格で、かつ俊敏な動きもする山根君は上級生からも期待されていました。しかし、確かなんか持病があってそれが激しい運動に向いていない、とかいう理由で退部してしまいました。記憶が定かではないですが、山根君の退部理由は今回の話題には関係ないので、気にしないでください。山根君はのんびりとしゃべる温厚な性格でした。

 一方、やめなかった六人のうちのひとりにナンバーエイトというポジションをすることになる藤代君という男がおりました。僕とは、クラスも三年間一緒でした。藤代は(以下、呼び捨て。理由は身内同然である、のもありますが、おしまいまで読んでいただければ、理由ははっきりわかります。)体力があって、体も大きかったんですけど、一年生のときは特にやる気が全然ない男で、いつやめてもおかしくなさそうな言動をとるような男でした。でも一人でやめるのは嫌なので、何度か他の部員に退部をけしかけました。しかし、画策しておいてそれにのって他の部員が実際にやめちゃっても藤代は臆面もなく残っちゃうんであります。また彼は、やんちゃでいたずらものでした。そして、特筆すべきは『十代のいたずらな少年』というとなんとなくポジティブな印象も含有されていて、それを称するのにしばしば『でも憎めない奴』などと形容されるものですが、藤代は『正真正銘の憎めるいたずら者』でした。
 例えば、ある日、人もまばらな昼休みの教室で誰かの机の上に金属製のメジャー(当然だれか女子生徒のものと推測されます。)が、ぽつんとおいてありました。当時僕らのクラスは三階か二階だったと記憶しているんですけど、そのメジャーを目にした藤代は、やおら手にとると何を思ったか、いきなり、しかし『機嫌が悪い人がゴミ箱にゴミを捨てるときに、いつもよりちょっと乱暴に捨てる』くらいのごく自然な動きで、窓の外から階下のコンクリートにたたきつけました。メジャーは割れてしまい、そればかりか中味の部品が広範囲に散逸していました。それで多少の罪の意識が芽生えちゃったか、というとそこが『憎めるいたずら者』の真骨頂で、彼は全壊して散逸したメジャーという結果を、つまんなそうに窓から一瞥すると漫画なんぞを読み始めました。
 悪いでしょ?

 僕の母校は、都市郊外の緑鮮やかに萌ゆる地にあり、それは同時に最寄り駅へのアクセスが頗る悪いことを意味していて、八割がたの生徒が自転車通学でした。僕も藤代も山根君もそうです。ある日、すでに部員が六人になってしまっていた頃、僕と藤代他数名の同学年のラグビー部員が帰宅しようとしていました。自転車に跨り校内の自転車置き場をぬけて北門から出ようとする途中に事件はおこりました。

 想像していただければ容易なんですけど、組織的な類のそれはともかくとして、時間的にその大部分を占める、とにかく複数人で組んで走ることが主体になるラグビーの練習においては、部員が多ければ多いほどインターバルの時間が長くなります。要は、人数が少ないと効率的だから、他はともかくとして、走ることに主眼をおく練習はつらくなるわけです。だから、部員が減っていってしまうことは僕らにはある種恐怖でもありました。もちろん、藤代もそういうことを感じていたことにおいては例外ではありません。もっというなら彼は、あいつらのせいで練習がきつくなった、などと憎まれ口さえたたいておりました。(自分から退部を何人かにけしかけたにも拘わらず、です。悪いでしょ?)。

 と、そこに運悪く山根君の自転車が駐輪されていました。運動部の僕らと、もはや帰宅部になった山根君とは下校時間に差があるはずなんですけど、おそらく、試験前かなんかで部活動のない週だったんではないかと思います。山根号は素人の目にもそれとわかるいかにも趣味の反映された凝った形の自転車だったので、眼につきやすかったんです。走ればいいや、ってママチャリに乗っている僕には、ハンドルはその意義を外見からだけでは理解しがたい奇妙な曲線を描いてますし、タイヤも妙に細くて、サドルも小さくて堅そうです。

 「お!?」
 藤代が小さくつぶやきました。僕は、なんだかいやな予感がしました。
 案の定、藤代はあたりを見回すことすらせず、
 「山根の野郎、やめたくせにこんな高そうなチャリ乗り
  やがって。あんな奴は、こうだ!」
 というや否や、まっしぐらに山根号の後輪に近づくと、空気をいれる突起を躊躇なくひねりあげました。『プッ!シュウウウー!』という音と共に気持ちいいくらいに空気が抜けて、あわれ山根号の後輪はぺしゃんこになりました(当たり前です。)。そして呆然とする僕に、
 「行くぞ、おおまめ!(『甘受しがたい方』の僕の仇名
  です。2010年12月25日『大豆(おおまめ)に隠された
  真実。』をご参照ください。)」
 と叫ぶと、僕を尻目にはやての如く北門に向かいました。
 僕は、実行者でもないのに小心者なのでびくびくして気になってしょうがないです。ついて行くにはついて行ったものの、正義感から、というより藤代の蛮行に立ち会いながらそれを結果として看過してしまった、という事実を自分にごまかすために、
 「おい、大丈夫かよ。あんなことして。」
 と何度も言いました。大丈夫じゃないに決まってますけど。
でも『憎むめるいたずら者』は、
 「うるせえ!かまうこたあねえ。あいつらが辞めた
  せいで被った俺たちの被害にくらべればかわいい
  もんだ!それにパンクさせたわけじゃないんだか
  らよう!どうせまた自分で空気いれんだろ。」
 と説得力のあるんだか、無いんだかわかんないことを-いや、無いですね-叫びながら風をうけて疾走しています。
 「・・・でも・・・。」
 と藤代の言い訳に、自分だけいい子になろうとした僕の算段は鎧袖一触されてしまいました。

 それから気になって見てましたけど、なるほど藤代のいうように山根君はどうもパンクでないことを確認のうえ、空気を入れ直して、通っているようでした。
 ところが、悪いことに藤代に『帰りがけに山根号の後輪の空気を抜いてすっきりして帰る』というマイ・ブームが到来してしまい、
 「お?やろ、空気いれやがったな!そんなやつは
  こうだ!」
 というと、また、『プッ!シュウウウー!』。いや、そら山根君入れるてみるでしょ、タイヤぺちゃんこなんだから。かつ、藤代自身もそれを想定してたじゃないですか。『やろ、空気いれやがったな!』は無茶です。それに、そもそもが『やめたくせに、そんなやつは・・』であったはず動機が『やろ、空気いれやがったな!・・こうだ!』ってまったくあさってのそれになってます。(『やめたくせに』ならいいのか?っていうと、もちろん、全然よくないです。)
 「いくぞ、おおまめ!」
 『人がせっかく抜いた空気をいれやがったな、気に入らねえ』が主な理由になったから、というわけではないでしょうが、藤代はこれを、毎日のようにやり始めました。

 ちょうど藤代の『こうだ!プシュー!行くぞおおまめ!』マイ・ブームが去ったか去らないか、くらいの、それから数日後の朝のことです。
 各々の方面からぱらぱらと登校してきた自転車たちが校門にむかって、漏斗を通過して落ちてく小豆のように、お互いの距離を自然と縮めながら吸い込まれていくいつもの朝のことでした。僕は、たまたま山根君と並走することになりました。やめたとはいえ、顔見知りだし『いつもこの時間帯にくるの?家から直接自転車?』などと他愛のない会話をしながら自転車を漕いでいました。その時、何の気なしにぼそりと、山根君が話題を変えたんです。
 「俺さあ、チャリンコ買い換えようと思ってるんだよね・。」
 「ええっ!!?」
 山根君は、僕の大声に『たかが他人の自転車のことで、その過剰反応は何?』といった表情で逆に怪訝な顔をしていました。
 「あ、いや、その、なんか格好いい自転車なのに
  もったいないかなと・・。」
 と僕は、しどろもどろになりながら自分の驚愕をごまかしつつ、一方では、どうか藤代のマイ・ブーム-『こうだ!プシュー!行くぞおおまめ!』-が原因でありませんように、と祈るような気持ちです。
 「うん、これ結構するんだよね。俺自転車好きでさあ。」
 と、温厚な山根君は僕の心配をよそに続けます。
 「・・え~と、なんで買い替えちゃうのかな?」
 僕は、びくびくしながらも核心に迫らざるを得ません。
 「なんか、さあ、タイヤがおかしいんだよねえ。」
 「!」
 「パンクでもないのに、しょっちゅう空気がぬけててさ、
  原因がわかんないんだよ。」
 「!」
 いかん、これはいかんです。僕は責任を感じつつ事態収拾を図ります。
 「いや、俺もそういうことあったけどさ、自転車屋さんに見て
  もらって、どこもおかしくないって言われて、そのまま乗って
  たら、大丈夫だったよ。」
 我ながら全然説得力のない嘘です。
 「うん?いや、もういいんだよ、次に買うのもだいたい決めてる
  しさあ。前から欲しかったのがあるんだよ。」
 山根君は(とても呼び捨てにはできません!)、他人が自転車の買い替えることのつぶやきに、常軌を逸して反対を表明する僕の姿勢に多少の疑問を感じながらも持ち前の温厚さを発揮し、軽くいなしています。
 (決めてる!いかん、いかんですぞ。自転車マニアの山根君のことだから新しい自転車もきっと高価なものに違いない。)僕のあせりは募ります。
 「でもさ、自転車屋さんには見せたんでしょ?」
 「ううん。そんなことしないよ。俺さ、みんなと違って、
  自転車屋ができることくらいは自分でできるから。」
 とたいへん得意気です。(いや、そういう自慢はどうでもいいんだよ!自転車に詳しいという自負がかえってあだになってるじゃないか!)僕の隔靴掻痒感は一掃つのります。
 「あー、そう、すごいね。でも、えー、俺、よくわかんないんだ
  けど、空気が抜けちゃって原因がわかんないんならさ、タイヤ
  だけ交換してみるとか・・・。」
 懸命です。今思うと、ひょっとしたらこの時、僕は『タイヤ』とは言わずに『後輪だけ交換してみるとか』などと『山根君が口していないのに、おかしいのは前輪でなくて後輪であること』と具体的に、刑法でいうところの『犯罪当事者しか知らないはずの秘密の暴露』という決定的な証拠を口走っていたかもしれません。

 部活もクラスも同じ藤代という友人を売ってはいけない、否、実は僕も共犯であるということを隠さねばならぬ、という『自己保身』と、事実を知っているひとりとして実は君の自転車はどこも故障していないんですぞ、山根君、大枚をはたいて新しいマニアックな自転車を買うようなことはよしたまえ、と立証しなければという『良心の呵責』とのまさに『板ばさみ』です!
 このうえなくつらいです。

 「いや、いいんだよ。これも長く乗ったし、タイヤごと
  変えるのも結構高いんだよ、これ普通のタイヤと違う
  しね。今回のことでさ、新しいのを買うきっかけにな
  ったしさ。」
 『きっかけ』ってあんた、山根君!その実態は『こうだ!プシュー!行くぞおおまめ!』なんですぞ!僕の提案は素人が何を言ってやがる、という感じで一掃されました。そうこうするうちにだんだんと、学校が近づいてきました。僕は、
 「と、とにかく、山根さ、何だなあ、えー、俺はさ、
  自転車のことよくわかんないけどさ、自転車屋に
  一度見てもらうのがいいと思うんだよねえ。」
 と、むなしく食いさがってそれぞれの教室に分かれて行きました。

 僕は、教室に行くとすぐ藤代を捕まえて、
 「おい、たいへんだぞ。」
 「なんだ、だいず、
  (僕の正しい仇名です。藤代は気分に
  よって僕の呼び方を変えるんです。2010年12月25日
  『大豆(おおまめ)に隠された真実。』をご参照
  ください。) 
  朝から。」 
 「山根が、チャリンコがいつもパンクするから買い替
  えるって言ってるぞ!」
 「・・は?あはははは!馬鹿だなあ!」
 「・・・・・・。」
 憎めるでしょ?

 その後、藤代の『こうだ!プシュー!行くぞおおまめ!』マイ・ブ―ム(いや、ヒズ・ブームかな?)こそ去ったものの、結局僕は、ほどなくして新しい自転車に跨ってうれしそうに登校してくる山根君を見ることになり、しばらくは、暗い気持ちになりました。

 どうか時効にしてください。

 尚、本人の名誉のために言っておきますが、藤代はその後すっかり、まじめで思いやり溢れる大人になり、会社人としても立派に活躍されているようで、たまに会ってもその変身、いや成長ぶりに感心どころか、むかしのやんちゃぶりを知っている僕らには『むしろもの足りない』くらいの『きちんとした大人』になってしまいました。

 ただ、思うんです。山根君も永遠に事実を知らないまま新しい自転車に嬉々として乗り、そのことを豪快に笑い飛ばした藤代は立派な大人になった今、あの時『このうえなくつらかった板ばさみ』を食らい、翻って現在も、藤代と違って会社での不遇をかこち『周りの視線と私欲との板ばさみ』(と少なくとも周りは見ています。)にあり、言わずもがな願わくば御免被りたい『板ばさみという招かれざる長いマイ・ブームが終わらない』僕って、何なんだろう・・と。
 この話、僕だけ損、じゃないですか?

===終わり===

  


 
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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