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定量的と定性的。

 珍しく結論から述べるというリスクから始めます。
 今回は『山案山子の失敗談』です。(もっとも、過去のブログも全部結論から始めたところで特に支障はないです。世に何かを問う、ような話は一編もないですから。)

 宮仕えの身にあって不可欠でありながら資質として僕にないものの一つが『数字に強い』ことです。宮仕え語でいうところの『定量的な』っていう方面です。しかも、僕がそのことに気付いたのは、就職して数年たってからで、なんか同年代の人との会話に最近ボタンの掛け違いみたいなことが多いなあ、と思っていたら、皆さん『数字でものごとを語る』- 定量的に現象をとらえるってことです -ようになっていたわけです。曰く、『日経平均株価が二万何千円の時代にわが社の株価はいくらいくらで』とか『どこそこの国の一人当たりのGDPは米ドル換算でいくらいくらで』とか『全国の百貨店の売上が前年比いくら%増で』・・・っていう具合にです。驚いてしまいます。でも僕は、もともと数字に全然興味が無くて就職してからも『すごい』とか『たくさん』とか『かっちょいい!』とか『じつはK乳(けいにゅう、とお読みください。)じゃないのか?!』なんていう物差しで世間を見聞していたので道理で同年代と話に齟齬があるはずです。僕のこの資質を無理やり宮仕え語で前向きに形容するのなら『定性的な』っていう方面です。
 
 そういう宮仕えとしての非常に重要な瑕疵を自らに発見した僕は『これはいかん!』と驚いてしまいました。それで、驚いてばかりいてもしょうがないので、そういう自らの弱点を克服するように努力をしたか、というと、これが全くせずに今日に至っています。それじゃあ会社で困るんじゃないか、と思われるでしょうが、困っています。
 正確に言うと僕ではなくて、僕が数字に弱いがために『僕の上司や同僚が困っていて』その結果、僕の能力給が低くて、昇進も遅い、けれど、『実は僕はそんなに困っていない』んですけどね。
 『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。』と孫氏の兵法にあるそうですが、僕に言わせると己を知ることの大切さに気付いたくらいで大発見かの如くわざわざ書きとめる、なんぞは思慮浅からんと言わざるを得ません。『己を知って、それを改めて』初めて功なり名をとげるわけで、己を知ったくらいでは、百戦是危険だらけで、課長補佐就任すら是能わず、です。

 そんな僕ゆえ『たしか、十数年まえに二、三回しか確認しあってないが、こ-じもK乳好きだったはず』などという『定性的な』類の話は異常に記憶がいいです。しかも、これまたそういう『ものごとを定性的にとらえて記憶することにおいて自分が他人より秀でている』-言ってしまえば、くだらんことをようく覚えている、ってだけですけど-ことに気付いたのはごく最近です。
 思うに、僕の頭は数字には全然反応しないけれど、定性的なことには頭が反応する、だけでなく、無意識のうちにそれらを『反芻』していわば記憶を上書きし、その保存の堅牢性を高めていっているんだと思います。『そうか、こ-じもK乳好きだったとは、う~~む。これは意外だ、同好の士、否、俺のライバル現わる!』というふうに。そして、その作業が強ければ強いほど『思い出し笑い』を伴うのだと思うんです。僕、よく他人に指摘されるんです。何、にやにやしてるんだ、って。つまり、僕の思い出し笑いは『定性的な記憶維持の堅牢性を高める補完的な役割の露出、あるいは役割そのもの』と言っていいでしょう。
 数字に強い人はその逆で『そうか、この国のひとりあたりのGDPはかくかくしかじか米ドルか。ざっと日本の三分の二だな。このまま過去三年間のような経済成長をこの国が続ければ日本を抜く日がくるかもしれない。う~~む。これは意外だ、新たな市場、否、日本のライバル現わる!』ということを脳の中で復唱して記憶を確かなものにしておられているんではないでしょうか?そしておそらく『どこそこの国のひとりあたりのGDPの反芻』で思い出し笑いをする人はいないです。
 
 ええ、結論から書いた癖に、やっとここから本題です。もう、20年以上前の話です。でも僕は覚えているんです。しかも思い出すたびににやにやして『定性的なデータの上書き』を繰り返しているので、いまだに詳細まで語ることができるんであります。

 今回は、めずらしく、初めてと言っていいくらい山案山子本人には事前了解を得ていないので(別に理由はありません。ちょっと面倒くせえな、と思ったのと、そもそも山案山子と僕の話はだいたい『公序良俗の許す話題かどうか』で書くべきか否かを判断できちゃうんであります。もちろん、これはちょっと書けないな、っていう話しの方がこのブログに書かれる話より数段面白いんですけど。)、山案山子本人もひょっとしたら覚えていないかもしれません。
 ええと、それから、山案山子くんは僕の親友のひとりです。ただし、何回も書いてますけど、別段これといって尊敬できる男でもないです。でもこのブログには、父親と並んで沢山登場していますので、今回初めて読まれる方は(もっとも、そういう方はほとんどおられないと思います。筆者自身の鋭い分析によると、本ブログの読者の97.43%が筆者の知り合いです。)2010年3月27日『みぢかえない話①』、同3月31日『痛い!①』、2011年1月30日『ときと、ばあいと、あいてと。』、2011年2月19日『ラグビー部。』、2011年4月17日『劇団、山案山子。』、を読まれてから以下の話を読まれることをお薦めいたします。

 その頃、僕らはまだ学生で-大学は違いましたけど-毎週のように二人で呑み行ってました。それでよく話が尽きないな、と思われるでしょうが、これがうまくできたもんで、以前にも書いたように-少なくともその年代の頃の僕たちは-二人で飲みに言っているくせに殆んど相手の話をまともにきかずに、自分が喋りたいことをお互いにわあわあしゃべって、そして盛大に呑んで解散!っていうことの連続だったんです。飽きないわけです。
 しかし、そんな中でもごくたまに、しかも大抵唐突に、山案山子がぼそりと話したことで未だに僕の『定性的デ-タの上書きに伴う補完機能たる思い出し笑い』を繰り返させるような会話があるんです。
 
 山「俺、こないださ、いつもみたいにさ・・」
 僕「うん。」
  (そろそろビールやめて焼酎でも飲もうかな?)
 山「三王子で大学の後輩としこたま飲んでてさ、」
 僕「うん、うん・・」
  (あん?こないだも三王子で、しこたまっ、て
   言ってたぞ、またおんなじ話か。んっと
   『いいちこ』くらいにしとくか・・)
 山「それで、金がなくなっちゃってさ、」
 僕「おい、焼酎のまない?」
  (ところで、この男、今日は金持ってるんだろうな?)
 山「それで、どうしようかなと思ったんだけど、」
 僕「うん。」
  (だから焼酎は飲まないのかよ。)
 山「さとるの家に借りに行ったんだよね。」
 僕「ええ!まじ!」

 僕はいきなり真剣に会話に入りこんで、かつ同時にのけぞってしまいました。僕と山案山子は高校時代のラグビー部の同期で、僕が主将で山案山子が副将でした。決して強くはなかったけれど、固定された指導者がおらず、主将と副将が練習内容を自分たちで考えなければならない、というある種他の部員とは違った孤独感がありました。そういうこともあって僕らは仲がよくなったんだと思います。そして、さとるも同じくラグビー部の同期でしたが、卒業してからはそんなに彼とさとるは頻繁に会っていないはずなので、僕の家に『いきなり酔った山案山子が先立つものの工面をしにくること』はあったとしても(実際何回もありましたけど。)間違えても、かような低い低い敷居が、山案山子とさとるの間、にあるとは思えなかったからです。

 山「そう、まじ・・。自分でもよく行ったなと、思うよ。」
 僕「おまえ、さっき『しこたま飲んで』って言ったよな?」
 山「うん。」
 山案山子はなんだか、もごもごしゃべってます。
 僕「電話してから行ったの?」
 山「・・・いや。」
 僕「へ?じゃあおまえ、いきなりさとるん家に行って
   ピンポンしたわけ?」
 山「そうなんだよなあ。ほらあいつの家三王子にあるじゃん?」
 僕「いや、確かにそうだけど、おまえそんなことして
   さとる以外の人が出てきたらどうしようと思ったんだよ。」
 山「うん、さとるのお母さんが出てきた。」
 僕「え!そりゃおまえ恥ずかしいだろ?」
 山「うん。それで金は借りられたんだけどさ・・」
 僕「え?じゃあ、さとるいたの?」
 山「いなかった。」
  (こら、おまえ、話を端折ってるじゃないか!?)
 僕「ええ、いなかった・・って、いなかったのに
   どうやって、さとるにお金借りたんだよ、おまえ。」
 山「・・・うん。それがさ・・・。」
 僕「それが??」
 山「ほら、さとるのお母さん俺らのこと知ってるじゃん?」
 僕「・・・・。」
  (まあ、ラグビー部は比較的人間関係が濃厚だから、自然と同期の名前も親との会話に出てきちゃうからな。でも、だからって、赤ら顔でいきなり親御さんに、金貸してくれ、なんて言わないだろ、普通!)
 山「それで、なんとなく『まあ、山案山子くんお久しぶり、
   今日ねえ生憎、さとる外出していないの。どういうご
   用事?』って聞いてくれて・・」
 僕「でも『生憎いないの』って、きみはさとるを飲みに誘いに
   いったわけではなくて『さとるの財布にご用事』があった
   んじゃないのかね?」

 というのは、以前何回か山案山子が僕の家に『夜討ち融資を依頼』しに来るときはたいてい、僕を誘いにきたんではなくて(建前上か、それらしきことは言ってはいましたけど。でもそれもおかしいですよね。お金が貸主から借主に物理的に移って一時的に懐が潤ったから、といって、借りて即、借主が貸主に『一杯一緒にどう?』って手首でつくったお猪口を妙にななめにひっかける、おっさん仕草付きで言うんです、山案山子は。それも僕の知らない『俺の大学の後輩たちと』って。行くわけないです、そんなの。)、僕の資産-それも流動性の高い資産のみに、ですけど-に用があって来るわけです。

 山「うん、それで、なんか・・どうもそういう趣旨の
   話をしたらしくて・・」
 僕「ええ?酔っ払っていきなりピンポンして、出てきた
   さとるのお母さんに・・」
 山「そう、貸してくれたんだよね。」
 僕「うへえ、そらあすげええなあ。」
 山「うん『山案山子くんなら構わないですよ』って
   言ってくれたかなあ・・・」
 僕「恥ずかしい!!」
 山「・・・うん、恥ずかしい。」
 と、兎も角も、目的を果たしたくせに表情の晴れない山案山子です。
 僕「そらあ、やらかしたなああ。がはは!」
 
 さとるの家は-確かお父様が有名航空会社のパイロットで-ちょっとした邸宅です。そこへ、赤ら顔で千鳥足の山案山子がいきなりピンポンを押して、それで応対してくれたさとるのお母さんから見事無担保融資を取り付けるのにいかなるセールストーク、いやローントークかな?を駆使したのか、全く僕の想像の埒外です。僕は暫時焼酎を頼むことを忘れ、自己嫌悪に浸りきる山案山子を笑いものにすることに集中してしまいました。
 しかし、山案山子はそれだけで終わるようなせこい男ではありません。すでに十分僕を驚かせ、楽しませていながら、さらにぼそぼそと続けます。

 山「それでさ、次の日の朝さとるから電話があってさ、」
 僕「ほう。」
  (そら、さとるにしてみたらわざわざ家にまで来てくれてうれしかったんだろうな。)
 山「さとるにさ、お礼言って、お金はすぐ返すからって
   言ったら・・」
 依然、冴えない顔してます。
 僕「ふむ。そうあるべきだよな。」
 山「そしたら・・・・・・」
 僕「そしたら?」

 そこで、急に山案山子が教会で懺悔する人のような顔-もちろん、実際には見たことはないですけど懺悔する時は人はこういう顔をするんだろうなと思わせるような深刻な顔で-まったく予期しないことをぼそり、と言いました。

 山「さとるが、『山案山子さ、うちの玄関の横にGロして
   いったでしょ?』って。」
 僕「!!!???」

 ええと、ここでいうGロとは(ここでは、じーろ、とお読みください。もちろん実際には『通常の呼称』で会話されました)、アルコール分を飲みすぎたヒトの胃や食道が本人の意思に逆らって、通常の食物摂取の際に行われる嚥下とは『逆しまな蠕動運動』をなし-関西方面でいうところの『えづく』ってやつですね。-、しばし恐竜のような咆哮を伴い、主として週末の道路や駅の端での目撃例が後を絶たないある種の生理的現象の痕跡、のことです。面倒なのと、下品なのと、で以下、会話以外では『逆しまな痕跡』と略しちゃいます。

 僕「しちゃったのか?」

 僕は半信半疑なうえに、呆れると同時に驚愕してしまいました。なぜって、もしその話が本当であれば、山案山子は『逆しまな痕跡』を残すことをこらえきれないくらい酔っ払っているのに、さらに金を借りてでも酒を飲もうとしたのか?、ということ、さらに驚くべきは、金を借りた人-同期のスクラムハーフのお母さん-の家の玄関で『逆しまな痕跡』を残したとしたら、無担保融資をしてくれたさとるのお母さんが姿を消した直後に、遠ざかろうとする努力もせずに『逆しまな痕跡を残すためにいきなりかかみこんだ』可能性がある、ということが頭に浮かんだからです。
 山案山子は僕の質問に答えるかわりに、苦々しい表情で、彼とさとるとの電話の会話を再現してくれました。

 山「『ううん、してないよ。そんなの!』って
   俺言ったわけ。」
 僕「じゃあ、しなかったのか?」
 事態がよく飲み込めない焦燥感と、原因のわからない期待感が僕の心の中で錯綜しています。
 山「いやあ、わかんないと思ったんだよね。」
 僕「・・・・した、ってこと?」
 山「・・うん・・。でもさ、ちょっと悪いじゃん?」
 『ちょっと』じゃないでしょう!留守宅にきて、金借りてって『逆しまな痕跡』を残されたら!
 僕「だから『してないこと』に?」
 山「うん、だって、違うって言い張れると思ったんだよね。
   格好悪いじゃん。金借りた上に・・・」
 そら、まあ通常の『逆しまな痕跡』には名前とか書いてないからな。それにあれを『詳細に分析する人』も見たことないし。
 僕「でも、したんでしょ?」
 山「した。」
 僕「それで?」
 山「それでさ『いやあ、そんなGロなんてしないよお、
   さとる~』ってもう一回言ったの。」
 山案山子は自分から言い出したくせに、もはやなんだか思い出したくもないなあ、って顔になってます。
 僕「それで?」
 山「それでもさ、『いや、山案山子のGロでしょ。わかるよ。』
   って自信満々なわけよ、さとるは。」
 僕「ふむ。なんでだろ?」
 ひとり訝しがる僕への返答はまたしても、彼とさとるの会話の再現で締めくくられました。

 山「『してないよ!』『いや、あれは山案山子のだ。』
   『してないって!』『だってGロのすぐ上の石垣に、
    山案山子の眼鏡があったよ。俺あずかってるから。
    今、眼鏡ないっしょ?』
   『・・・・・ごめん。した。』」
 
 大爆笑です!もちろん、笑っているのは僕だけです。
 僕も経験ありますけど『逆しまな痕跡』を残している最中って涙目になったりするから眼鏡が途中で邪魔になって『とりあえず』外すんですよね。
 さとる邸は、豪邸とはいえないまでもなかなかの構えで、立派な玄関があって、その左右には太股くらいの高さの小さな石垣が這っていて、その上が生垣になっています。一刻も早く『逆しまな痕跡』を残したくて屈みこんだ山案山子には、その石垣の上が眼鏡を『とりあえずそっと置いておく』位置としてはジャストフィットだったのでしょう。そして、翌朝、しまったと思いつつあまりにも恥ずかしいので無罪を主張し続ける山案山子と、さとるの家の前に残された彼の『逆しまな痕跡』と、『とりあえずそっと』のはずだったのに一夜にして『これ以上にない雄弁な証拠』にされてしまった、山案山子の眼鏡!

 山案山子の苦々しい表情は、さとるに対する山案山子の『かつての副将』というプライドどころか、『人間としての信用』が一気に瓦解したことの裏返しだったんです。大喜びする僕に山案山子はなんだか、もごもごと弱弱しい言い訳をしてましたけど、僕に言い訳してもだめです。

 いやあ、山案山子くん、間抜けです。おかしいです。もう20年以上も経つのに、こうやって書きながら何回も思い出し笑いしちゃいました。記憶のさらなる上書き保存であります。

 尚、そのとき山案山子が『いくら借りたのか』はもちろん全然覚えておりません。そこは『定量的な』方面の話ですので・・。
 
===終わり===


 
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おなつかしや。

中央線特快様 おなつかしゅうございます。もうすでにお見限りかとさびしく思っておりました。ところで、「若気の至り」などと同情されるということは、中央線特快様もお名前だけに『せっかく特快にのったのに』逆しまな痕跡を残したくなって、途中下車されて、『中央線各駅停車で帰ってしまった』ことがある、とお見受けしますが、如何?

ご無沙汰してます。中央線に乗るようになってはや一ヶ月。漸く落ち着いてきたかな、と。これからよろしくです。
山案山子さん、何だか気持ちが判ります。これこそ若気の至りってやつでしょう。
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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