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Fish or meat?

 それは、まあ数字的にはそうかもしれません。でも、毎回のぞむにあたって、僕にとってはそういう類の数字は全く説得力がないに等しいです。

 飛行機が苦手なんです。
 ものの数字によると『世界で一番確率的に安全な乗り物』だそうで、実際日本のみならず、この地球上をなんと毎日、しかもあまたの数の飛行機が支障なく飛び回っていることを考えると『確率的に一番安全』という理屈には首肯せざるをえません。
 それに、新幹線が駅を通過したとき真近でみる迫力と轟音の凄さに毎回、突如ジャングルから街中に連れ出されたオランウータンかの如く新鮮に驚愕している僕にしてみれば-あれはすごいです。僕は以前、仕事で東北新幹線の郡山駅によく行く機会があったんですけど、郡山駅には停車しない新幹線と停車する新幹線がありました。それはほかの駅にもよくあることでしょうけど、特筆すべきは郡山駅は新しい駅のせいか、通過する新幹線用に、上りと下りの真ん中に線路があるんです。すなわち通過する新幹線は上下線のプラットホームからかなりの距離を置いた真ん中の線路を走るので、ほぼ徐行しないんです。一緒にその通過をホームで見聞した川辺課長の言を借りると『殺人的やなあ』、僕が言ったんではないです、川辺課長(肩書きは当時)が放った言葉です、と形容されるくらい何回見聞しても壮絶な迫力です。-その『殺人的やなあ、の新幹線の3~4倍というでたらめな速さで進み、しかもほとんど乗客は揺れを感じない』ということを冷静に鑑みれば現代の飛行機がどんなに科学の粋をきわめた秀逸な乗り物か、大いに認めたいところです。

 しかし、実際に乗る時は、どうも『しっくりこない』んですよね。自分の座席の下の機体はどこにもつながっていないという現実と、僕の不安感がどうもうまく折り合いがつかないんです。まさに名実ともに『地に足がついていない』気分になっちゃうんです。

 -僕は実は『地に足がついていない』っていう言葉は、ひょっとしたらタイムマシーンに乗って近未来から過去に行った『飛行機がとても苦手な人』が不安感を形容するのに、思わず『まるで地球に飛行機の足がついていないような』とうっかり発言してしまったことから来ているのではないか、という密かな持論をもっています。この発言を聞いた昔の人は飛行機なんて言葉は聞いたことがないから『飛行機』という言葉はうまく伝播されなくて『まるで足が地球についていないような』になって、そのうち『地球に、ってのも大仰ではないか、同志よ』みたいなことになって『地に足がついていない』という最終形で人口に膾炙するようになったわけです。-

 それくらい、この言葉は僕が飛行機に乗っているときの気分を表す言葉としては『フィジカル・メタフィジカルともに』こちらは、まさに『しっくりとくる』雄弁性をもっています。
 
 かくの如く飛行機を信頼できない僕ですから、エアポケットとか、ちょっとした積乱雲の中で揺れたりすると不安でしょうがないです。といって、酸素マスクが降りてくるようなすごい揺れは一回も経験したことはないです(もちろん、これからもそういうことは御免被りたいです)。ただ、数回、思考停止するような経験-もちろん、僕の物差しで、ですけど-があります。

 あるときは、揺れもさることながら回数が多くて、『平穏な飛行の間に揺れている』のか『揺れている間に平穏に飛んでいる』のかわかんないじゃないですか!とひとり心細く思っていたら、無事着陸した機内で拍手がおきたくらいなので、他の乗客もどうも不安だったとみえます。

 それと、これは是非とも勘弁してほしいんですけど、別の機会にある日本のエア―ラインに搭乗しているときにこういうことがありました。
 まず、
 「これより先、天候不良の場所を通過いたします。
  揺れが予想されますので、皆さま御着席のうえ
  シートベルトを締めてください。尚、揺れまして
  も飛行の安全性にはなんら影響はございません。」
 と例の如く機内アナウンスがあって、それで、そうは言いつつもなんだ大して揺れないじゃないか、なんてことにはならないで、やっぱり盛大に揺れて、そのうち、
 「えー業務連絡、業務連絡、客室乗務員は
  全員着席のうえシートベルト着用のこと。」
 とくぐもった声で、いやに冷静に、しかし、いやでもこちらは穏やかには嚥下しがたいアナウンスが流れて、乗客のみならず乗務員にも着席指示がでました。たまたま僕は、非常口の前の席だったので、僕の前に一人の日本人スチュワ―デスが着席しました。と、そこへ何回目かのかなりの揺れがきました。もちろん僕は、どきどきものです。ところが、その時、僕の前に座っているスチュワーデスが、その揺れでおもわず両手をはらはらと空に泳がせて、もんのすごい不安げな表情で、窓の外を見たかと思うと他のスチュワーデスの方を見たり、と激しく視線を振り回しました。おい、客室乗務員が挙動不審になってどーする!僕はただでさえ怖がりなのに『揺れましても安全です』と主張している側の立場で、しかも飛行機には慣れているはずの人間の『これを、不安がっている、と形容せずしてなんと呼ぶ』という所作を眼の前で見せつけられて動悸がおさまりませんでした。
 勘弁してください。客室乗務員はふりでもいいので、いつも冷静でいてほしいです。お願いします。

 以下に記すことも、揺れよりも、どちらかというと客室乗務員の態度によって記憶に残っている件です。
 もうずいぶん前のことで、どこからどこへ行く飛行機の中でのことかは忘れてしまいましたけど、なにしろたしか国際線で、どこぞの外国のエア―ラインに乗っていました。わりと大きい機体で、窓際に三席、通路を挟んで四席、また通路を挟んで三席、というレイアウトだったと記憶しています。僕は、その真ん中の四席の通路側に座っていました。窓の外は雲ひとつなく明るくて綺麗な青空が一杯にひろがって、ほとんど揺れもなく僕は珍しく穏やかな心で機上の人になっていました。

 食事の時間です。前の方から、食事を入れたキッチンワゴンを外人のスチュワーデスとスチュワードが二人一組で押しながら配りはじめました。乗客一人一人に、
 「今日のメインディッシュは、肉料理と魚料理を用意して
  ございますが、どちらになさいますか?」
 と丁寧に-たぶんです。もちろん英語なので全部はわかんないわけです。でも『ナントカ、ナントカ、you、ナントカ、fish or meat?』って言ってましたからそうに違いないです。-聞いてそれに対応しています。僕は、俺の場合は丁寧さ重視ゆえにあんなに英語の語彙を増やして話しかけられてもかなわんし、別に『失敬な!』なんて怒ったりしないから簡潔に『fish or meat?』とだけ言ってくれないかなあ、なんて思いつつ、どっちもうまそうだなあ、と座席前に入れられていたメニューを見ながら旅人気分を楽しんでいました。そして、僕に食事が配られる順番がきたときです。

 『ドーン!!』

 なんの前触れもなくものすごい揺れがきました。酸素マスクすら出ませんでしたが、大きく高度が一気にさがる(ように感じる)殆んど記憶が飛ぶくらいの唐突かつ大きな揺れで、僕は完璧に思考停止してしまい、心臓だけがはげしく鼓動しています。見ると、さすがのスチュワード達もこの揺れの突発性に対応しきれなかったとみえて、僕の眼の前で、キッチンワゴンの中味が放り出され、肉料理が入ったトレーが通路にこれでもか、と大散乱しています。予期せぬエアーポケットに一瞬だけ入ったものと見えて、揺れは大きく突然でしたが、その後はまた平穏な飛行に戻っています。僕はというと、思考回路こそなんとか戻りつつあるものの、心臓はまだばくんばくんと高鳴りを続けていました。
 が、次の瞬間、僕は、急速に自分の心が平静を取り戻していくのを感じました。なぜなら、眼の前で、肉料理を通路にぶちまけたスチュワードとスチュワーデスが、キッチンワゴンを押さえながら屈託のない笑顔で見つめあっていたのを見たからです。ふたりは言葉こそ多く交わしていませんでしたが、お互いに笑いながら、
 「ヒュー、久しぶりにやられちまったぜ!」
 っていう感じで微塵の動揺もみせず、むしろ、いまにもハイタッチでもしそうな明るい笑顔で通路に散乱した肉料理を片付けはじめました。僕は彼らの態度から『こういうこともあるけど大したことじゃないんだぜ』という無言のメッセージを感じて、安心感につつまれました。そして現金なことに、
 「いやあ、なかなか立派な客室乗務員だ。とっさに
  笑顔で対応して乗客に安心感を与えるなんぞ、
  これぞ、プロだ、うん。さっきのは心配する
  ようなもんじゃないんだな、うん。」
 と心の中で、彼らを大いに絶賛しました。
 彼らは、僕のまえで散乱した肉料理のトレーを片付けると、再び食事を配り始めました・・・。特に問題ないです。すぐに僕の順番になりました。

 ところが、僕に食事を配るだけに来たはずの-先ほどまで満面の笑みを浮かべていた-スチュワードが、いきなり僕の前でうんっと屈みこんで一転、たいへん深刻な表情とゆっくりとした英語で、視線を微塵もそらさずに語りかけはじめました。
 「お客様、たいへん、申しわけありませんが、実は・・」
 んん、ぬおー、なに、なんだ!?さっきの揺れでエンジンが片一方壊れたとか、どっかに緊急着陸するとか、そういうことなのか!?・・いや、それともけが人がでて・・・、おいそんな耳元で話しかけられても俺は医者じゃないですぞ!・・・・・彼の眉間の皺は、一時的なものとはいえ、一旦平静を取り戻した僕の思考を非現実的なまでに混乱させるのに、十分な深さを持って造型されていました。
 あたかも先刻床にぶちまけられた肉料理かの如く千千に乱れる僕の精神状態を知ってか知らずか、彼はおもむろに、こう続けました。
 「fishしか、ありませんが、よろしいでしょうか?」

 そ・こ・か・いっ!!!!

 僕は、彼が僕のためにゆっくり話してくれた英語を頭の中でまず日本語に訳し、そらまあ、あれだけ眼前で肉料理をばら撒いたら、説明はいらん、事情は十分承知していますですぞ、そんなことより、そこはそんな不安を煽るような顔を作る場面ではないじゃないですか、あなた!と心で叫び、彼のシリアスな表情が飛行の安全性とはなんの関係もないことに安堵したのと、かつ、彼の最前の笑顔と、『fish only』の謝罪のためとはいえ、あまりといえばあまりにも大袈裟な眉間の皺、との落差の大きさに思わず声を出して笑ってしまいました。
 「・・うはは、フィッシュ、オーケー、オーケー、
  ノ―プロブレムよ!」
 彼は申しわけなさそうに、魚料理のトレーを置いてくれました・・。

 このブログの読者の中に客室乗務員の方や、その関係者の方がおられたら、どうか、『揺れて客の前で挙動不審になる』のと『肉料理を通路にまき散らして在庫を切らしたことで必要以上に深刻な表情で魚料理しかないことを釈明する』のはどうかご勘弁ください。お願いします。

 それと、まだ行かれたことのない方は一度郡山駅に行かれて『徐行しない新幹線の速さと轟音』を体験してみてください。
 大迫力です。オランウータンの気持ちがわかります。

====終わり====
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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