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安西さん。(上)

 「ああ、苦しかった。もうだめ!」
 春真只中のうららかな日でした。昼食から事務所に戻ってきた安西さんは、その言葉とは裏腹に満面これ笑顔、といった風情です。

 もう随分前のことです。安西さん自身ご記憶にないかもしれません(安西さん、ごめんなさい、事後承諾で書いちゃいます。)。もともと安西さんは、-ええと、入社年次は少し僕より上ですけど、年齢は少し僕より年下の女性です。-、笑顔のよく似合う方で、おそらく彼女を知っている人に安西さんの第一印象を尋ねたら『ああ、あのいつもにこにこしてる子でしょ?』っていうくらい明るい方です。その安西さんが、いつも以上の笑みをうかべながら、しかし、冒頭のようなことを口走りつつ昼食から戻ってこられました。何事ならん、とこちらから聞くまでもなく、我慢できないといった勢いで、
 「もうね、おかしくてご飯も食べられないし、
  一緒にいた子と話しもできないの。」
 と事の顛末を説明してくれました。

 その原因は、会社の友人と二人で外食をしていた安西さんの、たまたますぐ背中側に座っていた見知らぬ若い女性二人組なんだそうです。

 なんでも、最初は、安西さんはごく普通に友人とおしゃべりを楽しみながら食事をしていたそうなんですが、そのうち、うしろの二人組がかわす『大きな声で新入社員を貶す会話』に、意図に反してどんどん引き込まれてしまい、友人との食事に集中しようとする努力を完璧に粉砕されてしまって、最後には友人には悪いけど『とにかく、その会話に聞き入って笑ってしまっていることを見知らぬ二人組に気付かれないようにこらえることだけで精いっぱい』だったんだそうです。もちろん僕はその場にいたわけではなく安西さんの述懐の範囲でしかその場の事はわかりませんが、曰く、再現してみるとその見知らぬ二人は下記のような会話を、しかし、『真剣に』、『あきらかに他人へのウケ狙いではなく』していたそうです。

 「ちょっと、きいてよ!」
 「なに?」
 「今年はいった新人の男の子がさ、ずんげえ
  使えなくてえ。」
 「へえ。でも新人なんてそんな難しいことしないん
  じゃない?」
 -このあたりまでは、そのへんに転がっているありがちな会話ですよね。安西さんもこのへんは、問題なく本来の目的である、友人とのランチに集中できていて、ただ、席があまりに近いのと、見知らぬ二人の声が大きいので、聞くとは無しにその会話が耳にはいってきていた程度、だったと思われます。―
 「そうなの。だからせめて邪魔はすんなよって、新人
  なんてその程度でしょ?フツ―。」
 「うん。」
 -少なくとも片方は、結構、言葉使いは乱暴な女性のようです。-
 「それが電話もまともにとれなくてえ、ソイツ!」
 「へえ、でもたまにそういう子いるじゃん?」
 -そうです。いますよね。この辺りでは安西さんも、まだ磁力は感じていなかったみたいです。―
 「いるけどお、そいつ間違い方がまともじゃ
  なくてさ。」
 「どういうふうに?」
 「あんなの見たことないわよ。」
 -ここらで安西さんはだんだん背後の会話を遮断できなくなってきたようです。―
 「だって、電話つって、新人なんて、とって繋ぐだけでしょ?」
 「そう、そこよ!」
 「なに、どうしたの?」
 「今日さ、おだ課長に国際電話がかかってきたの。
  それくらい、うち、普通じゃん?」
 -海外とのやり取りの多い会社にお勤めとみえます。-
 「うん。」
 「それでさ、その電話をたまたまその新人の男がとったの。」
 「うん。それで、なんか難しいことになったわけ?」
 「それが違うのよ。それならさ、新人くんには無理かなって
  誰でも思うっしょ?そうじゃなくて、ただ、英語でいつも
  の客から、MAY I SPEAK TO MR.ODA?とか言われた
  程度だったわけよ。たぶん。」
 「あ、それで、おださんがいなくて新人が何て言ってい
  いかわからなくて混乱して・・・」
 「違うのよ!おだ課長はソイツのすぐ横にいるわけよ。
  それなのにさ!」
 -もう、安西さんは眼前のランチの味もわからくなってます。-
 「え?じゃあ、さ、HOLD ON、PLEASE.とか言って保留に
  しちゃったらおしまいじゃん?」
 「・・でしょ?しかも英語ができないなら、それも言わずに
  最悪さあ、黙っていきなり保留にして、隣のおだ課長に
  『国際電話です』って言えばいいだけっしょ?新人なら、
  まあそれでもしょうがないかって微笑ましいくらいじゃん?
  でも、そいつさあ・・」
 -釘付けです。『微笑ましい』ではすまないのか!?―
  「そいつ、どうしたと思う?」
 -聞かれてもないのに新人君の対応を妄想してしまう安西さん-  
  「どうしたの?」
  「全く、せめて、邪魔すんなよって感じ。そいつさ、
   どうも研修で教わった『ビジネスでの電話』って奴通り
   に丁寧に対応をしようとしたわけえ。
   『はい只今おだに替わります』ってやつ、あるじゃん。」
  「?それなら問題ないんじゃない?」
  「それがさあ、そいつう、日本語での電話の対応マニュアル
   を強引に英語にしたらいいと判断したみたいでえ、すんげ
   え狼狽してるくせにィ、おださんの目の前で、でかい声で
   さあ・・」
 -もはや安西さんは『全身これ耳』と化してます。―
  「なにを言うかと思ったらあ、固まったまんまさ、いきなり
   『ア、アイ・・チェインジィ・・・・オダッ!!』
   って言いやがってさあ!」
  「ひゃははあ!」
  「『お前オダ課長にへんしんすんのかよお!』ってみんな
   ひっくりかえってえ、・・、ったく使えないでしょ?
   せめて余計なことすんなよな、って感じィ。」

 安西さんは、予想もつかなかった新人くんの対応と、その対応への叱り方の妙に、背後の二人はすでに別の話題に移っているにも関わらず肩を震わせながらその話に笑いのつぼを完璧につかれたことを隠しとおすことに腐心しただけで、本来の目的は果たせずに昼休みを終えてしまったそうです。
 
 僕は、伝聞ながら面白い話だな、と思って聞いていましたが、ふと、過日似たような境遇に-しかし、この場合の安西さんとは違う立場で遭遇したことが-突如脳裏でフラッシュバックされました。

===『続く』・・ええ!?『続く』かよ!?===
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なかなかですな。

なかなかの人材ですね。どさくさにまぎれてこそこそせずに、無理やりねじ込んでしまうその根性、今の相撲協会にも見習ってほしいですね。

No title

私の会社の話です。
仕事柄国際電話は国内の通話とほぼ同数程度かかってくる課に配属された大物新人さん。配属したてで電話をとるのも稀な時期に、たまたま受話器をとったら地球の反対側の国からの電話。「ちっ」と舌打ちしたあと、がちゃりと電話を切り、そして一言「間違い電話すんなよな」と。。。
なかなかのものです。
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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