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桜田門外の変。

 他人の無知は、是非はともかくとして可笑しいものです。が、一般に無知を笑いの対象にするのは褒められた行為ではないです。なぜなら日本語はたいそう難しい言語であって、知っている、知っていない、は所詮『程度の問題』であるからです。
 恥ずかしながら、僕がそういうことに気付いたのはごく最近のことで、社会人になってかなりの年月がたっても『俺は常識のレベルが高い』と勘違いして、他人の無知をあげつらっては、しばしば呵々大笑しておりました。多くの人を傷付けたと思います。
 ごめんなさい。こころからお詫びします。

 僕自身の無知をいくつか披歴しますと、僕は、社会人になってからはじめて、自動車を押し上げる機械が『JACK(ジャッキ)』であることを知り驚愕しました。僕はそれまで、あの機械のことをずっと『蛇器』という漢字をあてる日本語だと思っていたんです。自動車作業員の方がレバーを馴れた手つきでくるくると回すと、『とぐろを巻いた蛇』がとぐろの原型を保ちつつ、くいくいと『鎌首をもたげる』光景をみては、
 「う~~む、『蛇器』とはよく言ったもんだなあ。巧みな表現だ。」
 と、自動車と共にその機械を始めて見た先人の『訳におけるセンス・オブ・ワンダー』にしきりと感心し、自分の知識への誤解の上書きを繰り返していました。だから、ジャッキは英語で、それをそのまま使っている、と知ったとき、『・・・!!!』と絶句し、
 「そうだったのか!じゃあ『蛇のように鎌首をもたげる』は?『訳に
  おける先人のセンス・オブ・ワンダー』は?ひええ両方とも立場も
  何もあったもんじゃない、ではないですか?」
 と俄かには信じられないくらいでした。なんてことはない、僕は自分の『センス』に自分で『ワンダーしていた』無知な男だったわけです。
 それから、『湯葉の材料が豆乳であること』も社会人になるまで知りませんでした。食べ物として敬遠していたからか、というとそうでもなく、むしろ好きな食べ物でした。某南半球の地に駐在をしたとき、-その国の方は豆腐をたくさん食する習慣があります-、一般のスーパーマケットにも湯葉がたくさん売られていて、
 「いや、すごいですねえ。この国の人は日本食好きなんですね。
  こんなとこまで来て湯葉を食べられるなんて思いもしません
  でした。いや、すごい。」
 と駐在歴の古い会社の先輩に言うと、
 「あほか、あんたは。あんだけ豆腐くうてるんやから湯葉もあるに
  きまってるやろ。日本食とは何にも関係あらへんがな。考えたら
  わかるがな、あほか、みどりは!」
 と罵倒され、『へ?どういうこと』と思って、その場ではむにゃむにゃいいながら巧みに話題を変えて、あとでこっそり調べて事実を知って仰天しました。じゃあ、なんだと思ってたんだ、といわれると、これが事実を知ってしまった今となっては、まことにあいまいで、『湯葉≒なんとなく京都』という印象で、それが『京都≒なんとなく日本固有のもの』と僕の頭のなかでデフォルメされて、『地理的にだいたい京都近辺でとれる海か山か川の有機物』くらいに思ってたみたいです。とても豆腐とは結びつきませんでした。
 それから、-実はいっぱいあるんですけど、僕の無知の例としてはこれで最後にします-、これもつい4,5年まえまで『SIMULATION』のことを『シュミレーション』だと思い続けていて、実際にそう発音し、記述してきました。ところが、ある本を読んでいるときに、その著者が他人の本を引用し批評している箇所で、『誤植らしきものもあるが、そのまま引用する』とあって、『シュミレーション(そのまま引用する)』と記述されているのに出会ったんです。
 「はて?どこか違うのかな」
 と僕は全然わからず、自分の数十年にわたる間違いに気付くのにたいへん長い時間がかかりました。たしかに、英語のスペルをよく見れば、『シ』と『ミ』の間に『ュ』の入り込む余地は完全にないですよね。『ひゃああ、あぶねえ。俺もシュミレーションで生きていたぞ。恥ずかしい!ほんとだ、どう読んでもシミュレーションではないですか!』と始めて学習したんです。今まで何十人ものまえで恥をかいてきたことになります。
 そういうわけで、僕は、遅まきながら『自分の常識の程度は常に疑うべきで正しいと思うなかれ』という大人としてあたりまえの境地にやっと最近になって、たどり着きました。
 
 而して他人の無知を笑う資格は僕にはありません、ということをここまで長々と例まで挙げて、述べてきたわけですが、なぜかというと以下の話は『無知による』ことではなくて『意表をつかれた』話として読んでいただきたいからなんです。

 僕がとある瀬戸内の地方都市の、僕にとっての四つめの小学校に通っていたときのことです。もう、数十年前のことですが、あまりの予想外の出来事に、今でも僕は思い出してにやにやしてしまいます。僕は、六年生で、社会の歴史の授業中でした。地方都市ということもあって、中学校を受験する人間など皆無で、のどかな教育環境でした。だから突出して歴史に詳しい子供がいるわけでもなく、しかし、一方で全く歴史に興味のない生徒もストレスを感じることなく毎日をすごしていました。そしてこの話の主人公、通称『おぷだーじ』こと小田君、もあまり歴史には興味がなかったようです。
 予習なんかだれもしてきませんから、先生は、まず全員が教科書に目を通すように、国語でもないのに教科書の音読から授業を開始することにしました。僕らにはよく慣れた光景でした。
 「はい。じゃあ・・小田君。35ページから次のページの段落の
  切れるところまで読んで。」
 「はい。」
 とおぷだーじは素直に立って音読しはじめました。もちろん、小学校の教科書なのでふり仮名がふってあります。だから、あんまり歴史に興味のないおぷだーじにも音読だけなら問題ないです。35ページは桜田門外の変、です。おぷだーじはときどき詰まりながらも大過なく音読を進めていきます。そして、場面はクライマックスである『安政7年(1860年)に水戸藩脱藩浪士らが彦根藩の行列を桜田門外で襲撃し、大老井伊直弼を暗殺しました。』という部分にさしかかりました。そこを読み終えたら、先生が、
 「はい、小田君ありがとう。えー、この事件は・・」
 と本格的な授業へはいっていくであろう、と誰もが思ったときです。
 「あんせいななねん、かっこせんはっぴゃくろくじゅうねん、に、
  みとはん、だっぱん・・・さくらだもんがいでしゅうげきし、」
 と、そこで突然、おぷだーじが無言になりました。繰り返しますが、漢字には全てふり仮名がふられています。だから、音読には知識の有無は関係ないし、教室全体がなぜおぷだーじが絶句したのか、訝しがったその次の瞬間、おぷだーじはあえて読む部分を少し戻してから、こう繋げたのです。

 「さくらだもんがいでしゅうげきし、たいろうい、いなおすけ、
  をあんさつしました。」
 
 教室は大爆笑に満ちました。なぜって、『大老井が名字で、伊直弼が名前ということをおぷだーじに強調して音読される』、なんて誰にも準備ができていなかったからです。いま思い出してもおかしいです。けれど、それはおぷだーじの名誉のためにも、僕の名誉のためにも言っておきますが、僕らは、おぷだーじが『大老という役職名を知らなかった』ことを笑ったのでもないし、『井伊直弼を知らないかもしれない』ことにも心の準備はあったんです。でもまさか、ひと呼吸おいたうえで、姓は『たいろうい』名は『いなおすけ』と、わざわざあいだをあけて読まれる、なんてまったく意表をつかれたわけです。

 『さくらだもんがいで、たいろうい、いなおすけ、が』
 いやああ、おかしいです。今でもにこにこしちゃいます。

 人は年齢や地位をかさねてくると、叱ってくれたり、間違いを指摘してくれる人が少なくなってきます。でもそれは、えらくなったから常識のレベルもあがったわけではないんですね。だから、湯葉に驚いていることを『あほか、おまえは!』と罵倒してくれた人がいた僕は幸せだったと思います。

 ちなみに、最近知り得た『常識』の一例ですが、『ハイジャック』の『ハイ』は『HIGH』ではなく『HI』です。つまり『高い』ではなくて、『ハーイ!』と同じスペルで、高いという意味は無いんですね。ウソだと思う方は、辞書をひいてみてください。
 ハイジャックといえば、『よど号事件』のとき、まだこの英語が定着していなくて、犯人側もうまく人質に説明できずにいた時、人質の中でこの言葉を知っていて乗客に説明したのが、あの現在99歳の現役医師日野原重明さんだそうです。そして、日野原重明さんは犯人グループからの申し出に対して、機内で犯人達から本を借りて読んだ人でもあるそうです。
『ストックホルム症候群』という言葉を思い出させられる逸話です。
 え?ストックホルム症候群を知らない?それはないっしょう?

=========== 終わり ==========



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Re: こんだらー

> > ごぶさたです。みどりさんの駅に特快停まるようになりましたか?
> > はい。記事が如くのケースはみんなもっていることでしょう。かくいう私はテニスコートを均すローラーのことを「コンダラー」だと思っていたうちの一人です。
> > あと某蹴球で味方がボールを保持しているときは「マイボール」と表しますが、敵に渡ったときには「ヤンボール」といいます。田中銀さんがそう決めたのでしょうか?言い方もそうですが使い方も違いますよね。私は高校時代から常々疑問に思っていたのですが、言い出す勇気なくそれの訂正提案をすることなく今に至っています。


『重いこんだら』は『ゲッキョク駐車場』と並び称される有名な間違いですね。重いこんだらのほうは、いま某ローカル局で放送していて先日たまたま見たら、ちゃんと漢字で「思いこんだら」って字幕が出てました。でも間違えてるひと多かったですよね。不思議です。それと、「ヤンボール」の件、わたくしも、「変な読み方だなあ」と思ってましたけど、「使い方も違う」には気付きませんでした。確かに!

こんだらー

> ごぶさたです。みどりさんの駅に特快停まるようになりましたか?
> はい。記事が如くのケースはみんなもっていることでしょう。かくいう私はテニスコートを均すローラーのことを「コンダラー」だと思っていたうちの一人です。
> あと某蹴球で味方がボールを保持しているときは「マイボール」と表しますが、敵に渡ったときには「ヤンボール」といいます。田中銀さんがそう決めたのでしょうか?言い方もそうですが使い方も違いますよね。私は高校時代から常々疑問に思っていたのですが、言い出す勇気なくそれの訂正提案をすることなく今に至っています。
『重いこんだら』は『ゲッキョク駐車場』と並び称される有名な間違いですね。重いこんだらのほうは、いま某ローカル局で放送していて先日たまたま見たら、ちゃんと漢字で「思いこんだら」って字幕が出てました。でも間違えてるひと多かったですよね。不思議です。それと、「ヤンボール」の件、わたくしも、「変な読み方だなあ」と思ってましたけど、「使い方も違う」には気付きませんでした。確かに!

あしたのジョー

ビーフスロガノフ博士様 いつもお読みいただきありがとうございます。よど号、ときて「あしたのジョー」と返されるとは、さりげないインテリゲンチャですね。

No title

日野原さんが借りた本はあしたのジョー?
あ、なんじゃカラマーゾフか。。。

No title

ごぶさたです。みどりさんの駅に特快停まるようになりましたか?
はい。記事が如くのケースはみんなもっていることでしょう。かくいう私はテニスコートを均すローラーのことを「コンダラー」だと思っていたうちの一人です。
あと某蹴球で味方がボールを保持しているときは「マイボール」と表しますが、敵に渡ったときには「ヤンボール」といいます。田中銀さんがそう決めたのでしょうか?言い方もそうですが使い方も違いますよね。私は高校時代から常々疑問に思っていたのですが、言い出す勇気なくそれの訂正提案をすることなく今に至っています。

おお、そうですか!

> 僕も会社の資料にシュミレーションと記し上司に怒られました。それまで、ずーっとシュミレーションだと思ってました。

早速のコメントありがとうございます!!
おお、そうですか!!同じ間違いをされている方がやはりおられましたか!僕は、『ATTACHE CASE』のこともつい最近まで『アタッシュ・ケース』だと思ってました。恥ずかしいです。

No title

僕も会社の資料にシュミレーションと記し上司に怒られました。それまで、ずーっとシュミレーションだと思ってました。

...相変わらず、カッコいい日本語選びで読んでて楽しいっす。
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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