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みぢかえない話④

 巷間話題沸騰の、『普段法螺など全く言いそうもない身近な人間が真剣に主張する、ありえない話』略して『みぢかえない話』ファン各位、今日は、その④です。

 再三紹介申し上げているように、僕のさい君は、外人です。そして、僕と、結婚という近現代を跋扈するある種の契約をしてしまったがゆえに、生まれ育った南半球を離れ、日本に住む運命となりました。人生何がおきるかわかりません。気の毒です。当然、あまたの『文化的摩擦』がそこには生じます。
 そのうち容易に予期できることにして、しかし、最も重要なことのひとつは『食文化』です。さい君の故郷には少なからぬと言ってもいい日本料理屋がありましたので、さい君が日本料理に馴染もうと思えばできないことはない環境ではありました。けれども、どちらかというとさい君は『日本料理というものはまずいもんである』という偏見をもっていました。
曰く、「『焼き肉』は食べてみたが、むかむかする
     だけでうまくない。」
曰く、「『そば』とかいう冷たい麺も食べてみたが
    まずい。」
曰く、「生さかなに至っては、挑んでみたが、吐き
    出した。」
そうです。『はて、これはいかがなものか?』と未熟な二人の前途に早くも暗雲が、と思われました。しかし、幸いにも、それは杞憂に終わり、もちろん全部ではないですが、結婚後日本で暮らすようになってから、いくつかの日本料理に対するさい君の評価が、コペルニクス的転回を見せ始めました。
曰く、
 「おおー、『焼き肉』ってこんなにうまいのか!」
 よくよく聞いてみるとさい君が結婚前に食した焼き肉は、おしなべて『焼き肉屋』というより『焼き肉と称する焼き肉屋』において、らしく、
 「ぜーんぶ、ホットプレートで焼かれていた。」
そうです。それで、日本で、
 「まあまあ、そう言わんと。」
 と連れていった、『炭火で、かつ網焼き』の焼き肉を食べて、その違いに慄然としたようです。そばも『そば』というより『そばと称する麺』を食べていたらしく、いわゆる『こし』を舌で理解して、驚いたようです。同じく、たこ焼き、お好み焼き、寿司、キムチ(これは日本料理といえないかもしれませんけど)・・・、など、
 僕  「まあまあ、そう言わんと。」と誘い、
 さい君「おおー!」と頓悟。
 を連発し、すっかり日本食になじんでくれました。
 それどころか、一年もたたないうちに、
 「焼き肉なら、00園だな。え?今日は、違うの?ええ、あそこはチェーン店だし、肉の仕入れが甘い。どうもしっくりこないなあ。まあ、今日のところはいいか。」
 といっぱしの評価やら、妥協やら、までしてくれるようになり、さらに、
 「ケイタは回転寿司ってどこでも同じだと思ってるん
  じゃない。わかってないなあ。」
 と『旦那の嗜好のレベル』を批判するようになりました。
 あまつさえ、―その時、僕は大阪市内で働いてました―仕事中に電話してきて、何事かと思ったら、
 「帰りに鶴橋によってキムチ買ってこい。今日、
  どうしても、どうしてもキムチが食べたい。」
 と言いだすようになりました。
 「ええ、鶴橋(関西の方にはお分かりになると思います)
  じゃなきゃだめなの?会社から鶴橋って帰宅方向と違
  うんだけど。うちの横のダイエーじゃだめ?」
 「だめ。それも鶴橋のわたしがいつも買う店でちゃんと
  買いなさい。改札出てすぐに買えばいいってもんじゃ
  ないからね。」
  と、『ケイタはキムチの微妙な違いが分からないから』と店の指定さえするようになりました。それで僕は、何度か仕事のあとわざわざ鶴橋まで行ってキムチを外人のさい君に買って帰りました。人生、何が起きるかわかりません。がまんです。

 ある時、そんな『味にうるさい嫁』が僕の母親を誘って、『さい君おすすめの近所の回転寿司』に行くことになりました。
 行ったのは、さい君と僕の母、と僕の息子、の三人です。僕の母、みどりひろこは、その伴侶の(僕の父かずまさ、です)放蕩がゆえ、赤貧洗うが如し、の生活を強いられたおかげで、いまだに『外食』を贅沢な行事ととらまえていて、たいてい何を食べても美味そうで、嬉しそうです。その時も嬉々として、三人で出かけていきました。
 三人が、帰宅しました。なんか様子がいつもと違います。さい君と息子は、お気にいりに行っただけのことはあってか、にこにこしてます。ところが、母親の表情が晴れません。
(あれ、まずかったのかなあ。まあ、偉そうにいっても所詮さい君は外人だからなあ。)
とすこし心配になって、でも直接母親に聞く勇気もなく、と言って、さい君に聞いても返答はきまってるし、と思い、僕は、息子に、しかも、さい君の母国語で探りを入れる、という姑息な手段にでました。
 「フジ、今日、寿司食べにいったろ?」
 「うん、マミとバ―バと三人で行った。」
 「うん、美味しかったか?」
 「うん、美味しかった。まぐろのかたきもあった。」
とにこにこする息子。
 「まぐろのかたき、じゃなくて、たたき、だ。そうか・・・。
  あのー、マミとバーバはいっぱい食べてたか?」
 「うん。」
とにこにこする息子。その横で、
 「あそこは美味しいなあ。」
と余韻に浸ってこれまたにこにこするさい君。
(・・・。どうも味は確かなようだな。でも、なんでお母さんの機嫌が悪いんだろ・・・。まさか!?)
まさか、結婚という近現代の社会に跋扈する契約制度の開闢以来、子子孫孫まで、解決不可能といわれているあの難題、そう、『嫁と姑摩擦』を起こしたんじゃ・・・。いや、それは困る。こっちはただでさえ資本主義にうまく洗脳されきれずにいつもおんぶバッタのようにストレスをおぶっているのに、そのうえに『嫁と姑摩擦』などがかぶさってきたら、それこそ身動きもとれないではないですか。
(むむ。南無三!ここは藪蛇を承知で、母親のストレスを早いうちに吐き出させるしかない。)
 僕は悲愴な覚悟を決めて、しかし、びくびくと切り出しました。
 「お母さん、寿司・・」
 「もう、だめ。お母さん、あんなとこ二度と行けない!」
 ええ!
 「まずかったの?」
 「もう、いまでも、心臓が・・」
 えええ!やっぱり!さい君いったい何をやらかしたんだろう。『心臓が』って、寿司の味どころじゃないじゃないですか!
 「いや、その、そんなにまずかったの?」
 「それどころじゃないわよ!」
 うわああ、間違いない!しかもさい君はにこにこしてる!これはたいへんな、深い溝が、回転すし屋内でふたりの間に・・・。
 「まずいの?」
 早くも打つ矢の尽きた僕は、愚問と自覚しながら、むなしく繰り返します。それに対する、母親の返答の『字面』と怒気と言ってもいい『口調』の矛盾、に僕はさらに困惑してしまいました。
 すなわち、母親の返答はこうです。
 「美味しかったわよ!!」
 へ?すると、問題は寿司屋にはなく、やはり両者の間に何かが・・。
 「美味しかったの?」
 「もう、あんなとこお母さん行けない!」
 「いや、あの、でも美味しかったんでしょ?」
 「美味しかったわよ!でもねえ、ユウ!」
 といきなりさい君に賛同を求める母親。
 「うん、美味しかった。」
 とにこにこするさい君。
 「でも、ねえ!?」
 「ああ、アレか?」
 「そうよ、お母さん、寿司どころじゃなかったわよ。
  ああ、まだどきどきする。」
 「ああ、アレね。」
 とにこにこするさい君。
(ほろ??両者の関係は良好のようである。しかも二度と行かない、などといいつつ母親も味の良さは認めている。態度の悪い店員でもいたかな・・?でも、そういうことには、母親のほうがさい君より寛大なんだけどな。)
とひとまず嫁姑問題を回避できて安堵すると同時に、僕の心にはなんだか隔靴掻痒感が。
 「あれって?」
 「あんなの見たのはじめてよ。もう、どきどきして。」
 「いやだから、さ、何を見たの?」
 母親は、とにかく興奮さめやらない様子です。
 「うまくいったからよかったものの。」
 「??」
『うまく』って。
 「あんなことしてまで。」
 「??」
 「何枚かしら?」
 「??」
 全然わかりません。
 「あのさ、ユウ、何があったの?」
 と僕は、さい君に打つ矢の方向を変えました。
 彼女からの返答は、僕をして思わず言わしめました。
 「うそだろ?」
 さい君は、母親と違って平然と言い放ちました。
 「うん、隣に座ってたグループがね、」
 「うん。」
 「若い男女四人でね、」
 とさい君は、淡々と続けます。
 「うん。」
 「かばんにお皿を入れて帰ったの。」
 「!!!!!!!! うそだろ!」
 「全部じゃないよ。」
 「あ、いや、そういうことではなくて・・。」

 さい君たちは、テーブル席について寿司を食べはじめ、隣にもテーブル席があったそうです。そこには若い男女の四人組がいて、ふと、母親が気がつくと、

『食べたはしから空の皿を持参の大きなかばんに入れていた』

のだそうです。

 「うそだろ?」
 「もう、それで、お母さん、ばれたらどうしようと思って!」
 「へ?」
 「それでどきどきして、寿司どころじゃなくて。」
 「いや、『ばれたらっ』って」
 「でも、うまくお皿持って帰れたのよねえ。ああ、よかった。」
 「よかったあ??」

 母親は、いつのまにかその男女に感情移入して、ことが露見しないようにーつまり食い逃げの成功を祈ってーその男女の一部始終を応援していたので、寿司どころじゃなかったんだそうです。

 信じられません。でも僕の母親は、『法螺吹き』じゃないんです。

 *そもそも、リスクが大きすぎる。
 *一方、リターン(=食い逃げで得る利益)は小さい。なにしろ
  『回転すし』ですから。
 *しかも、『おおきなかばん』を用意して、グループ内にも
  意思疎通がある、周到な確信犯である。

と、そういう現場に居合わせる確率ってすごく低いと思うんです。

 それから、肝心なことですが、店員に言いつけろ、とまではいいませんけど、
・『特に驚かない嫁』も、
・『ばれないように心ひそかに応援した母親』も、
少しずれているような気がします。

 ご参考までに、その後、僕もその回転すしに連れていってもらいました。美味しかったです。当然ですが、『目の前で皿をかばんに詰め込んで帰ってしまう男女』も目撃できませんでした。
 どうもいまだに、身内ながら、この話は信じられません。

========終わり===========


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非公開コメント

はじめましてありがとうございます。

ルビャンカ2様 ありがとうございます。そうでしょ?『わりにあわない』ですよね。ルビャンカ様もお仕事上「意図せず」そういう結果に陥られるんですか?残念ですねえ。これからもお読みください。お願いします。けいた

No title

そんなことする人たちいるんですね。それにしてもハイリスク、ローリターン。。。。ん?あれ、なんかいつも会社で自分が言われているような。。

ありがたい!

皆さん 古い友人から誤字の指摘をいただきました!!密かに訂正しました!! けいた
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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