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ささやかな生きがい。

  その日、実家に帰ったら、たまたま兄一家も来ていて、たいそう賑やかでした。

 『何々がないとわたしは生きていけない』って言う人がおります。僕はというと、今のところ幸か不幸か特にないです。あえていうと阪神タイガースと終身雇用制度くらいですかね。それじゃおまえ、なにか、明日から睡眠なし、食事なしで生きてもらおうじゃねえか、ええ、おうおう!!って言われても困りますけど、僕がここで言わんとしていることは、そういう生物学的にではなくて、いわば形而上のことです。以前僕はビール無しには絶対生きていけない、とうそぶいて毎日水の如くビールを飲んでましたが病気をきっかけに禁止になってから、拍子抜けするほどに簡単に生きてます。むしろ、どちらかというと、『たったいま何々が地球上から消滅しても一向にかまいません』ていうのもののほうがずっと多いです。例えば・・、たばこ、ゴルフ場、メイド喫茶、株、ゲームセンタ―、中日ドラゴンズ、マージャン、横にたいへんセクシーこのうえなく綺麗なお姉さんが頼みもしないの座ってくれていきなり『ふーん、そーなんだー、それでさー、最近なんか面白い話ない?』と人の話しもろくに聞かずに面白い話題の提供を強要された揚句たくさんお金をはらわなきゃいけない類の場所、トマト、パチンコ・・・並べているとあまりの自分の社会への関わりへの薄さに自分でも不安になってきたのでこの辺でやめときます。言うまでもなく、別にそういう業界に携わっている人たちには、『いきなり面白い話題提供を強要するお姉さん』以外には文句もうらみもないのであらかじめご了承ください(僕、面白い話題の提供とか苦手なんです。許してください。そういう人って多いと思いますよ。)。それから、僕はともかく、僕の数少ない友人の中には、上記のもののうち無くなったら生きていけそうもない暮らしむき、をしている人もいるのでその辺はお留起きください。加えて、『いやいや君、いい年をしてそんな狭量で馬鹿げたことを言っちゃいかん。世の中には経済循環というものがある。そもそも経済とは経世済民という文字の略語であって、人と物のつながりをマクロ経済とミクロ経済で考えるべきであり、その中において直接の決済に拘わらないからといっていかなる業態のレーゾン・デ―トルもミクロ経済の最小単位たる個人経済との関係において否定を免れうるものではない、しからずんば、あなたの主張は・・』というよくいる数字に強い頭の良い人、には即、降参しますので、怒らないでください。

 最近突如気付いたんです。僕の二つ上の兄、『みどりしょうごろう』は、『誰かをささやかにいじめることなしには生きていけない男だ』ということに。
 つい先日、実家に行く用事があったんですけど、偶然兄一家が泊まりに来ていてたいへん賑やかでした。兄には男の子が三人います。僕と兄はあまり仲のいい兄弟ではなく、ー男兄弟ってだいたいそういうもんだと思いますけどー大人になった今でもメールしたり、電話したりなんかもちろんしません。そもそも電話番号なんか知らないし。でも兄が結婚して数年たったころ兄嫁が、
 「ほんとに兄弟仲好いんですね。だって、しょう
  ごろうさん、ときどきわたしのことを、ケイタ!
  ってよぶんですよ。」
と言ってました。それを聞いたときは、なんとなく、しっくりこんなあと思ってましたが、それからしばらく経つと今度は遊びにくる兄嫁の言い分がかわってきました。曰く、
 「わたしを大人げなくいじめる。」
 だ、そうで、さらにしばらく経つと、
 「子供のからかい方が大人げない。」
 だ、そうなんです。まあ、兄といえども人の親、子供は男だし、可愛さあまっていじめるんだろう、と。でもそれが、
 「度を超えている。」
 そうなんです。どういうことかというと、例えば、子供の一番のお気にいりのおもちゃを、だしぬけにーつまり叱責や罰のためではなく、いわれもなくー隠しちゃうんですって。へえ、俺がされてた仕打ちと変わらんなあ、我が子にもそんなことしてるのか、と思いながら聞いてたら、
 「しかも、それが見つかるのが嫌だとか言って、
  そのおもちゃを翌日会社に持って行くんですよお。」
 はははは!そりゃあひでええなあ。息子のお気に入りのおもちゃと一緒に出勤までするこたあねえだろう。
 「どう思います?」
 そんなこと聞かれたって、兄の昔の行状を知っている僕は爆笑するだけ、母親は半分笑いながら、半分申し訳ないと謝ってます。今回の兄一家のある光景を見たときに、その『兄嫁をなぜケイタと呼ぶか』という疑問が『この男はそばにささやかにいじめる対象がいないと生きていけないんだ!!』という悟りとともに氷解いたしました。

 幼いころ、僕は正真正銘兄のおもちゃでした。とにかく、暇だなあ、弟でもいじめるかっ、てなもんですね。不思議なことに、二歳違いとはいえ、兄にはなかなか逆らえないもんでー体格や体力ではとうに大きくなった子供が親にはなかなか逆らえないのと似たようなもんでしょうかー兄はそれをいいことに、弟の僕をよくいたぶってました。そして、僕が当時この世で一番おそれたのが、兄の、
 「いいか、おまえ、いまから、XXしたら
『ビンタひゃあぱああつうっ!!』。」
 というご宣託です。子供の頃、頻繁にとはいえないですけど、僕らの母はよく僕らのほっぺたを張り付けました。もちろん、手加減していたはずですが、それはそれで子供心には十分痛く、かつ脅威であり、抑止力になっていました。そのびんたを『百発!!』。僕は、ビンタを百回もされる痛さを精いっぱい想像し、その恐怖はたいへんな抑止力になりました。兄のその決め台詞の言い方も独特で―みなさんに僕の肉声でそのイントネーションを伝えられないのが残念でしょうがないですが―真剣な顔、そして、『ビンタ』は低く抑揚がなくはじまり、最初の『百』の『あ』にアクセントをおいて大きく高く声が裏がえるまで発音し、そのあとの『発』の『あ』を不必要に長く伸ばして脅えを増長し、最後の『つ』もサイレントなどせず、はっきり発音し、恐怖を最高潮に高める言い方でした。僕が何か悪いことをしたわけでもないです。それに実際ビンタ100発なんて逃げればいいだけなのに、僕はとにかく、兄に
 『ビンタひゃあぱああつうっ!!』
と言われると、その恐ろしさに委縮してしまい、ビンタ百発怖さになにもできなくなってしまうんです。ある日、確か、あれはある事情から僕らが神戸に住んでいたときのことなので、僕が小学校の四年、兄が小学校六年ではなかったかと思います。母親が外出し、僕と兄はふたりきりでした。そのころ、そういうとき、僕は兄と遊ぶと碌なことがないので独りで遊ぶようになっていたようです。僕は、当時かろうじてまだ母が使用していた壁に向けておいてあった、足踏み式ミシンの足踏み(あれって動かすのにコツがいるんですよね。)をシーソ―代わりにして遊んでいました。しのびよる悪夢も知らずに。ふと気が付くと壁と逆のほうに兄がしゃがんでいます。
 「?」
 兄は唐突に言いました。
 「ええか、おまえ。いまから俺がええいうまでここにおれ。
もし俺の許可なしで出たら『ビンタひゃあぱああつうっ!!』
やからな!」
 ええ!僕はもう動けません。ただ足踏み式ミシンの足踏みの上で『見えないビンタ百発のカーテン』に幽閉され、悲愴にゆらゆらゆれているだけです。兄にしてみれば、この件にしてもあれにしてもこれにしても、全部暇つぶしだったんでしょう。しかし、僕はそれどころではないです。そのうち、僕は尿意を催してきました。
 「おにいちゃん、おしっこ。」
 「あかん!!『ビンタひゃあぱああつうっ!!』
  受けるんやったら許したる。」
 「・・・・・・。」
 僕は、おしっこのためにビンタ百発を食らう自分をまがまがしく想像し、暫時おしっこをあきらめます。しかし、生理的な欲求は、おさえがたく、みなさんの想像、あるいは期待するがごとく、僕は、とうとうビンタ百発の抑止力に負けて、足踏み式ミシンの下におしっこの海をつくるというたいへんな犠牲を払ってしまいました。
 「ひゃひゃひゃははははっは!こいつおしっこもらして
やんの。あした、みんなに 言うたろ!」
と、思わぬ大戦果におお喜びの兄。
 「だめ、あかん、言わんといてー。」
 と涙と尿で全身水浸しになりながら、それでも足踏みから出ずに兄に訴える弟。
もちろん母の帰宅後、兄は母親にこっぴどく怒られた、はず、です。はず、というのは、僕にとってその後兄が怒られたかどうかはどうでもいいことらしく全然覚えていないからです。斯様に、兄の弟をおもちゃ扱いする、兄にとってのささやかな暇つぶし、弟にとっての人生の煉獄の本当の収斂は、今思うと新山さんという兄が高校一年のときの同級生の出現を待つまで続いたように思います。

 兄一家の一番したの子、しょうまは小学一年生です。その日、しょうまはひとりっきりで一所懸命ダーツ投げに興じていました。そして横にいる兄に向かって、
 「おとうさん、おとうさん、真ん中にあたったら、
  真ん中にあたったら800円ちょうだい、ね?」
 って真剣に言いながら投げてます。当たったらお金頂戴なんてさすがに上に二人もいると言うことがしっかりしてるなあ、なんて思いながらみていると、しょうまに話しかけられるまで全然しょうまに構っていなかった兄は、何を思ったか、ダーツ盤には一瞥もくれずに、にやにやしながら、
 「だめー!」
といきなり却下します。
 「なんで、おとうさん今の真ん中にあたったでしょ?」
すると兄はにやにやも全開に、
 「だめー。ズボンがダサいからだめー。」
 とあさってのことを言います。
 「真ん中にあたっても、履いてるズボンが実は短パンなのに長ズボンのふりさせられているから、ダメー。」
 って重ねて言います。しょうまは、お兄ちゃんたちのお下がりの『短パン』をはかされてるんですね。でも長さがくるぶしのところくらいまであって、それでいて太さは脚の五倍くらいあります。暑いからだぶだぶのほうがいいし、蚊よけにもちょうどよいんでしょう。それをあろうまいことか一家の家長である兄がみんなに聞こえるように、にたにたしながらダメだしをしたわけです。するとしょうまは、いきなりしゃがんでズボンを脱いで、半そでTシャツと小柄の絵のブリーフになって、それでもダーツを続けます。
 「ほら、おとうさん真ん中!真ん中!」
 兄は、ダーツの結果など見ずに、
 「だめー、パンツでダーツなんかはずかしい
  からだめー。」
 と用意していたかのように言います。しょうまはしゃがむとブリーフをまさに脱ぎ捨て、半そでTシャツにフルチンで懸命に、ちいさな腕も折れよとばかりに、真ん中むけてダーツを投げ続けます。ちなみにしょうまは左利きです。
 兄は、かわいそうにお小遣い欲しさに半裸でダーツをする我が子をみて大喜びです。
 と、そこへ、この一連のやりとりのあいだ席をはずしていた兄嫁が―そもそも彼女が最初から居合わせたならかような暴挙は許されません―部屋に戻ってくる気配が。そこで兄は、
 「おい、しょうま、やばいぞ、チンチン出してダーツ
  してるとママに怒られるぞ!!やばい、やばい!!」
 といきなり豹変し、しょうまを煽ります。兄嫁は兄に似ずたいへんなしっかり者で、兄を含め、家の中で下着でうろうろしたりすることなど許しません。ましてや、ここは、兄の実家とはいえ他人の家です。さあ、たいへんです。しょうまは、父親に文句をいう暇もなく、あわててパンツと『長い短パン』をはこうとします。しかし、そこは、小学校一年生、プレッシャーにおされてなかなかうまく履けません。もたもたしてるうちに、ついに兄嫁が部屋に入ってきました。すると、しょうまは刹那に鋭い反応をみせ、ブリーフとズボンを鷲掴みにつかむと、せめて母親の視界から失せんとばかりに、ものすごい勢いで半裸のまま隣の部屋に疾走していきました。けれども、そこはさすがは山の神、一瞥ですべてを理解したようで、兄をすごい勢いで睨んでいます。兄は、妻が全てを理解していていまや非難のベクトルは自分にだけ向いていること、は承知しながら、しかし、しょうまはまだ母親をおそれていること、を前提にさらにしょうまを追い込みます。我が子を指さしながら、
 「ふるちんでダーツをしたおとこ。」
 と自分の妻に言い付けてます。しょうまはいまだに一秒でもはやくブリーフとズボンをはこうともがきながらも、
 「だって、おとうさんが、おとうさんが!!」
 と弁解を要すると勘違いして必死です。
 「おとうさんが、脱いだら、おとうさんが、
  800円くれるって・・」
 上目使いに、しかし緊張から言葉足らずになった弁解は、兄の格好の餌食です。無言で苛立つ兄嫁に向かって、しょうまを指さしながら、
 「お金のために裸を売ったおとこ。さいてー。
  ひゃははははは。さいてー。」
 「おとうさんが、おとうさんがダーツで、脱いだら、
  おとうさんが・・。」
 「ひゃひゃはははっはは!!!!」

 この男は全然変わっとらんなあ、と思いながらその光景を見ていた僕は、そのとき、頓悟したんです。
『そうか!この人は身近にささやかにいじめる対象がないと生きていけない男だったんだ』と。だから、結婚してから『大人げなくいじめるようになった自分の奥さんを大して仲好くもない弟の名前と間違えて呼んでしまった』のも『子供のおもちゃを会社まで持っていってしまう』のもそういう理由からだったんです!

 つい最近、もろもろの事情から単身赴任してしまった兄の、いや、兄の周りの中におとなしくて人のいい方がいやしまいか、と心配です。
 それと今思うと足踏みの上でのおしっこは、ひょっとしたらまだ我慢できたのに、『ビンタひゃあぱああつうっ!!』のカーテンを乱発するとこういうことになるぞ、という、身をもっての弟の計算された抗議だった、ような気もしますが、もう覚えてません。

 尚、兄は僕が斯様なブログを書いてることさえ知りません。知ったら、『ビンタひゃあぱああつうっ!!』されますかね?
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あリがとうございます!!

どなたか存じませんが、お読みいただいたうえにコメントまでありがとうございます!! いまは、兄の子どもたちにいじめ話を暴露して、兄の立場を危うくしています。さすがの兄も「もう勘弁してくれ」って言ってますが許しません!!これからもお読みいただければうれしいです!

No title

次男の悲哀、なんとなくわかるような気がします。私の場合、慧太さんちより年が離れているので露骨ないじめは記憶がありませんが・・・

そうでしょ?

そうですよね。いじめと愛情はまず、するほうにけじめがないとね。しぼりと愛の違いは存じませんが。本になったら、サインしますので是非ご購入ください。ありがとうございます。

No title

ケイタもしょうまもかわいそう。
にいちゃん、、、度を越したらだめだよね。
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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