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ベンツ当たりました。

 つい10日ほど前、近くで夏祭りがありました。
 毎年行われています。

 その夏祭りに、まず11歳の息子がでかけました。母親にお小遣いを千円もらって、駅で夕方の6時前に待ち合わせをして、友人数人と連れ立って出かけたようです。
 当日は平日で僕は出勤していましたが、さい君が、9時から打ち上げられる花火を見たい、というので、一旦帰宅して軽装に着替え、息子を追って、花火の時間近くに二人で行くことにしました。
 
 家に着いたら、さい君にいきなり言われました。
 「フジがなんだかすごく興奮して電話してきたんだけど・・・・」
 息子は、祭り会場から、迷子防止に持たされた携帯電話で母親に電話してきたようです。
 「ほう、何があったの?」
 「いや、それがよくわからないんだけど、とにかく早く来てって言ってるの。なんでも・・」
 「ふん。」
 「屋台のくじ引きをやってね、大当たりを出して、二個しかない景品を当てたんだって。」
 へえ、ああいうものにも当たりはあるのか。だいたい、俺の息子は、祭りの屋台のくじ引きで妙な期待をして貴重な小遣いを使うような男であったか、ううむ、まだ幼いと言おうか、小さいくせに山っ気がある、と言おうか・・・。

 -全く余談ながら、くじ引き店の露天商が詐欺で逮捕された事件がありました。賞金の高額ゲーム機を子供のために当てようとしたあるお父さんが、なんと一回200円~250円のくじを一万円分もひいて全部外れてしまい、その足で警察に通報、これを受けた警察がこの露天商のくじ340個を調べたところ、全部『外れ』で、追及された露天商が賞品はダミーでくじに当たりはない、と自白したため詐欺の疑いで逮捕されちゃったそうです。このお父さんのやや常軌を逸した執念とか、それを受けて実際に捜索しちゃう警察権力とか、ああいうものはもそも全部外れ『かもしれない』という前提は決して市民権を得てなかったのか?、とか、いろんな意味で驚きます。2013年に実際に大阪であった事件です。余談でした。-

 「それでね、なんかね『ママくるまをあてた!』って言ってるの。」
 「クルマ?」
 「そう。」
 「なんだ、そら。プラモデルかなんかか?」
 「いや、それがね、違うんだって。何しろ、二個しかない景品のうちのひとつで『フジのからだと同じくらいの大きさのくるま』なんだって。」
 「え?」
 同じくらいの大きさって、一メートル数十センチある、ってこと???
 「それでね、当てたクルマを見張ってなくちゃいけないから、どこにも行けないんだって。」
 そら、本当に小学生の体くらいあるような車と一緒なら祭り会場内をうろうろはできないだろうけど・・・・。
 僕は、いろんな意味で戸惑いました。
 まず、そもそも上述の事件ではないですが、ああいうものは全部外れかどうか、はともかくとしても、掲げてある高額景品があたるなんてことがあるのか?、それに仮に当たったとして息子のからだ大の大きさ、って何だ?とガリガリ君ですら今までで一度しか当たったことのない父親は不審に思ったわけです。
 「まあ、とにかく、行ってみよう。そもそも、花火を見に行く予定だったわけだし。」
 と、僕と、さい君は祭り会場になっている駅前のある大学のグランドに向かいました。 
 
 行ってみると、結構な人出です。

 祭りでは、中央に櫓が組まれていて、屋台がたくさん出ていて、近隣の子供たちのダンスグループの演技や、太鼓や、ロックバンドの演奏があって、メインとして打ち上げ花火が行われます。
 格別に特筆すべきものがある祭りではありません。いえ、別に貶しているわけでないです。
 むしろ心が和みます。
 なぜなら、この年になった僕が夏祭りというものに好ましい郷愁を感じるのは、そういう謂わば『期待以上でも以下でもないありきたりな行事達によって醸しだされる非日常性』に負うところが大きい、と思うからです。

 人波をかき分けて、ようやく息子の影を認めました。
 花火鑑賞の場所取り用に地面に敷いたビニールシートの上に、なるほど景品と思われる包装されていないむき出しの大きな箱を置いて、息子はその箱にへばりついています。
 ただし、彼の身丈くらい、というのはやっぱり大袈裟で、だいたい60センチくらい、ちょうど息子の半身くらいの大きさですね。
 ふうむ、ほんとだ、話ほどじゃないけど結構な大きさの景品が当たってる。
 「パパ!クルマあたった!クルマ!」
 息子は、まだ自分の口から報告をしていない父親の姿を人混みの中に見つけると、喧騒をつんざいて喚くように言いました。
 「すげえなあ、よく当たったな?」
 「うん!二個しかなかったんだよ、二個!」
 「うん。」
 「見て!」
 息子は誇らしげに透明なフィルムになっている箱の窓部分を僕のほうに向けながら、言いました。
 「ベンツだよ、ベンツ!!」
 ほう、確かにベンツです。箱の窓からメタリックシルバーのベンツの車体が見えます。リモコンカーのようです。
 「ね?ベンツ!」
 息子は、目を大きく見開いて、にこにこしました。
 「本当だ、ベンツだな。」
 僕も、なんだか嬉しくなって、にこにこしました。
 「見張っててね!フジ、ともだちとほかの屋台に行くから、ね?ね?花火が始まったら戻ってくるから、ね?ね?」
 「わかった、わかった、行って来い、見ててやるから。」
 いかなベンツといえども、リモコンの自動車で、-言ってみれば『おもちゃ』ですから-、手放しに喜ぶような年齢かいな、と少々不安に思いながらも、息子の指示に従うことにしました。
 
 暫くのち、花火が終わりました。
 祭りはまだ続きますが、さい君の目的である花火も終わっちゃったし、息子のお友人達も帰るみたいだし、そろそろ我々も帰ろう、ということになり、ビニールシートを畳んでゴミを捨てて、帰宅の途につくことにしました。
 「パパ、重たいからベンツ持って。」
 息子は景品を抱えて歩くのが困難と見えて、僕に再び指示しました。ふむ、重さはそうでもないですが、さすがに半身の大きさがあると、彼が抱えると人間の姿が殆ど隠れて、景品が歩いているようです。これで人混みの中を歩くのは不安と見えます。
 僕は、景品を持ってやりました。
 「落とさないでね。」
 わかってます、わかってます。僕は自分の体で押しつぶしてしまわないように、フィルム窓の部分を外側に向けて、丁寧に景品を胸に抱え、さい君と息子の一歩後を出口に向かって歩き始めました。
 ちょうど花火が終えたのを境に、多くの人が祭りを後にし始めています。一気に狭い出口に向かった大勢の人の流れは、出口で暫時大渋滞を引き起こしました。
 いやあ、大混雑だな、みんな非日常に飢えてるわけか、それにしても、普段こんだけの人がこの小さな街のどこに・・・・・、と僕が心の中で呟いていると、どこからか
 「すんげえ人だな、東大立目じゅうの人が全員出てきているんじゃないの?」
 という大きな話し声が聞こえてきます。やあ、わが意を得たり、二の句を告げてくれたな、と僕は声の出どころである前方へ軽く目を遣りました。
 その時です。
 「ん??」
 なんだろ・・・・・。
 違和感が・・・。はて?
 僕は視線の角度を少し、前後左右にずらしてみました。
 「ははん。なるほど。」
 僕の二、三メートル斜め前にいる、お母さんに手を引かれた小学校低学年と思しき男の子が、振り返って、じーーっと、僕のほうを見つめています。僕の違和感は、この視線を感じてのものだったのです。
 「さては、景品が羨ましいんだな。うん、これくらいの男の子にはそうだろうなあ。」
 と、僕は、若干微笑ましく思いつつ、男の子のそのけれんみのない視線にさらされながら歩を進めました。
 男の子は、僕から視線をそらさず、見つめ続けます。
 「よっぽど羨ましいんだろうなあ。それにしても長いこと見てるな。」
 すると、男の子がお母さんをつついて、僕のほうを指差しながら、見て見てあれ、と彼女に話しかけました。

 ん??なんだなんだ?

 お母さんは、一瞬僕を一瞥して、そのまま前を向き歩いています。それは、確かに大きな景品だけど、長く見つめた挙句、母親に報告までするまでのことかな・・・?
 まあ、いいや。

 と、次の瞬間です。
 んん?
 僕は、男の子から視線を戻し、久しぶりに自分の周りを見渡しました。
 「あ・・・。」
 男の子が母親をつついてまで見せたかった理由を一瞬にして頓悟しました。さい君と息子の姿がないじゃないですか。僕はいつのまにか、彼らからはぐれていたんです。
 そうです。
 男の子は何も羨望から僕を見ていたのではなく、その奇異な光景に視線を外せなかったんです。
 だって、そこにいるのは『剥き出しの景品を愛おしそうに抱えてひとりで祭りから帰宅するTシャツに短パン、サンダル履きの壮年男性』だったからです。
 男の子の目には、

 「ベンツ、当たりました!」

 という吹き出しが、この壮年男性の横に見えたことでしょう。彼はきっと、
 「ねえ、ママ、見て見て、おじさんがくじ引きで当てた玩具の車をひとりで持って帰ってるよ。」
 と母親に言ったに違いありません。
 『息子の代わり』に持ってるだけなのに・・。

 かくして、狭い我が家ではこの数日のあいだ、50センチ弱の(箱から出したら息子の最初の話からさらにサイズダウン致しました。)夏祭りで当たった『Mercedes-Benz SLS 1/10 scale』が、ヴィンヴィンとモーター音もたけだけしく走り回ることとなったのでありました。

===終わり===



 
 

 
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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