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春の心はのどけからまし。

 昨今、何が心をかき乱すといって『唐突な理不尽さ』に勝るものも、そうはありません。

 もちろん、生きていると頻繁に理不尽なことに出会います。
 特に『会社偏に毎日と書いて、りふじんと読む』と巷間言われるくらい、-いえ、実は、僕が今そう言っただけですけどね-、資本主義社会における営利追求団体には納得しないことが溢れております。
 しかし、その類の理不尽さには悲しいかな、ケーススタディを経て、だんだん免疫を持つようになり『お、またかよ・・・うん、いやいや、まあ、こういうこともあるよな。なんつたって会社なんだからしょうがないや。』なんて、幸か不幸か達観できるようになったりするわけです。
 ところが『唐突な理不尽さ』というのは、そういうわけにはいきません。

 つい、先日のことです。
 僕は朝起きて、ぼうっとした頭の中で『随分暖かくなったな、もう桜も終わりか・・・』と考えつつ『ふうむ、世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし、か・・』う~~ん、我ながら風流、と古い短歌などを脳裏に浮かべ、いつものようにひとりで、たらたらと朝食をとっておりました。
 と、珍しく、そう、非常に珍しく、南半球から来たさい君が起きてきて、僕の正面にどかっと座りました。
 以前にも書いたことがあるんですけど、さい君は僕が会社に行くときは、99%布団の中にいます。そのさい君が、朝食中の僕に正対したのであります。
 『ほう、これは珍しい・・』と一瞬思いましたが、僕は引き続き『ふむ、世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし・・・』と心の中で呟き、穏やかに、もそもそと、朝食を続けました。
 さい君は、僕の世話をするでもなく、じっと僕を見つめています。なんで僕の前に座ったのか判然としません。
 と、一瞥ののち、この外人は口を開きました。
 「あのね、夢を見たの。」
 ほう・・・。
 「それはね、どういう夢かというとね・・・。」
 あれ、ちょっとだけ嫌な予感が・・・。いま、会社に行く前なんですけど・・・。

 これも以前にも書いたと思うんですけど、彼女はとても、とても、とても、話が長いんです(自分でも『私は吝嗇で、かつ、話が長い』と認めています。)。
 ううむ、これは・・・と思いましたが、まあいいや、朝から頑張る必要もなかろう、さい君の母国語を頭の中で日本語に変換するのはやめればよいだけだ、と僕は早い段階で判断し、一応聞くような素振りは見せつつも『世の中に絶えて桜のなかりせば春の心ものどけからまし』と、朝食を続けます。
 さい君は、-いつものことですが-、息もつかずに一気呵成に大量の言葉を僕に浴びせはじめました。
 「・・・それでね、ふたりで、逃げるわけ、そしたらね・・」
 話の都合上、彼女の夢の粗筋だけを、かいつまんで書くと、僕とさい君が、包丁を持った一人の暴漢に追いかけられて、二人して逃げる、という夢だそうです(こう書くと、なんだかシンプルな夢のようですが、本当は枝葉末節がゴマンとあって、全部書くとたいへんなことになっちゃいます。)。
 僕はというと先述のように、さい君の言葉を逐語訳するスイッチを、はなからオフにして『世の中に絶えて桜のなかりせば・・・』と詠いながら、適当に相槌を打っていました。
 さい君は、そういう僕の心中を知ってか知らずか、かまわず話をずんずん進めます。
 まあ、続けたいなら、続ければよろしい。

 「・・それでね、私が『こっちに逃げよう!』と言ったら、ケイタがね『いや、こっちだ!こっち!』って言うから、ケイタのいう方向に逃げたわけ・・・・」
 ・・よのなかにたえて・・・、
 「そしたら、ケイタのいう方向は悉く行き止まりで・・・」
 ・・なかりせば・・・、
 「ケイタの指示は全然なってないのよ!」
 ・・はるの・・・、
 「なんで私の言うことを聞かないの?」
 ・・のどけ・・・え?
 いやいや、それはあんたの夢の中のことであって、今、俺に言われても・・・、
 「あなたは、いつも、そう!」
 はあ?
 「先週もそう!バーベキューの火おこしのときに、私が着火剤を待ってからにしなさい、と言うのに、ケイタは炭をバーナーで炙り続けて、結局着火剤が到着するまえにバーナーの燃料が切れたじゃないの!さっきも、そうよ!私のいうことを聞かないからうまくいかないのよ!」
 !から、からましいいっ!!??

 それとこれと、一緒に怒られるの??そんな、ご無体な!

 僕は、春ののどけからましな朝食時に唐突に現れた『理不尽さ』にうまく対処できず、大いに困惑してしまいました。

 さい君が、数ヶ月ぶりに僕が会社に行く前に布団から出てきた目的は『さっき言うことを聞かなかった夫を叱咤するため』だったんです。

 僕は、そろそろ会社にいく時間になってしまったことと、何よりさい君の母国語で『理不尽な!』というのは何て言えばいいのか、出てこなかったので(『あんた、ちょっと論理的ではないぞ』とか意訳しようと思えばできたかもしれませんが、そのときの心持ちは『理不尽な!』という言葉を直訳すること以外を僕の言語中枢に許してくれませんでした。)、つまるところ、さい君の理解し難い怒りに唖然としつつも家をあとにするとになったのであります。

 おいおい、なんで、そうなるんだ?という疑問は未だにありますが、藪蛇になるのを恐れて、それから今に至るまで、さい君とはこの件については話し合っていません。
 
 『唐突な理不尽さ』ここに極まれり、と言えましょう。
 ああ、びっくりした。

=== 終わり ===
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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