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エルメスのバーキン。

 一般に市場が概念を評価し、その『概念の象徴』を冠した物品の相対的に突出したとも言える高い対価を許容する、という行動の背景にはその『概念の象徴としての意匠』への嗜好があるのではなく、そこには『概念の象徴』が含有する出自、物語、歴史、品質、さらにはそれらに裏付けられた威信、等への評価がある、と推測されます。
 
 ・・・『今回は、出だしから何を言いたいのかさっぱりわからん』と思われた方、ごもっともです。
 冒頭の文章は、簡単に言ってしまえば下記のようなことになるのを、『外来語を使わずに経済現象として表現』しようと思った結果で(それも明らかな失敗作で)、而して斯様な回りくどい意味不明な文章になってしまったわけです。
 すなわち、
 『高額ブランド品購入という消費活動は別にそのロゴ・商標自体が格好良いから、ではなくて、そのロゴ・商標の持つストーリーに納得して法外なお金を払うということ、らしい。』
 ってことですね。

 つまり、例えば同じ大きさの無名の鞄を優に数百個以上も買えそうな値段を出してまで『エルメスのバーキン』を購入される人は、別に『馬車と馬のマーク』という商標や『それと見てバーキンとわかる意匠・デザイン』が『素敵だから買うのだ』ということではないですよね。そうではなくて、

 *『エルメスはもともとは200年近く前のフランスの馬具屋が出自』であり、
 *そのため『長きにわたってその腕前・高品質が立証されている』わけで、
 *さらに『バーキンは鞄としては目玉が飛び出るほど高くそれなりの経済力の象徴である』という、

『馬車と馬のマーク及びバーキンさんという女優さん由来の鞄のビジュアルが内包・暗示するストーリー』を評価しているわけです。

 『ロゴ・意匠にストーリーありき。』

 です。
 言うまでもありませんが、我が家には、エルメスのバーキンなんてものはありません。

 では、なんで、僕がこんなことを言い出したのかというと、最近ひょんなことから『ロゴや意匠の持つ意味』について考えさせられる出来事に遭遇したからです。

 ある寒い日、いつものように仕事から帰宅し、入浴もすませてさっぱりし、さあ、あとは晩御飯食べて寝るだけだ、と寛いでいたら、毎年冬になると明らかに生命活動が三割は低下する赤道付近南半球出身のさい君が、
 「子供の塾がもう少しで終わるから迎えにいってくれる?」
 と言いました。
 さい君のこの物言いを言葉に起こすと何やら懇願調にすら見えますが、事実はこういうときのさい君の口調は実に高圧的、かつ断定的で、ほぼ命令に近いため、僕には選択の余地は殆どございません。
 やれやれ、せっかく入浴もすませたのに、またぞろ着替えて寒い中外出か・・・、だいたい、あいつもそろそろ11歳になろうかという男の子なのに、さして遠くもない距離をなんでひとりで帰宅できないんだ・・・・。
 と、心の中を不平不満で満たしながら、それでも結果はおとなしく自転車に跨ると塾に向かいました。

 着くと、すでに学習を終えた息子がジャケットは着ていないものの、自転車用のヘルメットを被って待っています。
 「おい、フジ、帰るぞ!」
 と僕は息子に呼びかけました。
 その時です。
 「うん?」
 僕は、息子が見たこともない服を着ているのに気がつきました。それは、ジャケットの中にきている丸首長袖の服で-つまり屋内では、彼はその服で活動しています。-身頃は空色、襟と袖口は紺色に彩られているトレーナー様の服でした。
 はて、こいつこんな服もってたかしらん?そう思いながら、ようく見るとその左胸に、

 『閩中』

 という漢字二文字が、縦に並んで、その二文字が円いっぱいになるように-上の半円は『閩』の文字、下の半円は『中』の文字でそれぞれ半円を描いています。-ぐにゃりとデフォルメされて描かれています。

 「ん??・・・びん・・ちゅう・・びんちゅう??」

 なんだこれ?『びんちゅう』ってなんだ?
 息子はまだ小学校五年生だけど、どっかの中学校名の略称かな??でも『閩中』って、中学校の名前にしてもちょっとへんてこな名前じゃないか???少なくともこの辺りにも、俺の知る範囲にもそんな名前の中学校なんてないぞ。
 訝しがる父親には全く関せず、彼は帰り支度を始め、その拍子に一瞬息子が背中を僕に見せました。すると、そのトレーナーの背中には、半円を描くように、やや大きめなアルファベットのロゴが入っていました。
 そこにはこうありました。

 『HOI PING』

 「??・・ほ・・い・・ぴ・・ん・・。ほいぴん???」

 『ホイピン』ってなんですかね?どういう意味だろう??
 さらに詳しく観察してみると、そのトレーナーは息子の体にはかなり大きくて、本来なら肩の端にあるべき袖付けの縫い目が、彼の上腕の半ばあたりにあって、袖の下のほうは手首の辺りでかなり生地が余ってだぶついてます。 

 「ははん、これはひょっとすると・・。」
 しばらく観察した後、僕はこの息子の『ホイピンブランドのトレーナーの持つストーリー』についてある仮説を立てました。
 そして、帰宅するとすぐにさい君を捕まえてその仮説を立証すべく、
 「あのさ、フジが着ている『ホイピン』のトレーナーなんだけど・・・あれってさ、ひょっとしたらココの・・」
 とそこまで言いかけると、さい君は、息子に背を向けて口に人差し指をあて、鋭い目配せをすると、
 「しっ!そう、その通り!だけど、本人はなんにも言わずに着てるから黙っておいて!」
 と小声で、しかし強い口調で言いました。

 『ココ』というのは、さい君の姉の長男、つまり愚息の従兄弟の愛称です。
 我が子より二つ年上で香港人です。

 ちょっと話がややこしくなりますが、省略できないので説明しますと、実はさい君の姉も我が家と同様、国際結婚をしており、出身地である南半球から香港に嫁いでいます。毎年夏にさい君が帰省するとき、必ず香港に立ち寄って何泊かしてから帰省するので、息子はココとその妹と仲良く遊んでいます。(ちなみに、うちの息子と彼ら二人との共通言語は、さい君の母国語ですが、この兄妹は両親の国籍と香港という地域の持つ政治的立場のおかげで英語、広東語、北京語、さい君の母国語、の4ヶ国語をしゃべります。すごいですねえ。)
 そのとき、ココのお古の服をもらってくるわけです。

 果たして、僕の仮定どおり、『ホイピンブランド』の服は『ココの中学校の体操着のお古』であり、息子はその大きめの体操着を外出着として着させられており、『閩中』とはおそらくココの通っている中学校の名前の広東語での略称で、『HOI PING』というのは、その英文名、と推測されました。
 
 男の子というのは、一般に女の子に比べて精神面での成長が遅いといわれていますし、服装などに興味を示さなかったり、或いは示し始める年齢がずっと高いか、下手をすると生涯興味を持たなかったりしますが(以前、女の子のお子さんがいる方と話していたら『女の子はもう小学校に入る頃には嗜好が出てきてお仕着せの服では満足しなくなる、靴なんか、ミュールを履きたがる。』って言っていて、我が息子との違いに驚愕しました。)、そういう部分はこういうとき、即ち、母親が倹約のために息子の従兄弟のお古の体操着を彼の普段着として活用する際、にはしごく便利です。

 我が家の少年は『だぶだぶのホイピン』を着させられて学校や塾に行かせられることが、
 『どっか外国の親戚の体操着のお古を着てますよ。』
 という『ロゴの持つストーリー』を世の中に顕示して回っているかもしれない、ということに全く関知せず、唯々諾々と母親のいうままに、このブランドを着まわしていた、というわけです。
 おそらくは『ホイピン』がココのお古である、ことには息子も気付いているでしょうが、そういうものを着させられているということのある種の特異性(すなわち『親がけちである。』という事実を服で以って雄弁に語って歩いているという可能性があること。)には考えが及ばす、恥じらいなど感じていないようだから彼の前では黙っていろ、というのが、さい君の僕に対する、
 「しっ!そう、その通り!だけど、本人はなんにもいわずに着てるから黙っておいて!」
 という囁きと鋭い目配せであったわけです。

 さらに驚いたことには、息子のワードロープにおける『ホイピン』ブランドのコレクションは一点ではななかったのです。
 僕の観察によって判明し、彼が外出着として着させられている現在までに確認できたホイピンブランドコレクションは、先述の長袖のトレーナーの他に、

 *長袖のポロシャツ
   (袖全体・襟が紺、身頃が空色です。左胸に小さく『HP』とあります。おそらく『ホイピン』の略称ですね。背中には大きく『HPCCPS』とあります。これはなんのことやらわかりません。しかし『ホイピン』から派生したロゴであろう、というなんらかのストーリーは感じられます。)

 *濃紺のVネックのセーター
   (左胸に大きく白色で『HP』とあり、『ホイピン』のアイデンテイテイが大きく前面に押し出されていいるアイテムです。)

 *ジャージーの長ズボン
   (灰色の身頃に両足の外側に10センチ巾くらいの大きなラインが赤で入っています。丈が長すぎて裾部分が顕著にだぶだぶです。特にロゴはありません。)

 *ジャージーの半ズボン
   (濃紺の身頃、両足に空色のラインです。トレーナー、ポロシャツと同じ色系統ですが、メイン色と挿し色が逆転しています。これは、実際に体育の授業で着用させられているようです。これもロゴ無しです。)

 とあることが判明し、息子が何かひとつ『ホイピン』を着用し、その隠れたストーリーを人前に示している日の割合はかなり高いことが判明致しました。
 先日せがまれて電車で一時間半先の大きな展示会場であったホビーフェアに一緒に行った際も、彼はごく自然にホイピンのジャージー長ズボンに身を包んでおりました。
 『ホイピン』恐るべし。
 バーキンなくとも、ホイピンあり、です。

 さらに僕が、熱心に『ホイピン』と、それをTPOに構わず無頓着に着まわす(或いは着せ替えさせられている)息子の姿に関心をもって観察するあまり、たまに、さい君との会話の中で、
 「今日は、ホイピンはどこに行った?」
 と『ホイピン』を息子の代名詞として使っていたら、
 「いい加減にしなさい!」
 とさい君に怒られました。
 これはさい君の言はもっともです。

 しかし、僕が息子のことを『ホイピン』と呼ぶにまで至ったのは『ホイピン』というロゴに僕が、
 『遠く香港にいるココのお古の中学校のだぶだぶの体操着を節約のために外出着として母親に着させられていて、それに文句ひとつ言わずに素直に従っている息子の有り様。』
 という『ストーリー』に痛く興味をもったからであり、これはこれで、僕にとっては、
 「ふうむ『ロゴにストーリーありき』だよなあ。」
 と思わせた、立派な『ブランドのストーリー』でありました(『バーキン』は高価ですが『ホイピン』は安価、いえ、只なので、その経済的プレステージはむしろマイナスですけど。)。

 今後ココから譲り受ける『ホイピン』ブランドの次回コレクションでは、どんなアイテムが現れるのか、今から楽しみです。
 まあ、いつまで当の息子が色気つかずに『ホイピン』のへヴイユーザーでいてくれるのか、という問題はありますけど、そちらのほうは一向に成長する様子が見受けらず、着るものには全く頓着していないので、当分は大丈夫そうです。

===終わり===

 



 

 
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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