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さかな

 多勢に無勢、と申しますが、実際、自分の主張が圧倒的に少数派であり、かつ、どうでもいい議論になると、人は、いや、もとい、僕は『興奮して攻撃的になる』ということを身をもって経験しました。
 時は、十数年前、僕が、ある南半球の工場で、日本人は僕だけ、あと三百数十人が全員現地人で、僕を『オヤブン』と呼ばせていた『いちゃもん』の回で紹介申し上げた職場での話しです。
 もちろん、日本人ひとり、首都から三十キロの郊外、取引相手はフランス、使う言葉は現地語と英語、七人いる役員陣のうち現地人の社長を含め毎日職場に来るのは僕独り、というのは『恵まれた環境』とは言い難いです。しかし、一方で、普通の会社の駐在事務所と違って、家族的であったり、 -土曜日も出勤なんですけど、土曜日にはスタッフが幼児を連れてきて事務所の中を幼児が遊びまわっているときがあったり(もちろん、オヤブンは申請された覚えも許可した覚えもないですけど。)- より現地のひとと親密にならざるを得なかったり、という点ではよい経験ができたと思います。
 ある日の午後、その日は、たぶん、シーズン物を扱っている我が工場の数少ない閑散期で、事務所の中もなんとなく南半球らしくのどかです。スタッフも雑談などしつつ時間を過ごしています。事務所の前の玄関には、僕が好きで自費で植えさせた赤と白のブーゲンビリアの花が葉の緑に映えていて、風が、いや空気の移動が、といったほうがいいでしょうか、ゆんらりとその花と葉っぱを揺らしています。とはいっても、のんびりしているのは現地人スタッフで、僕はそこは日本男児ですから、『仕事なんてやろうと思えばいくらでもあるぞ』というニッポンサラリーマンの不文律の例外に洩れず、ひとり北半球温帯型ここにあり、という勢いで仕事をこなしています。と、そのうち、無聊を持て余したスタッフの一人が、唐突に、
 「オヤブン、日本では鶏はなんて鳴くのだ?」
 と聞いて来ました。
 「え?何だって?」
 「だからさ、国によって動物の鳴き声って表現が違うらしいじゃん?日本では鶏は何て鳴くの?」
 (ああ、そういう意味か、こいつらすっかり赤道直下南半球モードだなあ。)
 「こけこっこー。」
 僕は、自分のペースを邪魔されたくないので、簡潔に淡々と答えました。すると、いままで、複数の話題にわかれて雑談していた南半球スタッフがにわかに団結し、全員呵々大笑です。
 「はははは!なになに、もう一回!オヤブン!」
 僕は、自分がおぼえず笑いものにされたことと仕事を中断ざるをえなくなって不機嫌に、もう一度、
 「こけこっこー。」
 「だああははっはっはあああああ!!」
 スタッフお喜びです。(なんでえ、こいつら!今急ぎの仕事がないだけで、原材料の調査とか、サンプルしか作っていない商品の確認とかすることはいくらでもあるだろ。)と日本男児は甚だ不機嫌です。
 「オヤブン、それはどうかしてるよ、鶏はね、」
 いいよ、教えてくれなくても!
 「コッコロ ヨ~、だよ。日本では何だっけ?
  おかしすぎて覚えらんない。」
 「こけこっこー、だ!」
 「ぶうあははははあああ!!」
 「はあはあ、じゃあ、犬は、犬!」
 日本人は十分仕事を掻き乱されたうえに、自分の国では常識であるはずのことどもを笑いものにされて、妙なナショナリズムが勃興し、もはやガチンコ体制です。(お、きたな、犬か?)声もでかくなります。
 「わんわん!」
 「だは!わんわん、だって~~~~~~、
  ぎゃっははっははは!笑いがとまんねええ~!」
 僕は、場が場なら逆の立場であるはずなのに常識を口にする度に笑いものにされることに敗北感を覚え、ひとりガリレオ・ガリレイの如く、隔靴掻痒感、孤独感を感じ、しかし、ガリレオのように表面上妥協する大人でもなく、最早彼らと同じく仕事の手をとめ、興奮して真正面から戦いに挑みます。
 「オヤブン、犬は、ゴンゴン!。わんわ・・って、
  ぎゃはっは!」
 「オヤブン、猫、猫!?」
 「ニャオン!」
 「ニャ・・!!どっはははははははあ!!」
 「蛙!」
 「ゲロゲロ!!」
 「がっっっ、っはははははは!!」
 と、もう、スタッフ;単語で動物名を質問、僕;真剣に大声で鳴き声、スタッフ;大爆笑、の繰り返しが止まりません。なんだ、なんだ!自分ら多勢だからって、笑ってやがるが逆の立場にたってみろ、と僕の苛々とナショナリズムが最高潮に達っせんとしたそのとき、いたずら者の若い女性スタッフのシエルが、
 「さかな!」
 「さかなだ?魚は日本ではなあっ!・・ん?
  さ、さかな?」
 考えこむ僕をみて、シエル曰く、
 「オヤブン!この国でも、さかなは鳴きません
  よーだ!」
 「だっはははっはははっはははははははは!!!
  オヤブンたら、一応考えてやんの!」
 事務所中最高潮の大爆笑です。やられました。普段は、数字に異常によわくて、この子若くて可愛いんだけど、もうちょっとちゃんとできんかなあ、と思っていたシエルにはめられました。

 もう忘れましたが、確か、彼の地では、猫は『メオ~~ン』だったと思います。
 それでも 猫は、にゃおん、ですよね!!ふん! 
 終わり
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Re: No title

> どう考えても こっころよー にはならん。ところ変われば、、、である。
> といわれて思い出したが嘗てヨメととハトの朝の鳴き声について議論をしたことがあったが聞こえ方(or表現の仕方)が全く違いお互い呆然としたことがあった。
コメントありがとうございます。KG96さんのおられるところでは、鶏はなんと鳴かれますか?

No title

どう考えても こっころよー にはならん。ところ変われば、、、である。
といわれて思い出したが嘗てヨメととハトの朝の鳴き声について議論をしたことがあったが聞こえ方(or表現の仕方)が全く違いお互い呆然としたことがあった。
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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