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議会制民主主義。

 ちょっと堅いことを言いますが、『何ものにも洗脳されていない真っ白な人』というのはあんまり存在しないんじゃないか、と僕は思います。
 もちろん、かくいう僕もその例には漏れません。
 例えば、『議会制民主主義は良い制度である。』ということには、僕は比較的に自ら進んでずっぽりと洗脳されているし、それから、そうですね、『会社では利益を稼ぐために働かなければならない。』ということにも、-これにはどちらかというと渋々と、ですが-、洗脳されてます(その割りには全然といってもいいくらい結果を伴っていないのは、洗脳する側、この場合は僕の属する『会社という組織』ですね、にとっては気の毒な結果になっちゃってますけど。)。
 でも、そこは僕なりに、『俺は議会制民主主義も営利追求も絶対的に正しいものではない、とわかっていて、敢えて洗脳されてあげてるんだよ~~~ん、だ。』という(だからと言って、僕は実はマルキシズム信奉者なのだ、とか、アナーキー万歳!とか、いうわけでもないです。どちらかというと『ノンポリ』ですね。)自覚と矜持は担保しつつ、洗脳されているつもりです。

 ところで、僕の息子は僕の意図に反して全然野球に興味がありません。それなりに努力はしてみたんですけど、少年野球に連れていけば一日でやめちゃうし、テレビで僕が毎日のように阪神タイガースの試合を見ているのに一向に野球好き方向に洗脳されてくれる気配がありません。
 今では、僕も『男同士、二人でテレビで野球観戦なんかしたら楽しいだろうな。』という父親らしい願望を諦めて、ひとりで熱心に野球観戦をしています。そういうとき、息子はというと、まるで興味がないからテレビに背中を向けてゲームをしたり、おもちゃをいじったりして、ひとり遊びをしています。

 先日、いつものように僕が阪神戦を(甲子園でのホームゲームだっと思います。)応援していたら、これもいつものようにあさっての方向を向いてひとり遊びをしていた息子が、突然こちらを見て、黙ってテレビを凝視したと思ったら、おもむろに僕のほうを向いて聞きました。
 「ねえ、パパ、なんで『見いつけた!』って言ってるの?」
 「は?」
 唐突であるうえに、野球とは全然関係が無い問い、と思われたので、僕はきょとんとしてしまいました。
 「なんだ、そら?」
 「ほら、パパ、よくきいてよ。おうえんしてるひとたちが、『♪お~~、みいいいつけたああ!』っていってるじゃない?」
 画面では、ちょうど阪神タイガースの西岡選手が打席に立っていました。
 「いや、あのな、違うよ。この選手はさ、にしおかっていう名前だから、『♪お~~、にしおかっ!』って言ってるんだよ。」
 「ちがうよ、パパ、ようくきいてよ、『♪お~~、みい~~つけたああっつ!』っていってるから。」
 僕は、そんなはずはないとは知っていながらも、へえ、聞き様によっては、そういうふうに聞こえるのかな?という単純な疑問が湧いてきたので、しばし黙って画面に見入りました。息子も自分の主張を証明すべく、テレビに正対して野球中継に身を乗り出しています。
 偶然ながら、構図だけは、『男同士、二人でテレビで野球観戦なんかしたら楽しいだろうな。』という僕の希望が一瞬成就したわけです。
 短い沈黙の後、息子が言いました。
 「ほらね、『♪おおお、みいつけたあああ』ていってるじゃん。」
 「言ってないよ。」
 「それでさ、そのあと、『おおお、むうかあしいいっ!』っていってるよ。」
 ??むうかしいい????
 「ちがうよ、フジ、この選手はさ『にしおかつよし』っていう名前なの!だから、阪神ファンの人たちが、『♪おおお、にいしおかあ、おおおお、つうよおおしいい!』って叫んでるんだよ。」
 「ちがうって、『おおお、みいつけたああ、おおお、むううかあしい』だよ。」
 なんだそら。そんなわけないです。
 でも息子の耳には『おお、にしおかあ、おおお、つうよおしいい』が、どうしても『おおお、みいつうけたあ、おおお、むううかあしいい』に聞こえるらしく、主張を変えません。
 これ以上こんなことを議論するのもせんないので、その場は放っておいて僕は再び阪神の応援に戻り、息子も、テレビに背を向けてひとり遊びを再開しだしました。
 
 ところが、それ以来いつもの『野球に対してまるで無関心』というスタンスは変更しないのに、西岡選手が打席に立つ時だけは特別に、息子は態勢を変え、耳をそばだて、
 「あ!『おおお、みいつけあああ、おおお、むううかしいい!』だ!」
 と毎回のように指摘するようになりました。
 僕は、最初のうちこそ、
 「だ、か、ら、違うって。『おおお、にしおかあ、おおお、つうよおおしいい!』なんだって。」
 と逐一反論していましたが、そのうち馬鹿馬鹿しくなって、息子が西岡選手の打席のたびに律儀に『おお、みいつたあ、おお、むううかああしいい!』と言い張るのを、だんだんと適当に受け流すようにするようになりました。
 だいたい、『見いつけた、昔!』って日本語としてもなんだか意味が通じてないじゃないですか?
 何だって野球場に来ている阪神ファンが、みんなで声を揃えて、そんな、考古学者のなり損ないみたようなことを連呼しきゃいけないんでしょうか?
 あり得ません。全く阿呆らしい・・・。

 そんなある日の野球中継で、『走者を置いてここという場面』で左打席に立っていた西岡選手が(蛇足ながら、西岡選手はスイッチヒッターです。)、ライトへ突き刺さるようなラインドライブのホームランを放つ場面に遭遇しました。
 「うおおっしっ!やった!やったあっ!」
 「パパ、どうしたの?」
 あまりの父親の興奮ぶりに驚いたか、息子が尋ねました。
 「ホームランだ、ホームラン、阪神、ぎゃくてんっっ!」
 「へえ、よかったねえ!」
 「うん!」
 「だれがうったの?」
 それに対しての自分の返答を、僕は頭の中で反芻して、すぐに愕然としました。
 すなわち、父親は条件反射的にこう答えたのです。
 
 「うん!むかしだ!」

 ・・・・え?
 どうやら、僕の脳は律儀に主張する息子のコールに嵌ってしまい、いつのまにやら西岡選手が打席に立っているときに、『お、西岡、打てよ、それ、♪おおおお、みいつけたあ、おおお、むうかしいい!』と、ああ阿呆らしい、と思っていたはずの言葉を唱和すること、を繰り返してしまっていたようなんです。
 これを『完璧な洗脳』と言わずして何と言いましょうか!
 自覚だの、矜持だの、のかけらもないです!
 『議会制民主主義』と『営利追求』に加えて『おお、見いつけた!おお、昔!』と、僕が洗脳されていること、がまたひとつ増えてしまいました。
 いやいや、あな恐ろしや。

 暇と、好奇心と、洗脳されてもいいという覚悟、のある人は、今度、是非阪神戦、それもできれば甲子園からの阪神戦中継での、西岡選手が打席に立ったときの応援に耳を澄ましてみてください。
 もちろん、本当に『おおお、みいつけたあ、おおお、むうかあしい!』と聞こえてしまって、そのリフレインが頭から離れなくなったりしても、そこは自己責任というお心積もりで観戦に臨まれたい、とあらかじめ申し上げておきます。
 悪しからず。

=== 終わり ===

 
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ありがとうございます。

中央線特快速様 いつもありがとうございます。息子さんの話にも驚かされますが、「プージッチ」はすごいですねえ、のばすところと、つまるところが同じなだけで、原型をとどめていませんね!

私の義理の妹はチューリップのことをプージッチと記憶していたそうです。あと驚いたのはうちの愚息が幼稚園に通い始めたときに自分の苗字の一文字目を本来なら"も"で始まるところを"の"で始まるところと勘違いしていたことを発見した時。そりゃねえだろ、と思ったものです。
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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