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白昼。②

 以前、僕の課長だった人の口癖のひとつが『Nobody is perfect.』でした。
 実際、欠点の無い人間なんかいない、とは思いますが、僕はというと、驚くまいことか、すごく欠点が多い人間です。それがまたおかしなことに年齢を経るたびに、欠点が新たに増えたり、従来の欠点がさらに深みを増したりするので、重ねて驚いてしまいます。もはや『欠点』というより『欠陥』に近くて、現在の僕という人間の有り様は『欠陥がワイシャツを着てネクタイを締めて通勤している』ようなもんです(もちろん、決して、それでいいや、とは思ってません。)。
 そんな僕の、あまたある欠点の中でも、筆頭格に挙げられ、かつ深刻なのが『行動力無き事』です。
 これはまことに重大な欠点というべきで、よく、
 「私の長所は行動力のあることです!考える前に、行動してしまうタイプです!」
 なあんて言う人がいるけれど、そういう人に出会うと、心底羨ましいなあ、と感心します。その表現を借りるなら僕は、
 「考えに考えた末に、結局行動しない。」
 しかも、
 「行動しなかった結果が招かれざる事態を招いても悔やむどころか諦念してしまう。」
 という人間だからです。実に憂慮すべき欠陥です。

 けれども、そんな僕でも、ごくたまに、本当に稀に、そうですね、数年に一回くらい、ほぼ反応に近く『全く考えもせず行動に出てしまう』ことがあります。
 先日もそうでした。

 その日、僕は、さるファストフード点のレジの前の行列に並んでおりました。カウンター向こうでは、店のロゴの刺繍されたお揃いの帽子、ポロシャツ、エプロンに身を包んだお姉さん二人が、その頬に笑みなどをたたえつつテキパキと客の注文をさばいております。と、そこへ、いかにも『たった今、休憩から戻り、馳せ参じました!』という風情のお兄さん一人がレジの応援に駆けつけました。お兄さんは、やはり、お揃いの帽子、ポロシャツ、でしたが、急いで駆けつけたと見え、エプロンは手に握り締めたままで、まだ身に着けておりません。そうこうするうちに程なく、僕の順番が来ました。僕の接客をしてくれるのは休憩上がりのお兄さんです。
 その時、僕は始めて気がついたんですけど(それも後述するようなことがあったからこそです。)、その店のカウンター内は客席よりやや床が高くなっていて、僕の目線はお兄さんの腰のあたりにありました。特に支障はないです。
 お兄さんは、まだバタバタとしながら、エプロンを片手に掴み、それを着ようとしながら、僕への応対を始めました。これもまた、別になんてことはないです。僕は僕で、『おうおう、客の相手するんならちゃんと身支度を先に整えてからだろ!』なんてことは微塵も思わず、淡々と注文を終え、そして支払いをすませようと、お兄さんを再度凝視しました。

 そのときです!

 僕の視線に真正面に、しかも至近距離から、『お兄さんの股間のファスナー全開』が飛び込んできました。
 全開も全開、それはまあ、見事な全開で、遠慮がちに開いているのではなく、取っ手が下まできっちり下げられているのはもちろん、ファスナーの開き方も、綺麗な線対称の縦ひし形です。そうですね、例えていうと『マカロニほうれん荘、の登場人物が驚いたときの口の形』そっくりです。今にでもその股間が『きんどーさん!』なんて言い出しそうです。
 ううむむ、なんということだ!
 僕の視線は、ちょうど僕の目線の高さにあるそのマカロニほうれん荘に、そのあまりの見事さに、否も応もなく惹きつけられてしまいました。僕は、全く目線をそらさず、しばし、お兄さんの股間と瞬きすら無しに、睨みあっておりました。
 お兄さんは、もちろん、気付いていません。果たして、次の瞬間、僕がせっかく、お兄さんの股間の『きんどーさん!』を見続けているにも関わらず(そら、そうです、マカロニほうれん荘と違って見世物じゃないんですから)、幕が下ろされるように、エプロンによって、その綺麗なひし形は僕の視界から瞬時に消えてしまいました。お兄さんがエプロンを着用したわけです。
 もちろん、ファスナーは全開のままです。
 普段の僕なら、『これは、黙っておくべきかなあ。エプロンで誰にも見えていないわけだし・・』とか、『いやいや、いやしくも接客業、それも飲食業で『きんどーさん!』はなかろう。だいたいが、その前にお兄さんの如何なる行動の結果が斯様な事態を惹起したのか、まことにわかりやすい、しかし、したくもない推測までしてしまうではないですか!?』だの、『同姓の経験からいって、いつかは自分で気付くはず、だからここは見なかったことに・・・・』などと、まずは黙ったまま、しばし心と頭を千千と乱してしまうところです。
 ところが、そのとき、自分でも信じ難いことに、僕はまさに『何も考えずに』行動に、いやそれはむしろ『反射』といったほうがよいでしょう、に出たのです。
 すなわち、エプロンによって幕がおろされた瞬間、あろうまいことか割としっかりとした声で、
 「ファスナー開いてますよ!」
 と面と向かってお兄さんに言ってしまったんです。
 これには自分でも驚愕しました。己が股間の『きんどーさん!』を指摘されたお兄さんは、それはそれは狼狽しながらレジを離れ、一瞬姿を消すと-さすがに、お客さんの前で、ファスナーを閉める、という不手際は避けたようです。-、間もなく現れ、
 「たいへん、失礼いたしました。」
 とやや小声で、僕に言いました。

 ・・・・・『行動力無き事』が欠点の男が、珍しく、本当に珍しく、僕らしくないことに反射的に行動をしてしまったわけですが、今でもその時のことを振り返ると、
 「果たして、指摘してよかったのかしらん?・・・確かによろしくない状態だけど、そもそもエプロンで見えなくなったわけだから、俺以外のお客さんは別に不快な思いはしないわけだし・・・。でも、見えないつったって、飲食業で、マカロニほうれん荘はないよな。指摘してよかったかな・・・。それに、そうじゃないにしても後で、同僚の女性に指摘されたりするのは、見知らぬ客の俺に指摘されるより恥ずかしいんじゃ・・・。」
 などと、これはこれでいかにも僕らしいことに、ぐるぐると考え込んでいます。

 果たして、指摘してよかったんでしょうか?
 
 まっことに見事な、美しいまでのひし形、でありました。

===終わり===
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非公開コメント

おお、なるほど!

おお、なるほど!御見それしました。たいへんありがとうございます!

No title

あ、おとこの社会の窓のことか、どうでもいいや、、、、、と思いつつも最後まで読んでいる、というのがミソです。可哀想ではありません。

ちょっと・・

いつも、コメントありがとうございます。でも、「どうでもいいや」はちょっとあんまりですね、筆者が可哀想です。

No title

白昼①の時はその情景を楽しみましたが②は途中から脳内画像をオフモードで読みました。①では声を掛けるかかけまいか悩んだりしたものですが②はどうでもいいやと思いつつ、でも何かまだあるのではと思い、つい最後まで読んでしまいました。
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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