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からくり人形。

 えっと、まだ書いてなかったと思うんですけど、僕は特に会社での肩書きは持っていません。
 有体にいうところの『ヒラ社員』ってやつですね。

 ちょっと前、といっても数年前ですけど、タクシーに乗って帰宅したときのことです。
 その頃僕は大阪に勤務していて(蛇足乍、『左遷』されてました。)、阪神間にある社宅に住んでいました。いつもは阪急電車の最寄り駅(社宅まで歩いて数分の近距離です)まで地下鉄と阪急電車を乗り継いで帰るんですけど、その日は、確か東京出張の帰りかなんかで、新幹線に乗って帰ってきたついでもあって、乗り継ぎの関係で、ちょっと怠けて新大阪から阪急の最寄駅まで乗り継いでいるととても遠回りになることを自分への言い訳にJRの『最寄駅』からタクシーで帰宅することにしました。
 タクシー乗り場で-最寄駅といっても阪急の駅と違っていくばくかの距離があります。そうですね、タクシーでワンメーターではとても無理、だいたい1200円~1500円くらいのところです。-閑散としたタクシー乗り場で退屈そうに待ち受けていたタクシーに乗り、
 「どこどこの方向まで・・ああ行って、こう行ってね、国道171号に向かって行ってください。それで、国道まで行かずに、国道の寸前に左手にダイエーがあるので、その手前を左折してください、ええ、近くまで行ってダイエーが見えきたらまた言いますから。」
 と普段どおり澱みなく行き先を説明して、運転手さんが、
 「はいはい。」
 と了解するのを聞き終えてしばらく無言で車中の人になりました。別に問題はないです。難しい道でもないし。 しばらくすると予定通り、目指すダイエーが見えてきました。
 「あ、あれです、あのダイエーのね、すぐ手前の小さい道を左折して・・・そうそう、この信号です、ここ左折。」
 「はい、はい、ここ左折ね、」
 「それで、ここを道なりに右折して・・・」
 「はい、ここ右折、」
 「で、まっすぐ行って、はい!ここ、ここで止めてください。」
 僕はつつがなく社宅の門の前までタクシーを誘導しました。タクシーは止まりました、あとは支払いをするだけです。
 普通です。

 ところがその時、それまで殆ど無駄口を聞かなかった運転手さんが、急に勢いづいて
 「ああ、おたく、ここんかたでっか!」
 と、弾かれたように言い放ちました。
 「え?あ、はあ・・。」
 「それやったらそうと、最初からXX会社の何々社宅、言われたらよろしかったのに。」
 おお、わが社も捨てたもんじゃないです。
 「御存じでしたか?」
 「ええ、わてらの間では有名でっせ。」
 なぜかハイテンションで、片頬に笑みなどたたえつつ、運転手さんは言われました。
 いやあ、ますますくすぐったいですなあ、JRに限った最寄駅とはいえ、それなりの距離がある駅のタクシー運転手の、それも皆さんにご昵懇とは。
 プライドをくすぐられた僕はにこにこして、頭なんぞをなど掻きながらお札を財布から差し出しました。
 運転手さんの妙なテンションの高さも気のせいか心地よく響きます。

 「ひとりいますねん、ここの社宅に。わてらに代金投げてよこすんが。」

 がつーん。
 えええ!『ゆうめい』ってそういう方角の、かよ!!!

 僕がお金を手にした状態で(念の為、言っておきますけど、その『運転手さんの間で有名な客』は僕ではありませんので、もちろん、そのお金は『手渡そうとして持っていた』んであって間違っても『投げようとして持っていた』わけではありません。)車内の雰囲気は一変し、すなわち文字通り主客転倒してしまいました。
 運転手さんはなんだか得意気です。僕はなぜか固まってます。
 運転手さんの言葉にあった妙なハリは『かつて僕と同じ会社の人間にお金を投げつけられた』経験からくる『恨み節』という旋律によって奏でられていたんですね。道理で到着した途端にいきなり、口調がクレシェンドしちゃうわけです。
 ええ!、そんな『江戸の敵を長崎で討つ』みたいなことされても、、いやこういう場合は『坊主憎けりゃ袈裟まで』かな、違うか?とにかく、そんなご無体なご発言を、と思いつつもこっちは妙に恐縮してしまい、かたあく、かたあく、なってしまいました。
 僕はその一言を境にそれこそ江戸時代のからくり人形みたいにカクカクとした動きで、そうですね、まるでお布施をお坊さんに渡すかの如くぎこちなく、極力粗相のないように、馬鹿丁寧に支払いを済ませました。まるで何かうしろめたいことでもある人かのように。

 ああ、びっくりした。
 一体誰だろう・・・・?しかも運転手さんの口ぶりからするに、『お金を投げつけた』のはどうも複数回の可能性が高いです。
 以後、僕はその駅からタクシーで帰るときはなんだか必要以上に緊張するようになってしまいました。

 結局その『有名でっせ』さんは同じ会社のどなたかはわかりませんでした。けど、-これはたぶんに僕の希望的推測であることをあらかじめ認めざるを得ませんが。-、その人は僕の会社の社風を纏ったせいでそうなったんじゃなくて、どこの組織にもよくいる『会社(≒組織)内での地位があがっていくに従って自分の人間としての品位も価値も高くなったと錯覚している人』だと、僕は愚考します。
 僕は、そういうのはまずないですね、だって、当時も今もヒラ社員だから、幸か不幸か、そういう錯覚を起こす環境からは自由なものなので、ええ。
 いずれにせよ、とんだとばっちり、でした。

 ええと、今回初めて僕がヒラ社員だということを告白したこと、には特に深い意味はないです。 

====終わり===
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プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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