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プチ・ブル。

 最近何に驚いたといって、9歳の息子からいきなり小声で、
 「男同士の話がある。」
 と言われたことほどどきっとしたことはありません。
 
 何の前ぶれもなく、家でごろごろしていたとき(だいたいごろごろしてます)、さい君と僕の距離が離れたのを見計らったように急に真顔でいわれました。
 僕は咄嗟に、電流で体を貫かれたように、
 「は!これは『男親』としてのデビュー戦だ!」
 と思いました。
 だってそうじゃないですか、男の子が母親がそばにいるのに僕に『男同士の話がある』って言うなんて母親には期待できない、同姓であるという共通項を頼みにしているに決まっています。普通の相談と明らかにその趣を異にしているじゃないですか。自分の経験に照らしてもゆくゆくはそういう日が来るだろうとなんとなくは思っていましたが、まさか本当に、しかも唐突にくるとは、と、やや狼狽しました。なぜなら、いざ、となるとくるべきものがきた、と思いつつ、一方で実際にはまるで心準備ができていないことに愕然としたからです。
 果たして息子の期待に応えられるだろうか?もしデビュー戦で役に立たなかったら、彼を孤独にしてしまうだけではなく、父親としての威厳がはやくも地に落ちてしまうではないですか、・・・。不安でいっぱいです。
 さらに、その相談内容に思いを馳せていろいろと予想しはじめました。さては、まさか、いやありうる、こいつ『性に目覚めた』か・・・9歳という年齢、しかも普段の言動からすると、まだ早いような気もするけどもう4年生だからな、多少早いが目覚めはじめる子がいてもおかしくはない、俺もたしか『自分は女のひとの裸ばっかり想像していて頭がおかしいのではないか』と悩んだことがあったな・・・、いや待て、性的に目覚めるっていってもマジョリテイとは限らんな、女の人ではなくて・・・・いや人間相手ならまだしも、犬や猫に・・・、いやいやあるいは、動物ならまだしも、自転車や石に性的興味を感じる、なんていわれたら・・・そういう場合はどうすれば対処すればいいのだ?
 あるいは初恋か!ありうる、勉強が手につかない、とか、うううん、ちょっと俺よりは早いけどありうるな、まあ初恋なんてものは本当は実らないからいいものなんだけど、そんなことを言ってしまっては身も蓋もないな・・・・。
 僕の頭の中はデビュー戦に臨んでの準備不足からくる不安、とまだ見ぬ妄想からまがまがしく凶暴となった対戦相手のことで、いっぱいになりました。

 ところが、一向に息子から切り出す様子がありません。
 これはどうしたことか、我慢できなくなった僕はふたりっきりになった頃をみはからって、
 「おい、さっきの話なんだけど。」
 と切り出しました、すると息子は思いつめたような表情で、無言で僕を、洗面所=脱衣所に連れていきました。
 脱衣所??え、こういうのって普通子供部屋とかでは?なんで脱衣所?やや、ということは、『なんとか性徴』ってやつか、これは『フジのとパパのと見比べたい』なんて言い出すのかなのな?・・・・でもいつも一緒に風呂に入っているし、普段風呂上りに全裸でコロコロコミックを読み始めて母親に
 「早く服を着なさい!」
 って叱られているくらい、そういう面での恥じらいはまだ全然感じられないんだけど。
 「あのね、」
 思いつめています。
 「ママに聞かれるとやっかいだからさ。」
 おおそうか、そうか、なんかやっぱり頼りにされてるぞ。
 「恥ずかしい話なんだけど、恥ずかしい話だんだけど。」
 息子は繰り返して言いました。
 おお、きた、これはやはり性の目覚め!
 「うん、どうした?」
 いやいや恥ずかしくなんかないぞ、パパだって女の人の裸ばっかし想像してだな、とおっとこれはまだ言うまい・・。
 「あのさ、一学期からほとんど話しもしたことのない、同じクラスの木下真由って女の子がいるんだけどお、」
 うおおお、そっちかい、初恋か!
 ははん、さては話もあまりしたことがないのに、なぜか気になってしょうがない、という自分が経験する始めての感情に戸惑っているんだな、こいつもなんだかんだいって成長したなあ、と僕は石や自転車に性的興味を感じる、というような話ではなかったことに安堵しつつ、我が子の成長に多少の感慨を感じながら話を聞いていおました。
 「うん、それで?」
 「その子がさ、」
 「うん。」
 「休み時間とかにい、」
 「うん。」
 なんかいいです、わくわくします。
 「気がついたらフジの後ろをつけてきたり、」
 「え?」
 「あとひどいときは後ろからいきなりフジのおなかをくすぐったりすんだよ。」
 ちょっと初恋の悩みとは違うかな?うむむ、それでお前はどう思っているわけ?
 「それでね、」
 「うん。」
 「それを見た西村が、」
 え?西村くん???
 「う、うん?」
 「『ええ!ラブラブ!』って言うの。」
 ・・・・・・・。
 「ふん、それで?」
 「フジはいやなんだよ!西村にラブラブってからかわれるのが!ぜったいにいやなの!」
 息子は少々肩透かしを食らってかえって戸惑っている僕に、なんで、わかんないかなあ、と苛立ちながら言いました。

 息子の相談の要旨は『西村にからかわれていることはたいへんなストレスである』という一点に尽きているんですね。
 西村くんというのは(西村君ごめんなさい)、いつも息子から聞いてるところによると、なかなかのブルジョアジーで、その財力にものをいわせて学校のお友達に、『いらないから』とか言って、カブムシを盛大にばら撒いたりしていて、そのため小さからぬ勢力を形成しており、その領袖におさまっている同じクラスの男の子です。
 息子はとにかく、このプチ・ブルのクラスメートにからかわれることを避けたくて、僕に相談した、とうのが実情だったんですね。どうも、息子のいう『男同士』、というのは、『クラスの男の子との人間関係あるいは力関係をどうマネージすべきか』という面においての『男同士』であったわけです。
 おい、おまえ、男同士の話って、そういう意味かよ。なんだつまんない、僕は拍子ぬけしてしまい、あまりのことに、
 「そうか、その木下真由っていう女の子はフジのことが好きなんじゃないか?」
 とさしあたりのないことを、つい呟いてしまいました。すると息子はいきなり大きな声で、
 「やめて!それだけは困るんだよ!」
 いや俺にやめてとか、いわれても・・・
 「なんで!?」
 「だって、もしそうだったら、フジはこれからもずーっと西村にラブラブってからかわれるってことじゃない!それはいやなんだよ!ねえ、パパどうしたらいい?」
 あのなあ、おまえな、若い、いや、この場合は違うな、ええと、とにかく『女の子』が後ろをついて来てくれるなんて、人生でそう何回もあることじゃないんだぞ、わかってないなあ、親としては木下さんにお礼をいいたいくらいです。
 そのうちにだな、追跡されたいなあ、と思ったとしても、そう簡単に女の子は『追跡』してくれないぞ、いやいや簡単どころか、例え財産をつぎこんだとしてもしてくれない時はしてくれないんである、なんてことが人生の現実だというのに・・・・
 「だったらさ、やめて、って静かにいえばいいじゃん。」
 もったいないなあ、と思いつつ僕がいうと、
 「もう言ったよ!」
 「それで?」
 「でもニコニコしてなんにもいわないで、まだ続けてくる。」
 ああ、木下さんに土下座してお礼をいいたいくらい、です。
 なんということでしょう。これといった取り柄のない息子に好意をもってくれたのみならず、それを表にだして行動に移してくれたうえに、息子がつれなくしたのに、それにもめげずに笑顔でまだ気持ちをしめしてくれるなんて!!
 結局のところ、
 「うん、わかってくれるまで、やめて、って言えば。」
 ってことで『男同士の話』デビュー戦は、僕にいわせると竜頭蛇尾、あるいは大山鳴動して鼠一匹、という風情で終わりました。
 それは、息子にとってはのっぴきならない事態なんでしょうけどね。

 その後、少し気になって経過をきいてみると、木下さんは以前ほどではないにせよ、まだ息子に好意からちょかいを出してくれているようですが、プチ・ブル西村君からのからかいはなくなった、とかで、息子のストレスはなくなった(何度も言いますけど、息子は木下さんの好意とその行動、に戸惑っているのではなく、西村くんからの冷やかし、を避けたい一身ですので)ようです。わかってないですよね、重ねてもったいない。
 まあ、そのうちこのことのありがたさやもったいなさがわかるでしょうけど、その頃になってあれは惜しかったなんて思っても遅いんであります。
 それから木下真由ちゃん、ありがとうございます。この場を借りまして親としてお礼を申し上げます。

 でも、なんであの相談は脱衣所で、だったんでしょうか、どうもいまでもわかんないです。
 謎です。

===終わり===
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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