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吉野家。

 今回は少し重たいです。

 と、いうのも、今日は現代に生きる日本人にとって、父母未生からのある一大命題を実地に検証しよう、というものだからです。
 その命題とは他ならぬ、誰もが一度は考えたであろう『年端もいかない少年が広辞苑(岩波書店刊)を常用の辞書として使うとどうなるのか?』というものです。

 僕の家には三冊の国語辞典がありました(この、一家に三冊という数字は国語辞典好きの僕に言わせると-もちろん、辞書好きだから博識か、というとそんなことはないです。-ちょっと自分でも驚くくらい少ない数字だと思うんですけど、一般的にはどうなんでしょうか?)。
 ひとつは僕が小学校から使っている新選国語辞典(小学館刊)です。ページがちぎれてしまって、初版年度は不明ですが、序文の日付は昭和三十四年です。二つ目は新明解国語辞典(三省堂刊)です。そして、三つ目が辞書界の大立者にして、どの家庭でもおそらくはそうであるように『自分で買った記憶は全くないんだけど、なんだかいつのまにか本棚にある』、広辞苑(岩波書店刊)です。
 このうち、新選国語辞典は国語辞典がそばにないと落ち着かない僕が会社で使っています。新明解国語辞典は9歳の息子が学校で使っています。それで、僕は、斯様な駄文を書くのにも辞書が必要になる際、重たいなあ、と思いつつ広辞苑を使っていました。

 ある日、息子が言いました。
 「パパあ、じしょお。」
 「なんで?」
 「しゅくだいに『意味探し』があるう。」
 「そうじゃなくて、辞書ならこないだあげたじゃないか。」
 「あれは学校におきっぱなしなの。うちにじしょないの?」
 国語の教科書にある『ごんぎつね』の中から先生が選んだ言葉について、意味を調べて記入する、という宿題がでたそうです。説明するまでもないですが、この宿題の意図しているところのひとつは、辞書を引き方を学ぶ、ということなので、インターネットで意味を探したりしたんではしょうがないわけです。
 「なるほど。・・・今うちにある辞書はさ、」 
 と言いながら僕は本棚に向かい、
 「これだな。」
 と気前よく、しかし、ややサデイスティックに広辞苑を彼に与えました。
 「・・・・なにこれえ?これ、じしょなの?」
 「そうである。しかも日本で一番いい辞書なんである。」
 「ふむむむ・・・。」
 いったいどうするかな、と見ていたら、果たして息子はしばらく考えたあと広辞苑を開き始めました
 
 犀は投げられたのです。ここにおいて、ついに、『広辞苑(岩波書店刊) VS 9歳の少年(混血児)・東大立目の戦い2012』の火蓋は切って落とされたのであります。。
 僕は、これはたいへんなことになった、俺は歴史の証人になるのだ、と全てを投げ打って少年の対面に座り、その一挙手一投足に熱心に視線を注ぎます。

 第一回戦のお題は『しろ(城)』です。
 少年は、
 「ううん、しろ、しろ、しろ・・・」
 と呟きながら自分の顔ほどもある広辞苑と格闘を始めました。なにしろ大部なので、なかなか目的の言葉に行き当たらないのです。近づいた、と思ったら、数十ページも行き過ぎてしまい、それでは、と逆にページをめくると、今度はまた数十ページも戻りすぎてしまい、ということを繰り返しています。それでも、その行き過ぎと戻りすぎの振幅をだんだんと小さくしていき、ようやく『城』にたどりついたようで彼の手がとまりました。
 やや間あり、彼は顔をあげると正面にいる僕を見据えると言いました。
 「パパ、よんでえ。」
 そこは広辞苑、たとえ少年が該当するお題に辿り着いたからといって、そう簡単には落城しません。彼には読めないわけです。
 どれどれ・・・。すると、なんとそこには、11行もの説明文があるじゃないですか。でもまあ、小学校の宿題だから最初の一文を主文的定義と捉えてそれを書けばいいだろう。

 『敵を防ぐために築いた軍事的構造物。』

 僕は、声を上げて読んできかせつつ、感心してしまいました。さすが広辞苑、情け容赦の這い入る隙間もないほど、完璧なまでに堅牢な説明です。
 ところが息子は、僕の音読を聞いてもなんだか反応が鈍いです。
 「・・・パパ。」
 「なんだ?」
 「コーゾーブツ、ってどういう意味?」
 おお、一回戦は広辞苑の圧勝です。

 少年は、なかなか『辿り着かない』、辿り着いても『読めない』、そして読めても、『意味がわからない』、という状態に陥ったわけです。
 鎧袖一触、の感すらあるじゃないですか。でも、この本って、『辞書』なんだよな・・、『意味探し』なのに勝ちっぷりが良すぎやしないか?
 などと思いつつ、
 「そうだな・・・うんと『建物』かな?」
 と、僕が説明してやると、息子は、プリントに
 『てきをふせぐためにきずいたたてもの。』
 と書くとあっさりと二回戦に進んでいきました。ちょっと淡白すぎるようです。それで、いいのか。親としては、なんというか、もう少し『構造物』に食らいついて欲しかったです。

 さて、今度のお題は『ほ(穂)』です。
 おお、これは第一印象としては少年に有利なお題、という感じがするぞ。息子は、またしても
 「ふうむ、ほ、ほ、ほ・・・」
 と呟きつつ、彼の愛読書である『月刊コロコロコミック(小学館刊)』を長さにおいても、厚みにおいても、重たさにおいても、遥かに凌駕する広辞苑と戦っています。
 程なく、先ほどと同じような振り子運動のあと、『穂』にたどりついたようです。
 と、彼が固まってしまいました。
 「パパあ・・・」
 なんだなんだ、今度は『城』と違ってそんなに難解な説明なはずはないんじゃ・・・と僕は彼の手元を覗き込みます。

 『(「秀(ほ)」と同源)①長い花軸の周囲に、無梗(むこう)または短い花梗にある花や果実の叢生したもの。稲・麦・薄(すすき)などにある。・・・・』

 凄まじいです!!大人の僕にもわかんないじゃないですか!
 これは、さっきの『コーゾーブツ』みたいに他の言葉に言い換えられんなあ、なにしろ『無梗』だの『花梗』だのだなんて言葉、見たことすら無いし。『どうしよう・・・・。ところで、これって『辞書』だったんだよな・・・。』と僕はどうしていいやらわからずに、視線を空に泳がせてしまいました。

 と、その時です、この戦いに意外な展開が起こりました。しばらく僕が呆然としたあと、ふと視線を息子の手元に戻すと、彼は
 「ふうむ、かわべり、かわべり、かわべり・・・」
 と三回戦に進んでいるではないですか?こいつ、まさかの試合放棄か、それでは宿題が成り立たないし、そもそも淡白にも程がありますぞ、ここは父親兼歴史の証人として、安易な試合放棄は看過しがたい、と僕はプリントを覗きこみました。
 すると、なんとしたことか息子は、僕の『意訳』を待たずに、『穂』の欄に、
 『長い花軸の周囲に、無梗または短い花梗にある花や果実の叢生したもの。』
 と漢字も含めて一字一句違えずに丸写ししているじゃありませんか?
 これは、すごい。あきらかに『間違いではない』です。なんかひっかかるけど、ある意味すごいです。だって、こう記入されたら先生としても添削のしようがないじゃないですか。なんつっても、辞書中の辞書、英語でいうと、ザ・ディクショナリ- オブ ディクショナリ-(合ってますよね?)、『広辞苑(岩波書店)』の記述をそのまま書いているわけですから。まさに混血少年乾坤一擲の大技、といったところです。

 でも、なんかひっかかるなあ、と僕は三回戦に挑んでいる息子をよそに、しばらく考えて、そのひっかかりが何なのかようやくわかりました。すなわち、息子の大技は『広辞苑との戦い』には有効だったものの、『意味探し』という宿題のアイデンティティ-までをも壊滅せしめてしまっていたのです。

 これでは、やっぱり教育上よろしくなかろう、ということで(僕もブログを書くたびに広辞苑を引くのは面倒なこともあって)、山の神を説得して、数日後息子の家用にという名目で、さい君と息子と一緒に本屋に行き、『三省堂国語辞典(三省堂刊)』を買い求めました。

 『三省堂国語辞典(三省堂刊)』によると、

 『城』は、
 『①敵をふせぐために土や石でがんじょうにきずいたたてもの。・・・』
 とあり、

 『穂』は、
 『①[植]花・実(ミ)が花茎(カケイ)のまわりにむらがりついたもの。②・・』
 とあります。

 うん、9歳(混血児)の身の丈にあっていていいです。息子だけではなく、僕も広辞苑からようやく離れられそうです。

 というわけで、『年端もいかない少年が広辞苑(岩波書店刊)を常用の辞書として使うとどうなるのか?』という広辞苑だけに『重たい』命題の検証結果は、

 『不毛である。』

 というある意味やる前からわかっていたようなことになりました。

 以上。

 ・・・おっと、忘れていました。
 歴史の証人としては、三回戦の結果も備忘として報告しておかなければなりません。

 広辞苑(岩波書店)によると、『川べり』は(説明の全文を引用します。)、

 『川のへり。川のふち。川岸。』

 ・・・・・え、それだけ???なんか、うまくいえなけど、ちょっと油断してる、というか、肩透かしを食らったような、というか、可愛げを垣間見た、というか・・・。
 そうですね、例えていうなら『全身ブランド物で固めた恋愛テクニック抜群の妖艶な女性にその手のひらの上でいいように転がされて散々振り回され、ようやく目覚めてその女性から離れようと決意したときに、女性から電話があり、いきなり「ねえ、今から一緒に吉野家で、牛丼食べない?」と言われてしまった』ような気持ちです。

 ・・・恐るべし、妖艶な女性、あ、いえ、広辞苑(岩波書店刊)です。

===終わり===

 
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緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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