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年季。

 僕は男性ですが、女子トイレに入って用を足したことがあります。ええと、僕が性的嗜好においてそういう方面に興味があって好んで恒常的にそういう行為をおこなっている・・・とかいうことではありません。

 以前、会社に行こうとして、朝、駅に向かっていたら唐突に物凄い便意に襲われました。
 僕は、突如として家に一旦帰宅していては到底無理、かといって駅までたどりついて、たいていは塞がっているトイレの個室が空くのを待つにもリスクが大きすぎる(なにしろ、唐突でかつ巨大な便意だったので。)という事態に陥りました。
 ああ、どうしよう。
 そのとき、一軒のパチンコ屋が僕の目に飛び込んできました。どうもパチンコ屋はまだ開店前のようでしたが、そんなことには構っておられない僕は、無茶を承知で、パチンコ屋に突貫すると、あなうれしや、喜ばしや、まだ開店していないはずのパチンコ屋の自動ドアが作動して僕を店内に迎えいれてくれました(僕はパチンコは全くやらないので、その店に入ったこともありませんでした。)。店内では店員さんたちが開店前の準備で忙しそうに行ったりきたりしています。僕は、何か聞かれたら『トイレ借ります!』と喚くしかない、と心に決めて店の奥にあるトイレに猪突猛進しました。
 我ながら結果的にはいい選択だったな、とその時は思いました。
 だって『朝の駅の男子トイレの個室の前の長い行列』-これは平日の朝はまず100%覚悟しなければなりません。-に何度も煮え湯を飲まされてきた僕に言わせると、『開店前の駅前のパチンコ屋のトイレ』は穴場といってもいい、と思ったからです。たぶん、駅よりも綺麗だろうし。
 各々の仕事に忙しいためか、うまい具合に僕を詰問する店員さんはひとりもいませんでした。僕は支障もなく、ドアからトイレに辿り着きました。
 が、好事魔多し!なんとここで、予期もしなかった『掃除中、使用できません。』の看板とチェーンが男子トイレの入り口の前に・・・。ああ、これもまた公共のトイレでは何度も僕に苦い思いをさせてきたおなじみのアレではないですか!まさかここで、そうくるとは。
 僕の気持ちとお腹とお尻の穴近辺の括約筋には、

 ①パチンコ屋は開いてないかもしれない。
 ②店員に詰問されるかもしれない。

 ことには構えがありました。そして、それぞれをクリアーするごとに構えを緩めてきてしまったわけです。したがって、店員に詰問されずにトイレに辿り着いた時点で、すでに、なんといいますか『構えしろ』ともいうべき『余力』は心にも、お尻の穴近辺の括約筋、にもまったく残っていませんでした。
 すなわち、心身ともに、

 ③あとは、脱糞あるのみ。

 と、いう状態だったんです。


 もう駄目だ!
 冷や汗をかきながら顔面蒼白となっていた(おそらくは)余力の全くない僕は、周囲を見渡して誰も見当たらないのをいいことに、その隣の女子トイレに飛び込んだのです。

 数分後・・・、僕のお腹と括約筋は、用を足し終えて、先程までとはまるで別世界にでもいるかのような安寧を得ました。しかし、余裕のでてきたそれらたちとは別に、僕の心は、すぐさま今度は別の重大な問題に悩まされることになったのです。
 そうです。誰にも遭遇せずに、ましてや、性的嗜好から女子トイレに入った人、なんぞという疑いをもたれることなしに、ここから脱出できるのか、という、ある意味では、種類が違うとはいえ、先刻よりも大きな課題に直面せざるをえなかっったのです。
 そして、ああ、なんということでしょう、気分に余裕が出て周りの気配を探ってみると、どうも『隣人の気配』が・・・・。僕がトイレに飛び込むときに-なにしろそんなことに気を配る余裕などなかったので、-すでにいた先客なのか、僕が用を足している間に入られたのかはわかりませんが、あきらかに他の客、しかも、気配からして僕の個室の隣です!に人がいるではないですか!
 わあ、こまった。ここで、下手に出て行くタイミングを間違えて、隣の女性に遭遇したりして、妙な疑いをもたれて警察に連れて行かれたりしたら・・・・、僕の頭の中では最悪のケースが想起され、先ほどとは全く違った理由から冷や汗をかきながら顔面蒼白となりました。
 とりあえずはできるだけ気配を消しながら、隣人が出て行くのを辛抱強く待つことにしました。個室からでてきて実は隣人が男性だった、なんて判明したらきっと普通女性はとても嫌な気分になるに違いないです。でも・・・たとえ個室からでてくれたとして、女性の場合は、お化粧直しとか、『個室から出てからのトイレの滞在時間』が結構長いのでは・・・・、その時間を仮に僕が個室でやりすごしたとして、その前に他の女性がはいってきて、また個室に籠もったら、僕はまたでていけなくて、かつそんなことを繰り返しているうちにパチンコ屋が開店してしまったらどーなる。
 うわあ、そうなると僕は出るタイミンを失ってしまう!それどころか、『朝から女子トイレに何時間も篭城していた男』という、それこそそういう方面に性的嗜好を持った人として、あらぬ嫌疑をかけられてしまうかもしれません!
 これはいったいどうなる・・・・・。
 僕が気配を殺し、警察への弁解などを考えながら-弁解つったって、『うんちがもれそうになってパチンコ屋にはいったけど、男子トイレが掃除中で使用できなかった』しかないんですけどね。-固まっていると、突然、隣の個室のドアが開きました!
 しめた!隣人のお帰りだ。ここであわよくば隣人が鏡の前で長居などせずに、さっといなくなってくれてこの女子トイレに無人の時間が訪れればその間隙を縫って脱出だ!
 僕は小さく拳を握り無言でガッツポーズをしました。
 そう思ったとき、僕のその安易な計画を早くも打ち砕く出来ごとが起こったのです。そうです。新しいトイレ使用女性の入場です。その気配を感じたとき、個室の中の僕は大いに落胆しました。これは予想していたけれど歓迎しかねる事態、すなわち、いつまでも女性の行き来が絶えずに個室に閉じ込められる、ということになるのだろうか。
 あああ。

 その時、信じられないことが起こりました。
 今考えてもよくあんなことが、と重ねて思います。
 新しくトイレに入ってきた女性が、僕の隣人と鉢合わせすると、
 「うわああっ!」
 と大きな悲鳴を上げたのです。

 ええ、俺、もうばれたのか!?

 僕は、狼狽し咄嗟に自分の行動を反芻しました。いや、なにも露見するようなことはしてないはず、と、それでも必死に気配を殺している僕の耳に飛び込んできたのは以下のような会話でした。
 「いや、はっはは、ちょっと借りたの。男子トイレ掃除中だったからさ。」
 「ああ、びっくりした!びっくりした!!!」
 なんと僕の『隣人』は年配の男性-声から察してあきらかに-だったのです。しかも彼は用を足すと、女性がはいってくるというのに、臆することなく堂々とでていき、むしろ予想外の出来事に悲鳴をあげて驚いている入ってきた女性に、
 「いや、はっはは」
 ので始まる短い言葉で状況を説明して、事態を収束してしまったんです。説明された女性のほうも大いに驚きながらも-そら驚きますよね。-その年配の男性の動じない説明に-その『説明の内容』とは実は僕が警察に言おうと考えたいたことと状況や語彙の数こそ違えど、ほぼ同じです。-つまるところ丸め込まれてしまったようです。
 
 うおお、すげえ、ああいうふうにすればいいのか!

 僕は隣人の年季を積んだ態度にしきりに感心し、俺はまだ青いなあ、と思いました。
 さあ、僕の番です。しかし、僕は、その場ですかさず、出て行き、
 「ああ、驚いた!」
 という女性に『僕もさっ!もうひとりいたんだよ~~~ん』と、さらに驚愕させる勇気がなく、やはり、息を殺して個室に留まってしまいました。
 結局、その女性が個室に入ったあと、人の気配がないのを確認して、こそこそと女子トイレを-先ほどの年配の男性よりよっぽど挙動不審です。-誰にも見られることもなく脱出することに成功しました。

 別に悪いことをしているわけではないので(ですよね?)、次回こういうことになったら(もちろん、そういうことにならないにこしたことはないんですけど)僕のかつてのかりそめの隣人のように呵呵大笑して極自然に、堂々と出て行こうと思っています。
 でも、あんまり自信はありません。
 まだ年季の積み方が足りないのかなあ。

===終わり===



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Re: 男女平等?

TOCHY様 いつもお読みいただいたうえに、コメントありがとうございます。そうですね、ご婦人方にはときどきそういう堂々とした団体がありますね、あれには圧倒されます。あれこそ、「年季」の賜物と思います。

男女平等?

高速道路のトイレなどは、団体旅行のバスが止まるとおばちゃんが大挙してぞろぞろと男子トイレ側に来る事がありますね。あまりにも堂々として、こっちが恐縮しちゃいますね
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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