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中島みゆき。

 行かれた経験のある方ならおわかりになると思いますが、『サウナ』というのは殆ど苦行に近い、と言ってもいいです。僕も近所のジムのサウナによく行って『苦行』をして帰ってきます。(ところで、あの『サウナ』っていうのはそもそも体にいいものなんでしょうか?なんだか汗が盛大にでて、そのせいか妙な達成感があるから、それが癖になってつい繰り返すんですけど、かなり苦しいです。そのうえ『高血圧の方はご遠慮ください。』なんて注意書きにあるし、僕自身も実は会社の診療室の内科の香川先生-まだ若いのに、とても話をよく聞いてくれて、なおかつこっちの戯言にまでいちいち説明責任を果たそうとする、まじめな、その上にたいへんな美人の先生です。ええと、でも今回は香川先生の話ではないので、先生の説明は以上とします。-に『緑さんは尿酸値が高いのでサウナはお勧めできません。』とその美しい眉を顰めながら言われてます。理由はわかりませんが尿酸値の高い人はサウナにはいかないほうがいいそうです。でもなんか行っちゃうんですよね・・・。香川先生ごめんなさい。)

 だいたいが、サウナの中ではみなさん、苦しそうな顔で汗をだらだらっ流しながら時計と(僕の行くサウナのそれは12分計です。)睨めっこをして過ごしているし、注意書きにも『マナーを守っての入浴をお願いします。・・・・・大声での会話などはご遠慮ください・・。』ってあるし、大概の人がひとりで入っているのでみんな黙って苦行に耐えてます。僕もそのうちのひとりです。
 でも中には沈黙しての苦行に耐えられなくなって気を紛らわそうとしてか、顔見知り同士と思しき人と会話をはじめちゃったりする人がいて、その会話が聞くとはなしに聞こえてきます。

 「私ね、派遣で自動車工場で働いてましてね、」
 「ほう、そうですか。」
 「以前ね、ほら大きな自動車メーカーが品質不良で大々的なリコールをやったでしょ?」
 「ああ、ありましたね。」
 「あの時はおかげで私の勤務してるメーカーに注文が殺到しましてね、それで、工場はフル稼働でね、私らは24時間体制のスリーシフトになったんですよ。」
 「ほう。」
 「それでね、私夜勤になったんですけど・・・」
 「けど?」
 ここで派遣労働者氏は、ひと際声を潜めて(っていっても然して広くない部屋ですから丸聞こえですけど。)言いました。
 「出たんですよ!私見ちゃいまして!」
 「ええ、本当ですか?」
 「それが本当なんです。私ねそういうのはあまり得意なほうじゃないんで、すぐ人事に頼んでシフトを変えてくれって言ったら・・」
 「ふむ。」
 派遣労働者氏は汗だくになりながらも、ここでちょっと溜めを作り、続けます。
 「そしたら、なんと人事の人があっさりと『やっぱり出ましたか。』ってシフトを変えてくれたんです!」
 「へえ!」
 「なんでも出るのは一人じゃないらしいんです。噂では三人くらいでるらしいです。一人は中年の男性で、あとは・・・・」
 こういう会話は罪がなくてよろしいです。聞いているこっちもしばし苦行を忘れることができます。
 また別の方向から違う会話が聞こえてきます。
 「ワイドショーってのは本当にどの局も同じ話題ばっかし、飽きもせずによくやるねえ。」
 「ほんとうだね、わたし、三年ほどまえに入院してましてね、それで昼間やることないからテレビを見るしかないんだけど、まあ、どの局も同じで、えっと、マイクロ、マイクロ、ええと、なんだっけ・・・」
 何だろう。そんな名前が日本のワイドショーを席捲したことがあったかな?
 「とと・・マイクロ・ジャクソンか、もうあのニュースばっかりでねえ。」
 こういうのも熱さを暫時忘れさせてくれるので大いによろしい。
 しかも、サウナという文字通り一糸纏わぬ空間での面白いところは、これだけの会話を交わしているくらいだから、かなりの顔見知りだろう、と思われるこれらの二人がひと通り話を終えて、
 「あの・・・お名前伺ってもいいですか?」
 「あ、失礼しました。私XXといいます。」
 なんて自己紹介なんぞをしあっているところです。

 一方、どこにでも必要以上におしゃべり好きな御仁はいるもので、僕の行くサウナにも無聊を持て余しているだけとはとても思えない、滅多矢鱈と誰彼なく話しかけてくる御仁がいます。そういう人に限って、ジム設備なんてまったく使わずに、サウナばかり、一日に何回も、それもほぼ毎日入ってたりするので、たいてい同浴しちゃうんです。
 僕のサウナにもその種のひとで特に要注意な方が二人います。傍で聞いているのならまだしも、一度こいつは話に乗る、と思われたら最後顔を見るたびに話しかけられちゃうので、苦行を紛らわすどころか、自分のペースでサウナ浴をできなくなってしまいます。だから、僕はその二人と同浴しても、なるべく時計を見る頻度も我慢して少なくし、殆ど下を向いて、かつ、ああ苦しいいやもうサウナに耐えるだけで精一杯だ話す余裕なんてとてもないああ苦しい、という風情で眼をぎゅっと瞑って、『どうか、話しかけないでください雰囲気』を全力で出すようにしています。幸い、今までのところそのことが奏功したのかまだこの二人に捕まったことはありません。

 しかしながら、僕のこれまでの密かな観察によれば、この種の御仁たちに共通している点は、おおよそ下記の如くです。

 ①何度も同じことを言う。
 ②話しかける割には他人のいうことはあまり興味がない。
 ③少々の自己矛盾は意に介さない。
 ④自慢好き。
 ⑤同種の『御仁同士』は互いに敬意は払う。

 
 僕が注意しているその二人は、ひとりはグアム島から帰ってきた横井庄一さんに風貌が似ていて、もうひとりは俳優の田中要次さんに似てます。
 横井庄一さんは(もちろん僕が心の中でそう呼んでいるだけで、だれもそうは言ってないです。だから-そんなことでもしてくれたら僕としてはつぼにはまってとっても嬉しいから、それこそ何回でもしてほしいくらいなんですけど-間違えてもサウナ室に入るときに『恥ずかしながら帰って参りました』なんて敬礼して言ったりはしません。)年齢は70歳ちょうど、サウナ暦は50年以上、年金生活者で、趣味は酒と競馬、家族構成は奥様と猫(推定)、です。なんでそこまで詳しいのかというと、別に僕が横井さんに聞き取り調査をしたわけではなく、軍曹が誰彼かまわず大きな声でしゃべる内容からわかっちゃったんです。
 横井さんは、とにかくサウナ好きで、サウナには一家言あり、どうやらサウナに入るためだけにジムの会員になっていて、それでほぼ毎日、しかもサウナ、冷水浴、を繰り返して一日に何度も入っていると見えて、僕との遭遇頻度は非常に高いです。知り合いがいないと見受けられるときでも息をしながら『うん、うん、うん、うん、うん・・』と合いの手みたく妙な意味不明な独り言を発し、今にも誰かに話しかけそうな雰囲気を醸し出しています。

 先日も僕がサウナ室に入っていったら横井さんは今日知り合ったと思しき若者ひとりにむかっていつもの演説をぶっていました。話しかけられたほうはたいてい辟易しながらもそこは相手が年長者だし横井さんの演説を聞くのは初めてだから『そうですか』だの『へえ』だの言って律儀に相手をしています。僕は、そのつかまった人には悪いですが、お、横井庄一さんやってるな、これで今日も俺は話し相手にならなくてすむぞ、と安心しつつ、できるだけ横井さんの視界から離れたところに腰をおろします。
 
 「ね、私はね、サウナには50年はいっていて、そのおかげで、健康そのもの、でえすっ!だからね、若い人にもね、おすすめええ、しまあすっ!是非サウナを続けてくだあ、さあいっ!ね、うん、うん、うん、うん、私はね、毎日はいってるんです、ストレスも解消されるし、ね、高血圧の人はだめですよ、でもね、失恋したとか、うへへへ、そういうストレスもね、うん、うん、『男はタフでなければ生きていけない優しくなければ生きいく資格がない』ってね、うん、言ったひとがあってね、ほれ、ええと誰だっけ、ほら有名な・・」
 おお、それはレイモンド・チャンドラー!横井軍曹にそういう読書の嗜好があったとは意外です。それともハンフリー・ボガートの方を言ってるのかな?
 「ああ、あれだ、原田芳雄だ!うん、うん、あの人がね、『男はタフでなければ生きていけない優しくなければ生きいく資格がない』っていったんですよ。うん、うん、それでね、失恋もね、サウナでながしちまうんといいので、是非、おすすめえ、しまあすっ!」
 ・・・・下手に助け舟を出さなくてよかったです。原田芳雄が出てくるとは!
 「はあ、そうですか。」
 「うん、うん、うん、うん、私はね、毎日です、毎日。酒も毎日!かならず、ほれ、あそこの三王子の小江戸街道沿いの焼き鳥、ええと名前なんつったけな、あるでしょあの有名な・・・、とにかくそこへ毎日酒を飲みにいくんです・・・」
 毎日いくうえに、有名なのになんで店の屋号がでてこないんだろう?横井さんは言うまでなく僕の疑問なんぞには構わず、どんどん話を天動説的に進めていきます。
 「それでね、わたしはね、もう70歳だからね、年金で暮らしているからね、そんなにたくさんは飲まない、若いひたあ、たいへんだ、年金がもらえなくなっちまうかもしんねえ、つうんだから・・、気の毒に思って、まあすっ!わたしはね、70で死ぬんだ、それ以上生きてもしょうがねえや、70でぽっくり、ってね、もう70になったからね、そろそろだあね、おっと、そのまえにダービーだ、こんだあ負けるわけにはいかん・・」
 何を言っているのかさっぱりわかりません。さっきまで明日にでも身罷りそうな悟ったことを言っておいて、いきなり博打の話を持ち出して全身是煩悩の塊かの如くダービーにむけて一人で燃えています。
 「それでね、毎日すっこしだけ呑んでね、そのあとね、あそこへ・・・・」
 そこまできて横井さんは珍しく少し詰まりました。
 「ほれ、あそこ、呑んだらね、その後ね、あそこへ、私はね、あそこの会員になっててね、あそこはサウナがあってね、ええと名前なんだっけな、そこへね毎日ね・・・」
 ほう、横井さんは大立目だけじゃなくて、三王子でも行きつけのサウナがあるのか、さすがだな・・、と僕が心ひそかに関心したとき、それまで『呑んだ後にいく会員制のサウナ』の名前が出てこずに苦渋の表情だった横井軍曹の顔がぱっと明るくなり、床を指さして大きな声を出して、その相手のみならず僕のように思えず聞き耳をたてていた人間をも驚愕させる警句を吐きました。すなわち横井軍曹はこういったのです。
 「あっ!ここだあっ!ここっ!ここ、サウナだよね?」

 もうひとりの田中要次さんは、職業は福祉関係、年の頃は50歳半ばくらい、これまた仕事帰りにジムのプールで泳いでサウナにはいるか、或いは泳がないまでもサウナには毎日はいり、それから血圧をさげるために電車で30分くらいかかる勤め先に自転車で通ったことがある、という人です。これも僕がサウナで同浴したときの田中さんのおしゃべりの範囲でわかっちゃった個人情報です。
 田中さんは、見た目も話し方も非常に紳士的で、横井軍曹みたく『うん、うん、うん、うん、』なんて言ってないし、話している内容も論理的で、一見横井軍曹より無害に見えます。ところが僕の観察によるとむしろ田中さんのほうが要注意人物なんです。それは、何故かというと、田中さんは、実は横井さんよりもずっと『サウナにおける沈黙時間に対する耐性』が低く、とにかく誰彼なく話しかける頻度が、横井さんよりずっと高いから、なんであります。だから下手を踏んでサウナでふたりきりになる場合、僕としては横井さんと二人きりよりも田中さんと二人きり、のほうがずっといやですね。

 この二人はもちろん顔見知りで、お互いに敬意をはらっています。横井さんは田中さんに、
 「ああたはいい体してっから長生きするよ。おらあ70でぽっくりいくけどね・・」
 と、会う度に言ってますし(たしかに田中要次さんは年齢のわりには引き締まった筋肉質です。)、田中さんは横井さんのことを
 「サウナの神様」
 と(やや、芸がない呼び方、ですが、そういう点も僕に言わせると彼らの特徴のひとつであります。)いつも崇めてます。

 あるとき、僕がサウナにはいっていったら、すでに横井庄一さんと田中要次さんが先客でおり、大きな声で会話が進行中でした。
 「ここんとこ、どうもいけねえ。どうも調子が悪くて、今日もサウナは一回で帰ろうかと思ってるんだ。」
 と、横井さん。
 「そういうときもありますよ。」
 と、田中さん。ここまではごくありふれた、そして、特に齟齬の無い会話でした。田中さんが続けます。
 「人生はいいときもあれば、悪いときもあるんです、今は我慢のときでしょう。」
 「うん、どうもいけないんだよなあ。」
 「巡り合わせですよ。中島ゆみきの『時代』ですよ。」
 お、唐突に中島みゆき、か・・・。
 「サウナの回数が少ないからかなあ・・。」
 声は二人とも相変わらず大きいですけど、このあたりから会話のかみ合わせが怪しくなってきます。
 「中島ゆみきですよ。中島みゆき知ってますか?」
 田中さんは、先ほどの発言の無視が許容できなかったらしく、もう一度『中島みゆき』で突貫してきます。
 「・・はあ?しりまあ、せえんっ!」
 しょうがなく相手にした横井さんに『中島みゆき』は一蹴されてしまいました。ところが『知らない』って言っているのにこの言を受けた田中さんはいきなり、
 「♪んふふふ~、んふふふふ~、んふふ~、んふふふ~、んふふふ~・・・」
 と眼を瞑って、顎を微かにあげ、首を左右に少し振りながら、自分に酔いしれるかのようにハミングで『時代』を歌い出しました。うわ、この二人、会話が全然噛み合ってないうえに、片方は歌いだしたぞ、仮にもサウナという公共のスペースなのに!

 ・・・・僕はいまでも香川先生の忠告を無視してサウナに通ってますが、幸いにして横井庄一さんとも田中要次さんとも会話はありません。会話のないうちは戦々恐々としながらも通えますけど、一度捕まったらそれ以降通うのをちょっと考えちゃうかもしれないです。


===終わり===
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Re: マイクロ・ジャクソン

> > マイクロジャクソン
> > はまりました
> > 早速使わせていただきます
>
> ありがとうございます。ね、びっくりするでしょう?でも・・・そこは『はまるところ』のつもりはなかったんだけどなあ。でも、なんにせよはまっていただければうれしいです。マイクロ・ジャクソン・・・・!じゃんじゃん使ってください、とえらそうに言いたいところですが、この洒落の版権者はたくまざるとはいえ、僕にはなくてサウナで一緒になった壮年二人組のひとりなんですよね・・・・。その方に許可をいただくわけにもいかないので(それはそうです。全裸の男にいきなり『あのお、先日のマイクロ・ジャクソン、使わせていただいてもいいですか?』なんて聞かれたらびっくりしちゃいます。しかも本人は間違ってない、と思われている可能性が高いので。)だから、そうっと、しかしじゃんじゃん使ってください。『マイクロ・ジャクソン・・・・・エマニュエル坊やかよ!』なあんて自分で突っ込んだりしてね。

マイクロジャクソン
はまりました
早速使わせていただきます
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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