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IOC会長。

 息子のいつもの宿題のひとつに『音読』があります。
 週ごとに先生から配付されるプリントを親の前で毎日音読して、毎回親のサインをもらってくることになっています。そのメンバーの国籍からして言を待たず、我が家の場合、これを息子に聞かされる、いや、聞いてあげるのは、日本語を十分に理解しないさい君ではなく、僕の担当になります。そして、我が子のがさつな性格からして、これまた言を待たず、毎日読むことなどせず、大抵木曜日か金曜日の晩に、それまでサボった月曜からのものを『一気に4、5日分を親の前で音読する』ことになります。
 困ったもんです。

 先日も、寝そべっていたら(肥満体で動くのが億劫なので、家ではだいたい寝そべってます。)息子の急襲に遭いました。
 「パパ、おんどく!」
 「また、溜めてたやつか?うん、わかった、わかった、読みたまい。」
 こいつには、どうやったら、先生の指示通り毎日ちゃんと読むような丁寧さを身につけさせることができるんだろう、といつもながら親として暗澹たる気持ちなど抱きながら、付き合います。
 「いくよパパ、とうすとのやきあがりよくわがへやのくうきよう、」
 「え?なんだって?」
 「もう、ちゃんと聞いてよ!!とうすとのやきあがりよくわがへやのくうきよう・・」
 息子はかまわず、強引に読み進めます。けれども、何を言っているのか全然わかんないじゃないですか。
 こいつ、また与えられた文章を理解せずに、いい加減に読んでるな、全く、いつになったら物事を几帳面にこなそうという自覚ができるんだろう、と依然と寝そべったまま、父は改めてアンタンたる気分を感じながら言いました。
 「おい、フジ、おまえ、またちゃんと読んでないだろ?」
 「ちゃんと読んでるよ!」
 息子は決然と反論しました。
 え、でも『とうすとのやきあがりよくわがへやのくうきよう』ってなんですかね?おかしいです。
 「ちょっと、見せろ。」
 僕は身を起こすと彼の手元を乱暴に覗きこみました。そこにはこうありました。
 『トーストの焼きあがりよく我が部屋の』
 ふむ・・・。
 『空気ようよう夏になりゆく』
 ほう。
 息子の『音読そのもの』は別に間違っていなかったんですね。ただ、彼が抑揚もつけず、一気呵成に読んだことと、まさか短歌で来られるとはと、こちら側に心の準備がなかったこと、からうまく父子の間で通じなかったものと見えます。
 「ははは、おい、これは『短歌』だな。」
 「そうだよ。なんで?」
 息子は一応、短歌ということは理解していたようです。だったら、合成音声みたく棒読みするんじゃないよ。
 「つぎね、さむいねとはなしかければさいむねと・・」
 ふむ。
 「こたえるひとのいるあたたかさ」
 あれ?この短歌なんか聞いたことがあるような・・・
 「このあじがいいねときみがいったからしちがつむいかはさらだきねんび」
 おお、この短歌たちは、あの『サラダ記念日』からの抜粋であったのか!道理でなんか聞き覚えがあると思いました。
 「おお、フジ、これは有名な本だぞ。『サラダ記念日』っつってな、昔、めちゃくちゃ売れた本なのだ。パパは出版された頃を覚えておるぞ。」

 ちなみにこの稿を書くにあたって、改めて調べて見たら『サラダ記念日』は1987年の出版でした。随分前なんですね。息子の担任の先生は若い方で、もちろん出版されて暫くたってからこの本の存在を知られたんでしょう。現在に至っても教材に取り上げられるなんて、さすがベストセラーです。

 「へえ、そう。パパ知ってるの・・、あ、ほんとだ、ここに『サラダ記念日』ってかいてある。じゃあさ、このタワラマンチってゆうひとは、まだいきてるの?」
 「いや、生きてるなんてもんじゃないよ、まだ50歳くらいじゃないか。それと『タワラマンチ』じゃなくて、『たわらまち』さんである。」
 「ふううん。ちょっと、かわった短歌を作るひとだね、タワラマンチって。」
 「そう!そうなんだよね、発表されたときも、それで話題になったんだよね。あと、『タワラマンチ』じゃなくて『たわらまち』さんなんだけどね。」
 僕は、短歌への造詣はゼロに等しいですが、久しぶりに耳にした俵万智さんの短歌の色褪せない斬新さに感心してしまいました。それだけではなく、なけなしの記憶中枢が鋭く刺激されたようです。
 「ええとな、パパが覚えているので、こういうのがあったぞ、ええと・・ちょっと待てよ、今ネットで・・、おお、これだこれ、『まちちゃんを先生と呼ぶ子らがいて神奈川県立橋本高校』ってな。珍しいだろ?」
 「ハシモトコーコーって何?」 
 「うん、この人はさ、神奈川県立橋本高校ってところで先生をしていたんだよね。目新しいだろ、結びを『神奈川県立橋本高校』で終わる短歌って。」
 「うん、珍しいねえ、すごいねえ、タワラマンチ。」
 「うん、今でも珍しく感じるよな。それとさ『タワラマンチ』じゃなくて『たわらまち』だけどさ。」
 息子は、誤った認識を徹底したまま音読を終えてしまい、翌日平然と学校に行ってしまいました。
 かあいそうに、何の罪もない俵万智さんは『サラダ記念日』出版から幾星霜、一介の小学生に『タワラマンチ』として記憶されることになってしまったのでありました。
 そもそも、作者の名前が『タワラマンチ』さんだったら、推測せんか、
 『マンチちゃんを先生と呼ぶ子ら』
 がいるハシモトコーコー、となりはしますまいか。(神奈川県立橋本高校の関係者の皆さん、ごめんなさい。他意はないです。)
 全く、この男は大丈夫かなあ。

 ・・・・と、このブログを結ぼうと思っていたんですが、はっとあることが頭をよぎりました。

 まさかとは思いますが、愚息は短歌に区切りをつけずに棒読みしたように、誤読しただけではなく、たわらまんちさん、否、たわらまちさんの名前も変なところで区切ってしまってないかな、という疑問です。
 「あいつ、『タワラ・マンチ』さんではなく『タワラマン・チ』さんだと思っているじゃ・・・。」
 可能性は低いですが、彼ならあり得ます。
 僕は、不安にかられながら『タワラマチ、タワラマンチ、タワラマン・チ・・・』と、なんとなくそれらを口の中で転がしました。
 「うん?なんか聞いたことがある名前だな・・・・、なんか似たような人がいたような・・・」
 誰だろう・・・・?
 「タワラマンチ・・・・、おう、『サラマンチ会長』だ!」
 そう、以前 IOCの会長だったはず。歴代のIOC会長の中でも露出の高い会長だったので、御存じの方も多いと思います。
 そもそも、サラマンチさんは何人だったんだろう、と僕はインターネットでサラマンチ会長のことを調べてみました。
 「ほう、サラマンチさん、スペイン人か、まさかフジはタワラマンチさんを外人だと思ってないだろうな、いや、いくらなんでもそれはないか、漢字で書いてあったからな、ははは・・、ほう、もともとはスポーツジャーナリストなのか・・、お、もうお亡くなりになっている、ふむ、1980年から2001年にかけてIOC会長か、すごい長期政権だな、どうりで記憶に残るわけだ、ふうむ、ええと、フルネームは、まさか、ナントカ・カントカ・サラマン・チ、なあんてことはないよな、はは、あるわけないか、ええと、フルネームはと・・・」
 瞬間、僕は驚愕しました。

 「『ファン・アントニオ・サマランチ』 ・・・???え?え、えええ!」
 
 ・・・・そうです。僕は、おそらくは彼の在任中から今に至るまで、その名前を間違えて記憶していたんです。
 『サラマンチ』ではなく、『サマランチ』じゃないですか!!
 
 ・・・・あながち、愚息の『タワラマンチ』さん、を心配している場合ではないかもしれません。

=== 終わり ===
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プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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