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ブラックレイン。

 今回は(今回も、かな?)尾篭な話なので、お食事中の方は今は読まないでください。『食事云々以前に尾篭な話はちょっと・・・』という方も読まないでください。
 『なに、なに?尾篭な話は大好きだぞ!』という方は、わくわくしながらどうぞ。

 海外に住んでいたとき、一番のお客さんはフランスにある会社でした。それで遠くフランスから2ヶ月に一回くらい、出張でフランス人バイヤーが、2,3人ばらばらとやってきます。来ると大抵2、3泊していきます。そのうち一人のバイヤーが来たときのことです。
 だいたい昼間は一日中商談をして、夜は、毎晩一緒に食事をするんですけど、ある日、そのバイヤーが、
 「高級ホテルのレストランでの食事はもう飽きたから、今日はもっと野趣あふれたところへ連れて行ってくれたまい。」
 と面倒なことを言い出しました。どうしようかな、と僕が思案していたら、当時の僕の上司、現地人の社長(僕より5つ年下の女の子)が、
 「おお、そうか、なら、いいところがある!」
 と勇躍、あるすし屋に行くことを提案しました。そのすし屋は、高級ホテル街や、普段日本人が行く日本料理屋街から離れて、ぽつんとあるすし屋で、僕は行ったことがありませんでした。
 「あそこは、安くてうまい!しかも、野趣にあふれている!」
 と社長はいやにご推薦です。それを聞いたフランス人もにこにこして、
 「おう、ではそこに行こう!」
 ということで、僕が口を挟む隙もなく決定してしまいました。
 その頃の僕は、すでに、駐在して何年か過ぎ、駐在前の出張や、駐在初期期間でこそ、食あたりもしていましたが、あまりおなかをこわしたりしなくなっていました。そうしたこともあって、人間とは(いや、僕とは、かな?)恐ろしいもので、いつのまにか『俺は慣れている≒俺は安全だ』と勘違いしてしまうもののようです。しかし、慣れていることと、客観的状況が安全かどうか、を結びつける根拠は実は全く無いんですね。というわけで、結局僕は、『そんなすし屋行ったことないなあ、まあ、俺はこの国に慣れているから大丈夫だろ。』と高ををくくって唯々諾々とそのすし屋での晩飯に行くことになりました。

 夜、社長、僕、僕の部下の中国系フランス人、とそのフランス人バイヤーの4人、ですし屋に到着してみると、なるほど、野趣溢れる店で、店員も全員現地人、客も全員現地人で、店内はなにやら派手なライトで彩られ、その世界観は『日本的』というより、『ディープアジア』といった感じです。僕は、咄嗟に-宣伝しか観たことないですけど-、
 「おお、ブラックレイン!みたいだ。」
 とマイケル・ダグラスと高倉健が出ていたやくざ映画(ですよね?確か)に描かれていた『妙にディープアジアンな日本の光景』を思い出しました。
 バイヤーはその雰囲気をたいそう喜んで、食事はたいへん盛り上がり、日本酒まで食卓に並びました。僕も、ちょっと怪しい店だけど、俺は慣れているから大丈夫だ、と(だから、慣れているから、安全、っていうのはおかしいんだって、ね。)生ものだろうが、何だろうが並べられた食事をかたじけなく平らげ、多少変な色だな、と思った日本酒も豪快に飲み干し、気持ちよく酔っ払い、『すし・ブラックレイン』(もちろん、そんな屋号ではないです。)を後にし、帰宅すると、ああ、食った飲んだ、と、ぐうぐう寝てしまいました。
 
 夜中・・・・。
 ふと、目が覚めました。なんで目が覚めたんだろう、としばらくぼんやりと考えていたら、なにやら腹部に膨満感が。気にせずに再度寝ようとしましたが、そのうちにその膨満感が痛みに変わってきて寝られません。
 その痛みも、『なんとなく腹周りが痛い』という類のものではなくて、今まで経験のしたことのない激しいものでした。すなわち、腹の中からなにかが胃壁を齧っているような『痛点のはっきりとした尖った激痛』なんです。僕の頭に期せずして思い浮かんだのが『エイリアン』という映画のワンシーンです。人体に寄生したエイリアンが腹を食いちぎって外にでてくるシーンです。
 最早、寝るどころではありません。僕はベッドでのたうちまわりました。
 と、そのうち、激しい便意が襲ってきました。
 安易にも『しめた!』と思いました。これは食あたりだな、ということは下してしまえば痛みも治まるわけだ、と考えたのです。果たして、トイレに駆け込み座ると、滝のような『流動性の高い』激しい下痢です。
 しかし、僕の予想に反して、腹痛は一向に治まらず、それどころか、今度はこれまた激しい、吐き気を催し、嘔吐をし始めました。
 「やられた!すし・ブラックレインにやられたのだ!」
 それから僕は、便器と着かず離れず、という時間を過ごしました。汚い話しですが、便意先生と吐き気先生は、お互いに相談をしないと見えて、下している最中に同時に吐き気を催すんです。僕は座っては立ち便器を抱え込み、吐いては座り激しく下し、を繰り返しました。
 その合間は、ベッドで困憊してひっくり返っています。でもまるで腹痛は治まりません。それどころか、どうも発熱したようで、物凄い寒気に襲われ、普段寝るときも入れている冷房を切ると、布団をかぶって、それでも寒くて腹を抱えつつ、『すし・ブラックレイン』の憎まれ口をたたきながら、がたがたと震えていました。その時、僕は、ある些細な発見をしてまいました。
 それは、人間は寝ているとき、うつ伏せでも、仰向けでも、いくばくかの体重が胃にかかる、ということです。なんだってそんなことを発見したかというと、あまりの腹痛に、いろいろと寝相を変えてみたんですが、僕の疲弊しきった内臓は、普段は気付かない、この僅かな重みに耐えられないんです。そうこうしているうちに、また激しい下痢と嘔吐の為にトイレに駆け込みます。駆け込んでは、ベッドで唸り、唸っては、寝相を変えてみる、を夜中じゅう、何度となく繰り返しました。

 しかし、痛みも寒さも収まる気配すら見せません。寝るどころではないです。そのうち、僕は、一計を案じ、バスタブにお湯をたくさん満たすと、裸になり、その中に体を沈めました。これは、たいへんすぐれた対処というべきで、まず、浮力によっておなかにかかる体重が軽減され、痛みが暫時半減し、さらに寒気からも解放されました。
 僕は、初めて人心地つき、疲れもあって、そのままうとうととしました。ところがエイリアンはまだ容赦してくれず、そのわずかな睡眠も発作のように襲ってくる激しい便意と吐き気で、じきに吹き飛ばされてしまいます。僕は、バスタブから飛び出ると-もちろん、全裸で-、またしても隣の(海外の住居はバスタブと便器が隣あわせになっているので、こういうときは便利です。『便利』なんて言っている場合ではないですけど。)便器にすわっては下し、下しては立ち上がって戻す、という苦行(奇行、ともいえます。『全裸』ですから。)を繰り返しました。

 その状態は結局朝まで続き、朝になって、日本人の医者のいる病院にほうほうの態で駆け込みました。
 「検便しましょう?出ますか?」
 僕の訴えを受けて、医者は言いました。なにをおっしゃいますやら、今でも座れば、即出ます。
 そして、検便の結果を、医者は、まるで明日の天気でも告げるかのようなカジュアルなテンションでいい放ちました。
 「アメーバですね。」
 ええ!アメーバ!アメーバ赤痢????
 それは日本では『法定伝染病』という奴では?僕の頭の中には、一瞬にして、パジャマを着て特別な病棟に隔離されている自分の姿がまがまがしく想像されました。畜生!すし・ブラックレイン、め!
 しかし・・・・。この国では、アメーバくらいは珍しくないようで、僕は数分後、数日分の飲み薬を手に帰宅の途についていました。え?飲み薬もらって、おしまい、ってこれだけで、いいの?と呆気にとられるくらい簡単な処置でした。
 『下痢が止まるまで薬を飲みなさい。薬が切れてもまだ下痢が続くようであればまた来なさい。』でおしまい、です。
 結局、僕は、その後数日間会社を休み、家でふて寝していました。

 回復後、現地の日本人にこの顛末を話しました。てっきり同情されるかと思ったら、ぼろかすに言われて散々でした。
 「何?『すし・ブレックレイン』(しつこいですが、本当の名前ではないです。)?あはは!あんなとこ行く奴が悪いわ!あそこは、以前日本人の板前が一人だけいたけど、今はもういないから衛生管理なんかむちゃくちゃやで!」
 と、うち興じる人あれば、
 「おお、『すし・ブラックレイン』!やっぱり当たったか?あそこに行った日本人が当たる確率はイチローの打率並らしいで?う~む、噂に違わぬ高確率や。」
 と、妙に納得する人あれば、
 「おい、そんな滅多なことゆったらあかん、向こうも商売なんやから、確証もなしにそんなことを言いふらすのは営業妨害やぞ。」
 と、叱り飛ばす人までおりました。
 冗談じゃないです。
 僕に言わせると店の名前を『すし・アメーバ』に変えてほしいくらいです。

 ちなみに、フランス人バイヤーを含め、一緒にいった他の3人は全く異常がありませんでした。

 尚、正確にいうと僕のそのときの症状は『アメーバ赤痢』になった、ではなく、『アメーバ菌に罹患した。』ということだそうです。アメーバに感染して、血便がでると『アメーバ赤痢』で、血便がでないと『アメーバ菌に罹患した』だけで、終わり、だそうです。僕は激しく下痢をしたけれど、血便ではなかったので、アメーバ赤痢ではない、と、診察してくれた日本人のお医者さんが教えてくれました。
 本当でしょうか?なんかこれも処方と一緒で、その場しのぎの適当なことを言われているような気がします。

 とにかく、忘れがたい食あたり、でありました。

===終わり===
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プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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