スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

The Catcher in the Rye.

 『海外出張』と『海外旅行』は文字にしてみるとよく似てますけど、その中味はえらい違いです。僕に言わせると意外なことに結構『海外旅行も海外出張が好き』っていう人がいますけど、僕は『海外出張』はあまり好きじゃないです。まあ、旅行と違って遊びに行くわけでないですから、わくわくしないほうが普通だとは思いますけど。 僕の携わっている業務の性質上かもしれないですけれど、海外に出張しなければいけない時はたいてい、直接海外の取引先にあって交渉しなければ解決しそうもない問題を抱えていることが多いし、なによりも、出張で留守をする間の業務を前倒しでしなければいけないので、例えば5日間日本を開けるとしたら、2日後の締め切りの社内提出種類だの、3日後までに約束したお客さんへの見積もりだの、4日後までにすればいい仕入先への発注だの、を一気に出張まえに片付けてしまわなければいけないわけです。だから、急に海外出張が決まると(だいたい急に決まります。)、猛烈に忙しくなって連日深夜まで残業して、それでも間に合わずに前日は会社で徹夜で仕事をこなし、翌日の朝に会社から空港に直行、なんてことも一度や二度ではありませんでした。のみならずその出張が上司と一緒であったり、お客さんと一緒であったりしたら出張中も気をぬけないし、で、なんで海外出張が好き、だなんていう人がいるんだろう、と不思議でした。今でも不思議です。

 ただ、唯一、海外旅行と比べて、海外出張のほうがいい、と思うことは『帰りの気分』です。
 旅行の場合、行きはこれからの旅程に思いを馳せたり、気のおけない同行者とふざけあって非日常感が徐々に高揚していくのを満喫するわけですが、そのぶん帰りは、すでに明日の満員電車での通勤風景なんぞが頭をよぎり、旅行中ずっと一緒だった同行者ともいい加減話すこともなくなって、行きより口数が少なくなり、旅で使ったエネルギーの代償としての疲労と、日常回帰への半強制的な向き合い、を感じてブルーになっちゃったりするわけです。 
 一方出張の場合は、首尾よく問題も片付いた、留守業務にも支障はなかった、というわけで『急に日本を離れるためにその準備に忙殺され、出張中は問題解決に奔走する』ことから『特に問題のない日常業務』へ戻られる、というある種の安堵感があるんです。

 あの時もまさにそうでした。記憶が定かではないですけど、まだ入社3,4年目で、ある投資案件に巻き込まれていて、といって重要な業務を任されるでもなく、末端の雑務を担当していました。僕のいた部門はどちらかというと『個人商店集積型』の部門で、そういう投資案件は珍しかったんですが、その案件の実務上の旗振り役が僕の上司(副部長)だったがためにそういうことになっちゃったわけです。それで、やっぱりいきなり、
 「おい、あんた、あんたあ、誰やったかいな?
  ええ、みどりくんか、あのな、明後日から
  ジャカルタ行って来い。」
 なんて軽~~く命令されて、それで、やっぱり出張前は精根尽きはてるくらいの忙しさを食らい、それでもなんとか出張もやり終えて無事帰国の運びとなりました。僕は、これで、また平穏な日々に戻れる、名前も覚えてないくせに(副部長は部下への愛情は深いけれど、一方でたいへん鷹揚な方でした。)『コンビニ行って来い』みたいな調子で海外いかせるのは勘弁してほしいよな、まったく・・と思いつつも、僕なりに出張を首尾よく終えたという思いからリラックスしていました。
 「さあ、ビール飲んで、文庫本読んで、すぐ
  眠たくなって、寝るぞ!」

 そのフライトは、バリ島発ジャカルタ経由成田空港行き、のインドネシア国営のガルーダ航空夜行便でした。日本航空も同じ経路の便がありましたけど、ガルーダの方が安いので、2,3年目の社員としては、日本航空なんか乗らせてはもらえないわけです。もちろんエコノミークラスです。当時慢性的な睡眠不足だった僕は、たとえ飛行機の中でも誰にも邪魔されずに寝られることに、腕を撫して乗り込みました。

 ちょっと、余談になりますけど、その頃、ある年配の方が、
 「年取るとな寝れんようになるんやで。
  寝るのもな、体力がいるんや。」
 って言われていて、何をわけのわかんないこと言ってるんだこの人、って思ってましたけど、最近は『やや、ややや、失礼しました。その通りでございます!』って実感しています。本当に若いころはどこでも寝られたけれど、あれはやっぱり一種の体力のなせるわざなんだな、って思うんです。今は、夜行便でエコノミークラス、なんて聞くだけでげっそりしちゃいますけど、当時は、離陸直後に熟睡して、あれもう成田か、っていう感じでしたから。今じゃちょっと考えられないです。

 僕は、トイレが近いうえに小心者なので、他人にいちいちお願いしてトイレに行くのを嫌って、極力通路側に座席をとるようにしていました。もちろん寝るには窓側がいいんですけど、当時はなにしろ若いから座れればどこでもいいわけです。その時も通路側のシートがとれました。たぶんシーズンオフだったからでしょう、機内の座席はバリ島からすでに搭乗している客も含め、50%くらいしか埋まっていません。僕はチケットを見ながら、ほどなく、自分のシートを探しあてました。すると僕のシートは窓際の3人掛けの通路側で窓側の2席はすでに埋まっていました。まあ、どうでもいいです。
 ところが、荷物を置いて、座ろうと座席に正対したら、僕の横には同じ会社の他部門の同期の谷村が乗ってるじゃないですか。
 「お!たにむら、出張か?」
 僕は出張帰りの緩んだ気分も手伝って、この奇偶を軽く歓迎しながら言いました。
 ところが谷村は、その問いになんだかもごもご言うだけで要領を得ません。あれ?俺なんか難しい質問でもしたかな?と思って彼の服装をみたら、ポロシャツにデニムです。なんだ、随分ラフな格好してやがるなあ、まあ夜行便だし、明日は日曜日だから(日曜朝着の飛行機だったんです。)ラフな格好に着替えたのかな・・とあんまり深くは考えませんでした。もごもごいっている表情もなにやら歓迎ムードではないです。でも、実は僕が鈍感だったんです。
 なんだよ、別に寝て帰るだけだけど、同期で隣に座るなんてなかなかないことだからもう少しいい顔しろよな、と思いつつ、ふと窓際の席、谷村の横を見ると、妙齢の美女が・・・・。
 ああ、そういうことっすか。だったらそう言えばいいじゃねえか。もごもご言いやがって。要は、谷村君は彼女とバリ島に旅行に行った帰りだったわけです。それで、3人掛けで2人でよかったね、ジャカルタでも通路側には誰もこなければいいね、なんて話してたに違いありません。ところが、残念なことに、ジャカルタでその席がうまってしまい『甘い夜間飛行』をぶち壊されたどころかそれがよりによって同期のみどり・・・、で絶句して、
 「お!出張か?」
 なんて妙に元気に問いかけられても応えきれずにもごもごしちゃったわけです。

 俺は別に悪いことしてるわけじゃないんだけどなあ、と思いつつ、一応ご紹介されて、ぎこちない挨拶なんぞ交わしたあと、邪魔するのも悪いし、と思い、僕は持参した文庫本を読みはじめました。どうせすぐ眠くなるからさっさと寝ちまおう。その本は今でも覚えてますけど『The Catcher in the Rye』、青春小説の名著とされているサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』でした。僕は読書家とはいえないし、特に海外の小説なんか読むのは珍しいんですけど、なんとなく行きの成田空港で『あれ、これ良く聞く有名な本だよな。確か青春小説系だな。こういうのは年いったら感情移入が難しくなって読む気がしなくなるから買っとくか』と買ったんです。
 そしたら、こっちが邪魔しないようにおとなしく読書してるのに、いやに谷村が絡んでくるんです。

 「おい、みどり。」
 「へ?なに?」
 「その本さ、」
 「うん。」
 「俺の彼女が読んだことあるんだけど、」
 「ふん・・・。」
 「つまんないんだってさ。」
 「・・・・。」
 余計なお世話です。人がこれから読もうっていうのに。彼女は一応、谷村止まり、で言ったつもりだったらしく、笑いながら谷村のことを叱ってました。

 僕は、馬鹿馬鹿しくなったので、もういいや、早く眠気を感じないかな、なんて思いました。ところがある程度の沈黙をおいて、また谷村が絡んでくるんです。

 「みどり、あのさ、」
 「うん。」
 「彼女さ、スチュワーデスなんだよね。」
  だから何だってんだよ、自慢かよ?
 「それでよ、お前知ってるか?」
 「・・・へ?」
 「スチュワーデスはさ、自分の会社のエア―ライン
  には特別料金で乗れるんだよ。」
  だから、それは俺と何の関係があるんだよ。でも
  ひこうきがいしゃ、なんて言わないで『エア―ライン』
  なんていうところはさすがにスチュワーデスと付き合っ
  てるだけはあるよな・・。
 「でもな、」
 「うん。」
 「こうやっているところを同じ会社の人に見られたく
  ないからさ、」
 「うん。」
 「わざわざ、高い金払って、ガルーダを選んだんだよ、
  俺たち。」
 「・・・ほう。」
 「それなのに、」
 「それなのに?」
  と、谷村は、その先まで俺に言わせるのかと
  言わんばかりに短く小さい溜息をつき、
 「なんで俺のとなりに会社の同期の男が座んなきゃ
  いけないんだ?」
  いや、そんなこと、俺に言われても・・・。

 要は用意周到にことを運んだのに、最後にとなりにみどりかよ、っていうことをつらつらと僕に説明するわけです。なんだそら?こっちだって好きで谷村カップルの隣を選んだわけじゃあるまいし・・。彼女の自慢でもしてくれたほうがまだましだな、もう寝ちゃおう、寝る!寝るんだ!と僕は、まだ眠気もきていないのに、サリンジャーには悪いけれど最初の数ページを読んだだけで、本を閉じて、目も閉じちゃいました。

 しかし。ちょうど、僕が狸寝入りから、いつのまにやら本当に睡眠にはいったかはいらないかのときです。突如谷村につつかれて起こされました。あー、今度は何だよ。

 「あのさ、」
 「んん?」
 「うしろのほうさ、がらがらだから、
  おまえ後ろに行って寝ろよ。」
 「・・」

 なるほど振り返ってみると4人掛けのシートがまるまる空いていたりするのが散見されます。これは、邪魔者扱いされたのか、それとも僕のことを思って言ってくれたのか、まあ、どっちでもいいや、こっちも空いているところでのんびり寝られるのならそれにこしたことはない。

 「うん、ありがと。」
 
 なんだってお礼まで言ったんでしょうか。だいたいが寝てる人間を起こしておいて『もし貴君にご異存がなければ後ろに行かれてはどうか?』と『問いかけ』の形をとるならともかく、なんで断定的命令口調で言われなきゃいけないんでしょう・・?
 ともかくも僕は、後部のがらがらのシートに目星をつけ、4人掛けのひじ掛けを全部あげて、横になって手足を伸ばして寝ました。うん、気持ちいい。なにしろ成田まで7時間だからな、まあ、このほうがお互いよかった、ということだろう・・・・。

 ところが、好事魔多し。人が完全に寝入っているのに、ガルーダのスチュワーデスがたまに回ってきて『寝るのはいいけど、シートベルトをしろ』と無理なことを言います。それじゃあ4人掛け独占の意味がないじゃないか。それとも何か、4人掛けの隣り合っていないシートのシートベルトを繋いで、-例えば通路側の座席のベルトの凸部と3番目の座席のベルトの凹部を繋ぐ、とかですね。いちおう可能性を頭の中だけですが、僕なりに探ってはみたわけです。-寝たまんま股間から肩にかけて、身頃に垂直にベルトでもしろっていうのか?
 僕は、注意されたときだけ、普通に座ってベルトを締め、見回りが来なくなるとベルトをはずして4人掛けに寝転がる、ということを2,3度繰替えしました。
 と、そのうち、また起こされました。またベルトですか、はいはい、と思ったら、今度は日本人の男性で、
 「あの、そこわたしの席なんですけど。」
 って、あんた今までの数時間どこに行ってたんだ?まあ、機内は空いていたので、僕のように-同期のカップルの旅行に隣あわせて邪魔者いされた、というわけではないです。そんな人が同じ機内で沢山いたらある意味壮観ですけど。そうではなくて、よりよい寝場所を確保しようと民族移動をしていた、という意味です。-本来の席を離れて機内をうろうろしていた客が少なからずいたようで、そのうちの一人が戻ってきた、ということのようです。
 僕は、せっかく大の字になってもスチュワーデスに『寝てもいいからベルトはしろ』と難題はふきかけられるし、空いているようでいて実際は空いてない席に移動しちゃって文句はいわれるは、で結局継続的な睡眠はとれずに、最後は面倒くさくなちゃって結局、元の席-谷村の隣ですね。- に戻っちゃいました。

 数時間の後成田着。
 ところがここで事件が。ないんです。そう、僕のパスポートが。成田の入管で体中のポケットというポケットを探しまくりながら、青ざめている僕を横目に谷村カップルは、
 「何してんだ、おまえ?」
 「いや、パスポートが・・」
 「へ?そう。」
 と言うと、二人はあっさりと入管を出て仲良く消えていきました。

 あ、そうだ、あの時!僕はパスポートをズボンのポケットに入れていたので、機内を寝たり起きたりしてあちこち移動しているときに落としたに違いありません。僕は、入管の人間に事情を話し、戻って自分で機内を探したい、と申し出ました。でも治安上の理由、とかで許可してくれません。僕は、ひとり入管の列を離れ、端の事務所の前の椅子に座らされました。あたかも拘束された不法入国者を見るような目でじろじろ見る人もいます。
 僕は『間違いなく飛行機の中にある』って懸命に主張したんですけど、僕の乗ってきたガルーダは、2,3時間後、成田からジャカルタへ向けてすぐとんぼ返りに飛び立つ、だから今車内清掃をしているから、機内にあるならそこでみつかるはずです、それまで待っていてください、ってことで小一時間を日本に入国もできずにぼうっと過ごしました。そして最終的に、入管の職員から『清掃が終了しました。機内から出てきませんでしたので、おそらく乗られるまえに紛失されたんでしょう。』といやに断定的に宣言されてしまいました。

 ところで、日本に帰ってくるときにパスポートを紛失したご経験ありますか?僕は、一体、どんな複雑な書類だの質問だの-例えば、入管の人間が親に電話して確認をとる、とか、後日成田に再出頭するとか-があるのかと、最早疲れ切った頭で考えました。ところが、これが、-今は知りませんけど。― 拍子抜けするほど簡単に入れてくれるんです。たしか『パスポート紛失しました。どこのだれそれ。』とかいう定型書類一枚に住所、名前、電話番号書いて、それで終わりだったと思います。免許証などの身分証明の提示すら必要ありませんでした。待ち時間は長かったけど、あれ、こんなのでいいの?っていうくらい簡単に入管を通過しました。

 それで僕のパスポートはどうなったかというと、これが、僕の主張の通り、ガルーダの飛行機の中から二週間後くらいに出で来たと連絡がありました。どうも僕のパスポートは清掃員でもわかりにくいところに入り込んで、成田-ジャカルタ-バリ島の往復を何回も繰り返したようです。調べたら、入国と違い、紛失パスポートの再発行にはたいへん煩琑な手続きがいるようで、けれど、もうでてきそうもないから、面倒だなあ、と再発行の行動を何も起こしていなかったので、とても幸いに思いました。

 そうやって帰国した翌日の月曜日、出社したら谷村から内線電話があり、一応心配してくれてるのかな、と思って(実際そうかもしれないですけど。)、顛末を話したら、
 「ふん、紛失か。ということは今現在、お前を日本人
  と証明できる手段はないわけだ。」
 と勝ち誇ったようにわけのわかんないことを言われて、電話を切られちゃいました。

 尚、『ライ麦畑でつかまえて』はその後も手に取ることもなく、未だに僕の本棚にあります。なんだか今さら青春小説を読む気にもならんなあ、って思ってすでに15年以上たっちゃいました。たぶん、谷村の彼女の『つまんない』っていう一言が少なからず影響しているんだと思います。でもいつかは読もう、と思っているのでこれ以上感想とかあらすじとか余計なことは僕にインプットしないでください。お願いします。

===終わり===
 
スポンサーサイト

ラジオ体操第一。

 しつこいのは認めます。
 でも全然納得がいかないので、書いてしまうのであります。
 我慢して最後まで読みましょう。
 
 『10年ひと昔』という言葉にならうのであれば、もう『ひと昔』ではすまないくらい以前のことです。
 今回は、高校2年生の秋の修学旅行での思い出です。奈良の千年を超えようかという古墳を実際に間近でみたことに時空を超える感覚にうち震えました、あるいは、偶然観光コースを外れて立ち寄った京都の名もない寺が、実は数百年の歴史を持つ古刹で、そこの住職が無聊にまかせて親切にも易しく説いてくださった仏話に、少年乍ら初めて仏教の真髄に触れる思いがして未だにわすれられません。
 ・・・という類の話しでは、もちろんありません。これから話すのは、かけらも読むに価しない、僕の人間の小ささ、その他を証明する思い出話です。このへんは筆者の真骨頂であります。

 僕らラグビー部員は実は修学旅行の3日後かだかの、日曜日に公式戦を控えていました。そして、そういう日程になることは時期的に毎年のことで、3年生からは、
 「大事な試合が近いんだから修学旅行中も練習しろ。
  俺たちもそうしてきたんだからな。」
 と厳しくいわれていましたし、僕らもそのつもりでした。でも、数日間だけ奈良京都に滞在するのにわざわざ六人しかいない僕らはどこか練習場所を確保する、などという大がかりなことをするわけもなく、といって昼間に旅行をしないで練習をするわけでもなく、ただ毎日早朝におきて街を走ったり、六人でできるサインプレーをしたり、簡単な筋トレをする程度だったと思います。
 今大人になってから思うとそのことはなにぶん、いや、殆んど精神的な慣習、でしかなく、ある種自分たちのストイックさに自己陶酔していたに過ぎない、面が大きかった、と認めざるを得ないと思います。けれども、その時は、-まあ、誰にでも種類は異なるにせよ『若さ』と書いて『じことうすい』と読む、というような経験があるように-真剣に公式戦にそなえて自分たちのラグビースキルを早朝練習でメンテナンスしなければいかん、と100%信じて疑いませんでした。
 そういうわけで、当時主将であった僕は(以前書いたように人望があったので、とか、特にプレーがうまかったとか、そういうことでなったキャプテンではなくて、主将をきめる日に英語の補習に出ていなかったのが、僕を含めてなんと2人しかいなくて、その2人でどっちかっていうと『声がでかい』というだけ、という経緯で拝命つかまった主将です。)その責務全うに燃えて、自分たちの年代でこの慣習を断ち切ってはならん(なんでいけないんですかね。今思うと別にいいような気もします。)と、旅行の引率責任教師のところに事前に何度も通って許可をようやく取り付けました。教師にしてみれば、修学旅行も学習の一端だし、その程度の軽い練習で、先生不在の状況で(教師がそんな練習に立ち会うわけはないです。)宿泊所近隣でトラブルでも起こされたり、怪我をされたらかなわん、という考えだったんでしょう。ごもっともです。許可してくれないんですよね。しかも今なら間違いなく低姿勢で行ったり、根回ししたりしてから交渉するんだけど、当時はなにしろ『高校生』と書いて『ごうがんふそん』と読む、というような男でしたから、引率の教師に最初から、あんたなんかラグビーのことは知らないくせに、という空気満載で『責任は主将である僕がすべて取ります!』なんて大時代的なことを吐いて交渉にいくもんだからすんなり了解をもらえませんでした。最終的には、向うが面倒くさくなって許可してくれたわけですが、僕は論破してやったぜ、くらいの高揚感をもっていました。

 さて、そういうわけで、僕ら6人は、ラグビーボール数個と練習用のウエアを持って旅行にでました。詳細は覚えていませんが、学校できめられた他の生徒の起床時間より、1,2時間早く起きて練習をする、という計画だったと思います。
 早朝練習初日の朝、僕を含む6人は前夜の夜更かしもものかわ、それぞれの部屋から起きてきて、あくびを連発しながら人影もまばらな京都の街を走り、ラインアウト
(スローイングですね。実はこのプレーには誰がとるか、味方にしかわからないようにサインがあって、投げる人と、取る人の呼吸を常にあわせておく必要があるんです。サインはすぐ相手に悟られないように、例えば『投げる人が5桁の数字を言って、2桁目と4桁目の数字を足して、その足した数字が3の倍数なら豊田がキャッチ、5の倍数なら藤代がキャッチ、でも5桁のうちにゼロがはいっていた場合には計算はしないで無条件にみどりがキャッチ』というようなちょっと聞いたら複雑な計算になってます。法則はそれぞれですが、だいたい各チームともそういうややこしい理屈の上にたった計算式でやってます。ええ?息をきらせながらの試合中にそんな計算できるのかよ・・?ごもっとも。できません。でも実は答えの数というのはそんなに種類があるわけではないので、毎日やっていれば、ほとんど計算しないで味方同士は反射できるものなのです。ま、たまに、信じられないオリジナルな計算式を勝手に算出してその試合中、仲間も意図しない状況で唐突にひとりで飛んだり跳ねたりをする人間も稀にいました-副キャプテンの山案山子くんです-けど。僕もそうですが、高校時代の仲間はおそらくまだ僕たちのチームのラインアウトの計算式は覚えているはずです。それほど毎日やることが要求されるチームプレーなんです。余談が過ぎました。)
の練習なんぞしたりしました。
 うむ、たいへん、よろしい。主将である僕は、痛く満足しました。

 ところが、そこは『10代後半』とかいて『いろこいもふくめていろいろある』と読む、という年代ですから、昼間の行動ももちろん、夜の友人との語らいや馬鹿騒ぎなどにも非生産的な情熱を燃やしに燃やすわけです。
 早朝練習2日目の朝です。時間になっても待ち合わせ場所(たしかホテルのロビーだったと思います。)に2人ほど来ていません。けしからんです。しかし、代々我が部に引き継がれてきた大事な練習を(だから、たんなる自己満足だよ、なんですけどね。)をやらないわけにはいきません。修学旅行なんぞより、その数日後にある公式戦1回戦のほうが何倍も大事なのだ!・・・・しょうがないので、僕は、起きてこない2人の部屋をさがしあて、他の部の生徒の邪魔にならないように『完全熟睡』している同期を起こして無理やりに練習をしました。俺は主将だから責任はあるけど、起こす役目まで引き受けたつもりはないんだけどなあ。でも無理やり起こされた2人は仏頂面こそすれ、僕にたいする謝罪、あるいは感謝の気持ちなど一言もありません。同期の人望で選ばれた主将ではないのでそういう態度もするわけです。ちなみに、先述の英語の補習をうけなかったから、といって僕の高校時代の成績が良かったのか、というと、その時の補習はぎりぎり逃れたものの、それはそれは全体的には目も当てられないような惨状で・・いや、この話はまた別の機会に。

 そして、3日目です。とうとう自分で起きてくるのは僕と、僕と同じ部屋の豊田だけになりました。彼の名誉のために言っておきますが、豊田は僕と同じ部屋だから僕におこされたんじゃなくて毎回自分で起きてくれました。・・・・『起きてくれました』っていう表現を使う時点でなんか主将としては違和感がありますけど。実はたまたまですが、参考までに、この2人は英語非補習組です。
 仕方がない。
 僕は、残りの4人の部屋を調べ、4人を起こしにいきました。4人とも片目をつむっていたり寝癖を爆発させていたりして、見事なまでの不機嫌さです。(だから、起きるのはそれぞれ自分で起きる約束だろ。なんで俺が起こしに回らないといけないんだ。)起こす作業のせいで、練習時間が短くなってしまったことも含めて、言葉に出すことはないにせよ、僕の心の中では、昨日からの苛立ちが増幅していました。

 最終日となりました。もちろん、ロビーに降りてきているのは僕と豊田だけです。僕は、大きな溜息をひとつつくと、他の4人を起こしにいきました。大林、さとる、を起こし、彼らがしぶしぶ起きるのを確認して、残りふたりの部屋に行きました。
 「おい、藤代、朝練するぞ。起きろ。おい、
  起きろよ。」
 すると、ようやく藤代は布団の上に立ちあがりました。と、その時、同時に宿舎の館内放送で-今思うと不思議なんですけど、そのホテルは毎日早朝にラジオ体操を館内放送で流していました。変わってますよね。― ラジオ体操の音が流れてきました。僕に無理やり起こされた藤代は、寝ぼけているのか、布団の上にたつとぼんやりと視線を泳がせたまんまラジオ体操の音楽とナレーションに条件反射をなし、その視線とは対照的に突如体だけは激しく、ラジオ体操第一を始めました。(なんだあ、こいつ?まあ、いいや起きたんだから。もうひとり起こさなきゃ。)
 「用意して降りてこいよ。」
 カクカクと、しかし、妙に懸命に体側のばしをする藤代に捨て台詞を浴びせると、最後のひとり副キャプテンの山案山子の部屋です。
 「おい!山案山子、行くぞ。おい!」
 すると、体こそ起こさないものの、寝床の中の山案山子ははっきりとした声で、
 「うん、わかった。すぐ、行く。」
 と素直に返答しました。
 しかし・・・、4人をおこしてからロビーで待っても、なぜか大林とさとるしか来ません。僕は、もう起こしにいっている時間がないので、あとで追いかけてくるだろう、と判断して、集まった4人で走りにでかけました。俺は、目覚まし時計じゃないんだから!そもそもが15人でやるスポーツなので、6人でさえ練習内容が限られているのに、4人だと碌なことがきません。
 結局、その日の練習には、藤代と山案山子は来ませんでした。

 藤代は、どうやら『あらぬ視線でカクカクとラジオ体操第一を布団の上でなした』あと、そのまま即、二度寝してしまったらしいんです。けしからんのを通りこして唖然とします。
 僕は、練習を終えて、とても不機嫌でした。だいたいが各自が起きてこないから2日目から緊急避難的に僕が起こしてまわっていることからして大いに不満だったのに、最後には起きたくせにこないのが2人もいるなんて・・・。

 その日の修学旅行は団体行動の日でした。朝練のあと宿舎に戻り、他の生徒と一緒に朝食をとり、バスを待つために各クラスで並んでいるときです。僕は、愚痴る相手がいるわけでもなく、なんだかまだもやもやとしていました。
 ふいに、すこし距離を置いた隣のクラスの列から、怒気を含んだ大きな声で僕を呼ぶ男がいました。山案山子です。
 「だいず!
  (僕の仇名です。10年10月25日
  『大豆(おおまめ)に隠された真実。』
   ご参照ください。)!」
 見ると山案山子は眉間に皺を寄せてもんのすごい険悪な顔をしています。僕はというと、最前から述べているようにもやもやとした心中です。何だ、こいつ?
 「なんだよ。」
 憮然と答えます。その次に山案山子が怒りながら怒鳴った言葉は、僕の心の中のもやもやの導火線に火をつけるのには充分すぎるくらい現状認識に温度差がある言葉でした。
 「起こしてよっ!
  なんで起こしてくんないんだよ!」
 ・・・ええ!僕の苛々は心の中で大爆発を起こし、その爆発から溢れだして来た言葉たちがあまりにも多くて、どれを選択していいかわからないほどでした。
 『俺は、お前らの目覚まし時計じゃないんだぞ!』
 『だいたい、各自で起きるのが当たり前じゃないか!』
 『俺は、2日目から起こして回ってるんだ!』
 『おまえ、そもそも副キャプテンだろ!』
 『怒りたいのは俺のほうだ!』
 『こないだ貸した300円返せ!』
 『そこを怒るか、普通!』
 ・・・・・。しかし、気持ちの整理のつかない僕は、反射的に山案山子の土俵に真っ向から乗るような返答をしてしまいました。
山 「起こしてよ!」
僕 「起こしたよ!」
山 「うそだね!俺しらないぞ!」
僕 「うそってなんだ!おまえ返事してたぞ!」

 水掛け論です。山案山子も『うそだ』と『だいずの言動の真偽の鑑定』に関してこぶしをふりあげてしまい、そこに真っ向から挑まれた手前、こぶしを下ろそうとしません。2人の会話はバス乗り場でクラスの列をはさんで、大声での言いあいになりました。

山 「そんなこと、言ってねえよ!
   なんで起こしてくれなかったんだよ!」

 今思うと、彼は彼で、同期の手前、副キャプテンとして朝練にいけなかった(僕にいわせると単なる怠慢なので、いけなかった、じゃなくて、こなかった、ですけど)ということに悔いと責任感を感じての怒声だったようです。起こしてくんないと俺の立場がないじゃないか、ってなもんですね。だからあ、俺は目覚まし時計じゃないっつうの。

僕 「何!だから起こしたっ、つってるだろ!
   だいたい・・・」

 でも、僕にしてみればちゃんと起こしたし、それには山案山子も返事したし、まさか、顔をひっぱたいて完全に起きるまで、なんかやってられないです。そんなことより、そもそも『起こすことはだいずの仕事だろう』という暗黙の前提が僕にしてはおかしいので、百歩譲って僕が彼を起こさなかったとしても(起こしましたけど!)責めを負ういわれはないわけです。
 それで、『だいたい、俺はお前らを起こす係か?起きるのは自分ですることだろう!』と言いかけたとき、僕らのまことにレベルの低い論争をそばで黙って聞いていたハンドボール部の青田君が(彼は山案山子と同じ部屋でした。どうも僕の声に睡眠を邪魔されたみたいです。)ぼそっと、言いました。

青 「だいず、起こしにきてたよ。」
山 「・・・・」
青 「山マンも『うん、すぐ行く』とか言ってたよ。
   その後は起きなかったみたいだけど。」

 青田君は頭もいいし、冷静な人です。この突如あらわれた有力な証人のために、一気に山案山子は『だいずが、起こしにきたか、きていないか』という高く振り上げたこぶしに関しては(だから僕に言わせると、起こしに行ったか行かないか、なんてことより、だいずが目覚まし時計である、という前提こそが気に入らないんですけどね。)振り下ろさざるを得なくなりました。ところが人間というのは面白いもので、振り上げたこぶしが高ければ高いほどなかなかすんなりおろせないもので、山案山子は、

山 「・・え、ほんと?」
青 「ほんとだって。俺全部聞いてもん。
   だいずの言ってる通りだよ。」
山 「ほんと?・・」

 という会話のあと、その眉間にこれでもか、とよせた皺はそのままで、つまり表情はこぶしをあげたままだけど、言葉においては完全にこぶしをおろす、という自己矛盾した格好で、
  「じゃあ、いいや。」
 とつぶやくと、論点をずらすこともなく、いまやその大義名分を完全に失った険悪な表情のまんま、それっきりで会話を一方的に終わらせてしまいました。
 『じゃあ、いいや。』って・・・。僕は万引きした人に間違えられて濡れ衣は晴れたのに『これに懲りて次からは気をつけろよ!』って言われたような気がして、釈然としませんでした。

 だって、そうですよね。

 ①そもそも、起こすのは僕の役目じゃない。
 ②でも、いつのまにかそういうことになっている。
 ③しかもその原因は、自分で起きてこない方にある。
 ④そのうえ、僕は山案山子を起こした。
 ⑤でも『嘘つき』呼ばわりされた。
 ⑥それで、証人の出現によって『じゃあ、今回の
  ところは許してやろう』BY 山案山子、っていう
  空気で論争が終結した。
 ⑦『許してやろう』ってなんだ?
   山案山子にそんな権利や立場があるのか?
 ⑧『起こされたこと』は譲歩して認めるのなら、
   その結果『練習に来なかったこと』には
   なぜ触れない?そっちの方が本題でしょ?
 ⑨300円はまだ返してもらっていない。

 納得いきません。
 でも我ながらよくこんなこと覚えてるなあ。

 ちなみに、あらぬ視線でカクカクとラジオ体操第一を終えて二度寝したらしい藤代を詰問すると、にやにやしながら、
 「まあじい?全然覚えてねえよ。はは。」
 って言ってました・・・・。こちらのケースではあまりのことにただ脱力するばかりで、『ラジオ体操第一』と書いて『むせきにん』と読む、って感じです。

===終わり===

 

 
 

 

機能美。

 「ねえ、パパ。」
 「なに!」
  僕がたいへんな集中力でテレビの阪神タイガース戦観戦に臨んでいるとき(どのくらいの集中力かというと、仕事中の100倍くらいです。)、いつものようにいつのまにか僕の体をソファ代わりにして座っていた息子のそのあとに続く問いかけは僕の集中力をそぐのにはあまりある奇天烈なものでした。

 この間、ぼうっとしながら-だいたい、いつもぼうっとしてます。―、読むとは無しにあるアンケートを読んでいて、思わず噴き出してしまいました。
 なにしろぼうっとしてたので詳細は定かではありませんが、確か、そのアンケートの趣旨は女性向けで『女性が理解しかねる男性の特徴』といった類だったと思います。
 趣向上『自慢話が好き』とか傾向としてはネガティヴな項目が多かったんですけど、かなり上位に、3,4番目だったと思います、こうあったんです。

 『エンジンのついているものが好き。』
 
 なんだよそれ!、って思いながらも僕は、不覚にも声をあげて笑っちゃいました。だってそんな返答をする女性が何十人もいた、とは思えなかったからです。しかもあながち当を得ているだけに意表をつかれたわけです。
 僕が思うに、これは、このアンケートを編集した人の巧まざる殊勲だと思うんです。

 まず、僕が、なんだよそれ、って思ったように、
 「あなたが理解できない男性の特徴は何ですか?」
 って聞かれた女性が、異口同音に何十人も、
 「ええとお、エンジンがついているものが好きなのが
  なんでなのか理解できないかなあ。」
 と返答したとは思えないんです。

 そうじゃなくて、きっと、

 「なんか、いい年してえ、あれ、何だっけ?ガンダム?
  とか熱く語るひと。なんでガンダムなのか全然わかんない。
  わたしには仮面ライダーもウルトラマンもガンダム
  も一緒。」(アパレル 29歳)とか、

 「友人の男性がバイクの雑誌を定期購読してて毎月見させら
  れる。わたしには毎月同じ内容にしか見えない。勘弁して
  ほしい。」(学生 22歳)とか、

 「彼の車が『土禁』で靴を脱がされた。そんな習慣ないから
  乗ったあと靴を道路から取り上げるのを忘れて、そのまま
  わたしの靴は置いてけぼりにされて、結局紛失。私より車
  の方が大事なのか、と腹が立った。」
  (金融関係 31歳)とか、

 「職場のみんなでバーベキューに行ったら、最初から最後まで
  ラジコンで飛行機を飛ばしていた人がいた。私たちがゴミを
  捨てたり後片付けしてるときも、ラジコンの飛行機を大事そ
  うに専用の袋にいれてた。理解不能。」(派遣 28歳)とか、

 「合コンで隣になった男性にモデルガンの話を2時間もされた。
  ルックスは100点だっただけに、落差に激しく凹んだ。社会人
  なら初対面の人間と共通の話題を探る努力くらいしなさい。」
  (証券会社 40歳)とか、
  
 いう回答があって(もちろん上記の例は全部僕の想像です。)、これを見ていたこのアンケートの編集者の方が(僕の想像では、女性 マスコミ勤務 35歳)が、なんだか面倒だなあ、一緒にしちゃえ、っていうことで『いい年した大人の男性の、動力機関を持つ動くモノ方面への異常な言動』をこの言葉でひとくくりにしちゃったわけです。
 それで、アンケートを集計していくときに『あ、これもエンジン好き系だな』『ああ、これもエンジン、と』って言う感じでこの女性(マスコミ勤務 35歳)が『正』の字をメモ用紙に書いていったら『エンジン』が一躍上位にランクインしてしまい、かくして誰もそんな言葉は発していないのに、

 3位『エンジンがついているものが好き。』

となったわけです。うん。
 僕は、この言葉を創出して、女性全般がなんとなく抱いている『いい年した大人の男性の、動力機関を持つ動くモノ方面への異常な言動』をひとくくりにしちゃったアンケートの担当者(女性 マスコミ勤務 35歳)の編集能力は高く評価しちゃいますね。『アンケート』なんだから本当は創出なんかしてはいけないんだとは思いますけど、短い言葉で的を射ていて笑わせてもらったので僕個人としては大いに称賛するところなんであります。

 確かに、男性は年齢を問わず『動力機関を持つ動くモノ方面への執着』が女性より強いです。

 絶対にそんな場面には遭遇しないだろう、と思われる男性が空調の効いた事務所での商談中にしている腕時計が『100M防水』で、その防水機能の値が『30Mではなくて、100Mである』ことを嬉しがったりしてます。そしその男性はさらに『なんとかナイロンで作られていて、そのナイロンはスイス軍隊も使用していて、弾丸も通さない』鞄を持ってたりするんです。
 さらに、彼はそれがゆえに値段が高い『四輪駆動』の車を持っていて、舗装された道路しか走らないくせに『四輪駆動』であることを嬉しがっていて、-おまけにこういう車には、高そうな方位磁石だの、車体の傾きを示すものだの、ハンドル回りにモノモノしい計器がたくさんついてます。挙句の果てには車の前方にウインチ(巻き上げ機ですね。)までついてます。―たりするわけです。
 実際は毎日営業で名刺を交換とかして、馴染みの取引先とは『いやあ、先日も大叩きで最近はどうもいけません、あはは』なんてゴルフのスコアの話しなんかしてるくせに、その装備だけは海を100M潜り、弾丸が飛び交う中をかいくぐり、砂漠を走りきり、傾斜の激しい山の中で遭難した場合はウインチで巻き上げるんであります。
 たいへん御苦労なことです。

 僕は考えてみました。思うに、男性はエンジンの有無もさることながら、良く言えば機能ありきの美しさ-新幹線の顔が速さを求めるがゆえに流線形になっていることや、飛行機の翼が浮力を得るために持っている、たおやかにすら見える膨らみ、など-『機能美』-ですね、に理解が深くて、それに加えてスイス軍が使用しているものであるぞ、というような『具体的な謂れがあって過剰だと尚わくわくしちゃう』ということなんではないでしょうか?
 実は、愚息の嗜好もこの例外を出ないんです。よくあるように一時は電車好きでしたけど、最近は、下ネタと、昆虫と、ネジ・釘集め、にほぼ全エネルギーを割いています。特にネジ釘にはご執心で、いつのまにか、道に落ちているネジだの釘だのを錆びてようが、用途が不明だろうが毎日のように拾ってきて、薬をいれる透明のポリ袋に入れてコレクションを増やしていて、それをたまに袋から床にぶちまけて、ひとりで矯めつ眇めつ眺めてみたり、自分なりになにやら分類してみたりしています。
 女性であるさい君はこの行動が全く理解できないらしく、大いに呆れて、
 「こんなもの集めても意味がないし、だいたい不潔だ。」
 とぶつぶつ不平を言ってます。でも僕は、自分が子供のころ、一時期似たようなことをして犬みたいに利用価値のない鉄くずだの釘だのを玄関の片隅に集めていたのも思い出して、
 「男の子にはそういう時期があるのだ。
  すておけたまえ。」
 とさい君には言い聞かせ、さらに、
 「ふうむ。こいつも小さいとはいえやっぱり男
  なんだなあ。釘やネジにこいつなりに機能美
  を感じているに違いない。」
 と呆れるどころか男同士の親近感さえ感じていました。
 いいぞ、遅いが確実に成長しておるな、我が子よ。息子は毎日のようにコレクションを充実させていて『ネジ山はないけど先はとがっていない』何かの部品を僕に見せて、真剣に、
 「ねえ、パパ、これはネジか釘かどっちだろう?」
 なんて質問してきたりします。
 さい君が息子が宿題をだらだらやってたりすると、息子の錆びだらけの『コレクション』を掴んで、
 「宿題ちゃんとしないから、これ全部捨てる!」
 などと言った時には、ハルマゲドン到来かのように激しく泣きわめいて抵抗してます。

 それどころかさる日、彼が興奮して報告したところによるとなんと、彼のコレクションがきっかけでリフォーム業者から営業をうけたらしいのです。
 どういうことかというと、僕も初めて知ったんですけど息子には『ネジ・釘のコレクション仲間』がいて、学校から帰る途中、路上でお互いの『コレクション』を開陳し、至福の時間を過ごしていたところ、
 「親切な知らないおじさんが、たくさん
  釘とネジを持ってきてくれた。」
 んだそうです。
 「え、こら、知らないひとには注意し
  なくちゃいけないじゃないか。」
 と僕が言おうとしたら、息子はさい君に彼女の母国語で、
 「その人はね、おうちをなおすひとなんだって。
  だからうちをなおすときは、おじさんに言ってね、
  だってさ。」
 だそうです。
 ちゃんとおじさんの目的どおり、母親に営業してました。

 そして、つい数日まえ、帰宅したらやはり息子は、自分のコレクションを床に広げて、うっとりとしていました。僕は、ははあ、やってるな、と思いつつ晩飯をすませ、床に寝転がってテレビを見始めました。
 「ねえ、パパ。」
 「なに!」
  僕がたいへんな集中力でテレビの阪神タイガース戦観戦に臨んでいるとき(どのくらいの集中力かというと、仕事中の100倍くらいです。)、いつものように気付くと僕の体をソファ代わりにして座っていた息子の、そのあとに続く問いかけは僕の集中力をそぐのには余りある奇天烈なものでした。
 「パパか、ジジの、ともだちにい、」
 「うん、なんだよ!」
 僕は阪神に送り続ける気合いを邪魔されて少し苛つきながら相手をしました。

 「きこりいない?」
 「えっ????」
 「だからあ、パパかジジのともだちにさ、きこりいないの?」
 「・・き、きこり?」
 「うん、きこり。」
 
 僕は全然要領を得なくて、でも一応返答しました。
 「・・樵はいないなあ。でも、なんで?」
 「フジさあ、フジのコレクションをとんかちで木に
  うちつけてみたくなったんだよ。木はさ、きこりが
  もってるでしょ?でも、きこりのともだちいないの
  か・・・。」

 ・・・どうもまだおつむが弱いようです。息子の言動に『機能美好き』という男性らしさを発見した、と喜ぶのは時期尚早だったかもしれません。

 ちなみに、僕(会社員 男性 年齢不詳。)は『エンジンのついているもの』で特に好きなものはないですが、『エンジンのついているかの如き、球速表示の埒外にある阪神タイガースの藤川球児のストレートの威力』を語らせるとうるさいです。男性のみなさんは普通そうですよね?え?特にどうでもいい?そんな・・。

===終わり===



   

みぢかえない事実。①

 くうううわあははは!世界で15人(推定、たぶん誤差は前後2,3人)の『普段法螺など全く言いそうもない身近な人間が真剣に主張する、ありえない話』略して『みぢかえない話』ファンのみなさん、油断してたでしょう!『みぢかえない話』はそう簡単には絶滅しないのであります。
 そして、地球で18人(推定、たぶん誤差は5,6人)の『みぢかえない話なんて・・別に』とか、『そもそもみぢかえない話って何?』と思っているみなさん(この種の方が2,3人おられると思われたので、誤差は少し多めに見ておきました。)、面倒なものに出会ってしまいましたな。(でもそういう方は、10年3月27日みぢかえない話①、4月17日みぢかえない話②、5月23日みぢかえない話③、11月3日みぢかえない話④、11年1月8日みぢかえる父まずまさ、を再読してから読んでいただければ、とりあえず、話にはついていけます。なんだそら、そんなの別にいいや、こっちの勝手だろって、本編だけ読んでいただくのも大歓迎です。つまるところ、全然『入り組んだシリーズ』ではないからであります。)

 つい最近、まっっことに不本意ながら、父親みどりまずかさ、と頻繁に電話で話しをしなければいけない日々が続きました。かずまさは、何度も説明しているように、元サラリーマンとはとても思えないくらいコミュニケーション能力に欠陥を抱えている男です。家庭生活もそうですけど、

(家庭生活についても、この男はよく家族に見放されなかったなあ、と感心してしまいます。この話は-秘密ですよ、絶対に!-本旨と違うので、ここでは軽く触れておくにとどめておきますが、僕の母親、つまりかずまさの妻ですね、彼女が、僕とふたりになったときに何回か真顔で言ったことのある『お兄ちゃんの結婚相手についての最大の心配ごと』は、いいですか、秘密ですよ、なんと、
 「もし、お兄ちゃんがお父さんが拵えた
  婚外子と恋愛に落ちて、その子と結婚
  したい、って連れてきたら、どうしよ
  うかと思って、お母さんドキドキしてね。」
だそうです・・・。それを聞いた僕が、いろんな意味で複雑な表情で黙っていたら、その反応のどこをどう勘違いしたのか母親は、
 「ほら、違うのよ、血が繋がってると妙に
  合ったりするじゃない?それが、この人
  とは兄弟だから、とか、いとこだから、だ、
  とかわかってればいいけど、それを知らな
  いで出会ったりすると『運命的な出会い』
  かなんかと勘違いするかもしれないでしょ?
  それで、恋に落ちちゃうわけよ。もうお母
  さんどきどきしてねえ。」
・・・。いや、あのそんな方面に想像をたくましくして心配する前に、父親が『家族に秘密で婚外子を拵えておること』を前提と見做してしまってるのって・・・、そこは『どうしようかと』思わなくていいのか、母よ・・。
 秘密ですよ!)
 
よく、社会生活を全うできたなあ、と思うくらいコミュニケーション能力に欠けてます。これまで僕の書いてきたものを辛抱強く読んできてくれた方の中には、もうだいたいかずまさ像ができあがってるかとも思うんですけど、簡単にいうと、
 *人の話しを最後まで聞かない。
 *声が馬鹿でかい。
 *一方的に話題を変える。
っていうところがおおまかな欠点ですね。おおまかですが、この三つで充分『あまり会話を交わしたくない人』の条件は満たしてます。以前にも書いたけど思考がたぶん『天動説』なんです、きっと。ご参考までに、本人曰く『ずっと営業だった』らしいです。

 先週の金曜日も仕事中昼前に僕の携帯に電話がかかってきて、電話番号表示がかずまさだったので、驚いてすぐとりました。驚くじゃないですか。あきらかに勤務時間中に父親からいきなり電話があったりしたら。そしたら、
 「おい!」
 「・・な、なに?」
 「あのな、『はなをそえる』って言うだろ?」
 「・・へ?」
 「だから!」
 もう怒ってます。このあたりが天動説男の真骨頂です。
 「誰それが来てくれたおかげで『会合に、はながそえら
  れた』とかっていうじゃないか!ええ!」
 「う、うう。」
 意図がわからずろくな返事もできず唸るだけの僕です。かずまさはかまわず続けます。
 「その場合の漢字はフラワーの花か、華やかのほう
  か、どっちだ!おう?」
 こういうとき、僕の正しい返事のひとつは、
 「用事ってそれだけ?辞書は見たの?」
 だと思うんです。でもそれは相手が常人の場合であって、かずまさを相手にした場合、そんなことを言ったら、やおら逆上して時間の無駄になることは経験則上必至です。だから、僕は、脳内で一回深呼吸したあと、
 「ちょっと調べないとわかんないな。」
 と答えました。すると果たしてかずまさは、
 「お、そうか。」
 言うなり、ガチャン、と切ってしまいました。
 こういうとき、僕のような立場に立ったひとの正しい行動のひとつは『すぐに仕事に戻る』だと思います。でもそれは相手が地動説を理解している常識ある今世紀の社会人の場合です。実はかずまさは、こういうとき、僕がすでに、かずまさのために仕事を投げ捨てて、彼の疑問を調べ始めているはずだ、と思っているわけです。それで、僕がネットで調べて-なんと今回はかずまさのお陰で勉強になりました。どっちでもいいそうです。―パソコンを見ながら電話をしました。
 「おお、なんだ、わざわざ調べてくれたのか
  すまんな。」
 なあんてことは、かずまさに限って間違っても言いません。
 「あのね。」
 「おう。」
 と当然のように泰然自若として構えています。
 「どっちでもいいんだって。」
 「ほう・・そうか。」
 「実際に植物の花による場合は特にフラワーの
  ほうの『花』を使うが、基本的にはどっちでも
  いいらしいよ。たとえば『だれそれさんがきた 
  ことで』っていうときなんかはフラワーの花で
  も『華やか』の華でもいいんだって、さ。」
 「おう、わかった。」
 ガチャン。用が済んだら即切っちゃうんであります。
 僕の隣の席でこの会話の一部始終を聞いていた女性が、
 「みどりさんのおとうさんって、サラリーマン
  じゃないの?」
 って、おそるおそるながら正鵠をずばりと射る質問をしてきました。そらそうですよね。サラリーマンの経験があったら、普通、職場に電話してきて藪から棒にこんな電話しないです。僕は、恥ずかしい気持ちを抑えながら、
 「いえ、元サラリーマンなんです。変な人でしょ?」
 と言いました。彼女はそれについては直接応答はしませんでしたが、
 「びっくりするわよね、仕事中におとうさんから
  電話があったら。」
 って、言外に変人であることを肯定してました。

 そんなわけで、僕は会って話すときも会話を成立させることに苦労するので、父親と電話でコミュニケーションをすんなり為すことは半ば諦めていました。
 それと、かずまさは機械にも弱いです。切れた電球のたまひとつ変えられません。そのくせ大物ぶるので、パソコンなんかノートブック型じゃなくてデスクトップ型の高そうなのを買って何カ月も触ってません。携帯電話ももちろん、電話機能しか使いません。電話番号登録も当然できません。だから、必要な、即ち僕とか僕のさい君とか兄とか母親の電話番号だけは、さい君がかわりに登録してあげています。
 しかし、冒頭に述べたように、ある事情からつい最近、まっっことに不本意ながら、父親みどりまずかさ、と頻繁に、それもお互いの携帯電話で話しをしなければいけない日々が続きました。

 そんなある日、いつものように用事あり、僕が携帯から、かずまさの携帯に電話をしました。
 「はい。」
 「いま、どこね?」
 引っ越しが多かったせいで、僕が父や母と会話するときはたまにどこのだかわかんない方言が出てきちゃったりします。すると、予想外なことにものすごい怒気を含んだ真剣な声でかずまさに、
 「誰だっ!」
 と一喝されました。なんだ、なんだ、この男、てめえの息子に向かって随分なごあいさつじゃねえか、とさすがの僕も予期しない反応に憮然としました。誰だっ!じゃねえだろう、電話番号表示を見りゃわかんだろうが・・。
 「はん?けいただけど。」
 「おう・・おまえか、いや、まいっちゃったよ。」
 いつものように僕の聞いていることには返答してくれません。
 「けいた、おまえ知ってたか?」
 「は?」
 「あれはな、洗っちゃいけねえんだぞ。」
 「へ?」
 だから、俺が用があって電話してるんだけどなあ。
 「いや、まいった。ちょっと時間が余ったからよ、
  洗ったんだよ。」
 「え?」
 「いや、ふと携帯を見たら随分きたねえな、と思ってな、」
 「え?洗ったって・・?」
 「そしたら、おまえ、使えなくなっちまってよ、」
 「いや、その携帯電話を洗ったの?」
 今の携帯は多少の防水機能くらいあるかもしれないけど、洗うことは前提になんかなってないんじゃ・・。
 「おう、あんまり汚れてたしな。石鹸もつけて
  ゴシゴシ洗ったわけよ。」
 「!!せっけんんんんっ?」
 「そしたら、おまえ、うんともすんとも言わなく
  なっちまってよ。」
 「・・・」
 「それで、いまユウ【僕のさい君ですね。】に
  どこに行けばいいか教えてもらってイト―ヨ―カ
  ド―に行って携帯を変えてきてもらったばっかり
  なんだよ。いや、まいった。おまえ知ってたか?
  携帯っていうのはな洗うと・・」
 「そんな人いないよ。お父さん。」
 「そうか。お前は、携帯を洗ってはいかんという
  ことは知ってたのか。俺はしらねえもんだから
  せっけんをつけてゴシゴシ、とだなあ。」
 「馬鹿だねえ。」
 今世紀の人間のやることか。
 普段は縦の物を横にもしないくせに『せっけんつけてゴシゴシ』って『妖怪小豆洗い』じゃあるまいし。
 「そしたら電話番号はそのままだけど、
  あれだ、登録はやり直しらしいから
  お前からの電話ってわかんなくってよ。」
 父親は、一度、自宅にかかってきた『オレオレ詐欺』を撃退した経験があったので、僕の電話にも『とりあえず防衛反応』を起こしてその結果が『誰だっ!』という暴言だったようです。
 あとで聞いたら、どうも病院だか市役所だか、とにかく『公共施設のトイレ』でこの蛮行を挙行したらしいんです。かずまさの性格・報告から想像するに、人目を憚ることなくけれんみもなく堂々と、専心ゴシゴシしていたと思われるので、目撃された人は『え・・えええっ??』と思われたに違いありません。まさに新種の妖怪『携帯電話洗い』とファースト・コンタクトされた思いだったのではないでしょうか?

 尚、以前にも書いたけど父親はコミュニケーション能力に欠陥が見られるのみならず、法螺吹きでもあります。けれども、今回はどうも事実らしいので(さすがのかずまさでもこんなに複雑な法螺は吹かないと思われます。法螺だとしても彼にとっていいことなんて無いですし。)『普段法螺など全く言いそうもない身近な人間が真剣に主張する、ありえない話』ではなく、今回は『普段法螺を言いそうな身近な人間が真剣に主張する、ありえない事実』ということで『みぢかえない話』からの派生シリーズということで、『みぢかえない事実』①としました。
 してはみたものの、別段定義づけするほどのことではないです。身も蓋もない、ってとこですかね。

 繰り返しますけど『母親の心配』は口外しないでください。
 父親の『新妖怪・携帯電話洗い』はどうでもいいです。
 けど、もし俺は目撃したぞ、という方がいたらご一報ください。

===終わり===
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
フリーエリア
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
にほんブログ村
フリーエリア
フリーエリア

人気ブログランキングへ
検索フォーム
リンク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。