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劇団、山案山子。

 社会に出て日深からぬ頃、まだ独身同士の親友の山案山子と二人、一泊二日で伊豆に旅行にいったときのことです。
 若い男が二人で?そうですよね。僕もそう思いました。

 この旅行の発案者にして幹事は山案山子です。僕の日産パルサ-で行こう、ということになりました。
 「二週間後の土日さ、会社の保養施設がとれたから、
  伊豆に行かない?」
 「うん、行く行く。」
 「女の子もくるからさ。」
 「うん!行く行く!」
 て、いうのがそもそもの始まりだったんです。
 「おい、保養施設とれたって、おまえ・・」
 「うん、ひと部屋ね。」
 「ええ、それじゃあ!?」
 「ダイジ、ダイジ、結構広い和室だから。」
 山案山子は、『大丈夫』のことをまるで旧知の仲の友人のように、略して『ダイジ』という口癖があります。
 「いや、そっちじゃなくて、女の子たちと一緒??」
 「ん?うん、そうなるね。部屋一つって説明しといたけど
  何にも言ってなかったから。」

 これは、たいへんなことになりました。およそ、僕にとってこんな、なんと形容してよいか、心躍る、しかし、なにかしら危うく足が地に着かないような、信じ難く、しかし、本当であればなぜだかまだ何もしていないのに罪悪感を感じるような、ことがあっていいのでしょうか。僕の頭にはあられもない情景が去来し、あるいは『酒池肉林』という四字熟語が浮かびあがります。しかし、かような大事業をさらりとやってのけた山案山子の交渉力、調整力おそるべし、であります。そんな能力が、あんな普段いい加減な男に潜在していたなんて!

 当日の土曜日の朝、僕は柄にもなく身なりなどを整えていたら、さして遠くもない山案山子の家に約束の時間より30分も遅れて到着してしまいました。まだ携帯電話が普及する前で、僕は、右の瞳に『酒池』左の瞳に『肉林』というレリーフが浮かぶのを抑えられずに、しかし、日産パルサ-のハンドルを握りながらじりじりと、
 「しまった!初動から遅刻なんて、俺のファ-スト
  インプレッションがあ!」
 と、一緒に行くであろう女の子への言い訳を考えるのに必死でした。待たせている、ということにおいては山案山子もそうなんですけど、彼に対する申しわけなさは微塵もないんであります。
 「すまん!遅くなった!」
 僕は、山案山子邸の前に急停車すると車を駆け下り、インターフォンを押し、開口一番謝罪しました。言わずもがな、この謝罪は山案山子に対するものではなく、家の中で一緒に待っているであろう女性への気持ち100%、であります。
 僕が、汗をふきふき、息を整え、『酒池肉林』の序章をなんとか取り繕おうと緊張した面持ちで車の前で待っていると、しばらくして山案山子が悠然と出てきました。
 「すまん!こんなに遅れて・・」
 ところが、山案山子は、鷹揚に家のドアを閉めて施錠すると、僕の前を通過し、勝手知ったる他人の日産パルサーの助手席にのりながら、
 「うん、ダイジ、ダイジ。」
 と言いました。うん・・・?????僕は、まだ焦っています。そうか、女の子は山案山子家集合とばかり思い込んでいたが、それは俺のセルジャッジと言うわけでこれから二人でピックアップしに行くんだね、それならそれで急がねば!僕は山案山子と違い、慌てて運転席に滑り込むと、エンジンをかけ、とりあえず発進します。
 「・・・で、どっちのほうに?」
 もちろん、僕が狼狽しつつ尋ねているのは、どこで女の子をピックアップするか、というための道順です。しかし、山案山子はこれから『酒池肉林』を控えているとは思えないほど落ち着いています。
 (おお、さすが女の子を同じ部屋に泊まることを
  セットアップしただけの男だ。俺と違って、
  堂々としたものだ。)
 と僕は感心します。
 「うん、下でいんじゃない。」
 「え?」
 「別に急ぐ必要もないしさ、高速じゃなくっても
  いいっしょ。」
 「・・・・・・。」
 山案山子邸は幹線道路から『コの字』型にはずれた道路の奥にあります。だから、どこへ行くにしろ、どのみち、前を向いて進んでコの字道路を抜けなければいけません。僕が聞いているのはそこで、幹線道路に出て、右折するのか左折するのか、どっちが『酒池肉林につながっているのか』であって、いきなり伊豆にいくのに『高速道路でいくか、いかないか』を聞いているんじゃあないんです。
 「・・・・・・。」
 しばらく無言のまま、コの字を走っていると、山案山子が-彼は、身長185センチになんなんとし、体重90キロ前後の巨漢です-シートをぐーっと下げてからリクライニングさせ、窓を開けて外の風なんぞを爽快に浴びながら、のんびりと言いました。
 「まあ、二人だからさ。ゆっくり行けばいいんじゃない?」
 その言い方は、まるでお笑い芸人が支持率がドン底の現職首相についてコメントするかのようでした。
 すなわち、

 *そもそも『政治は芸人の分野ではない』、
  -『女の子は来ないけど、あながち俺の担当
    分野でもないしさ。』
 *それにいまさら芸人が何を言ったところで
  大勢に影響はないっしょ、
  -『それに二人だから君の遅刻も影響ないしさ。』
 *でも、まあ、頑張ってね、
  -『でも、運転よろしくね。』

 という『無責任感』『投げやり感』と『立場を履き違えた妙な同情』さえ含んでおりました。僕は、何やら完全にメ―タ―を振り切ったかのような軽~い山案山子の態度に、瞬間何が起こったの理解不能でしたが、
 「あ・・、そういうことね。」
 と納得しました。つまるところ、山案山子は、女の子と約束したつもりになっていたけど、実は全然確認がとれてなくて、
 「え~~?そんな話してないじゃん!?」
 「え?じゃあ・・無理ってこと?」
 「うん、ちょっと急に言われても。」
 「・・いや、いいよ、いいよ、そうだよね、
  ダイジ、ダイジ。」
 ってことになったんです。(こういうとき、山案山子はすごく押しが弱いです。)そういうことね。いつもの山案山子じゃん。まあ、そんなうまくいくわきゃねえか・・。
 僕もようやく事態を飲み込み、しかし、まあ、こういう男だからなあ、といまさら山案山子を責める気にもなれず、黙って、幹線道路を『伊豆の方向』に曲がりました。
 そして、しばらくすると僕も瘧の落ちた人のようになり、
 「・・そう・・。じゃあ、まあ、ゆるりと行きますか・・。」
 と巨大な脱力感と、それに変わって心身に満たされていく虚脱感が、しかし『日常という安心感』に変わっていくさまを実感しながら、車を走らせました・・・。

 というわけで、若い男が二人で伊豆に向かいます。道は空いてる、天気もいい。まあ、家でぐだぐだしてるよりましだな、なんて言ってるうちに目当ての保養施設に到着しました。
 「おおー。」
 四人分、だけあってひろびろとしています。
 「いいんじゃない?」
 とにこにこする山案山子。
 「うん、いいねー。」
 とにこにこする僕。ここまで来たら、なんでも褒めて、楽しまなければ今朝までの『酒池肉林テンション』の行き場所がありませんし。
 
 「よし!」
 「よし!」
 僕らは頷きあいました。紆余曲折を経たとはいえ、酒飲み二人が伊豆に現らる、となると、後は『伊豆までわざわざ来たこと』を満足させてくれる『地元のうまい魚を食いまくる』ことにすでに二人がともども切歯扼腕していることは言葉で確認する必要もありません。
 僕らは、歩いて街に出ると、妥協をゆるさない強い物差しを心に掲げ、一軒一軒店を物色しはじめました。なにしろ得べかりし『酒池肉林』という『妄想』と同等の対価を求めているわけですから。
 「ここ、どう?」
 「うん、悪くなさそう・・・、いや、いかん!」
 「なんで?『産地直送』ってでっかく・・」
 「いや、よく見ろ、山案山子、ここは、俺たちの
  家の地区にも支店があるぞ!」
 「おー、ほんとだ!ちくしょう、あやうく
  騙されるところだったぜ。なにしろ伊豆で
  ないと食べられないものじゃないといけない
  からな。あぶねえ、あぶねえ。」
 なにが『騙されるところだったぜ』でしょう。店こそいい迷惑です。『騙す』なんて人聞きの悪い。しかし、酒と、酒を飲みながらの馬鹿話をこよなく愛する僕と山案山子にとって、『ここは少々金がかかろうが(実は四人分の部屋を二人で借りている時点ですでに予想外の支出をしてますけど)伊豆ならではのものを食わずして帰れるか』ということが今は一番ダイジなことなんです。僕らは凶悪なまでの目つきで店を物色します。物色しながら歩いているうちに、うまい具合に喉も乾いて、腹も減ってきました。
 「おい。」
 「うむ。くる途中何も食わなかった甲斐があったなあ。」
 と小さなことを自画自賛する二人です。
 「・・おい、ここ・・。」
 「・・うん、良さげだな・・。」
 そこは、五階建てくらいの新しいビルの一階、いや、中二階部分までが居酒屋になっていて、いかにも地元の金満家が金にものを言わせてつくった、という感じの居酒屋です。
 「ちょっと、中覗いてみよう。」
 「うん。支店もなさそうだし。」
 (だから、別に支店があってもいいですよね。)
 「おおー。」
 「ここ、いいんじゃない?」
 入ると、店の真ん中、厨房の前に、二坪くらいの大きな生簀があります。しかも、その生簀はよくある水槽型ではなく、生簀を囲んでいるカウンタ―から直接魚を覗けるような一段低くこしらえてある池型です。この二人はこういうのに弱いんです。
 「おおー。こんな大きな生簀、なかなか他にはみられんぞ。」
 「うん、伊豆ならではですなあ。」
 と必要以上にはしゃぐ僕と山案山子です。店の中は、清潔感もあって天井も高く、生簀の奥に厨房があり、生簀を囲んでカウンター席、カウンター席を囲む通路の外側―窓に貼りつくように―に家族用と思しきテーブル席もあり、かなりにぎわっています。多少値ははりそうです。
 「ちょっと高いかもしれないけど、ここにしようぜ。
  なにしろ俺たちゃ伊豆にきたんだから。」
 「うん、そうしよう。いい選択だなあ。伊豆ならではだ。」
 と頼まれもしない伊豆観光大使かのように『伊豆』を連発しながら、とうとう店をきめました。

 うまい具合に、カウンター席の中央、生簀の眼の前の席に案内されました。
 「いや、席までべスト!」
 「うむ!」
 いちいち喜びます。さあ、メニューです。しばし僕らは無言でゆっくり物色します。メニューも期待に違わない内容です。ふと、ほぼ同じタイミングで二人が言いました。
 「・・セットメニュー・・」
 「・・・セット・・・・」
 家族連れが多いためかセットメニューがあるんです。地元の居酒屋らしく、付け出しから始まって、刺身、焼きもの、揚げ物、デザート、となかなかの充実ぶりで、値段も単品で頼むより安くあがりそうです。こういうところに来ると値段のこと全く考えないで注文してしまう、というお互いに共通した癖を理解しあっている僕らには、あらかじめ値ごろ感がある、というのはありがたいことです。しかし、僕らはお互いの考えていることはほぼわかっていました。
 「伊豆まできてさ・・」
 「うん、そうだよな・・」
 「伊豆まできて、デザートでアイスクリーム食べる
  こたあねえよな。」
 「うん、セットは却下だな。迷わなくはないけど。」
 「却下、却下、伊豆のもんをばんばん頼もう!」
 というわけで、しばし逡巡したものの、僕らは、コストを犠牲にしても単品を選びました。
 いやあ、美味かったです。その店の料理は、朝の『妄想からの虚脱感』はどこへやら、僕らを『伊豆で地元の魚を満喫した非日常感』で十分に満たしてくれました。もっとも『酒池肉林ではなく、美味い魚を食べることがメインテーマであり、その前提において、わざわざ伊豆まで来て散々店を物色した結果選んだ店がうまくないはずはない』という思いもその満足感を後押ししていたかもしれませんけど。
 山案山子は、先ほど述べたような巨漢です。僕も背は高くないですが、85キロくらいの肥満です。当時はまだ若く食欲も旺盛、おまけにふたりともアルコールも大すき、独身の身で可処分所得100%、まさに、酒池肉林転じて我ながら『鯨飲馬食の如く』でありました。
 「いやあ、食った、食った。」
 「うん、いい選択だったな。」
 「おう、さすが伊豆だ。」
 「うん、伊豆の魚はうめえなあ。」
 まだ『イズ、イズ』言ってます。

 とそのとき、僕の背中のほう、店の奥側のテーブル席のある家族連れが、明らかにセットメニューとわかるそれを食べていました。やっぱり、同じ刺身にしても、あらかじめ決められたものより単品で頼むほうが僕らのような目的をもっていた人間にはよかったようです。
 「おい、山案山子、見ろよ。」
 「・・・。」
 「あれ、セットだぞ。やっぱりセットにしなくて
  よかったなあ。」
 僕は、多少値が張ろうが自分たちの選択が正しかったことを伊豆の海より深く再認識しました。ところが、です。なんと山案山子は僕に反論してきたんです。
 「いや、セットもさ、悪くないと思うんだよね。」
 「はあ?」
 なんだ、こいつ。あれだけ納得して単品にしたのに、食い終わったあとで、なんちゅう興醒めすることを・・。しかも、なんだか知らないけど半オクターブくらいさっきまでより高い声で、そして言葉使いまで、へたくそな文化祭の劇のセリフの棒読みみたいになってます。
 「お前何言ってんだ?セットにしとけばよかったって
  いうことか?」
 「・・いや、そうじゃなくてさ。セットにはセットの良
  さっていうのかな、そういうのがあって、さ、たまたま
  今日の俺たちには単品という選択が、よかったんだけど・・」
 「『たまたまあ』?お前何言ってんだ?」
 「つまりさ、それぞれいいところもある、って思うんだよね。」
 山案山子は言葉使いがよそいきなだけじゃなく、これもまた文化祭で自信のない役をやらされた生徒みたいに、こころなしか視線も泳いでいます。
 「何だあ?『思うんだよね』じゃねえだろ!セットで
  デザートなんて食ってられるか、って山案山子も
  いってたじゃねえか。」
 「・・・・・。」

 こいつ、何豹変してセットメニューを擁護してるんだ?、と僕は解せない気分でいました。二人の間に微妙な空気がながれたまま、会計を終え、外に出て自動ドアが僕ら二人の後で閉まり終えてから、の山案山子の発言に僕はまた仰転してしまいました。すなわち、彼は何の前触れもなく、いきなり怒気を含んだ声でこう言ったのです。
 「だいず!(ダイジ、じゃないです。だいず、です。
  僕の仇名です。10年12月25日『大豆(おおまめ)に
  隠された真実。』をご参照ください。)セットなん
  ていいわけねえだろ!」
 僕は呆然としてしまいました。さっきまでの文化祭調と違い、いつもの山案山子です。
 「・・・・だって、さっき・・」
 と事態がまったく飲み込めない僕は、山案山子の矢継ぎ早の説明でことの真相を知り、突然と彼が文化祭を開催したことを反芻し、山案山子には悪いですけど爆笑してしまいました。
 「笑いごとじゃねえよ。俺の身にもなれよ!
  だいず、声が大きすぎるんだよ!途中で気付けよ!」

 つまり、こういうことです。僕が、
 「あれ、セットだぞ。やっぱりセットにしなくて
  よかったなあ。」
 と僕の背中越しの家族連れのメニューを例示して山案山子に話しかけたとき、僕の声が大きすぎて、その家族連れに聞こえてしまい、じろり、と僕の方を見たんだそうです。僕は、背中越しなのでそんなことはわかりません。でも山案山子は、その視線をもろに受け、いたたまれなくなって、あえて、これまた大きな声で心にもない『セットメニュー礼賛』を僕に対してというより、その家族連れに対してしたんですね。だから、なんだか言葉使いも劇団調になって、視線も生簀の中の魚かの如く泳いじゃったわけです。でも僕はそんなこと全く気がつかないから、山案山子必死の事態収拾へ向けての努力を、
 「お前何言ってんだ?」
 だの、
 「デザートなんて食ってられるか、
  って、いってたじゃねえか。」
 などと、山案山子曰く『全部その家族連れに聞こえるような大声で』悉く粉砕し続けたんだそうです。
 その場で気付いていたら、小心者の僕のことですから気まずい思いをしたでしょうけど、僕は、真相を後になってから聞いたので、その家族連れと山案山子には申し訳ないですが、心おきなく大笑いさせてもらいました。

 実は僕は、『自分の声が大きい』という欠点は自覚してます。そして、大人になってからその原因をつきとめたんです。それは、・・・まあ、今日は、このあたりで。

 僕と山案山子は、その店を出た後『まだ飲み足りない』とコンビニで大量のアルコールを購入し、『四人分の保養施設』でとても飲みきれないだろう、と思われたそれも全部きれいに飲んじゃいました。もっとも僕は、途中で酔いつぶれて寝ちゃったので、山案山子は、熟睡する僕の横で深夜のB級映画を見ながら一人で飲みきっちゃったそうです。

 その時は、特に感じませんでしたが、いまや妻帯者になったふたりからすると二度とできないような『こんくらいダイジ、ダイジ』な豪遊、であったな・・・と改めて思うんであります。

====終わり====


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安西さん。(下)

 「うおお、いいぞ、いけえ、Tシャツううう!」
 僕と太一は大興奮して立ち上がって叫びました。

 学生時代のことです。僕らは同じラグビーチームの仲間数人とラグビーの試合を見に行きました。対戦カードは、日本代表対フィジー代表です。僕らは、ラグビーチームにいながらも連れだって観戦に行く、ということは珍しいことでした。どうしてだかはいまだにわかんないです。でも、そのときは、僕らは、-少なくとも僕と太一は-、能動的に行動を起こし、観戦前から気持ちが高ぶっていました。それは、国代表同士の試合というビッグゲームであるということ以外に、日本代表と戦うために来日した対戦相手が他ならぬ『フィジーである』からです。フィジーのラグビーを生でみられる、これはひとつ行こうじゃないか、となったわけです。

 フィジーは、当時も今もラグビー強豪国です。国の人口自体が100万人に遠く満たない国でラグビー競技者のそれは推して知るべしであるにもかかわらず、ワールドカップでもベスト8にはいった実績を持っています。競技人口ならば遥かに多いであろう日本ですが、残念ながら国代表レベルでは、当時も今も『格上』の相手です。
 しかし、僕や太一が、フィジーが来る、それなら見に行こう、と思った理由は強豪だということとは別にあります。実はフィジーのラグビーは『世界で最も観客を喜ばせるラグビー』あるいは『フィジアン・マジック』などと称されるように、およそセオリーを無視したかのような変幻自在で、わかりやすく言っちゃうと『動物的な』見るものの常識を裏切るようなパス、野趣にあふれたランニング、をすることで知られているからです。そのため、普通のラグビー、即ち15人で行うワールドカップでもベスト8入りする強豪ですが、コンタクトプレーの少なく個々のスキルの高さが求められる『7人制ラグビー』(こういうのがあるんです。これは、これで15人制と違って、スピード感に溢れていて悪くないです。)ではしばしば世界規模の大会で優勝をしています。
 しかも場所は東京・秩父宮ラグビー場です。秩父宮ラグビー場は、国立競技場などと違い、ラグビー場を名乗るだけあって、トラックなどが無くグラウンドと観客席の距離が短く、収容人員能力はともかく、臨場感という意味では国立競技場をはるかに凌駕しています。

 「楽しみっすね。みどりさん。」
 「おう、楽しみだなあ。」
 運良くかなりグラウンドの近くに席をとることができた僕らは、キックオフの前からわくわくしていました。もちろん日本代表に頑張ってほしいのはやぶさかではありませんが、なにしろ、フィジーですから。僕たちがラグビーを習ったころに『基本』として教わったことの真逆をいくような試合ぶりをフィジーはしてくれるんです。
 試合が始まりました。期待通りにフィジーは、パスする相手を全く見ないで背中越しにパスしてみたり、-そんなことを日本の高校のラグビー部でやったら100%怒られます-、またその適当になされたと思われるパスの場所にちゃんと仲間がいてそのパスを受けて、その選手がまたセオリーを無視するようなステップを踏んでグラウンドの横幅を存分に使って走りまくります。ポジションにも全然こだわりません。ええ、このポジションの選手がここで小さいキックかよ、と僕と太一は大興奮です。『咄嗟の思い付きでしてみました』としか思えないパスを重ね、ひょっとしてこの人達は国の代表チームでありながら、ラグビーに勝つことよりも、基本を無視した独自のプレーを披露する事のほうに重きをおいているのでは、と思わせるようなプレー満載です。
 それでいて、日本代表を鮮やかに置き去りにし、スコアを重ねます。
 「いいぞー、さすがだあ!」
 「みどりさん、やっぱりフィジアン・マジック、生で
  見ると違いますねえ!」
 「おお、まったくだ!」
 隣同志に座った僕と太一は試合を満喫していました。

 と、そのときです。フィジーチームにあってその日、大車輪の活躍をみせていたプレーヤーのひとりであるFB(フルバック、一番後ろにいる15番です。近代ラグビーでは、防御、アタック力、キック、と多くを求められる『要』とされるポジションのひとつです。)が僕らの近くに来た時、僕は、彼の『見た目』になんか違和感を感じました。
 「・・・んん?なんか・?」
 と思っていたら、同じく太一もそう感じたらしく、
 「みどりさん、あのフルバック、なんか・・」
 「うん、なんか格好わるい・・」
 「ああ!すんげえ!」
 「え?どうしたどうした?」
 「みどりさん、あいつジャージーの襟をたたんで
  全部内側にいれちゃってますよ!」
 「ん?ぬおおお、本当だ。あんなのありか!」
 「一人だけ『丸首』になってる!」

 ラグビーのユニフォームは(昨今は競技用に関しては根本的にスタイルが変わってきちゃってますけど。当時は、まだどこのチームも国も形は似たようなものでした。)いわゆるラガーシャツでした。綿織物ツイル地の襟があって、前立てがあって、身頃はざっくりとした、でも丈夫な、太番手でこれまた綿天竺編みの長袖のシャツですね。そして、少なくとも日本のラグビー界においては、試合用のラガーシャツは(レギュラージャージと言われます)神聖なものとされていて、大学の強豪チームあたりになるとレギュラーの出る公式戦以外ではそれを一切着用せず、レギュラージャージを着るような大事な試合の前日には『ジャージー授与式』を行うチームもあるそうです。ほかにもレギュラージャージを跨いだから無茶苦茶怒られた、とかその手の話は日本ラグビー界には枚挙にいとまがないくらいです。また日本代表のジャージーはそのエンブレムから通称『桜のジャージー』と呼ばれ、代表に選ばれることを『桜のジャージーに袖を通す』などと比喩として使われます。僕は弱小高校のラグビー部でしたが、しょぼい試合をするとOBが、
 「おまえら、こんなにタックルのできない試合を
  続けるんならなら悪いけど、ジャージーの色を
  変えてくれ。」
 なんて言葉で怒ったりして、そして、それは現役のプレーヤーには最大の屈辱の言葉でした。
 ことほど左様に、日本のラガーマンにとってはレギュラージャージ-というのは神聖なもので、ましてや国の代表のジャージーに対するそれは何をかいわんや、というものなんです。

 ・・・ところが。そのフィジーのフルバックは、あろうまいことか代表チームのジャージーの襟を全部勝手にたたんで、首周りに隠し込んでしまって、敵味方30人の中でひとりだけ『丸首のヘンリーネックシャツ』になってます。当時のフィジー代表のジャージーの配色はとてもシンプルなもので、黒い襟に真っ白な身頃、左胸に黒い椰子の木の刺繍というデザインでした。

 (僕は、桜を胸に、日の丸をイメージした赤と白の横縞の身頃、という厳粛な感じの日本代表-もちろん応援しています-のジャージーと比して、そのプレーぶりからジャージーのデザインもひらめきで決めてしまったではないかと-『はい、白・黒・椰子の木のワンポイントの刺繍、以上かな!』っていう感じです―想像を馳せさせてくれるフィジーのジャ-ジ-の朴訥さ、が大好きでレプリカジャージーを買おうと探してみたこともあります。)

 だから、『黒い襟』をすっかり消失させてしまうと、見た目はただの丸首、のみならず、30人の中に『一人だけ椰子の木のワンポイントの真っ白な肌着着てます』みたいで大いに目立ってました。
 「うおお、やるな!さすがフィジーだ!JAPANで
  あんなことしたらマスコミにたたかれるぞ。」
 「そもそも、うっとうしいから襟を内側にいれちゃう
  なんて適当でいいですねえ。」
 「ああなったらもう代表のジャージーじゃねえな。」
 「Tシャツっすよ、Tシャツ!」
 「ぎゃはは、国の代表で出てきてTシャツかよ!」
 「ぎゃはは、やるなあ。」
 「やるなフィジー、ジャージーの着方まで想定外だなあ。」
 と僕らは、本来神聖であるべき国の代表のジャージーを『真っ白い丸首Tシャツ』にしてしまったそのフルバックの選手にすっかり魅入られてしまいました。
 しかも、その選手はTシャツ着用にも拘わらず、その試合では大活躍です。何度もボールをもって、変幻自在に走りまくり、大きくゲインします。僕らは大喜びです。
 「おお、そこだ、Tシャツにわたせえ!」
 僕と太一は大興奮して立ち上がって叫びました。
 「よし、いけえ、ティィシャツううう!」
 「おおお、また抜いたあ!」
 「ティシャツのくせにすごいぞ!」
 かわいそうに遠く日本まで来ながら、フルバックは、自分の名前ではなく、日本のしがないラガーマンに『Tシャツ』と連呼されてます。

 と、太一がプレーとはあまり関係ない場面で、やおら興奮して叫びました。
 「うおお、みどりさん、Tシャツすごいっす!」
 「どうした!?」
 見ると太一は、試合前に入手したメンバー表を見ています。
 いまでこそプロ化が進んでいますが、当時はラグビーは世界的にも『アマチュアリズム最後の砦』などといわれ、アマチュアであることにスノッブなまでに拘泥したスポーツでした。太一は必要以上に大きな声で隣にいる僕にその大発見を興奮しながら報告しました。
 「ここにTシャツの事が書いてあるんすけどね!」
 そら、メンバー表だから当たり前です。それで太一は、Tシャツの年齢でも確認してるのかと思ったら、
 「職業、水道工事い!!すんげええ!」
 「ええ!Tシャツって普段、水道の工事してんのかよ!」
 「そうっすよ、あいつ水道工事中もきっと襟なしなん
  ですよ!だから襟たたんでるんです、きっと!!」
 ・・・どうでもいいことなのに僕らは、フルバックが神聖であるはずの代表チームの襟をたたんでしまった因果関係を紐解いた気持ちになって、さらに興奮します。
 「ぬお、またチャンス!」
 「ここは・・、おおおティシャツがボールもったあ!」
 「いけえ、ティシャツうう!」
 「おお、またロングゲイン、さすが水道工事屋だあ!」
 「ぎゃはは、水道工事とは関係ねえんじゃないのか?」
 「いや、Tシャツはきっと毎日重いパイプとか持って
  仕事が自然とトレーニングになってるんすよ。そんで
  仕事中も作業着とかじゃなくて、Tシャツでパイプ
  とか運んでるんすよ、ぜったい!」
 「ふむ。なるほど、お、お、おおおTシャツカウンター
  アタック!!」
 「うおお、なんだあのいい加減なステップはあ、でも抜
  いたぞ、おおお!」
 「ティ―シャツうううう!」
 「水道屋あああ!」

 この日のTシャツ、いやフィジーのフルバックは、自チームの攻撃場面での頻繁なライン参加、相手キックを受けてのカウンターアタック、とまさに八面六臂の大活躍です。もちろん、他の観戦者も『フィジアン・マジック』に湧き、或いは、日本代表への声援を送っています。しかし、その中にあって、もう僕と太一は、ラグビーを見るというよりも、フィジーのフルバックを見てるのに等しくなり、口にしている単語に至っては、ラグビー観戦のそれとはおよそかけ離れてきています。『すいどうやあ!』なんていう掛け声なんてスポーツ観戦よりも、『なりたやあ!』よろしく歌舞伎観戦のそれに近いです。

 とある局面で、Tシャツが僕らのすぐ眼の前まできました。僕と太一の興奮は最高潮です。
 「うお、ティ、ティ、ティ、ティ―しゃつううう!」
 「すいどおおお!」
 やがて、試合の中心が僕らから、少し遠くにいったので、僕と太一は、あげた腰をおろし始めました。
 「あいつうまいっすねえ。」
 「でも、目の前でみたら、襟の折り込み具合がえぐ
  かったぞ。まったく黒い部分がみえなかった。」
 「まさに、Tシャツっすね。」
 まだ言ってます。ラグビーを見に来たくせに。

 そのとき、僕は、腰をおろしながら、始めて気がついたんです。
 僕と太一のすぐ眼の前にすわっているカップルの一方の綺麗な妙齢の女性が、まじめな顔で丁寧にルールを解説する男性のほうに顔を向けながら、手に口を当て肩を震わせて笑いをこらえているのを。

 これは、よくあるカップルです。ラグビーの好きな男性が、まだ会って日の浅い女性をデートに誘う。ラグビーには細かい反則が多くて、サッカーなどに比べるとルールの知識がないと初心者にはやや試合進行の経緯がわかりづらい面があります。だから、男性は、女性がラグビー観戦をエンジョイできるために、ルール解説や、ときには戦術の説明をするわけです。そうしていると自然と会話が増えちゃうわけです。
 微笑ましかるべき光景であります。

 けれども、どうもその女性はキックオフ後、いつからかは定かで無かりしも、
・フィジーのフルバックが異形であることを『発見』し、
・彼をTシャツと『名づけ』、
・さらに大声で彼の職業までつまびらかにして、
 普段の仕事ぶりを勝手に具体的に想像・描写し、
・ラグビーを見に来たくせに最終的には『Tシャツう!』
 『すいどうやああ!!』と連呼する、
までに至る、僕と太一の会話の『フィジーのフルバックへの執着に深耕していく起承転結』を全て耳にしてしまったようです。しかも-おそらく-、そもそもあまり興味のなかった目の前のラグビーの試合より、僕らの言動のほうが彼女の心の琴線を大きく揺るがせ、とうとう笑いをこらえきれなくなって、感情の起伏-主に可笑しさですけど-が相手の男性の言っていることとは『かけらも因果関係なしに』おこってしまい、男性の発言においては心ここにあらずという状態を抑制できずに、肩を震わせてしまったんですね。
 相手の男性は、誠実そうな人でした。これが、やんちゃな男性だったり、あるいはそのカップルの距離がもっと近ければ、女性と一緒になって『うしろの妙な男ふたり』を一緒に笑いものにすることもできたんでしょうけど、そういう状況ではなかったようです。かわいそうに男性は飽くまでラグビー観戦をメインに(当たり前です)大まじめな顔で、
 「いまのはね、ノックオンという反則で・・」
 なんて真剣に言ってるのに、一方女性はただ『男性の方向に顔を向ける続けること』のみでしか男性の発言に応えることができず、二人の会話としては笑うところでもなんでもないのに、彼女にとってのメインが完全に『うしろにいる奇妙なラグビーファンの会話』になっちゃってるのが明らかで、口を手でおさえ無言で、僕らが喚くたびに肩を震わせ『必死で笑いをこらえている』のが明らかでした。顔の方向以外、はおよそ『カップルのデートでの会話』がまるで成立していません。たぶん途中から『いやだ、うしろ二人の変な会話なんか可笑しい、本当にTシャツみたい・・もう、Tシャツう、とかお願いだから言わないで!彼の言うことに集中できない。・・職業なんかどうでもいいでしょ!うえ~~ん!『すいどうやあ』なんて言い始めた、可笑しすぎる!これ以上なんか言われたらあたし笑っちゃう!』なんて願ってたんでしょう。でも僕と太一は、そんなこと思いもしないので、構わず彼女の笑いのつぼにビシビシとはまる言葉を乱発していたわけです。
 今思うと悪いことしちゃったな、と思います。
 初デートだった、かもしれないです。

 今年、2011年はラグビーワールドカップの開催年です。日本代表も出場します。日本代表チームのニックネームは『BRAVE BLOSSOMS』です。このニックネーム自体の歴史は浅いけど、格好いい名前です。BRAVE BLOSSOMSが活躍して日本を元気づけられるといいですね。
 太一とも長らく会ってません。元気にしてるかな。

 そして、2019年には実は、日本でラグビーのワールドカップが開催されることがきまっています。長らく観戦には行ってませんが、19年にはフィジー戦でも見に行くのも悪くないかな、と思っています。またきっとユニークな選手がいるに違いありません。
 もし競技場で、選手にへんな仇名をつけて連呼している男がいたらそれは僕かもしれないので、あほだなあ、と思われたら、我慢することなく笑いものにしてください。

 え?・・いや『安西さん登場の必要十分性』はとくに問われない、って思ってましたけど・・・。
===終わり===

安西さん。(上)

 「ああ、苦しかった。もうだめ!」
 春真只中のうららかな日でした。昼食から事務所に戻ってきた安西さんは、その言葉とは裏腹に満面これ笑顔、といった風情です。

 もう随分前のことです。安西さん自身ご記憶にないかもしれません(安西さん、ごめんなさい、事後承諾で書いちゃいます。)。もともと安西さんは、-ええと、入社年次は少し僕より上ですけど、年齢は少し僕より年下の女性です。-、笑顔のよく似合う方で、おそらく彼女を知っている人に安西さんの第一印象を尋ねたら『ああ、あのいつもにこにこしてる子でしょ?』っていうくらい明るい方です。その安西さんが、いつも以上の笑みをうかべながら、しかし、冒頭のようなことを口走りつつ昼食から戻ってこられました。何事ならん、とこちらから聞くまでもなく、我慢できないといった勢いで、
 「もうね、おかしくてご飯も食べられないし、
  一緒にいた子と話しもできないの。」
 と事の顛末を説明してくれました。

 その原因は、会社の友人と二人で外食をしていた安西さんの、たまたますぐ背中側に座っていた見知らぬ若い女性二人組なんだそうです。

 なんでも、最初は、安西さんはごく普通に友人とおしゃべりを楽しみながら食事をしていたそうなんですが、そのうち、うしろの二人組がかわす『大きな声で新入社員を貶す会話』に、意図に反してどんどん引き込まれてしまい、友人との食事に集中しようとする努力を完璧に粉砕されてしまって、最後には友人には悪いけど『とにかく、その会話に聞き入って笑ってしまっていることを見知らぬ二人組に気付かれないようにこらえることだけで精いっぱい』だったんだそうです。もちろん僕はその場にいたわけではなく安西さんの述懐の範囲でしかその場の事はわかりませんが、曰く、再現してみるとその見知らぬ二人は下記のような会話を、しかし、『真剣に』、『あきらかに他人へのウケ狙いではなく』していたそうです。

 「ちょっと、きいてよ!」
 「なに?」
 「今年はいった新人の男の子がさ、ずんげえ
  使えなくてえ。」
 「へえ。でも新人なんてそんな難しいことしないん
  じゃない?」
 -このあたりまでは、そのへんに転がっているありがちな会話ですよね。安西さんもこのへんは、問題なく本来の目的である、友人とのランチに集中できていて、ただ、席があまりに近いのと、見知らぬ二人の声が大きいので、聞くとは無しにその会話が耳にはいってきていた程度、だったと思われます。―
 「そうなの。だからせめて邪魔はすんなよって、新人
  なんてその程度でしょ?フツ―。」
 「うん。」
 -少なくとも片方は、結構、言葉使いは乱暴な女性のようです。-
 「それが電話もまともにとれなくてえ、ソイツ!」
 「へえ、でもたまにそういう子いるじゃん?」
 -そうです。いますよね。この辺りでは安西さんも、まだ磁力は感じていなかったみたいです。―
 「いるけどお、そいつ間違い方がまともじゃ
  なくてさ。」
 「どういうふうに?」
 「あんなの見たことないわよ。」
 -ここらで安西さんはだんだん背後の会話を遮断できなくなってきたようです。―
 「だって、電話つって、新人なんて、とって繋ぐだけでしょ?」
 「そう、そこよ!」
 「なに、どうしたの?」
 「今日さ、おだ課長に国際電話がかかってきたの。
  それくらい、うち、普通じゃん?」
 -海外とのやり取りの多い会社にお勤めとみえます。-
 「うん。」
 「それでさ、その電話をたまたまその新人の男がとったの。」
 「うん。それで、なんか難しいことになったわけ?」
 「それが違うのよ。それならさ、新人くんには無理かなって
  誰でも思うっしょ?そうじゃなくて、ただ、英語でいつも
  の客から、MAY I SPEAK TO MR.ODA?とか言われた
  程度だったわけよ。たぶん。」
 「あ、それで、おださんがいなくて新人が何て言ってい
  いかわからなくて混乱して・・・」
 「違うのよ!おだ課長はソイツのすぐ横にいるわけよ。
  それなのにさ!」
 -もう、安西さんは眼前のランチの味もわからくなってます。-
 「え?じゃあ、さ、HOLD ON、PLEASE.とか言って保留に
  しちゃったらおしまいじゃん?」
 「・・でしょ?しかも英語ができないなら、それも言わずに
  最悪さあ、黙っていきなり保留にして、隣のおだ課長に
  『国際電話です』って言えばいいだけっしょ?新人なら、
  まあそれでもしょうがないかって微笑ましいくらいじゃん?
  でも、そいつさあ・・」
 -釘付けです。『微笑ましい』ではすまないのか!?―
  「そいつ、どうしたと思う?」
 -聞かれてもないのに新人君の対応を妄想してしまう安西さん-  
  「どうしたの?」
  「全く、せめて、邪魔すんなよって感じ。そいつさ、
   どうも研修で教わった『ビジネスでの電話』って奴通り
   に丁寧に対応をしようとしたわけえ。
   『はい只今おだに替わります』ってやつ、あるじゃん。」
  「?それなら問題ないんじゃない?」
  「それがさあ、そいつう、日本語での電話の対応マニュアル
   を強引に英語にしたらいいと判断したみたいでえ、すんげ
   え狼狽してるくせにィ、おださんの目の前で、でかい声で
   さあ・・」
 -もはや安西さんは『全身これ耳』と化してます。―
  「なにを言うかと思ったらあ、固まったまんまさ、いきなり
   『ア、アイ・・チェインジィ・・・・オダッ!!』
   って言いやがってさあ!」
  「ひゃははあ!」
  「『お前オダ課長にへんしんすんのかよお!』ってみんな
   ひっくりかえってえ、・・、ったく使えないでしょ?
   せめて余計なことすんなよな、って感じィ。」

 安西さんは、予想もつかなかった新人くんの対応と、その対応への叱り方の妙に、背後の二人はすでに別の話題に移っているにも関わらず肩を震わせながらその話に笑いのつぼを完璧につかれたことを隠しとおすことに腐心しただけで、本来の目的は果たせずに昼休みを終えてしまったそうです。
 
 僕は、伝聞ながら面白い話だな、と思って聞いていましたが、ふと、過日似たような境遇に-しかし、この場合の安西さんとは違う立場で遭遇したことが-突如脳裏でフラッシュバックされました。

===『続く』・・ええ!?『続く』かよ!?===
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

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