スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ときと、ばあいと、あいてと。

 僕の親友、高校時代のラグビー部の仲間、山案山子氏(以下例によって呼び捨て)とのことです。以前(2010年3月27日『みぢかえない話①、同3月31日『痛い!①』をご参照ください。)にも書きましたけど、山案山子は、あまり友人の多くない僕にとって、まがうことなき親友のひとりです。親友といっても特段に称賛に値する男かというとそうでもなく、似たような性格かというとそういうわけでもなく、気がついたら、すごく仲がいい、というだけです。だから、山案山子の結婚式のスピーチでも(もちろん、僕はああいうの苦手です!)彼について僕の知っている範囲でのエピソードを淡々と話しただけなのに、おかげで盛んな拍手を頂戴致しました。

 二人ともサラリーマンになってすでに日も浅からぬ頃も、―まだお互い独身でした。即ち可処分所得は100%です。―、毎週のように僕と山案山子は飲みにでかけました。よくまあ、同じ人間とそんなに話すことがあるなあ、と僕自身も思いますけど、僕と山案山子がそうやって頻繁に会っても、ちっとも飽きない大きな理由のひとつは、『お互いに相手の話をあまり聞いていない』という本来なら致命的ともいうべきコミュニケーション上の瑕疵による『功績』のお蔭です。登場人物はいつも同じくせに、アルコールをしこたま飲みながら、自分の言いたいことだけしゃべって解散、という『淡き友情の交わり』なのでストレスの発散になるし全然飽きないんだと思います。なんとなくこれでいいのかな、と思わないでもないですが、『齟齬ある会話を繰り返す親友』が頻繁に消費活動をすることがささやかながら日本経済の活性化に寄与していることこそあれ、ほかの誰にも迷惑をかけているわけでもない、ので良しとしています。

 どんな風に噛みあわないかというと、例えば、僕が会社の上司とどれだけうまくいっていないか、具体例をあげ、口角泡を飛ばして熱弁をふるったとします。

 僕「・・・というわけで、その立川さんに許可をとって
   やった為替予約なのに、立川さんの目の前で『気に
   いらん!勝手にこんなことしやがって』って副部長
   に書類を投げつけられて、残業中に2時間もその
   副部長に説教されてよ、それで終電にも乗られなか
   ったんだけど、その場に居合わせた立川さんは一言
   も言わないで、黙ってるわけよ。頭くるだろ?」
 これに対し、山案山子は焼酎をがぶがぶ飲みながら、一応僕の顔を見て、なにやら何度も頷いています。しかし、その次の彼の発言は、こんな感じです。
 山「う、うん。最近さ・・」
 ここで『最近さ、そういう人多いよな。うちの会社でもさ』などという返答を期待しているようでは、僕にいわせると友情は長続きしません。彼は型どおり頷いてからこう繋げます。
 「うちのクラスの同窓会があってさ、沢田さんて、いたじゃん?」
(あれ、、また一言で議題を変えやがった。さては、こいつ俺が
 話してるときからすでに、同窓会のこと考えてたな。だいたい
 沢田さんて誰だよ?)
 「あの子がすんげえ綺麗になっててさ、驚いちゃったよ。
  だいたいあの子、うちのクラスでは目立たなかったで
  しょ?」
(知らないよ、そんなの。俺クラス違うもの。それより立川さん
 は許せん。)
 「でも、同窓会であって変貌してるってあるもんなんだ
  なあ。ちょっと話しこめたからさ、今度一緒に飲みに
  行こうよ。うん。」
(だから、知らないっての。)

 自分たちでも信じがたいことに、だいたいがこういう情景です。しかも、もちろん、『沢田さんとの飲み会』なんて実行されず、気付いたら次の週末にまた、『齟齬ある』いや『齟齬しかない会話』を二人で繰返していました。

 しかし、そんな中でも、さすがの僕も、これはないだろう、というTPOを欠いた会話で未だに忘れられない事例があります。

 本案件のその特筆すべき点は、珍しく、お互いがうまく自分の意思が相手に伝わらないことに隔靴掻痒感を感じ、この両人にあろうまいことか、『なんとかふたりとも、自分の意思をわかってもらおうと通常のコミュニケーションを模索した』ということにあります。
 『噛みあわないにも程があるだろう』というその会話は、山案山子の唐突な(ま、だいたい全部唐突です)発言から端を発しました。

山「財形貯蓄してる?」
僕「え!??」
山「いや、だからさ、俺達もさ、そろそろいい年じゃん?
  だからその辺、考えなきゃと思って周りの人に聞いたら
  さ、みんなちゃっかりやってるんだよね。」
僕「・・・。」
山「でさ、だいず(僕の仇名です。由来は、2010年10月
  25日の『大豆に隠された真実。』をご参照ください)
  はしてるの?してるっしょ?月いくらくらい?」
こっちは、やや、いえ、かなり憮然として、
僕「してるよ。」
 と『なぜ僕が憮然としているか』を伝えるために簡潔に返答します。しかし、山案山子はそんな行間を読めるようなせこい男ではありません。同じ調子で予定どおり会話をすすめます。
山「ほら、俺ってさ、だいずも知ってると思うけどさ、
  お金の管理とか杜撰じゃん?」
僕「・・・・うん、まあ。」
(一応自覚はあるわけだ。でも強調することかよ。)
 かまわず続ける山案山子。
山「だからさ、給料から天引きされて、そのうえ利子も
  つくっていうのは俺には向いてると思うわけよ。
  でも、だいたいどれくらいやったらいいか、相談
  しようと思ってさ。」
僕「・・相談って、俺にか?」
ここでめずらしく山案山子が、ややいらついて、
山「さっきからそういってるでしょ?こういう話はさ、
  ほら、お金の話しだから、誰にでもできる、って
  ことじゃないじゃん?」
僕「そら、ま、そうだけど・・。」
と『けど・・』と全面賛成ではないことを匂わせていることにも気付いてくれず、僕は僕で、ややじりじりしてきています。こいつ、まともじゃねえなあ。
山「でさ、だいずはいくらなの?」
僕「なんで?」
山「だ・か・ら!財形だよ。ザイケイ!貯金がないと
  これから結婚だとか、いろいろ物入りになってくる
  年齢じゃん、俺たち。してるの?」
(『俺たち』っておまえなあ。)
僕「してる。」
山案山子の熱弁に反比例して僕の返事はどんどん無愛想になっていきます。
山「いくら?そこって結構迷うよね。本当はさ、同年代に
  何人か聞いてさ、だいたいのところをつかみたいところ
  なんだけど、なにしろお金の話だから、腹を割って話せる
  他人っていないじゃん?」
僕「それで、その相手が俺なわけ?」
山「だからさっきから、そう言ってるっしょ?」
と当然だろ、いらつく山案山子に、全く釈然としないだいず。
こいつおかしな男だなあ、会話にはTPOってもんがあんだろ、と僕の不満を山案山子がまるで悟ってくれない不快感をたかめつつ、またしても簡単に答えます。
僕「ごまんえん。」
山「ええ!そんなに?」
僕「うん、俺も始めるの遅かったし。」
山「そうかあ、だいずが、月に5万か。う~~む。
  あれ?じゃあさ、今いくらたまってるの?」
と他人の家にいきなり土足ではいってくるような山案山子の発言(いつもお互い土足で入りあってますけど。ちょっと今回にかぎっては・・・・。)に、さすがの僕も、この会話の異常さを改めて山案山子に啓蒙しようと思い、今度は会話のイニシアチブを握ろうと試みます。
僕「あのさ、」
山「うん」
とすっかり彼の『相談』に対して具体的な返答が僕から返ってくるものと、身構える親友。
僕「こないださ。面白い光景があってさ。」
山「・・・うん。」
かなり納得のいかない表情ながら、いつもの僕らの会話ではあることなので、財形問題はあとからまた切り返そうと一旦鞘におさめる山案山子です。この辺は彼の育ちのいいところであります。
僕「俺の会社である日残業中にさ、かなりの人数の先輩、後輩、
  同期が、突然隣の部に集まってきてさ、」
山「うん。」
僕「それで、どうも隣の部の俺の同期1名を囲んで
  なにやら険悪な話し合いをしてるわけ。」
山「へえ。」
とりあえず、面白そうな話だな、と食いついてきます。
僕「俺も、何かと思ったんだけど、後で聞いたら、
  その取り囲まれた俺の同期が、-そいつはさ、
  先輩、同期、後輩、一般職の女性、と誰彼かまわず金借りて、
  ひどいときは、数か月も返さない、っていうことが
  よくあって、俺も返してもらったんだけど貸した
  ことがあって-、そいつがある月の自分の給料明細をごみ箱
  に捨てたのね。あんまりよくないよね。そういうの。」
山「うん、うん。」
と話の先を予想できず、暫時、財形問題を忘れておる様子です。
僕「それをさ、そいつに金を貸してるある先輩がさ、ゴミ箱から
  拾って見ちゃったんだよ。俺は、そういう行動もどうかと思
  うけどね。」
山「おお、それはちょっとひどいなあ。それで?」
僕「財形だよ。」
山「へ????」
と山案山子は突然の話題の先祖返りに全くついてこられません。
僕「その同期はさ、大勢の職場の仲間に金を借りて、なかなか
  返さずにおきながら、実はかなりの額の給料天引きの財形
  貯蓄をしていることがその時に判明して、まわりの債権者
  達がさ、『会社の同僚に金をかりて金利をかせぐたあ、
  盗っ人猛々しい野郎だ!』ってことで臨時債権者集会開催!
  になって、その同期は、金返せだの、今すぐ財形を解約しろ
  だの、罵詈雑言を浴びたんだよ。他人の給料明細を見る、
  という行為は褒められもんじゃないにしても、その同期も
  ひどいでしょ?」
山「うん、そうだな。それでその同期は、財形いくらしてたの?」
(・・この話で関心を持ってもらいたいのはそこではないんだけど。)
僕「・・あのさ、お前、今の話きいてた?」
山「え?うん、聞いてたよ。でもおれの相談の方が先でしょ?」
僕「いや、だからさ、『給料天引き』で、『毎月貯蓄して』
  『金利もかせぐ』っていう相談を『みどりけいたにしてる』の?」
山「そうだよっ!だから、財形ってそういうもんでしょ!?」
めずらしく、自分の質問を『はぐらかされた』という思いの強い山案山子のいらいらはかなりのものになってます。僕は、僕で、事ここに至って、まだこの相談の異様さに気付かない山案山子に対し、憮然とした態度をとり続けています。しょうがないです。

僕「あのさ、じゃあ俺の意見言うけどさ。ようく、
  聞けよ。お前は『他ならぬ俺に』相談したんだから。」
山「うんうんうん。」
(全然わかってねえなあ・・。)
僕「だいたい額面の10%くらいはしたほうが
  いいんじゃない?それとボーナスは、できれば
  『無かったこと』にして思い切って多額をしたら
  いいと思うよ。でも・・・」
と、ここで山案山子が僕の話を遮り、
山「うん、なるほど10%か。かなりだな。ボーナスって
  なんか、ぱっと潤って、ぱっと無くなるからそれも説得力
  あるよな。でも10%はどうかなあ・・・」
とぶつぶついう山案山子に、僕は遮られた先ほどの会話の
後半部分をまじめな顔をして話しました。

 「でも、その前に、数年間にわたって借りてるお金を
  返すべき人がいるんじゃねえか?」

 山案山子は、彼が話しを切り出したときから僕が『こいつ、選りに選って誰にむかって、なんていう相談をするんだ』と感じ、途中での会社の同期の債権者会議の事例まで持ち出して気付かせようとした『長期固定債権を抱える債務者が、とうの債権者をわざわざ呼び出して、貯金をして金利を稼ぐ方法を相談している』という自分の言動の異常性と非常識さ、にようやく気がつき、反省と、驚きと、恥ずかしさと、を伴った妙な声の出ない苦笑いをしながら、酸素のたりない魚みたく口をぱくぱくさせていました。
 
 僕も、TPOには気をつけたいと思います。
 尚、山案山子は、『予定どおり』僕への借金返済より、財形貯蓄を先に始めて、後日その『成果』を僕に報告してくれました。
=========おわり============
スポンサーサイト

セコムしてますか?

 ニドミしてますか?(長嶋さんの『セコムしてますか?』の口調でお読みください。)

 僕はコートを着るのが嫌いです。そもそも本人の意図に反して、皮下脂肪が分厚い防寒型仕様のボディになってしまっているためにコートを必要とする季節が他人よりも若干遅い、ということもありますが、それとは別に、『重ね着』があんまり好きではないからです。だいたいが、僕は、何事においてもシンプルを美徳としています。好きになる人もいつも同じクラスか、同じ職場の、しかも同じフロアです。シンプルです。それから出退社のときも、手ぶらです。かばんはもちません。シンプルです。下手に荷物を持っちゃうと遺失しかねない(実際何回も遺失してます。今から渡そう、っていう付き合ってる女の子、-同じフロアでした。シンプルです。-へのプレゼントも電車の網棚に置き忘れて出てこなかったことがあります。)し、そもそも女性と違って、男性の場合は、持ち物に関しては、入れ物が先か、中身が先か、といった命題の中にいると思います。

 例えば会社の同じ部にいる、独身、どっかの会社の偉いさんの息子さんという噂の原君(彼は、営業じゃないので、基本は終日デスクワークです。)が、いつも高級感あふれる皮のアタッシェケース(実際に聞いてみたら、なんちゃら・なんとか-という、お洒落な人間を『お―』と唸らせる高級ブランド品だそうです。)を持って出社し、毎朝、席の後ろのキャビネの上に、スパイみたいに、『カチャ、パシ。』と置いている光景を僕は毎日不思議に思ってみていました。
 ある朝エレベーターで一緒になったときに、
 「いいかばん持ってるなあ。」
 「ええ、まあ。」
 「どこの?」
(返答されたってわからないのに聞いてしまう。)
 「え?あそこです、なんちゃら・なんとかあ、ですよ。」
 「おおー。」
(ブランド名なんか、もともとどうでもいいので、一応唸る。)
ここで、彼のプライドを傷つけないように小声で聞きます。
 「あのさ、中味何がはいってんの?」
 すると、原君も小声で、
 「特に何も入ってないです。」
と正直に答えてくれました。あとで、仲のよいお洒落な後輩に、原君に教えてもらったアタッシェ・ケースのブランド名を言及したら、
 「まあたあ!みどりさん知らないんですか?それすんごい
  高いし、有名なブランドなんですよ。そもそもうちの
  会社が以前出資してたじゃないですか!」
 とのことでした。

 閑話休題、とにかくも、僕は、出退勤時は手ぶらです。重ね着も極力さけてます。重ね着すると、かさばるし、着膨れラッシュの原因の一人にもなっちゃうし、第一重たいので鬱陶しいです。休日はダウンジャケットを着てますけど、さすがにスーツにダウンジャケットを着て会社に行くわけにもいかないので、コートは極力着ません。寒くてもジャケットだけです。おかげで、三着(だったと思います。)ある仕事用のコートは、買い替えずに何年間も使ってます。
 
 そんな、『自他ともに認めるなかなかコートを着ない男』が、『ひゃああ、これは寒い!堪らん!』と寒さに負けて初めてコートを着たその日に、僕はその人に遭遇しました。
 僕は、東京本社に勤務していて、1月の霜柱の立つような、とてもとても寒い日でした。さすがの僕も、皮下脂肪の上に、下着、ワイシャツ、ジャケット、ネクタイを装着し、その上にウールのコートをいやいやながら着て出勤しました。そして、退社時です。1月の東京、夜、といえば、間違いなく寒いです。電車の中も、スタイルでいうと、ダウンジャケットだの、裾の長いコートだの、皮の手袋だの、本物かどうかはともかくファー付きの服だの、といった暖かそうな防寒スタイルで、そして色でいうと黒だの、紺だの、茶だの、えん脂だの、などの暖色で満ちていました。比較的混んでいることもあって僕は、座られずに窓際で立っていました。停車すると、どのプラットホームも、冷たい空気と、寒そうに身を固めた人たちを送り込んできます。それらは、降車する色たちと入れ替わりに、車内の景色をさっきとは違った彩に、しかし、やはり暖濃色に、染め直します。僕は、コートのファスナーをしっかり締めて、襟を立て、停車するたびの寒風に備えながら、目的駅に着くのを待ちます。

 『いやあ、今日は朝も寒かったけど、夜も冷えるなあ。コート着てきてよかった。お、あと三つで着くな。今日の晩飯はどこの国籍系統かな。』と、ある駅に停車し、見るともなしに、降車と乗車の流れを目で追いながら、コートを着てきた自分の判断に酔っていたそのときです。
 降車が一段落して、足早に電車に吸い込まれていく乗車客の最後尾に、僕の目は一瞬、釘づけになってしまいました。彼は、40代半ばの男性で、中肉中背、特に髪型などに特徴があるわけではありません。しかし、他の客が足早に乗車してくるのをよそに列の最後尾から、飄飄と、涼しげに、そう!それ以外に言葉が見つかりませんが『それがどうした』という表情で、もう一度言います『涼しげに』乗車してきました。

 半袖の開襟のワイシャツなんです。

 薄い横編みの青いべストこそ着てますが、それだけです。しかも、そのワイシャツの見事な白度といったら!よくある、木綿色、などでもなく、新幹線ひかり号のようなアイボリー色でもなく、いかにも『化繊でしか表現できない真っ白』っていうやつです。洗剤のテレビ広告に出てくるような見事な白です。僕の頭には一瞬、夏の高校野球の実況放送が再生されました。『ご覧のように、本日は好カ-ド、休日ということもありましてスタンドは超満員、白一色です!』っていうあれですね。
 僕は、この寒さ、身を固める乗客、溢れる暖色、の中で、
 「真っ白な半袖の開襟のワイシャツで、悠然と『涼しげに』
  最後尾から手に文庫本を持って乗車してくるヒト。」
 に仰天して、文字通り『目を奪われて』しまい、しばし、呆然とその真っ白な半袖の動きに視線を持っていかいました。化繊半袖氏は電車の中にはいると、近くの吊皮に漂着しました。僕は、動きの止まった視線を反射的にワイシャツから、化繊半袖氏その人の顔に移しました。だって、いったいどんな人なんだろうって思うじゃありませんか?彼の顔はこれといった特徴もありませんでした。その時、僕の視線と半袖氏の視線があってしまいました。が、化繊半袖氏は、『だからなんだよ』というような表情を見せ、一方、僕はなんだかいけないことをしたような気になり視線をそらしました。車内を見まわすと、乗客の中にも少なからず、河童かツチノコにでも遭遇したように唐突に現れた『真夏』を唖然と見ている人がいます。僕は、そらしたものの、今目撃したことが信じられずに、もう一度、開襟半袖氏を確認しようと思いました。けれども、ある体験が頭を掠めてすんでのところで『二度見』をやめました。
 実は『二度目』は見られるほうは大抵『はっきりとわかってしまう』んであります。

 あれは、17歳の秋でした。僕は、ある事情で(ねえ、なんでみどりくんってそんなにエピソードが多いの?っていう人がいますけど、まあ聞いてください。それに、たとえばいつも愛読いただいている、Sおりさんはこの話しはご記憶にあると思います。この件は機会があったら書きます。)、大怪我をして顔面包帯だらけ、で一週間高校に電車通学したことがあります。正確にいうと、包帯とテーピングと巨大マスクなんですけど、見た目には、目の部分以外はほとんど皮膚が露出していません。おまけに、怪我とその治療のせいで顔面が腫れあがっているので、唯一露出している目も五月人形みたく線のように細くて、どこを見ているのか、もわかりません。この格好での登校初日、教室にはいったら、クラスの女の子のひとりが、おおいに驚いたのを覚えています。彼女は、『息をのむ』っていうのはああいうのをいうんだろうな、って感じで、声もだせずに、口をあぐあぐさせていました。その時、僕は、『異形の人』を一週間体験したわけです。
 いやあ、見られましたねえ。僕は、若かったから開きなおりも早かったし、なにしろちゃんと怪我が完治するだろうか、という問題のほうが、一時的な見た目なんかより何万倍も重要だったので、すぐに慣れて堂々と電車通学してました。見られました。
 まず、僕が電車にのると、車両中の乗客の視線が100%、ほぼ同時に僕の顔につきささります。視線第一波の+です。最近、『めぢから』という言葉を耳にしますが、その視線第一波にはまさにある種の圧力を感じました。そして、その後、まるで申し合わせたように一斉にみんな視線をそらします。『は!見てはいけないものを見てしまった!』という意思が電車内に満ちます。視線第一波の-ですね。この+-で視線第一波は完了です。しかし、『その異様な形相』、―なにしろ顔面包帯で糸のような目がほんの少し見えてるだけですから-、を『どうしてももう一度見たいという好奇心を我慢できない人達』が、かならず、かならず、いるんです。
 視線第二波です。しかし、この第二波は、第一波のように、単純に、『あっ!と+(プラス)』、『さあっと-(マイナス)』、という単純な形状では来ません。悪意はないんでしょうね。その証拠に、その第二波は、『まず乗客の近くの中吊広告を見るように現れ、次第に僕の顔に近づき、ほんの少し僕の顔で止まり、次にまたいかにも惰性で窓の外の景色を見ているだよん、という具合に半楕円の軌道を描いて終息する』んです。しかし、しかしです。乗客のみなさんは、僕に悪いと思って、かような楕円視線を駆使しているわけですが、実は、見え見えなんですね。これが本当に温度差があるんですけど、断言してもいいです。『見られる方は、好奇心による第二波は全部わかっている』んです。でも、考えてみてください。いちいち『みないでください』って言ってたら、電車に乗る度に何十人もの人に話しかけなければいけません。僕は、最初は睨み返したりしてましたけど、僕の場合、『糸みたいな目』なのでどうも皆さん睨み返されている自覚がないどころか『視線が合っている』ということすらわかんないみたいで、僕が一所懸命睨み返しているのに、楕円の軌道の頂点のままじっと僕を見続けている人もいました。だから、馬鹿馬鹿しくなって、睨みかえすのもやめちゃいました。そうです。好奇の眼差したちにさらされているのは百も承知なのに、慣れてしまって『見られている方が気付かない振りをしている』のが現実なのです。包帯だらけの末期には、乗車して、第一波をまず真正面から受け、こちらから車内をじろじろと(自分の気分だけです。実際には『じろじろ』してるのもわかんないですから)車内を見渡し、次に、こいつどうも我慢できずに、第二波を発しそうだな、とあたりをつけた人間にこちらから顔をむけたりしてました。そして、その通り、その乗客の『顔面真っ白な高校生を見たことを再確認したい好奇心を抑えられずに送った第二波の半楕円の頂点』と僕の顔の方向が直線で結ばれたときの、その乗客の狼狽ぶりを楽しんだりしてました・・・・。

 僕は、化繊半袖氏をもう一度確認したい、と思いつつ、『二度見は見られる方は絶対にわかる』という経験を思い出し、我慢しました。残念です。

 だから、電車の中で、思わず視線を吸いつけられるような人に遭遇しても、-真冬に半袖の真っ白なワイシャツの人、とか、ええと、豊満な胸を露出して谷間を7センチくらい見せている女性とか、がいても(でも、ああいう女性の胸はやっぱり見ちゃいけないんですかね。僕の数少ない女友達に意見を伺ったら、二分してて、『見ちゃだめにきまってるじゃない!誰にでも見てほしいわけじゃないんだから!そんなの痴漢よ!』っていう派と、『そんなの見ていいに決まっているじゃない!そういう人は自慢したいんだから!だって電車にのった瞬間視線が胸に集まるのは本人はわかってるのよ!』とご本人も谷間を盛大に見せながら解説してくれる派、とがいるんですけど。『電車にのった瞬間に胸に視線が・・』は僕の経験からしてもよくわかります。どっちなんでしょう?)、ゆめゆめ『二度見』はやめましょうね。
 するなら『相手にばれていること』は覚悟してください・・・。

 二度見、してますか?(長嶋さんの口調でお読みください。)

====== 終わり ======

日本国憲法。

 僕は、残念なことに最近になってようやく知ってしまいました。『世の中には矛盾しているけど、皆まで言うな、ということがある』ということを、です。

 例えば、『軍艦マーチが盛んに響く成人むけ遊技場で獲得した玉を換金している光景』と『刑法185条』の存在、『特殊浴場というまさに特殊な欲情、もとい浴場』と『売春防止法』の存在、『日本国国家の根本基本法』と現実の違い、-ええと、これについては第9条が盛んに議論されてますけど、僕は、最近知ってしまった『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。』という某条文の方が現実より矛盾の乖離が激しいし、どちらかというとこのほうが国家にとっては焦眉の急だと思うんですけど-、などです。いえ、断っておきますが、僕は法律に詳しいわけでもないし、上記のことについて法解釈理論をしよう、などという気は全くありませんので、その方面の専門の方は冷静に対処願います。

 同様に(同様かな?)、入社以来気になっていたのが、『東京本社内で営業している散髪屋さんの存在』と『僕の会社の就業規則』との矛盾です。もちろん、ほぼ100%に近い方がたぶんそうであるように、僕も自分の会社の就業規則など読んだことはないですけど、『第25条 定められた就業時間内に、東京本社地下にある散髪屋に行くことは、これを例外として認める。』なんて書いてある確率は非常に低いと思うんです。もちろん、一般的常識が、昼休みに散髪屋さんに行くことを許容するのは容易でしょう。でも、僕の会社内にある散髪屋さんは、-以前はフィットネスルームもあって、これはどういうわけか予約制で就業時間外の予約しか受け付けていなかったので、『腑に落ちる存在』でした。でもこういうご時世で、経費削減の煽りをくらってフィットネスルームはとうの昔になくなりましたが、まだ散髪屋さんは営業を続けています-、昼休みだけ営業しているわけではないんです。当然です。そんなことしたら採算が合わないです。一応、従業員の始業時間より30分くらい早く営業を開始して、夕方は、たしか、従業員の就業時間から少しだけ遅れて閉まるということになっていたと思います。僕は、入社以来、かねがねこの存在が気になっていて、
 「これは、就業時間中に散髪にいってもよい、ということだよな。
  ということは、別に社内でなくて、営業中に外で散髪しても
  よろしい、ということになる。散髪がいいんなら、30分くらい
  の昼寝も堂々としていいのかな。そうなると1時間くらいの
  ゴルフの打ちっぱなしはどうなる。映画館で映画を1本、見る
  のは?おお、身の周りを清潔にするために、という理由で
  『短時間だけ特殊浴場に行く』のはどーなる?いや、これは
  明らかによろしくなさそうだな。でも『散髪』『昼寝』
  『打ちっぱなし』『映画』『特殊浴場』が同じ時間で、という
  前提であったら、明らかによろしくない『特殊浴場でさっぱり』
  と『社内の散髪屋でさっぱり』の境目ってどこなんだろう?」
 とその散髪屋を見るたびに思っていました。ちなみに、どれとは言いませんが、上記の五つのうち、ひとつは僕は実行しちゃったことがあります。いや、二つかな?でも散髪は痕跡が残っちゃうのでしたことはなかったんです。だって、
 「ビ-ハイブさんに行って、そのあと竹山資材さんに行って、
  5時に帰社します。」
 なんて、いかにも慌ただしく出て行って、事務所に戻ったら、青々とした刈り上げの頭になってたりしたら、なんか面倒なことになりそうじゃないですか。
 でも、東京本社の地下には散髪屋さんがあるんです。そして、就業時間中の予約も受け付けているんです。
 
 と、若かった僕は、大人なら軽くやり過ごすどうでもいいことに、矛盾を感じていました。そうこうするうちに、海外転勤の辞令をもらいました。もちろん突然じゃなくて、事前に部長や副部長から打診がありました。当時、僕は、やっとの思いで奇跡的に三宅奈美さんとお付き合いを始められたばかりだったので、打診を断りましたけど、巧妙で執拗な説得にとうとう籠絡されてしまいました。一応その僕の人生を左右した部長、副部長との政治的で、複雑な交渉の要約を記述しておきます。

 「嫌です。」
 「ほうか。ほんなら、会社やめるか、海外いくかどっちかやで。」
 「行きます。」

 辞令が出てから、海外に駐在するまでの僕が、公私にわたってたいへん忙しくなったのは、ご想像に難くないと思います。僕の手帳は、毎日、通常の業務、仕事の引き継ぎ、人事との面談、取引先への挨拶回り、三宅奈美さんとのデート、公私にわたる数次の送別会、だのでこれまでの人生にないくらい、毎日細かな予定でびっしりと埋め尽くされていきました。あまりにも予定が多くて、明日どころか、今日このあとは、どこへ行って、誰と会うのか、毎回いちいち手帳を見ないと記憶できないくらい忙しい日々でした。
 やがて、駐在の日々まで芝目を読む時期になりましたが、僕の忙しさは一向に変わらず、依然として、後任に仕事の引き継ぎをしてから、手帳を見返して、竹山資材に挨拶に行き、また手帳を見返して人事部に行き、という日々でした。当時は、まだ携帯電話も普及していなかったので、どっかで時間が狂ったりすると、机に戻っていろんなところに電話して、その電話してる時間でまた時間がずれたり、と毎日文字通り『余白をゆるさない』スケジュールに疲労困憊していました。

 それは、駐在まですでに一週間をきったある日の午後のことだったと思います。僕は、息も絶え絶えという状態でその日も朝から予定をこなし、さて、と手帳に目をやりました。
 「!!!!」
 信じ難いことに、その時、過去も未来も真黒になった僕の手帳の中で、数行の余白に遭遇したんです。
 「お、あれ??本当かな?」
 当時僕は時間管理が得意じゃなかったので(今でも、ものすごく苦手です。)、自分で自分の予定にあえて空白を設ける、などという高度なことは思いつきもしませんでした。だから、本当に、夕方(確か社内での打ち合わせが入っていたと思います。)まで、3時間もの大量な時間がエアポケットのように真っ白になっていることが俄かには信じられず、なんども反芻しました。
 「いや、確かに、空いている。なるほど。
  これはどちらかというと、自分からではなく、
  社内外の他人に受動的に手帳の余白を
  埋められていたので、こういうことが偶然
  起こったわけだ!」
 と余計な根拠づけをしたうえに、予期せぬ空白の時間を確信し、
 「ふふふ、これぞ『忙中閑有り』って奴だな。」
 などと一人嘯き、おもむろに自分の机に戻って、たまっているさまつな事務処理をやっつけようとしました。しかし、その時、不意に-本当に不意に-『東京本社地下の散髪屋』の存在が、僕の脳裏にフラッシュバックされたのです。今思うと、なんだってそんなことになったのか、悪魔の仕業としか思えません。
 「おお、散髪屋に行こう!忙しくて散髪する
  暇もなかったから、さっぱりして駐在する
  のも悪くない。土日は奈美ちゃんとのデートで
  時間もないしな。だいたいこれだけ俺が忙しいの
  は周りも見て知っているから、たまたま空いた
  時間に散髪をしたって文句を言う人はいまい。」
と、僕は、自分の『素敵な閃き』に満悦し、いそいそと地下に降りていき、客もまばらな、その『就業時間と矛盾した存在のレ-ゾンデ-トルの確認作業』を実行しました。それも下記のような言葉ありきで。
 「ばっさりと、短く。横も後もバリカン入れてください。」

 約1時間後、僕は、『空き時間を有効利用した』という不可視な自己満足と、『たった今髪切ってっきました!』という雄弁に語る可視化された容貌、とを従えて自分の階に戻りました。
 と、海外から帰任したばかりで、僕の業務を管理職として引き継ぐ予定で窓側に座っている大川副部長が、事務所に入ってきた、僕の顔をみた瞬間、遠くから見てもこれ以上に無い、というくらい、たいへん力強く眉間に皺を寄せ微塵も視線をそらさず僕を睨みつけています。怒ると人間はこうなりまする、という典型みたいな表情で、『湯気も出んばかり』に不機嫌な顔をしています。今でも忘れません。
 僕は、困惑しつつも自分の席に戻ろうとして、-戻るにはエレベーターホールから少しづづ大川副部長に直進する形で近づき、副部長の数メートル手前で右折する、ことになります-、歩を進めました。ちょうど、僕を睨みつける副部長に正対しつつ、しかも、距離を縮めていくことになります。
 「ほろ?なに怒ってんだろ?俺け?」
 と思いながら、だんだんと副部長に近づき、さあ、ここで右折、というとき、
 「ああっ!!」
 と僕は、我知らず大声をあげてしまいました。
 そうなんです。その時間帯は、『忙中閑あり』でもなんでもなく、僕が新任副部長を、-初対面ではないにしろ-、取引先に、それも合弁会社パートナーで、しかもその会社の役員に会わせて具体的な業務引き継ぎ打ち合わせをすることになっていたんです。
 単なる『僕の手帳への記入忘れ』だったんです。それを、エレベーターホールから、寸分の罪の意識もなく、しかし、『午前中とはまったく違うさっぱりした刈り上げ頭』で、『怒髪天を衝く勢いで湯気を立てている』副部長に直進して近づいていったわけです。そして、僕は自分がやらかした事を悟った刹那、信じられないくらいの速さで頭を回転させ、さしずめ、パノラマ視現象の如く、適確な言い訳を探しました。
 『ダブルブッキングしちゃいました。』
 『先の打ち合わせが長引きました。』
 『気分が悪くて診療室に行ってました。』
 『父親が倒れました。』
 『人事部に急に呼ばれました。』
 『飼いネコが車にはねられました。』
・・・だめです。何より、僕の髪の毛の状態の雄弁さには勝てません。

 気の毒に、大川副部長は一人で律義に取引先に行かれたそうです。後で取引先の担当者から、さんざんからかわれました。
 「みどりちゃん、おたくの副部長さ、電話してきて、
  『緑が、つかまらないんですけど、わたくし一人で
   伺ってもいいものでしょうか?』って言ってたよ。
  俺に聞かれても知らねえよなあ。何してたの?
  え?副部長との約束ブッチしてさんぱつう!?
  ばかだねええ、がはははは!そら怒るっしょ?
  うへへへへ!」

 その後、大川副部長は凄いスピードで出世され本部長になりました。
 
 結論。
『矛盾しているけど、なんとなく在るものは黙認しましょう。』
『時間が、ふと空いたときは、自分を百回疑っても足りない、
 と思うべし。』
『大川さんに胡麻を摺っておけばよかった、と思っても遅い。』
『髪を思いっきり短くするときは、事前に是非を自分に問うべし。』
『駐在する前にせめて婚約はしとくべし。』
======== 終わり ==========

みぢかえる、父かずまさ。

 人の性、とはいえ、悩みはつきません。僕も悩みに悩みました。

 なぜなら、以下の話は、『普段法螺など全く言いそうもない身近な人間が真剣に主張する、ありえない話』略して『みぢかえない話』その⑤、としたかったんです。
 このブログを継続して読んでくださっている方(ありがとうございます。)は、僕の悩みを共有していただけると思います。初めてお読みいただいた方(ありがとうございます。)、および、迂闊にアクセスしてしまった同じ会社の上層階の巨漢不動さん(おまえのブログ、読んだけど、あんまりピンとこん、などと言わず)は、なんのことやらお分かりにならないかと思いますので、できれば過去の『みぢかえない話』シリーズだけでもお読みになっていただければ幸甚です。

 先日、実家に帰ったときのことです。ごく普通に両親と、とうが立った息子との会話の最中に、それは突然出現しました。
 父親(かずまさ)が、生あくびをしながら、話題を振りました。かずまさは、よくこれで社会人としてやってこられたなあ、と思うくらいコミュニケーション能力に欠けています。

 まず、人の話を聞きません。
 それも聞いてないっていうのが露骨にわかるんです。どういうことかというと、例えば、『お父さん、各位殿っていう日本語ってどう思う?』と話しをふったときに、髪の毛の薄くなった部分を右の掌でぺたぺたと叩きながら、いきなり『なるほど』と何のアクセントも無しに答えたりするんです。そもそも『なるほど』っていうのは、通常、相手の会話に感心しました、っていうときに、つまり会話の中に起承転結があるとするならば、『結』の部分に登場すべき言葉の類です。つまり、かずまさは、話をきいてないから、会話がまだ『起』の段階なのに、いきなり『結』の範疇の語句で、その話題を強引におわらせてしまおう、とするわけです。話しに興味がないのならしょうがないけど、もっと、ほかの意思表示の仕方があると思います。
 「・・って、どう思う?」 
 「なるほど。」
 ・・・会話になってません。

 それから、これもすごいなあ、と思うんですけど、人に話をふっておいて、話題を突然変えちゃうんです。
 どういうことかというと、例えば、『おい、慧太。知ってるか、斎藤、斎藤!』『え、いや斎藤ってどのさい・・』『あいつがだな、』(この時点ですでに会話になってません。)『あいつが次のキャプテンに伝えた三つの言葉があるんだ。なんだと思う?』『キャプテン?いや、だから・・ああ、早稲田の斎藤のことか?』『早稲田の野球部のキャプテンていうのはものすごく重圧があるんだ。』(ひとりで話しをすすめてます。)『いや、だから早稲田の野球部のあの斎藤のこと?』『そこでだ。今度主将になる人間にこれは重要だ、ということを三つだけ言ったんだな。』(会話の相手いらねえじゃねえか。まあ、聞くか。)と、ここまできて、やっと僕がかずまさの思考に追いついたのに、ふと、かずまさは席をたって、1メートル先の冷蔵庫に水を取りに行きました。僕は、寡黙に、かずまさがもったいぶった、『斎藤の三つの言葉』を待っています。かずまさ、席にもどり水をごくりと飲んで、いきなり机の上にあった新聞を読み始めました。ちょっと驚きます。でも、かずまさは、こんなことで会話を終了させるような小立者ではありません。新聞を読みながらも、僕と会話をしている、という意識の残像はちゃんと残ってるんです。そして『斎藤の三つ』を待つ僕に、やおら新聞から視線をあげて、こう言いました。『大学ラグビーはどこが勝ちそうだ?ん?なに黙ってんだ?おまえラグビー好きだろ?』
 ・・・驚きます。

 そのときも、かずまさから話題を振ってきました。僕は、どうせまた途中で『自分のふった話題にすぐあきるパターンだな』などと思いつつ、びっくりしたり、いらいらしたりしないように、あらかじめ脱力しながら、相手をします。
父「最近、仕事のほうはどうだ。」
僕「うん、まあ、忙しいよ。」
父「こないだどっか行ってたな。」
僕「うん、また東南アジア方面ね。直行便だけど、
  長時間だし、エコノミークラスだから疲れるよ。」
父「おお、あれはきついよなあ。」
僕「うん、3,4時間が限界だね。ましてや、三人がけの
  真ん中に・・」
 ここで、彼の得意技のひとつ、他人の話を遮断、
父「飛行機のエコノミー、あれは、だめだ、あれは疲れる。」
僕「あれ?お父さんエコノミーでどっか・・・」
 もともと海外出張などあまりなく、あってもたいていビジネスクラスで行っている、と聞いていたかずまさから、エコノミークラスでの苦渋への予想外の共鳴を得て、僕が、少しだけ注意を惹かれて質問しようとするのを、またしてもさえぎり、かずまさは続けます。
父「あんなせまい椅子に長時間座らされてなあ。あれはきつい。
  体を大の字にのばしてたくてしょうがなくなるよなあ。」
僕「いや、まったく大の字になれればどんなに楽か・・」
父「それで、我慢できないだろ?な?そんで、我慢できないから
  通路で大の字になって寝てたんだよ、そしたら・・」
大いに、意表をつかれて、せっかくのあらかじめの脱力感がかえってあだになり、僕は混乱し始めます。
僕「え?いや、あのお父さん、通路で大の字って、
  その、あの、飛行機の通路のこと?違うでしょ?」
父は僕の質問を軽くかわして、
父「ん?おう、飛行機、飛行機。そしたら、アメリカ人のスチュ
  ワーデスが怒りやがってな。上から俺を見下ろして、こう、
  ううんと、なんだっけな、『ヘイ、ヘイ、ミスター、スタン
  ダップ、プリーズ!』だったかな、こういうふうに言われて
  なあ。」
 とスチュワーデスの身振りつきで、どんどん話を、しかし、しごく自然な様子で続けます。
僕「ええ!そんな人見たことないよ。飛行機の通路で寝たの?
  本当?うそでしょ?いつよ?」
父「ん?ほら、昔出張でアメリカ行ったろ。あんときよ。もう
  やってられんとおもってな、通路で大の字に・・」
 さすがの僕も、かずまさのお株を奪ってでも事の真意を確認したい気持ちを抑えられず、彼の話を遮ります。
僕「本当に、飛行機の通路?そんな人いないよ。」
 かずまさは、もう『アメリカ行きの飛行機の中で通路に寝た』ことの説明はとうに終えているので、僕の再確認には反応せず、別のアングルから、-全然会話としてはつながりのない返事から-、話を、平然と展開します。
父「違うんだよ。」
僕(「違うんだよ」ってなんだよ。)
父「違うんだよ、昔、学生のころ、東京から田舎に鈍行で帰
  るのに、座席がとれないだろ。でも十何時間も立ってら
  れないから、通路に寝るわけよ。それと同じで、」
(いや、飛行機と『それ』は同じじゃないんじゃ?)
 「それと同じで、通路に寝たんだよ。ところが、通路に
  寝ると、歩く人に踏まれるだろ?」
(いや、そら、まあ、通路は歩くところだから・・)
 「でも、ほかのところを踏まれるのはよしとして、
  頭を踏まれるのはかなわんから、通路に直角に
  縦じゃなくて横に寝て、」
(ええ?)
 「それで、頭を座ってる人間の足と座席の中に突っ込む
  わけよ。そしたらよく寝られるだろ?そういう経験
  があったから、」
(・・・)
 「飛行機の中でもそうやって寝たら、アメリカ人の
  スチュワーデスが、怒りやがって、いや、電車では
  な怒られたことないんだよ、寝てるの俺だけじゃな
  いしな、それで、こう、なんだっけな『ヘイ、ミス
  タ―、スタンダッププリーズ!』ってな、いやあ
  エコノミーはきつい、うん。」
 と、かずまさは平然とひとりで話題を締めくくってしまいました。

 そんな人、『あり得ません』。しかし、なぜ今回、この話が『みぢかえない話』シリーズの範疇外になったかというと、実は、今回はある属性が、『普段法螺など全く言いそうもない身近な人間が真剣に主張する、ありえない話』の条件にもとるからなんです。

 僕の繋類には法螺吹きが二人います。そのうちのひとりが他ならぬ、父みどりかずまさ、その人です。だから、今回の『飛行機の通路で通路方向に90度で大の字になって寝て、スチュワーデスに「ヘイ、ミスター・・」と怒られた』話には、十二分に意表をつかれたし、彼は平然と真剣に主張していましたが、彼が『普段法螺など全く言いそうもない人』とは言い難いので、悩みに悩んだすえ今回の題名は、『みぢかえる、父かずまさ』と、しました。もっとも、決定したとはいえ、この題名もなんのことやら訳のわからん日本語で、僕が溜飲を下げるには至ってませんけど。

 かずまさは、まがうことなき法螺吹きです。それも、『あのな、慧太、おまえは本当は橋の下から拾ってきた子供で本当はお父さんとお母さんの子供じゃないんだ。』という『親の法螺の王道』はもちろん外していないうえに、子供に対しては、『おとうさんはな、ほんとうは、あの、さんおくえんじけんのはんにんなのだ。あれは、雨のふるひだったなあ・・・・』などという『独自性にあふれる罪つくりな法螺』も吹いた前科があります。この法螺を僕は、たしか幼稚園か小学校の低学年の時に聞かされて、完全に信じてしまい、『どうしよう、ぼくはおとうさんがぬすんだお金でそだってきたんだ。どうしたらいんんだ。』と真剣に悩みました。
 また、ある時、かずまさに転勤辞令が出たときのことです。状況からごく自然に、『かずまさ単身赴任案』が、かなり強力な案として家庭内に浮上してきました。しかし、放蕩者のくせに、『電気が消えている家に帰るのが嫌い』なかずまさは、あろうまいことか、『それは、残念ながらできん。なぜなら、俺の会社は、単身赴任に年齢制限があって、俺はまだその年齢に達していないから、単身赴任はできないんである。』とありもしない会社規則をねつ造し、家族全員を欺き、単身赴任案を強引に叩きつぶしたんです。あとで、すぐ『法螺』だと露見しましたけど。
 それから、-ほかにもあるんですけど、なんだか話全体の重心がずれてきていますので、これで最後にします-、会社の人に、『俺の女房は、もとミス下関である』という寸分の根拠もない法螺をふきまくってました。しかもそういうことを家族には黙っていたので本人は『真剣に法螺をふいて』いたんですね。これはなんで露見したかと言うと、ある時、父親が会社の人と飲んだかえり、その人を家に連れてきて(こういうこともすごく頻繁で、母親はとても嫌がってました。)、ほろ酔い気分のその客人が、母親をじーっと見て、
 「おお、なああるほど!確かにお綺麗だ。これが
  高名な元ミス下関ですか!ほほう!」
 と叫んだからです。

 ええと、僕の繋類のもう一人の法螺吹きは、これがまたすごい法螺吹きで、・・・・まあ、この人の話は次の機会にします。

==========終わり==========
プロフィール

緑 慧太

Author:緑 慧太
好きな言葉:『終身雇用』
座右の銘 :『負けるが勝ち』

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
フリーエリア
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
にほんブログ村
フリーエリア
フリーエリア

人気ブログランキングへ
検索フォーム
リンク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。